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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百三十九話 晩餐会への誘い



 その後、コウタとセリアの二人はマオの案内の下、冒険者ギルドへと向かっていた。


 ロフト達と別れた後、かなりの距離を歩いていると、目的の建物へとたどり着く。 



「ここがこの国のギルドだよ。」



 マオがそう言ってその建物を指し示すと、コウタとセリアは淡い水色のその建物を不思議そうに見上げる。



「へぇ⋯⋯。」


「水の国ともなるとギルドの外装も大きく変わってくるのですね。」



 基本的にコウタ達の知る冒険者ギルドは全体がレンガ造りの建物であり、外装に限って言えば例外なく同じ造りであった。


 だが現在、二人の目の前にあるギルドと呼ばれている建物は、そんな画一化されたものとはかけ離れており、建物の外装は周囲の建物に溶け込むように塗られていた。



「そうだね、特にここは市街区だから尚更ね。」


「市街区、ですか?」



 セリアの問いかけに答えるマオの言葉を聞いて、コウタはさらに疑問を投げかける。



「国の法律でね、家や建物の外装の色は統一させられるの。」



「特に今いる市街区と、さっきまでいた商業区はこの水色っぽい白で統一しなきゃいけないの。」


「なるほど⋯⋯。」


 セリアはそれを聞いて不思議でならないと言った表情を浮かべていたが、コウタは元の世界でも似たような事例を知っているため、思いのほかすんなりとそれを受け入れることが出来た。


「それより早く入りましょう。こっちは疲れてんのよ。」


 ドアの前で立ち止まる二人を見て、メイは不機嫌そうにそう言い放つ。


「ええ、分かりましたわ。」


(アデルさん達いるかな?)


 促されるままセリアが中へと入っていくと、コウタは少し前に分かれた仲間の顔を思い浮かべながらそれに続いていく。



「⋯⋯あっ!」



 すると、コウタが中へと足を踏み入れた瞬間に聞き覚えのある、と言うよりかは聞き慣れた少女の声がコウタとセリアの二人の耳に入ってくる。



「⋯⋯早かったなコウタ。」



 そして同時に声のする方へと振り返ると、赤髪の少女がこちらに歩み寄ってくるのが見えた。



「アデルさん。マリーさん。もういたんですね。」



「ああ、色々あってな。少し早めに来ることになった。」



 コウタは二人にそう尋ねると、アデルがいつも通りの様子で答える。



「宿取れましたか?」



 コウタはその直後にアデルの後ろから歩み寄ってくるマリーを見つけると首を小さく傾げて尋ねる。



「取れましたよ!」



 するとマリーは親指を立てて元気よく返事をする。



「ある方から斡旋してもらってな、そこそこ位の高い宿が取れたぞ。」



「ある方⋯⋯?」




「——へぇ⋯⋯この子達があんたらの仲間?」



 アデルのその言葉を聞いて首を傾げると、コウタの後ろからメイがほんの少しだけ冷ややかな、威嚇をするような態度で顔を出す。



「⋯⋯ん?」


「⋯⋯むっ!?」



 それを見て、アデルは不思議そうに、マリーは警戒心全開で反応する。



「⋯⋯そっちの二人は?」


(また女⋯⋯。)



 アデルがそう尋ねると、マリーはその後ろでメイとマオをじっとりとした視線で観察する。



「こんにちわ、私の名前はマオ、こっちの女がメイ。よろしくね。」



 マオはアデルの視線に気がつくと、明るい笑顔を浮かべながら短く挨拶をする。



「アデルだ。よろしく頼む。」


「マリーです、よろしくお願いします。」



 それに反応して二人も同じように挨拶を交わす。



「あら、意外としっかりとした子達じゃない。」


「メイっちとは大違いだね。」


「うるさい!」



 高圧的な態度を崩さないメイに対して、マオは小馬鹿にするような態度でそう言い放つ。



「まあ今はそんなことはどうでもいい、なあコウタ?セリア?」



 アデルは二人のそのやりとりを軽く受け流すと、影のかかった真っ黒な笑顔でコウタとセリアの方を向く。



「「⋯⋯っ!?」」



 二人の背筋に冷たいものが走り抜ける。



「⋯⋯どっち(・・・)だ?」



 その短い言葉を聞いて二人は即座にその意味が理解出来てしまった。


 別れ際にアデルが言った言葉、そして現状を見比べれば、答えは容易に想像できる。


 つまり彼女は二人に対して、「どっちが面倒事を拾ってきた?」と尋ねてきていたのである。




「べ、別に僕たちが拾ってきた訳じゃ無いですから!!」



「ええ、どちらかと言えば巻き込まれたと言うのが正しいですわ。」



 コウタが動揺しながら否定すると、それに続くようにセリアはポーカーフェイスでコウタを援護する。



「はぁ⋯⋯まあいい。怪我もないようだし。」



 二人の顔や身体、そして連れて来たマオとメイの顔を見て、大した問題は無さそうだと判断すると、深いため息をついて肩を落とす。



「それより、少し話がある。」



「なんの話です?」


 パッと話を切り替えるアデルに対して、セリアはポーカーフェイスのまま首を傾げてそう問いかける。




「——それはワシから話すとしよう。」




 その話に割って入るように聞こえてきた声に反応して振り返ると、そこにはギルドの制服を纏った白髪頭の小柄な老人が杖をついて立っていた。



「「⋯⋯っ!?」」



 その老人の顔を見て真っ先に反応したのは、マオとメイの二人であった。



「えっと⋯⋯どちら様でしょうか?」



「ブロンズ・シルバ、この国のギルドマスターをしとるもんじゃ。」


 コウタがそう問いかけると、老人ははっきりとした口調でそう答える。



「ブロンズ⋯⋯。」



「まあ初めまして、私、セリア・ジーナスと申します。」



 それを聞いてセリアがニッコリと笑みを浮かべながら挨拶をすると、シルバは片手を小さく上げて軽く会釈を返す。



「なんでギルドマスターが直々に貴方に?」



 その横ではマオがコウタの耳元でそんなことを尋ねていた。


「⋯⋯さあ?」


 ギルドマスターからの個人的な挨拶は何度か経験はあったが、毎回その理由は様々であり、はっきり言ってコウタにも今回の理由は分からなかった。



「⋯⋯小柄な体躯に魔法職の服装、そして色素の薄い肌色に白髪混じりの短い黒髪。君がキドコウタくんで良いのかな?」



「⋯⋯はい、初めまして。」



 シルバはコウタの姿をじっと見つめてそう言うと、コウタははっきりとした口調で返事をする。



「そうか⋯⋯やはり実物は噂や想像よりも一回り小さいのぉ。」



「⋯⋯小さいってのはよく言われます。」



 突然言い放たれた悪口にも思える言葉にコウタは苦笑いを返す。



「が、サイズは強さとは関係ない。事実、君はその身体で並み居る猛者達を退けてきたのじゃろう?剣戟の付与術師。」



 するとシルバの表情は不敵な笑みへと切り替わり、小さく目を見開く。



「「はぁ⋯⋯!?」」



「うわっ⋯⋯!?」



 直後、マオとメイの二つの声が重なる。



「な、な、な⋯⋯。」


「ま⋯⋯まじか、君がそうだったんだ。」


「僕の事知ってるんですか?」



 二人の反応を見てコウタは不思議そうに首を傾げると、何故か二人は視線を逸らしてしまう。



「まあ、噂程度には⋯⋯。」



「そりゃ勝てん訳だわ⋯⋯。」



 マオは最初からはぐらかすように返事をし、メイはコウタの問いかけなど最初から聞いておらず、先程の喧嘩の事を思い浮かべていた。


「えっと⋯⋯それでお話というのは?」


 これ以上聞いても何も出てこないと察すると、コウタは再びシルバに視線を戻して話を続ける。



「そうさな⋯⋯とりあえず、ワシの部屋にこんか?」



「あまり外に漏らしたくない話、と言うことですか?」



 シルバの発言を受けて、セリアはすぐさまその意図に気付くと確認するように問いかける。


 コウタやアデルよりも早くその答えにたどり着いたあたり、教会時代にそう言ったものを見てきたのだろうかとコウタは思考を巡らせる。



「ああ、そう言うことじゃな。」



 セリアの予想は案の定当たり、シルバは何の臆面もなくそう言い切る。



「じゃあわたし達はお邪魔なわけだ。」



「済まんのお嬢さん方。」



 それを横で聞いていたマオはニッコリと笑って自嘲気味にそう尋ねると、シルバはそれを否定する事なく謝罪の言葉を述べる。


「いいえ、わたし達はあくまで案内しに来たに過ぎませんから、お気遣いなく。」


 すると先程まで尖った態度で話していたメイが行儀の良い態度でシルバにそう返す。



「そうか⋯⋯では、来てくれ。」



「それじゃ、また今度ね。」



 マオはニッコリと笑みを浮かべるとシルバに誘導されるコウタ達に手を振る。



「はい、いずれまた。」



「ほら、行きますよ!コウタさん!」



 愛想よく返事をするコウタを頬を膨らませながら引っ張っていくマリーの姿を見てマオはほんの少しだけ頬を釣り上げて悪戯っぽい笑みを浮かべる。








「——そういえば、なんで僕達のことが分かったんですか?」



 例の如く受付のカウンターを抜けて二階へと続く階段を登りながらコウタは前を歩くシルバへそう尋ねる。



「孫から手紙が届いての。その中におぬしらの事はあらかた書いてあった。」



 シルバは胸元から一枚の手紙を取り出すと、ヒラヒラと見せつけるようにその紙を揺らす。



「マーリンさんですか?」



「その通りじゃ⋯⋯デク!!」



 ゆるい雰囲気でコウタの問いに答えると、突如立ち止まって真横にある職員の休憩室に向かってそう叫ぶ。



「——ハイ!!」



 するとハリのある声とともにドアが開き、ドタバタと大きな足音を立てながら、一人の大柄で若い男性がシルバに走り寄ってくる。



「⋯⋯なんでしょーか?」



 額についた傷と大きな身体、そして小物臭漂うガラの悪い目つき以外大した特徴のないその青年は、いまいち気の抜けたような態度でシルバに問いを投げかける。



「執務室に客を入れる、茶の準備をせい。」



「ええー、なんでオイラが⋯⋯。」



 それを聞いて青年は、くたっと身体を倒し、猫背になりながらめんどくさそうに反抗の意思を示す。



「はよせい!!」



 そう言ってシルバが手に持った杖を強く地面に突き刺すように叩きつけると、大理石のような素材で出来た床はピシリと音を立ててクレーターを作る。



「オッス!ただ今!」



 デクと呼ばれたその青年は、小さく飛び跳ねた後、真っ直ぐに背筋を伸ばしながら敬礼のポーズをとって走り出す。


 どうやらコウタが真っ先に感じ取った小物臭は間違ってはいなかったようだ。


「ったく⋯⋯着いた、入ってくれ。」


 その様子に呆れながら、さらに廊下を数歩歩くと、今度は目的の部屋へと到達する。


「失礼しまーす。って、⋯⋯やっぱり中は他と変わらないんですね。」


 部屋に入り、コウタが真っ先に持った感想はそんなくだらない事であった。


「ああ、他と違うのは外装だけじゃ。それより適当な所に掛けてくれ。」


「はい。」


 シルバが四人に座るように促すと、コウタ達は部屋の真ん中に置かれた左右対象に並べられた二人掛けの椅子に座る。




「それで、話というのは何でしょう?」



 そしてシルバが一番奥の椅子に掛けたのを確認すると、パーティーのリーダーであるアデルが真っ先に話を切り出す。



「その前に聞いておきたい事があるのじゃが⋯⋯おぬしら、一週間ほど前に数珠繋ぎの迷宮におらんかったか?」



 短く前置きをした後、シルバはコウタ達にそう問いかける。



「居ましたけど⋯⋯それが何か?」


「そん時、同じタイミングで他の奴らも入って行かなかったか?」



 コウタが問い返すとシルバは矢継ぎ早に次の質問を投げかける。



「いました、なんかとっても偉そうな人達。」


「というか、いかにも口だけみたいな。」


「色々と情けない奴らだったな。」


「事実助けた時は半ベソ状態でしたし。」



 それを聞いてコウタ達四人は同時に彼らに対する辛辣な言葉を呟いていく。



「やはりおぬしらが助けたのじゃな?」



 そう確認を取るシルバは小さく頭を抱え、その表情はひどく呆れ返っているように見えた。



「ええ、レベル上げのついでではありますが。⋯⋯それがどうかしたんですか?」



「⋯⋯その中には城の兵士達もおっての、要はコレはその礼というわけじゃ。」



 コウタ達の言葉によって確信を得ると、シルバは胸元のポケットから一枚の紙を取り出してアデルに手渡す。



「「「「⋯⋯これ?」」」」



「招待状⋯⋯?」



 四人は身を乗り上げてその手紙をまじまじと見つめると、セリアがその紙に書かれた文字を読み上げる。



「見てみましょうよ。」



「あ、ああ、そうだな。」



 アデルはコウタに促されるまま手紙を開くと、静かにその文に目を通していく。



「⋯⋯⋯⋯。」



「⋯⋯?ちょっと失礼。」



 黙って文に目を通し、いつまで経っても読み上げないアデルに疑問を持ちながらコウタは再び身を乗り上げてそれを覗き見ると、真っ先に目に入ったその一文を読み上げる。



「⋯⋯封神祭舞踏会、晩餐会へのお誘い?」


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