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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百五十一話 美麗なる拳士


——その頃、市街区にある冒険者ギルドでは、魔王軍の襲撃に対処する為の対策室が設けられていた。



「シルバ様!中央広場に襲撃の報告が来ています!」



「人員を回せるだけ回せ!足りなければ冒険者の力も借りんかい!!」


 と、言っても内部は混乱状態にあり、ギルドマスターのシルバも指示を出すので精一杯であった。



「襲撃が相次いで五件⋯⋯ったく⋯⋯どうなっとる⋯⋯次から次へと⋯⋯!」



 対策が完全に後手に回っている現状を見て、シルバは目の前に広げられた地図に向かって小さく怒りと焦りをぶつける。



(ギルドの人間だけでは全く足りん⋯⋯例え冒険者の力を借りれたとしても、間に合うかどうか⋯⋯。)



 襲撃がある事は想定していた。そのための対策も取っていた。にも関わらずここまで対応が後手に回っているのは、純粋に襲撃に回してくる頭数が完全に予想の範疇を超えていたからに他ならなかった。



「シ、シルバ様!!」



 するとそんなシルバの思考に割り込むようにドアの向こうからその名を呼ぶ声が聞こえてくる。



「ええい!次は何じゃ!?」



 キャパシティを超えかけた情報量を前に、流石のシルバも冷静さを失い始める。



「そ、その⋯⋯陛下が⋯⋯。」



 怒鳴りつけられ、肩を震わせながら、ドアの向こうに立つギルドの職員は小さな声でそう呟く。



「——シルバ様!いらっしゃいますか!?」



 その直後、職員の背後から息を荒らげたメアリアと、それについてくるように宰相のガーランドが現れる。



「んなっ!?陛下、何故こんなところに!?」



 突然の予想だにしていなかった来客に、シルバはさらに混乱する。



「た、助けて下さい!アマンドとデク様が⋯⋯!」



「シルバ様!新たに大通りで戦闘が始まりました!!」



 メアリアが必死に何かを訴えかけようとするが、焦燥に駆られ過ぎたのか、上手く言葉にできず、その間に扉の向こうからもう一人、職員が叫び声を上げて部屋に入ってくる。



「⋯⋯っ、アマンドです!」



「ちっ、状況は⋯⋯?」



 メアリアがそう叫ぶと、シルバは一度それを聞き流して冷静にそう尋ねる。



「敵は一体、デク君と騎士団長様が戦っていますが、劣勢⋯⋯との事です。」



「⋯⋯っ!!シルバ様!!」



 メアリアは劣勢という言葉を聞いて縋るような表情でシルバの顔を見つめる。



「⋯⋯ベラを呼んでこい。」



 シルバはそこまで話を聞いて、ある程度状況を把握すると、深い深いため息をついて扉の前で黙り込む職員に命令する。



「⋯⋯陛下、もはやギルドや冒険者だけでは市民を守り切ることが難しくなっとります。」



 ギルド職員が部屋から立ち去ると、シルバはメアリアの前まで歩み寄り、その目を真っ直ぐに見据えて言葉を紡ぐ。



「⋯⋯そんな。」



「が、王国騎士団が力添えしてくれるのならば、まだギリギリ堪えられるでしょう。」



 メアリアが絶望に満ちた表情を浮かべると、シルバはそう言葉を続ける。



「なので一時的に冒険者、ギルド、騎士団の三つで連合を組み、その指揮を私の部下であるベラと、アマンド殿に任せたいのです。」



 団結と言っても、それはあくまで戦力を効率よく戦場に回す手段に過ぎず、直接的な解決には結びつかなかった。が、そうすることしかシルバには思い浮かばなかった。



「⋯⋯シルバ殿はどうするのですか?」



 その作戦だと、シルバ自身はすることが無く、メアリアも当然そのことに疑問を持ち、質問を投げかける。



「残念ながら、私は部隊の指揮をしている暇はなかったようです。」



 するとシルバは雰囲気を切り替えながら。メアリアに背を向けて重々しい声でそう答える。



「⋯⋯まさか。」



「失礼します!ベラ、只今到着しました!」



 メアリアが何かを言おうとした瞬間、開きっぱなしになったドアの向こうから、眼鏡をかけた紫色の髪の真面目そうな女性が現れる。



「おう、来たな。急で悪いが、お前には今から騎士団長と共に冒険者、ギルド、騎士団の連合部隊の指揮をしてもらう。」



「れ、連合部隊!?ですが、私は今から戦場に⋯⋯。」



 突然のシルバの命令に、紫色の髪の女性はは当然戸惑いながら言葉を返す。



「分かっとる、今が切羽詰まっとるのも、お主が行かなくては戦場が回らないのも。だからそれは儂がやろう。」



 切羽詰まってギリギリになって出した結論は、シルバ自身、とても自分らしいものだと自覚していた。



「それはつまり⋯⋯。」



「⋯⋯おうよ。」



 ベラは先ほどのメアリアと同じような反応をすると短くそう答える。




「戦場には、儂が出よう。」











 その頃、シーランドタワーではコウタ達四人が魔王軍幹部であるファルナスに苦戦を強いられていた。



「加速!!」



「斬空剣!!」



「⋯⋯甘い。」



 前衛である二人が同時に斬撃を放つと、ファルナスは呪剣を用いてコウタの剣を受け止め、アデルの放った風の刃を回避する。



「「⋯⋯っ!?」」


(こいつ、速いっ⋯⋯!?)



 予想を超えるその動きの鋭さに、二人は思わず面食らってしまう。



「けど⋯⋯。」



「⋯⋯まだだ。」



 それでも二人は動きを止めることなく同時に距離を取ると、マリーがファルナスの後方へと走り込む。



「⋯⋯ヒートキャノン!!」



「⋯⋯⋯⋯っ。」



 煌々と輝きながら背後から迫る炎球はファルナスの身体に直撃した後に爆発する。



「⋯⋯当たった!」



 マリーはその攻撃に手応えを感じると、嬉しそうに小さくそう呟く。




「⋯⋯悪くない攻撃ですが、やはり弱い。」



 だが次の瞬間、爆発の中心にいたファルナスは、周囲に漂う黒煙を振り払いながら退屈そうに呟く。



「⋯⋯っ、そんな⋯⋯。」



 手応えがあったにも関わらず全くの無傷であるファルナスを見て、マリーはその表情を一転させる。



「⋯⋯効いてない、どういうことだ?」



 爆発の瞬間、ファルナスはマリーの放った魔法を右手で受け止めていたのはアデルにも見えていた、が、それでも受け止めた右手までもが無傷なのは理解出来なかった。



(⋯⋯観測。)



「⋯⋯なるほど。」



 すぐさまコウタはその原因を探るため、ファルナスの身体に向かって〝観測〟のスキルを発動させる。


 と、同時にコウタ、マリー、アデルの三人はバラバラになった陣形を戻すために、中心にいるセリアの元へと集結する。



「⋯⋯どうだった?」



 コウタの行動を予測していたアデルは同じようにセリアの元へと走りながらコウタにそう尋ねる。



「⋯⋯属性耐性を持ってます。光と闇を除いた全ての属性、しかもそれだけじゃなくて、僅かですけど斬撃、打撃の耐性も持ってます。」



「⋯⋯冗談だろ?」



「大真面目です。減少率は魔法が50%で斬撃と打撃が20%、恐らくマリーさんの攻撃はほとんど通用しないと考えた方がいいかもしれません。」



 つまり目の前にいる敵は魔法のダメージを半分にし、高いステータスと相まって近接戦においても優秀な力を発揮する隙のない相手だった。


 そして、攻撃手段が火属性魔法しか持たないマリーでは、彼女に傷を負わせることは不可能に近かった。



「⋯⋯それだけじゃない。私達もだ。」



 ただでさえ厄介過ぎるほど高い反応速度を越えることが出来たとしても、斬撃耐性の影響で深手を負わせるのは難しい。


 つまり現状、ファルナスを相手に効果的にダメージを与えられる者は一人しか居なかった。




「——ならば私がやりましょう。」



 そしてその一人、セリアは、そのことを理解すると、二人の間を通りながら少しだけ前に出てそう答える。



「⋯⋯⋯⋯。」



 すると、余裕そうなファルナスの表情がほんの少しだけしかめっ面へと変化する。



「確かに貴女は高い耐性能力があるようですが、ついてませんでしたね。魔族の共通の弱点である光属性の耐性を持っていないとは。」



本来、魔族というのは高いステータスやオリジナルスキルの取得率の高さと引き換えにスキルの選択が出来ないなどのデメリットも存在する。


 そのうちの一つに光属性の攻撃を苦手とするというものがあったが、それはファルナスも例外ではなかった。



「私の魔法なら斬撃耐性、打撃耐性⋯⋯どちらも関係ありませんわ。」



 そしてそれは、光属性の耐性を持たない彼女の唯一の弱点と言っても過言ではなく、強力な光属性の魔法を使いこなすセリアは、彼女にとって、紛うことなき天敵であった。



「⋯⋯⋯⋯確かに、私の弱点は光属性の魔法、つまり私の天敵は貴女と言えるでしょう⋯⋯⋯⋯が。」



「それしか出来ない支援職など、私の敵ではありません。」



 そう言うと、ファルナスは強く地面を蹴ってセリアに向かって急接近する。



「⋯⋯っ、光芒の聖槍(セイグリッドスピア)


「甘い⋯⋯。」



 セリアは咄嗟に魔法を放つが、ファルナスは速度を落とすことなくそれを回避して前に出る。



(⋯⋯っ、避けられた。)



「まずは一人⋯⋯っ!?」



 必殺のタイミングでファルナスは呪剣を振るうが、その剣は真横から割り込んで来た赤色と水色の剣によって阻まれる。



「だったら近接は僕達としませんか?」


「⋯⋯そう簡単に後衛に手を出せると思うなよ?」



「⋯⋯ちっ。」



 ファルナスは面倒そうな表情を浮かべると、二つの剣を纏めて弾き上げ、後方へと引き下がる。



「⋯⋯接近戦が得意なのは貴様だけだと思うな⋯⋯。」



「全くもって鬱陶しい⋯⋯貴方たち程度に手を煩わされるとは⋯⋯。」



 その表情は徐々に影を帯び、その目は徐々に光が消え、ファルナスは見下した視線で蔑むようにそう呟く。



「よく言いますよね、よく見れば貴女は耐久力とステータスこそ高いですけど、それ以外のスキルは武具適正とかいうスキルだけじゃないですか。」



 もっとも、その〝武具適正〟のスキルが破格の性能であり、あらゆる武器を即座に使いこなすと言うものであった。



「⋯⋯なるほど、観測のスキルも持っていたのでしたね。」



 コウタの言葉を聞いて、ファルナスは深いため息の後、納得したようにそう答える。



「貴女の同僚が言ってましたよ。一芸だけでは幹部は務まらない、と。」



「化けるのと近接しか出来ない貴女なら恐るるに足らない。」



 確かに目の前の敵は近接戦のみならず、変装も出来るが、その変装のスキルは、〝観測〟のスキルを持つコウタの前ではほぼ無力であった。



「舐められたものですね。たかだか人間ごときに。⋯⋯仕方ない。」



 ファルナスは怒りのあまりこめかみに血管を浮き上がらせると、本人もそれを自覚したのか、大きく深呼吸した後に一度冷静になりながら手に持った呪剣をゆっくりと鞘に納める。


「⋯⋯?」


(剣を⋯⋯しまい込んだ?)



「私のスキル武具適正は、初めて使う武器でも、一流以上に扱いこなすことができます⋯⋯が、私の身体には、こっちの方が馴染むようです。」



 コウタがしかめっ面で眉を潜めると、ファルナスは力強く拳を握り込んでそう答える。



「殴り合い、ですか。」



「ええ、こちらの方がもう一つの方の力(・・・・・・・・)も発揮出来る。」



「もう一つ?」



「魔族の中でも、特に姿形が人間に近い種族のみが持つことを許された、領域外のスキル。名を⋯⋯。」



 そう言った瞬間、ファルナスの纏う雰囲気は一際鋭くなり、溢れ出す殺気は形となって周囲に圧力を放つ。



「⋯⋯っ!?」



(何か⋯⋯⋯⋯。)




(⋯⋯来る⋯⋯!)



 それに気がつくと、最前線に立つコウタとアデルの二人は固唾を飲みながら無意識に剣を握る手に力を込める。





『——覚醒』




 瞬間、先程とは明らかに異質な、紫色の光が周囲に広がっていく。



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