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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百六十七話 明かされる真実



「⋯⋯っ、幻獣。」



 その単語を聞いてコウタは思わず息を飲む。



「ええ、今より千年も昔の話です。ある日、世界を絶望に包んだ四体の幻獣、それこそが全ての始まりなのです。」



「存在そのものが災厄と恐れられる四体の邪神達は、この大陸の地中深くより、まるで這い出るかのような形で顕現した。」



 女性はそう言って説明を始めると、長話をするつもりなのか、銅像が立つ台座に腰掛ける。



「⋯⋯じゃああの穴は⋯⋯⋯⋯。」



「ええ、その時に出来た穴です。」



 幻獣が復活した時に湖の中央にできた巨大な大穴を指してコウタが尋ねると、女性は何のためらいもなく彼の考えを肯定する言葉を吐き出す。



「なら何故、幻獣は現れたのですか?一体どこからあんな途轍も無い化け物が生まれたんですか?」



 物事には必ず原因がある、ならば今回の件にも必ず何かしらの原因があると考えたコウタは、至極真っ当な疑問をぶつける。




「自然発生です。」



「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」



 あまりにも呆気なく、そしてあまりにもどうしようもない答えに、コウタはそんな言葉しか出すことが出来なかった。



「なんの思惑も、介入もありません。何も無いところからいきなり、自然に現れたのです。」



「世界に滅びをもたらす存在。そしてその発生に伴って出来た世界に亀裂を入れる大穴。」



「私はこの一連の出来事は、世界そのものの意思によるものだと考えています。」



 女性は真剣な表情で説明すると、真っ直ぐにコウタの目を見据えながら彼の言葉を待つ。



「まるでこの世界が自ら滅びを望んでいるかのような言い方ですね。」



 語弊を招くような彼女の言い草に、コウタは反射的にそう尋ねる。



「事実そうなのですから、別に間違ってはいないでしょう?」



「じゃあ魔王軍の、魔王の目的は⋯⋯。」



 そこまで聞くとコウタは既に答えの分かり切った質問を再び投げ掛ける。



「ええ、システムそのものを利用した、世界の崩壊です。」



「そして彼らは今回、呪剣という鍵を用いる事で幻獣の復活を成功させてしまった。」



 それからはコウタも見た通りの結末であった。復活した龍神は際限なく暴れ回り、彼らがいなければ被害はリューキュウの国に収まらず、世界を滅ぼし尽くしてもおかしくはなかった。



「その結果、幻獣と穴、その二つを封印していた楔は破られた。もはや幻獣のみを再封印したところで世界の封印が戻る事はないでしょう。」



 それを聞いてコウタはようやく魔王軍の戦士たちがあの後、追撃をしてこなかった理由を理解出来た。


 今回の魔王軍の目的は、幻獣の復活でも、リューキュウの滅亡でもなく、幻獣と共に大穴を塞いでいた楔の破壊にあり、それを成し遂げたからこそ過剰な追撃を避けたのだ。



「つまり後三体の幻獣を解き放つ事で、世界は⋯⋯⋯⋯。」



 楔の打ち込まれた四ヶ所の内、一つが潰された今、残った楔は三つ。


 そう考えるのが当然であり、コウタもすぐにその思考に至ったが、事実は少し違った。



「いいえ、違います。」



「⋯⋯⋯⋯?」



「残りは二体です。」



「⋯⋯っ!?どういう事ですか!?」



 突然の意味の分からない答えに、コウタは思わず身を乗り出して叫び声をあげる。



「貴方は忘れていませんか?」



「忘れ⋯⋯てる?」



 元の世界の基準とはいえ、人類最高クラスのスペックを有する彼の脳において、なにかを忘れるなどあり得ない。


 それを知った上で、彼女は嫌味ったらしく質問を投げ掛ける。



「三年前⋯⋯何があったのか、貴方なら覚えているはずですよ?」



「三年前⋯⋯⋯⋯っ!!」



 その短い単語を頭の中で反芻させていると、コウタは記憶の中からとある出来事を思い出し、息を飲む。



「気付いたようですね。」




「⋯⋯キャロル王国の、滅亡。」



 南東の大国キャロルの滅亡、それはコウタの仲間で、相棒でもあるアデル・フォルモンドの出身地であり、彼女が魔王軍討伐を志すきっかけになった出来事。


 そして今、コウタが戦う一番の原因でもあった。



「その通り。」



 女性はそんな言葉と同時に、ニヤリと意図の読めない影のかかった笑みを浮かべる。



「ですが変です。もし魔王軍が今回と同じように幻獣の復活を狙ってキャロルを襲撃したのなら、間違い無く幻獣の記録も残っている筈です。」



「けど僕が調べた限り、キャロル関係の書物には何一つそんな記述は無かった。」



 魔族と王国の戦争はあれど、幻獣の復活などと言う事実は、どの書物を探しても見つかることはなかった。


 何より、もし本当に幻獣が復活していたとすれば、ザビロスが率いていた魔族の軍勢が住み着けるほどの状態で街が残るはずが無いのは、今回の事件を見れば明らかであった。



「⋯⋯ええ、ですから復活しなかったのですよ。」



「いいえ、この言い方には語弊がありますね。正しくは、既にいなかったのです。」



「⋯⋯っ!!⋯⋯⋯⋯ああ、なるほど⋯⋯。」



 その発言を聞いてコウタは思わず言葉を失うが、すぐに彼女の言葉の意図に気がつく。



「流石私の最高傑作。繋がってしまった(・・・・・・・・)ようですね。」




「⋯⋯ええ、最悪な形でね。」



「つまり⋯⋯貴女ですよね?」



 女性がため息混じりに呟くと、コウタは視線を真っ直ぐに彼女の目に向けて尋ねる。



「⋯⋯ええ、そうです。」



 一瞬の沈黙の後、女性は短くそう答える。



「魔王軍は幻獣の復活による世界の崩壊をずっと前から画策していた。」



「そして、三年前にキャロル王国を襲撃したものの、そこに封印されていた筈の幻獣は既に倒されていた(・・・・・・)遥か昔、他でもない貴女の手によって。」



 大方、三年前の時点で最も攻めやすかったのかキャロルであったのだろうと考えながら自らの考えを述べる。



「その通りです。七百年ほど前、まだキャロルという国すら存在しない時代に私が倒してしまったのです。」



「それだけの事を知っていて、何故?」



 コウタはほんの少しだけ不機嫌になりながら、責めるような口調で問いを投げかける。



「そうせざるを得ない状況だったからです。楔は壊され、幻獣は際限なく暴れ、対抗できるものなど誰一人居なかった。」



 コウタやロフトのように幻獣に立ち向かえるものや、楔の矢のように幻獣を封印できるものが何処にでもあるわけではない。


 だからこそ彼女が手を出さざるを得ない状況であったのだろうと考える。




「だから貴女が倒した、と。」



「ええ、その時に用いた神器こそが、貴方の持つ霊槍と言うわけです。」



 それを聞いてコウタはもう一つの疑問の点も線へと繋がる。


 千年前、世界に幻獣という脅威が訪れた時、人間達は結束し、彼女は天界から手を貸すことでその脅威を退けた。


 そしてその三百年後、封印された四体のうちの一つ、かつてのキャロル王国の場所に封印されていた幻獣の封印が解き放たれ、そして彼女はその時、初めて地上へと舞い降りた。



「⋯⋯なるほど、なんとなく貴女の目的も分かりました。」



 そこまで話が繋がると、コウタは同時に今回の疑問にも答えが出る。



「⋯⋯私の目的は世界の崩壊の阻止です。」



 そう呟く女性の目を見て、コウタは初めて彼女の本心に触れることが出来た気がした。



「そして、その目的を果たすために呼び出したのが、僕達転生者の存在と言うことですね。」



「その通りです。」



 僕達、とあえてそういう言い方をしたのは、コウタ自身、自分や中立派に所属するアイリス以外にも転生者がいると察しがついていたからであった。



「ではもう一つよろしいですか?」



 望んだ答えを得て、ある程度満足すると、コウタはついでと言わんばかりに質問を重ねる。



「どうぞ。」



「今回の戦闘で僕の身体に浮かび上がった聖紋、あれは何ですか?」



 やけに素直な返事を聞いて違和感を覚えながら、コウタは先程までセリア達と語り合っていた件について言及する。



「その事については私から言えることは何一つありません。」



 帰ってきた答えは、コウタからするとかなり温度差のあるものであった。



「が、一つ教えられるとすれば、貴方はより私に近づいていると言うことですね。」



 一切表情を動かさぬままじっと見つめていると、女性は同じように表情を変えぬまま言葉を付け加える。



「よくわかりませんが、あまり良い徴候ではないことは分かりました。」



 自分が彼女に近づいている、などと聞けば、コウタにとっては事態が悪くなっているようにしか感じられなかった。



「あら、随分な口振りですね。」



「⋯⋯それに以前と比べて随分と落ち着いていますね、何か心境の変化でもありましたか?」



 すると女性は反撃と言わんばかりにニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて問いを投げかける。



「⋯⋯分かっているくせに、随分と性格の悪い質問ですね。」


 その発言に若干の苛立ちを覚えながら作り笑いを浮かべてそう返す。



「⋯⋯思い出したんですよ。色々と⋯⋯⋯⋯。」


 大好きだった人、大好きだった笑顔、弱かった自分、そして、逃げ出したという事実。


 それらは決して、コウタにとって必ずしも良い思い出と言えるものではなかった。



「⋯⋯やはりそうでしたか。」



「もしかしたら知らないままの方が、忘れたままの方が幸せだったかもしれなかったかもしれませんね。」



 思い出さなければ迷う事もなく、挫折する事もなく、苦しむ事もなかった。


 だからこそ、苦しむ姿を見続けてきた彼女は、そんな考えを口にする。




「だとしても、思い出せて良かったです。」



 それでもコウタはそんな自分自身と向き合うことが出来て良かったと思っていた。



「⋯⋯乗り越えたのですね。」



 全てを見て、全てを知っている彼女はまるで我が子を見守る親のように笑みを浮かべて問いかける。



「なんとか。ほとんど彼女のおかげです。」



 コウタはあの時のマリーの言葉を思い浮かべながら気の抜けた笑みを返す。



「これなら安心ですね。多少心配していましたが、杞憂だったようです。」



「それでは私はこれで。」



 答えを聞き、満足したように笑みを浮かべると、女性はその場から立ち上がって元の居場所へと帰る準備をする。



「⋯⋯最後にもう一つ、聞いていいですか?」



 するとコウタはそんな彼女に向かって、最後の問いを投げかける。



「⋯⋯⋯⋯?なんでしょう?」



 互いに話したいことは全て話したと思っていた女性は、思わず首を傾げながらそう問い返す。


 そして質問の許可を得ると、それまで柔らかな笑みを浮かべてていた表情を出来る限り真剣なものに切り替える。



残りの二つ(・・・・・)はどこですか?」



 リューキュウ、キャロルの封印は解かれ、残り二つになった封印の場所をコウタは尋ねる。



「⋯⋯⋯⋯一つは魔族領に最も近く、かつ冒険者ギルドの本部がある大国、ポータル。」





「そしてもう一つは、北東の大国ラフカ。」




「ラフカ⋯⋯⋯⋯分かりました。ありがとうございます。」



 そこまで聞くと、コウタは女性に背中を向けてゆっくりと歩み出す。



「⋯⋯貴方の旅に栄光あれ。」



 女性の小さな呟きの後、停止していた世界が動き出すと、コウタは振り返る事もせずにその部屋を後にする。


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