表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
163/287

百六十三話 二人の勇者


 封神の弓、楔の矢、二つの神器を重ねて構えると、その矢はメアリアを巻き込むように強く輝き出す。



「⋯⋯神器よ、その力を示せ!!」



 そしてその言葉に応じるように光が剥がれていくと、中からそれまでメアリアが手にしていた矢とは違う色形の矢が現れる。



「⋯⋯弓が、変化した?」



 コウタはその様子を遠目で見ながら、同時に変質した矢に向かって〝観測〟のスキルを発動させる。



「⋯⋯⋯⋯。」



(なるほど⋯⋯。)




 即座にコウタの視界にその詳細が映し出されると、コウタは真剣な表情のまま分析をする。




楔の矢 神を封じる光の矢、メアリア・シー・シュトロームの手によって引かれる事によってその力が解放される



(矢の変質、これが楔の矢の正体か⋯⋯。)


 名前自体に変化はなかったが、その詳細が明らかに変異していた。



 それはつまり、素体となる元の楔の矢が、メアリアの為の楔の矢に変化したことを表していた。



「⋯⋯⋯⋯ッ!!アアアアァァァァ!!」



「⋯⋯っ、来る!」



 すると次の瞬間、それまで沈黙していた幻獣が。メアリアの方を向いて叫び声を上げる。



「アアアアァァァァアァァァァ!!」



「⋯⋯っ!?」



 コウタが構えると同時に、巨龍はそれまで上げたことがない波のある音で咆哮を轟かせると、その真下の湖から数本の水の柱がせり上がり、うねうねと蛇のように蠢き出す。




「⋯⋯水の鞭?」




「⋯⋯⋯⋯ッ、⋯⋯⋯⋯ッ!!」




 新たな技の発動にコウタが固まっていると、幻獣はそんなコウタの心の準備を待ってくれるはずもなく、首を小さく動かしながらその鞭を無差別に振り回す。




「ちっ⋯⋯⋯⋯。」



 シーランドタワーの展望デッキの屋根からその様子を眺めていたロフトは、片手に巨大な球体を手にしながら小さく舌打ちをする。



(⋯⋯どうする、援護に行くべきか?だが⋯⋯⋯⋯。)



 援護に行ってしまえば、今発動している魔法をキャンセルしなくてはならず、時間稼ぎも振り出しに戻ることになる。



 そうなれば結果としてコウタの負担が増えてしまうのではないかと考えてしまう。



「⋯⋯⋯⋯あと数秒、持たせろっ⋯⋯⋯⋯。」



 黒々と悍ましい光を放ちながらゆっくりと回転する球体を少しずつ小さく抑え込みながら、ロフトは苦々しくそう呟く。



「⋯⋯ッアアアアァァァァ!!」



 そんなロフトの視線の先ではコウタがその水の鞭に対して一人抵抗を続けていた。



「⋯⋯くそっ!!」



 四方から襲いかかる水の鞭に対して、乱暴に槍を振るうと、その全てが両断されてただの水滴に戻る。

 が、それでも水の鞭はキリがないほどに増え続け、無防備なロフトの元へと向かう。




「加速っ⋯⋯!!」



 コウタは咄嗟に足元に一本の剣を召喚すると、それを足場にして一気にロフトの目の前まで飛んで行き、その鞭を撃ち落とす。



「ぐっ⋯⋯!?」



 その勢いでコウタは割れたガラスの窓から、タワーの展望デッキの内部へと転がり込む。



「⋯⋯っ、もう一発!!」



 そして直後に顔を上げると、水の鞭が今度はメアリアの元へと向かっているのが見えた。



「⋯⋯っ!?なんだこれ?」



 再び飛び込む為に全身に力を込めると、付与魔法を使う時に似た、全身から湧き上がるような力の流れを感じる。


「⋯⋯⋯⋯ッ!!」


「⋯⋯ちっ!!」


 が、その力の正体など知る由もないコウタは、今度はメアリアを守る為に飛び込む。


(⋯⋯届かない!)



 だがほんの少しだけ対応が遅れたことで、メアリアの元にたどり着くまで、若干のタイムラグが生じてしまう。



「⋯⋯っ、くそ!!」



光芒の聖槍(セイグリットスピアー)



「斬空剣!」



「イグニッションプロッサム!!」


 コウタが悪足掻きのように届くはずも無い手を伸ばした瞬間、色の違う三つの光が同時に水の鞭へと衝突し、強引に打ち崩していく。


「⋯⋯みなさん、なんで⋯⋯⋯⋯。」



(私達に出来るのは⋯⋯。)



(コウタさんの負担を少しでも減らすこと⋯⋯。)



 セリアとマリーの二人は、同時にコウタの方を見上げながら小さく頷く。




「⋯⋯負けるな!コウタ!!」



 そして二人の間に立つアデルは、スキルの副作用で苦しそうな表情を浮かべなから、張り裂けんばかりの大きな声で檄を飛ばす。




「⋯⋯はい。」



「⋯⋯っ、あと⋯⋯八本⋯⋯⋯⋯!!」




 その言葉に背を押されて顔を上げると、コウタは小さく呟く。



(これ以上、無駄遣いはしない。)




「⋯⋯加速!!」



 そう言って低く構えると、スキルを発動させながら回転し、発生した衝撃波によって残った水の鞭を同時に両断し破壊する。




「⋯⋯全部壊した!」



「いえ、まだです。」



 それを見てマリーは嬉しそうに叫ぶが、すぐさまセリアがその言葉を否定する。



「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ッ!!」



 幻獣はセリアの言葉通り、大きく息を吸い込む動作をし始める。



「あれは⋯⋯!!」



 その動作は間違い無くアレ(・・)を放つ為の予備動作に他ならなかったが、今回は少しばかり様子が違った。




「僕を狙ってこない、狙いは⋯⋯メアリアさんか!!」



 幻獣は霊槍を持って暴れ回るコウタではなく、神器を携えたメアリアの方を向いたままその動作を続ける。



 それはつまり、幻獣の中の危険度が、メアリアの持つ神器がコウタの霊槍を上回っていたからであった。




「さ、せるか!!」



 先程と同様に外海側へと誘導しようとしていたコウタは、すぐさま向きを変えてメアリアの元へと向かう。



「加速!!」



 咄嗟に城の屋根に激突すると、強引に向きを変えながらメアリアの目の前、そして幻獣の真正面に飛び出して一気に距離を詰める。



 すでに弓を引いているメアリアにあの攻撃を避けるのは不可能。ならば、とコウタはその攻撃を真正面から迎え撃つ選択を取る。



「アアアアァァァァ!!」



 幻獣はその場にいた全員の予想通り、咆哮を轟かせながらコウタとメアリアに向かって水の衝撃波を吐き出す。



「はあぁぁぁぁ!!」



霊槍と幻獣の衝突、およそ同等の破壊力を持った二つの攻撃の衝突の余波は凄まじく、国の領土を超えてその衝撃波が響き渡る。



そして真っ先にボロが来たのは、霊槍でも、幻獣でも、まして舞台となる街でもなく、霊槍の担い手であるコウタの身体であった。



 霊槍の握られたコウタの右腕は、幾度となく鈍い音を立てて原型を留めないほどに折れ曲がる。




「⋯⋯っ、ぐっ、このぉ!!」



咄嗟に空いた左手を添えて強引に受け止めようとするが、程なくしてその左手もバキバキと悲鳴を上げる。






「ま、けて、たまるかああああぁぁぁぁぁぁ!!」



 押し込まれそうになる身体をそれでも前に出して加速のスキルを発動させると、幻獣の吐き出した水の衝撃波は大量の水滴を撒き散らしながら打ち砕かれる。




「打ち破った!?」



 が、同時にそれを受け切ったコウタは、あまりのダメージに動くことが出来ず、そのまま地面に向かって自由落下を始める。



「はっ、はっ、はっ⋯⋯⋯⋯。」




(腕が⋯⋯動かない⋯⋯⋯⋯骨が粉々になってる⋯⋯けど⋯⋯。)



 ゆっくりと走馬灯にも似た感覚を覚えながら自らの手を見ると、所々がズタズタに引き裂かれており、形は原型をギリギリ留めている程度、そして色は血や火傷によって真っ赤に染まっていた。



「退け!チビ助!!」



(⋯⋯来る。)



 直後に聞き覚えのある声が耳に入ると、コウタは満身創痍の肉体に最後の力を込めて剣を召喚し、足を当てる。



「加速!!」



「お願いします!!」



 そしてその剣を蹴りながらできるだけ距離を取ろうと飛び出すと、コウタはゴロゴロと地面を転がりながら着地する。


「任せろ⋯⋯⋯⋯っ!!」



 そしてロフトは展望デッキから飛び降りると、真下に見える幻獣の頭に向かって構えるが、そこで自らの魔法の威力が高すぎることに気がつく。




(やべえ、威力が高すぎる、このままじゃ⋯⋯。)



 そう思った頃には既に展望デッキから飛び降りており、今更力を抑え込み直す時間はなかった。



「⋯⋯仕方ねえ。」



「⋯⋯⋯⋯ッ!!」




「——ジ・エデン」




 ロフトが諦めて多少の犠牲を覚悟で放とうとした瞬間、国の中心の広場を取り囲むように植物の群れがせり上がっていく。




「⋯⋯っ、これは?」



「⋯⋯アーちゃん!!」



 全員がその様子に戸惑っていると、真っ先にマオがその光景を作り出した少女の姿を捉える。



「ロフト!!」



 フラフラになった身体をメイに支えられながら、アンは空に向かってそう叫ぶ。




「⋯⋯っ、あんの馬鹿が!」




 重ね重ねで無茶をする少女に対して、ロフトは呆れを通り越して怒りを露わにする。




(だがこれなら——)




 それでも、この状況ならば多少威力が高くとも、周りの植物が緩衝材になって周囲の被害が抑えられるのもまた事実であった。



(——行ける。)




「10%解放——」




 そう言って天に掲げる手を小さく捻ると、赤黒い光の玉はその場で動きを止めて空間に固定される。

 その光景はまさに、万物を朽ち果てさせる滅びの太陽のように。







「——ロストエンド」




 小さな呟きとともに放たれる赤黒い破壊の光線は、幻獣の脳天に突き刺さり、そのまま地面へと押し込んでいく。


 同時に植物の緩衝材があるにもかかわらず、先程の幻獣の水の衝撃波を超える勢いで周囲にその余波が広がっていく。



「⋯⋯っ!!」


 それでも、思ったほど幻獣の身体が動いていない事に気がつくと、ロフトは更に腕に力を込めて押し込んでいく。




「ちぃ⋯⋯⋯⋯こ、の⋯⋯⋯⋯っ!!」






「いい加減、寝てやがれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」






 最後に一瞬だけ火力を引き上げると、柄にも無い叫び声を上げて強引にその身体を叩き落とす。




「⋯⋯ガッ!?」




 幻獣の身体はその衝撃波に押され、地鳴りのような振動を起こしながら湖の底へと沈み込み、地面へと叩き落される。




「ぷはっ⋯⋯っ!!」



 同時にロフトは苦しそうに息を吐き出して、メアリアの方へと視線を飛ばす。




「メアリアさん!!」



 そして同じように地面に膝をつくコウタもメアリアの顔を見つめながらその名を呼ぶ。





「今です!!」 「今だ!!」






「⋯⋯っ!!」





 二人の勇者に背中を押されると、メアリアは一度その場で小さく目を閉じる。



(お願い、当たって!!)



「⋯⋯⋯⋯はあああああ!!」



 最後に小さくそう祈りを捧げると、少女は願いを込めた光の矢を放つ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ