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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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十五話 ギルドマスター




「——お見知り置きを。」


「⋯⋯二回も言わなくても聞こえてますよ。」



 繰り返される男の挨拶を無視すると、コウタは視線すらも向ける事なく再び目の前の麺に箸をつける。



「⋯⋯⋯⋯。」



「んぐ、んぐ⋯⋯ぷはっ。⋯⋯はい、なんでしょうか?」



 そしてしばらくの沈黙の後、スープを飲み干してようやく会話を再開させる。



「人が挨拶しているのによくガン無視して飯を食えますねぇ⋯⋯。」



 いつまで経っても反応が無いことを確認し、とうとう一緒に食事を始めていたエティスは、スープのみが残されたどんぶりから手を離してため息をつきながら尋ねる。



「ああ、敵じゃ無さそうだったので。あと冷めたら美味しくないですし。」


 大した興味も湧かないコウタは、最後に残されたコップの水を飲みながら適当にそう答える。


「全く、肝が座り過ぎているのも問題ですねぇ。」



「それで?ギルドマスター様が僕になんの用ですか?」


 そうは言いつつも、余裕そうな表情を見せるエティスの煮え切らない態度に、少しだけ苛立ちを覚えながら、コウタはそう問いかける。



「そのことですが、奥でお話ししませんか?」



「⋯⋯⋯⋯。」



 瞳の奥に映る思惑に違和感を感じると、コウタはその目を真っ直ぐに睨みつける。








 そして、そのすぐ後。



 彼について行く事を決めたコウタは、言われるがままに席から立ち上がり、何も言う事なく彼の後をついていく。


 エティスが受付の女性に目配せをすると、女性は自らの真横にある通行止めの板を外し、カウンター裏への道を開ける。


 不安そうな彼女の横を通り抜け、更にその奥へと進むと、今度は不自然に空間の開いた床が、まるでコウタを歓迎するかのように自ら動き始め、地下への階段を目の前に作り出す。


 階段を下りきり、真っ暗な通路へと出ると、その先に続く暗い道には、ポツポツと等間隔で光が射しているのが見えた。



「この建物、地下なんてあったんですね。」



「ええ、と言っても地下の部屋は一つだけですが。」



 二人きりの会話は遮るものも無く響き渡り、コツコツと歩くたび、靴の音が遅れて周囲に広がる。



「⋯⋯ところで、コウタくん、今レベルはどれくらいですか?」



 互いに話す事もなく、しばらくの間、床を踏み鳴らされる音だけが続いていると、その沈黙を破るようにエティスが口を開く。


「12です。何故そんなことを聞くんですか?」



「そうですかぁ。僅かレベル12でワイバーンを倒すとは、これはやはり、逸材ですねぇ。クックック。」



 コウタは自分からの質問を交えながらそう答えるが、エティスはそんな問いに答える事もなく一人ニヤニヤと愉悦の笑みを浮かべる。



(この人、セシルさんと同じ匂いがする⋯⋯。)



 そんな様子を見て、コウタは頭の中で剣に頬を擦り付けていた変態おとこを思い出す。



「着きましたよ。ここが地下の部屋、名前をつけるなら多目的室、と言ったところでしょうか。」



 そこには土の床を石畳で丸く囲った、コロシアムの様な大きな部屋が広がっていた。



「ひっ、ろいですね。」



 それまで警戒心を途絶えさせる事なく険しい表情を浮かべていたコウタも、そのあまりの大きさに思わずそんな声を上げる。



「ここは普段モンスターの解体や、ギルド職員の戦闘訓練に使われますからねぇ。私たちが通ってきた道、通路や階段が広くできていたでしょう?あれは、討伐したモンスターを運び入れるためにそう作ったんですよ。」



 エティスはビッ、と親指で通路を指しながらそう言うと、まるでダンスを踊るようにくるくると回りながら広間の中心まで進んでいく。


 コウタも彼に倣って再び足を進めると、そのまま部屋の中心まで彼の背を追いかけて行きちょうどいい距離を開けて動きを止める。


「なるほど、⋯⋯で?僕をここに連れてきた理由はなんですか?まさかこんな事を説明するために呼び出した訳ではないでしょう?」



 そうしてそのままその場で立ち止まると、コウタは急かす様にエティスに尋ねる。



「話が早くて助かります。率直に言いましょう。コウタさん、貴方には今からこの私、エティスと模擬戦をしていただきたい。」



 エティスはしてやったり、と言いたげな得意げな表情でそう言い放つが、コウタ自身、戦闘訓練に用いられる、と聞いた時点でなんとなく予想がついていたので大して驚くことはなかった。



「⋯⋯はぁ、戦う理由は?」



 だからこそ、驚きを見せるのではなく、あくまでマイペースに、呆れたように質問を投げ掛ける。



「まず第一にギルドとしてはオリジナルスキルを所持する新人の実力を知っておきたいという理由。第二に単純に私が見てみたいといった理由です。」



「二つ目、完全に私情を挟んでますが、それでいいんですかギルドマスター。」



 コウタは再びため息まじりでそう呟き、目を細めながら呆れたような態度で問いかける。



「まぁ、多少は許されるでしょう。」



 対するエティスは対して悪びれもせずメガネを持ち上げながら真顔で答える。



「ちなみに、——断ると言ったら?」



 本来ならばやる必要がない、と一蹴するところであったが、この日のコウタは少しだけ興が乗っていたのか、威嚇をするように、声の調子を変えてそう尋ねる。



「困ります。⋯⋯特に君を脅す材料もありませんし⋯⋯。受けてくれたら報酬をいくらか出すというのはどうでしょう?」



 エティスは威嚇に反応する訳でもなく、かと言って挑発するでもなく、素直にそう答えると、コウタに対してそんな提案を持ちかける。



 揺さぶりに対して一切の反応を示さないエティスを見て、コウタは一瞬だけ考え込むような動作を見せ、真顔のままこう切り出す。



「お金は別にいりませんが、⋯⋯⋯⋯そうですね、では一つ質問させてもらっていいですか?」


「なんでしょう?私に答えられることならなんでも。」


 エティスは手を広げて問いを返すと、それを見てコウタは小さく頬を吊り上げて笑顔を見せる。



「この街には、貴方より強い方はいますか?」



 意図の掴めない問いかけに、エティスの表情が少しだけ強張る。



「⋯⋯強さは分かりませんがレベルだけなら私がこの街で一番のはずです。」



(やっぱりか⋯⋯。)



 コウタは彼に出会ってからここに来るまでの間に、「観測」のスキルを用いて彼のステータスを盗み見ていた。


 そして彼のレベルを見てすぐに驚愕した。彼は今までコウタが出会った全ての人間達の中で最もレベルが高かったのだ。


 それはつまり——



(レベル47、それがこの街の最大値。)



 コウタはこの街の強さを知りたかった。そして何より、自分が今どれだけの実力を持っているのか、自分の今の立ち位置は何処なのか、それを知りたかったのだ。



「分かりました。受けましょう。模擬戦。」



「ありがとうございます。では早速、と言いたいところですが、今からやるのはあくまで模擬戦、本気になり過ぎるのはナンセンスです。審判が欲しいですねぇ。」


 エティスはコウタの顔を見てニコニコ笑いながらわざとらしく言う。


「ならそこにはいる人に頼めば良いのでは?」


 コウタはエティスのノリに合わせて部屋の入り口に視線を向ける。


「そうですねぇ。ロズリさん!審判をお願いします。」


 エティスがそう言うと少し間を置いてドアの影から先日とは違うギルド職員の格好をしたロズリがおずおずと出てくる。


「気付かれてたのですね。」


「ええ、割と最初から。」


 コウタはワイバーン討伐ですら見ることのなかった彼女の動揺っぷりを見てニコリと笑う。


「申し訳ありません。こんな、盗み聞きのような真似をして。」


「構いませんよ。君も心配になってしまったのでしょう?」


 エティスは優しい口調で深々と頭を下げるロズリにそう問いただす。


「⋯⋯はい。」


 ロズリは盗み聞きをしていたことに対する後ろめたさもあり、素直にエティスの言葉に従ってしまう。


「ですから君が審判として、我々を見張っていて下さい。」


「⋯⋯かしこまりました。」


 ロズリはゆっくりと歩みを進め、二人の中心辺りに立つ。



「さて、では役者も揃ったところですし、——始めましょうか。」



 エティスの雰囲気がガラリと変わる。伊達にそのレベル47を刻んでいる訳ではなく、その佇まいは一流のそれだった。


(今回は本気でやっても勝てるか分からない、か⋯⋯。)


 それを自覚するとコウタは思わず破顔する。前世から数えてもとても懐かしいような感情を味わう。


(初めてだな、武者震いは。)


 震える手と釣り上がる頬を全力で抑えてコウタは目の前の相手に向かい合う。



「それでは、今回のルールですが、先に戦闘不能に陥るか、降参した方の負けの、我がギルド特別ルールとなります。」



「つまり殺さなければなんでもありです。」



 ロズリの教科書通りのルール説明にエティスが噛み砕いてそう付け加える。


「分かりやすくていいですね。」


 コウタは苦笑いでそう返す。



「それではお二人とも、準備はよろしいですね?」



 その言葉を聞いて二人は互いに剣を抜き、臨戦態勢に入る。



「戦闘訓練⋯⋯⋯⋯」







「⋯⋯⋯開始!!」






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