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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百六十一話 とっておきの策


 神器を手にしたメアリアとアマンドが外へと出ると、そこにはアデルとマオの二人が待っていた。



「⋯⋯お待たせしました、アデルさん、マオさん!」



 スキルの副作用を和らげるために壁に寄りかかっていたアデルを見つけると、メアリアは凛とした声色でそう言葉を投げかける。


「⋯⋯っ、どうかしましたか。」


 が、直後に反応が返って来ず、不思議そうに首を傾げる。



「⋯⋯あれ。」



「アイツが、コウタが⋯⋯霊槍を解放しました。」



 マオが指差した先に視線を向けると、巨大な龍に立ち向かう純白の槍を携えた少年が視界に入る。



「⋯⋯あれは、コウタ様ですか?」



 初めて見るその姿は、戦場には不相応な程に美しく輝いていた。



「⋯⋯⋯⋯なんと力強く、神々しい。」



 苦痛に表情を歪ませながら立ち向かっていくその姿は、まさに神装の名に恥じない鮮烈さがあった。



「——アデルさん!」



 その場にいる全員がその戦いぶりに見入っていると、はるか遠くの方からよく聞きなれた声が聞こえてくる。


「マリー、セリア!」


 声のした方に顔を向けると、こちらに向かってくる二人にアデルが真っ先に反応する。


「⋯⋯みなさん、どうして?」


「⋯⋯どうやら神器を従える事には成功したようですわね。」


 アマンドが尋ねると、セリアは真っ先にメアリアの手に持たれた一対の弓矢を見て、本能的にそれを理解する。


「⋯⋯っ、はい。」


 メアリアはそんな問いかけに対して、未だ自信の無い態度で返事をする。



「⋯⋯狙撃ポイント見つけました、と言っても消去法で一つしか無かったんですけど。」



「⋯⋯シーランドタワー、でしょうか?」



 メアリアは少ないヒントから高速で分析を始めると、答えが出されるよりも早くそう尋ねる。


「ええ、距離や角度的な問題を考慮すると、あそこが最も最適な場所です。やれますか?」


「⋯⋯⋯⋯ええ、問題ありません。」


 淡々と説明していくセリアの言葉に流されぬよう深く深呼吸をすると、ハッキリと前を見据え自分のペースで返事をする。



「⋯⋯ならば早く行きましょう、アイツも、もう長くは保たない。」


 話が終わると、それまで痛みで辛そうにしていたアデルは、幾ばくがまともになった顔色で出発を促す。



「⋯⋯はい。」




(⋯⋯踏ん張ってくれ、コウタ!)



 その場にいる全員がアデルの言葉に頷くと、同時に連絡通路を目指して走り出していく。








 邪神、そして神の名を冠する槍の戦いは、人間の領域を遥かに超えた次元にまで達していた。



「⋯⋯加速。」



「⋯⋯ッ、ガァ⋯⋯!?」



 白い線を宙に引きながら突撃すると、強烈な衝撃波が周囲に撒き散らされる。




「「「「⋯⋯⋯⋯っ!!」」」」」




 その瞬間、その国にいた全ての人間、それどころかその戦いを見ていた全ての者が驚愕に目を見開く。


 衝撃波によって目を細めたロフトが視線を戻すと、衝突した部位の鱗が弾け飛び、傷が付いているのが見えた。


「一撃、入れやがった。」


「⋯⋯あれが、アイツの切り札か。」


 あまりにデタラメで強烈なコウタの攻撃を見てロフトは思わず頬を引攣らせる。



「⋯⋯だがさっきの話通りなら⋯⋯⋯⋯。」


 そう呟くと、ロフトは戦闘前のコウタとの会話を思い出す。






「——切り札?」



「はい、本当にやばくなった時しか使いませんけど。」



 コウタは戦闘前、霊槍の存在を「切り札」として予めロフトに伝えていた。



「⋯⋯だったら俺に言う必要ねえだろ。」



 曖昧な説明しかなされない「切り札」の存在がどんな物なのかを言わないコウタに対して、ロフトは不機嫌そうに吐き捨てる。


「一応です。アレを使うと僕はもうサポート役としての仕事は一切出来なくなるし、あまり長くは使えないんです。」


 そもそも霊槍を使うつもりが無かったコウタは、最低限ロフトが混乱しない程度の情報しか言うことは無かった。



「そして、おそらく効果が切れた時には僕はもう足手纏いです。」



「ちなみに聞くが、その霊槍とやらでアイツを倒せる可能性は?」



 あまりにハイリスクな切り札の存在を知ると、ロフトは小さな期待を込めてそう尋ねる。



「周囲への被害を無視したとしても、高く見積もって二割ってとこです。」



「あの幻獣、スキルを使ってもステータスが全く表示されない上に防御が硬すぎる。さっき見た感じ騎士団や冒険者の攻撃は全くの無傷だったし、いくらアレでも、あの防御を破れる確証はないです。」



 消えゆく意識の中で得た僅かな情報を拾い上げて分析すると、ハッキリとした口調で「勝てない」と断言する。



「何より攻撃の余波で貴方にまで被害が行く可能性がある。」



「⋯⋯はっ、舐めたこと言ってんな。」


「まあ、頭には入れといてやるよ。」



 言いづらそうに顔を伏せるコウタに対して、ロフトは余計なお世話だと言わんばかりに鼻を鳴らす。







 そして現在、使うつもりのなかった霊槍を携えてコウタは戦っていた。



「⋯⋯⋯⋯くっ⋯⋯。」


(くっそ、相変わらず目眩が⋯⋯。)


 幻獣から距離を取り、咄嗟に召喚した(足場)に着地をすると、フラリと体制を崩しかける。


 傷はほぼ完治している。のにもかかわらず意識が飛びそうになっているのは、もはや霊槍の影響以外考えられなかった。



(けど、手足は動くし、集中は維持できてる。)



 だが以前使った二回とは違い、傷の無い身体は虚ろに揺らめく意識と反して力強く反応していた。


「⋯⋯行ける。」


 そうやって覚悟を決めなおすと、明らかに無理のある表情でそう呟く。



「⋯⋯なるほどな。」


(明らかに負担がデカい、確かにあの様子じゃ長くは保たねえな。)



 そしてその姿を見ていたロフトは、苦々しく表情を歪ませながらコウタの言葉の意味を理解する。



「⋯⋯様子を見てみるか。」



「⋯⋯くっ、おおおおぉぉぉぉ!!」



 ロフトがそう言って距離を取ろうとした瞬間、コウタは力強く叫びながら再び幻獣に向かって突撃する。



「⋯⋯ッ!?」


「⋯⋯ガァァァァ!!」


 幻獣はそれ反応して小さな水龍を召喚すると、無防備なコウタに向かってその龍を集中させる。


「⋯⋯遅い!!」


 そんな事など関係ないと言わんばかりに槍を振るうと、超高速で向かってくる水龍の群れは、一瞬にして弾け飛ぶ。


「おおおおおおぉぉぉぉ!!」


「⋯⋯⋯⋯っ!!」


「⋯⋯⋯⋯打ち破った。」


 水龍を押しのけて放たれるコウタの攻撃の衝撃波は先程と同じように直撃する。



「⋯⋯だが⋯⋯⋯⋯。」



(⋯⋯それでも火力が足りない。これでもまだ届かねえのか。)



 ロフトは幻獣に付けられた二つの傷を見て、そのダメージが外皮が剥がれる程度の軽傷に留まっていることを確認する。



「⋯⋯まだ、まだだ!!もっと、もっと早く!!」



 それを分かっているコウタは、更に速度を上げて突撃しようとする。





「⋯⋯待て。」



 三度目の突撃の直前、ロフトはコウタの目の前に立ってそれを中止される。


「⋯⋯退いて、下さい⋯⋯!もう僕には時間が⋯⋯。」



 時間がない事に対する焦りからか、それとも霊槍の副作用かは分からなかったが、ロフトから見て現状のコウタは明らかにまともな思考回路が出来る状態ではなかった。



「時間が無いからこそ、無闇に攻めてたら無駄死するだけだろ。」



 だからこそロフトは一つ一つの言葉を言い聞かせるように冷静に対処する。



「⋯⋯俺に考えがある。」



「⋯⋯⋯⋯考え⋯⋯?」



 ニヤリと笑みを浮かべるロフトの顔を見てある程度正気を取り戻すと、コウタは苦しそうな表情のまま首を傾げる。



「女王サマの弓の準備が出来るまで、お前一人で時間稼げるか?」



「出来ます、けど⋯⋯何故?」


 霊槍に対する絶対的な信頼もあり、躊躇いなくそう答えると、コウタはロフトの意図を探るために首を傾げる。


「あのバケモンの胴体、地面に縫い付けられるように杭が打たれてるのは見えるだろ?」



 するとロフトは幻獣の直下にある穴を再び指差してそう尋ねる。



「ええ、恐らく再び封印するには奴の頭部を地面スレスレまで落とさなくてはいけません。」



 正気を失いかけていたコウタにも、その考えは既に浮かんでおり、迷いなく即答する。



「正攻法でやるなら、ダメージを与えて弱らせるんだろうが、現状じゃ難しい。」



「だから僕が⋯⋯。」



「それもありだろうが、俺ならアイツの頭を力尽くで地面にねじ込むことが出来る。」



 だからこそ自分が霊槍で倒すのが一番手っ取り早い、と答えようとするが、ロフトはその言葉に割り込んで自らの話を進める。



「本当ですか!?」



「が、しかし少々時間がかかる。」



「⋯⋯⋯⋯だから僕が時間稼ぎですか。」



 そこまで聞いてようやくロフトの「考え」の意図を理解する。



「分かりました、何分稼げばいいですか?」



 疑う暇すら無いコウタは、素直にその言葉を受け入れると、すぐさま作戦の実行の為、必要な情報を尋ねる。



「二分、悪いが俺は手出しできねえ。」



「それほどの時間を溜めに要するって事は、威力は期待出来るんでしょうね?」



 思いの外長い時間稼ぎに疑問を持つと、半ば皮肉気味にそんな問いを投げかける。



「⋯⋯ちげえよ。」


「⋯⋯⋯⋯?」



 そんな問いに対して、ロフトはニヤリと笑みを浮かべ否定の言葉を述べる。



「溜めじゃなくて抑える(・・・)為の二分だ。」




 


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