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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百五十話 天空穿つ灯火の塔


 中央広場から離れ、居住区を進んでいた四人は、未だ目の前を走る男に追いつく事が出来ずにいた。



「⋯⋯速いっ⋯⋯全然追い付けない。」



 理由は複数あったが、その中で最も大きな理由となったのは純粋に相手の速度が早かった事、そして入り組んだ居住区の曲がり角を巧みに使っていた事であった。



「アレって、やっぱり幹部ですよね?」



 マリーはコウタの付与魔法の補助を受け、なんとか前を走る三人に追いすがる様に走りながら、コウタにそう尋ねる。



「はい、以前ナストで僕が戦った相手です。」



 パーティーの中で最もスピードのステータスが高いコウタは、比較的余裕を持ちながらそう返す。



「コウタさん、気づいてますか?」



 そしてコウタの斜め後ろを走るセリアは、男に視線を向けたまま真剣な表情でそう尋ねる。



「はい、中央広場や市街区はあんなに派手にやってたのに、居住区は驚くほど静かだ。」



 戦闘の影響で遠くでは爆発音や悲鳴が聞こえてくるのにもかかわらず、コウタ達が走り抜けていくこの居住区は魔族の姿すら見えることはなかった。


 それを真っ先に感じ取ったコウタは違和感と気持ち悪さを胸に押し込めながらそう返す。



「一体奴らなんの目的なのか⋯⋯。」



「目的が分からないのは確かに不気味だが、このままでは撒かれるぞ?」



 コウタが思考すると、今度はアデルがそう尋ねてくる。



「⋯⋯分かってます。召喚!」



 するとコウタは自らの足元に巨大な剣、バスターソードを召喚すると、自らの走る速度に合わせて一定の距離を取ったまま低い位置に剣を固定する。



「⋯⋯っ!」


「⋯⋯剣?」


「飛ばします、乗って下さい!」



 その行動の意味が分からず、アデルやマリーが首を傾げていると、コウタは三人に短くそう叫ぶ。


「なるほどっ⋯⋯。」


「へ⋯⋯?うわっ⋯⋯!?」


 その言葉に真っ先にセリアが反応すると、隣を走るマリーを抱え込み、そしてその剣を強く踏み切る。



「いっ、けぇ!」



 コウタの合図に合わせて、剣が跳ね上がると、二人の体は大きく宙に投げ出され、そして建物の屋根に着地をする。


「と、飛んだ⋯⋯。」


 遠ざかって行く地面に目を向けながら、抱えられるがままにマリーは小さくそう呟く。


「次!アデルさんも!」


 二人を打ち上げ終わるのを確認すると、コウタはすぐさまアデルに合図を送る。


「ああ!」


 アデルは短く返事をしながら先ほど以上に強く剣を踏み切り、飛び上がるとその勢いのまま屋根の上を走り抜け、追走を続ける。



「⋯⋯これなら捕捉し続けられる。」



 最後にコウタが武器に乗って飛翔すると、前を行く男の姿を見下ろしてそう呟く。


 入り組んだ道で真っ直ぐに追えばいずれ曲がり道で撒かれる可能性がある。


 だからこそコウタは見晴らしの良い屋根の上から追うことにしたのだ。



「⋯⋯チッ。」



 男もそれを察すると、忌々しそうに舌打ちをし、そして曲がる事なく真っ直ぐに速度を上げる。


「⋯⋯っ、さらに速くなりましたよ!」


「直線でスピードが出せるのはこっちも同じです!」


 マリーがそう叫ぶと、コウタは〝加速〟のスキルを発動し、三人を置き去りにしながら屋根の上を突き進む。


「速っ⋯⋯!?」


 それまでギリギリでついていけていたマリーはその姿を見て小さくそう呟く。


「⋯⋯⋯⋯?」


 しばらく二人で平行して進んでいると、男は建物が並び立つ居住区を抜けて開けた空間に飛び出す。



(街を出た?一体何を⋯⋯。)



「⋯⋯っ、なるほど。」



 コウタはその行動の意図が分からず首を傾げるが、その向こう側に視線を向けると、すぐさまその意図を理解する。


「コウタさん!!」


 すると少し遅れて背後からアデル達が追いついてくる。



「コウタ!奴は何処に!」




「⋯⋯あの中です。」



 アデルの問いかけに、コウタはゆっくりと答えながらその場所を指差す。




「⋯⋯っ!!ここって!」



 コウタの指が指し示す先にあるその建物を見て、マリーは一際真剣な表情で短くそう呟く。




「⋯⋯シーランドタワー。」



 それは王城から運河を挟んだ先にある、水の都リューキュウのシンボルとも言える建物。


 高さ二百メートルのその塔は、観光用の展望台の役割のみならず、灯台の役割もあり、頂上には巨大な展望デッキ兼光源がある。



「どうやら、鬼ごっこの次は隠れんぼがしたいらしいですよ。」



 そんな建物に入って行くということは、そういうことであるのはすぐに理解出来た。



「⋯⋯行くぞ。」



 アデルの言葉に合わせて、四人はタワーの中へと進んでいく。







 中に入ると、そこにはコウタ達が予想だにしていなった空間か広がっていた。



「うわ広っ⋯⋯!?」



 景観にこだわるこの国のシンボルともなれば大層豪華絢爛な内装かと思えば、中身は白く塗装された鉄骨が剥き出しになったものだった。



(中身は複雑な鉄骨張り⋯⋯そりゃそうか、こんな大きな塔を支えてるんだもんな⋯⋯。)



 構造自体はとてもシンプルかつ原始的であり、コウタの世界の似たような塔とは根本的に作りが違かった。



「コウタ、居たぞ!」



 アデルの言葉に反応して真上を見上げると、そこには鉄骨の上でコウタ達を待ち構える男の姿があった。



「⋯⋯⋯⋯。」


「⋯⋯隠れる気はゼロ、か。」



 コウタが違和感を感じつつそう呟くと、男はニヤリと笑ってそのまま鉄骨を伝って上へ上へと進んでいく。


「あ、上に行っちゃいますよ!」


「階段があります、我々も参りましょう。」


 立ち止まりその姿を睨みつけるコウタに向かって、他の三人は後を追うように促す。







「——やあ、待ってたよ。」


 階段を駆け上がり、頂上の展望デッキにたどり着くと、その部屋の中心には先程まで追っていた男が堂々とコウタ達を待ち構えていた。



「もはや逃げる気も隠れる気もゼロですか⋯⋯。」



「そりゃそうさ、なんてったって、僕の目的は、この場で君を殺す事だからね。」



 コウタがそう尋ねると、男は大きく目を見開きながら笑ってそう答える。



「⋯⋯嘘は止して下さい。」



「⋯⋯⋯⋯。」



 コウタが真剣な表情でそう呟くと、男はそれまでヘラヘラと貼り付けていた笑顔を消して黙り込む、



「あなたの目的は僕達の足止めでしょう?」



「へえ⋯⋯?」



 図星であったのか、男は何を言うでもなくただそう呟いて話の続きを求める。



「最初に逃げる時点であれだけ距離を取ることが出来たなら、姿を見せる事なく隠れる事も出来たはずだった。なのにしなかった。それに、あなたのスピードなら僕達の事なんてすぐに撒くことは出来たはずです。」



 この男の能力ならば撒くことも隠れる事も出来たはずなのに、わざわざ自分達の探査範囲から外れることなくここまできたのはそういった意図があるからに他ならなかった。



「最初からここまで連れてくるのが作戦の内だったんですよね?」



「正解だよ。⋯⋯で?分かっててなんで付いて来ちゃったの?」



 男からすれば罠であることが分かっているのにもかかわらずまんまと乗ってきたのは違和感しか無かった。



「あなた達の目的が女王や宰相であるなら、二度目の煙幕の時に逃げるのでは無く、そのどちらかをやることは出来たはずだ。⋯⋯けどそれをしなかったってことは。」



「⋯⋯既にあの二人に興味はない。」



 コウタが説明を始めると、男はその言葉に続けるようにしてそう答える。



「⋯⋯ですよね。そして、それ以外の目的が分からない以上、あなたを捕らえて話を聞いた方が速いと思ったんですよ。」



 現状、ヒントを握っているのがこの男だけならば、もはや選択肢は一つだった。



「倒す気満々って訳か⋯⋯困ったね。ただでさえ以前はタイマンで負けたのに、今度は四対一か⋯⋯。」




「⋯⋯⋯⋯おかしいですね。僕はあなたと戦ったことは無いですよ?」



 男が皮肉っぽくそう呟くと、コウタはさらに皮肉っぽくそう返す。



「⋯⋯そっちまでバレてるとは⋯⋯⋯⋯。」



「⋯⋯?どういう事だ?」



 男の顔から感情が消えると、隣にいたアデルがそう尋ねてくる。



「コイツ⋯⋯ルキじゃ無いです。」



「「⋯⋯っ!?」」



 コウタの言葉を聞いて三人は大きく目を見開きながら同時に男の方を向く。



「僕の推測が正しければ、魔王軍幹部、ルキという男は、複数の武器や地形を利用した搦め手が得意な男です。」



「そんな男が僕達を足止めするなら、逃げ場のない上空二百メートルの展望デッキではなく、遮蔽物の多い居住区、もしくは鉄骨張の下層を選ぶと考えるのが普通でしょう?」



 つまり一言で言えば、この男の一連の行動は全てが「らしくない」行動だった。



「⋯⋯誰ですか、あなたは?」


「⋯⋯なるほど、その洞察力、流石と言うべきでしょうか。」



 コウタがいっそう真剣な表情で尋ねると、男はそれまで軽かったその口調を堅苦しいものに変化させる。


 そして男の身体は小さく輝き出し、ゆっくりとその形を変えていく。



「「「⋯⋯っ!」」」



 光が止み、その中から金髪の眼鏡をかけた女性が現れると、アデル、マリー、セリアの三人は同時にその表情を凍り付かせる。



「⋯⋯貴様はっ⋯⋯。」


「貴方だけは初めまして、でしたね。勇者候補。」



 驚愕の声を上げるアデルになど目もふらず、眼鏡の女性はコウタに向かってそう言って頭を下げる。



「魔王軍が誇る六つの柱が一つ、ファルナスでございます。」



「⋯⋯貴女が⋯⋯ファルナス⋯⋯。」



 彼女の話はアデル達から聞いていた、だからこそ驚く事は無かったが、それでも魔王軍の幹部が二人以上いるというのは初めてのことで予想外であった。



「最初に私の目的を言っておきましょうか。⋯⋯私の目的は、本物からあなた方を引き離す事です。」



「じゃあやっぱり、二度目の煙幕の時に入れ替わってたんですね。」



 本物、つまりは中央広場で戦ったルキは本物であり、彼こそが今回の魔王軍の襲撃の核であるという事が予想できた。


「ええ、別の用事があって少々急いでいましたが、間に合って良かったです。」



「それでは⋯⋯しばしの間、お付き合い願います。」



 ファルナスはそう言って剣を抜くと、真っ直ぐに構えて殺気を放つ。



「残念ながらこっちも忙しいんです。⋯⋯だから、すぐに終らせてもらいます。」



 それに対抗するように、コウタは一本の剣を召喚し、同じように殺気を放ちながら剣を構える。

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