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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
133/287

百三十三話 挑戦


「加速!!」


 コウタは宙に青い筋を描きながら高速でテレサに向かって刃を突き立てる。


「⋯⋯シールド。」


「⋯⋯っ!」


 が、その攻撃は先程となんら変わりなく障壁によって阻まれる。


(これでもダメか⋯⋯!!)


(なら⋯⋯!!)


「加速、加速⋯⋯加速!!」


 コウタは立ち止まることなくジリジリと前に出ながら強引に剣を振り回す。


「⋯⋯⋯⋯。」


 全力の連撃をテレサは障壁を増やし続ける事で一発一発対処していく。


「おおおおぉぉぉぉ!!」


「「⋯⋯っ!?」」


 次の瞬間、乱暴に叩きつけられた刃は無限に増え続けていた障壁の一つにヒビを入れる。


「ヒビが入った!」



「なるほど⋯⋯。」



「⋯⋯ふふっ!」



 コウタがニヤリと笑うと、押し込まれているはずのテレサも同じように笑い手に持ったメイスを横薙ぎに振るう。


「うおっ⋯⋯!?」


「っとと⋯⋯。」


 コウタはそれに反応して慌てて後ろに飛び退くと、バランスを崩しながら着地をする。



「十八枚⋯⋯か。」



 それがコウタがヒビを入れた時に展開されていた障壁の数であった。



(多分そのくらいまで追い詰めれば、あの障壁も抜ける。)



 つまりは十八枚目の盾を張らせてしまえば、あとは強引に火力でブチ抜けるということだった。



「⋯⋯いける。」



「ふふっ⋯⋯。」



 コウタは勝機を見出して楽しそうに笑うと、テレサもくすくすと篭った笑い声をあげる。



「⋯⋯⋯⋯ん?」


「楽しい⋯⋯楽しいですね、コウタくん。」



 その瞬間始めて危機感を抱かされたことによって、テレサはようやくコウタを敵として認識すると、狂気の入り混じった笑顔をコウタに向ける。



「ま〜た、始まった。戦闘狂⋯⋯。」



 それを見てマーリンは呆れたような態度で頭を抱える。



「⋯⋯そうですね、もっと、もっと楽しみましょう。」



「ウチのも同じようなものですわ。」



 目を輝かせながらそういうコウタの顔を見て、セリアも同じようにため息をつく。



「だがあいつの場合、戦いが楽しいのではなく、〝勝てない〟ことが何よりも楽しいのだろうな。」



「どういうこと?」



 アデルの言葉を聞いて、マーリンは不思議そうに首を傾げる。



「私の見てきた限り、あいつに出来ないことはありません。ボードゲーム、剣術、馬車の操縦まで⋯⋯あいつは初めての事でも一度教えれば完璧にマスター出来ます。」



「故に勝負事に於いて敗北はおろか苦戦するという経験すらほとんどないのだと思います。」



 実際、コウタはそれが原因で元の世界で退屈な思いをしてきたのであるからアデルの言葉は的を得ていた。



「技能の習得が速いのなら強くなるのも当然速くなるものね。」



「だからこそ、責任や義務感といったしがらみに囚われずに全力をぶつけられる相手との戦いが何よりも楽しいのだと思うんです。」



 もちろんコウタはこの世界に来て何度も苦戦し、何度も格上と戦って来たが、それはあくまで命をかけた真剣勝負であり、根が真面目な彼にとってはそれは楽しむものでは決してなかった。



 だからこそ遊びとして、訓練としての戦いにこだわっていたのであった。



「天才ってのも苦労するわね。」



「⋯⋯そうですね。」


 アデルはマーリンの言葉に返事をしながら、目の前で今までで一番生き生きとしたコウタの姿を眺める。



(倒す⋯⋯倒す⋯⋯この人を、超える!!)



 コウタは一気にテレサへと接近すると、一発ごとに加速のスキルでプーストをかけながら斬撃の速度を上げて展開される障壁を斬りつけていく。



「おおおおぉぉぉぉ!!」



 コウタの剣を振る速度は徐々に上がっていき、その周囲には青色の光が残像として宙に線を引いていた。



「速いっ⋯⋯!!」



「剣が増えてる!?」



 マリーとアイリスの二人の目にはコウタの斬撃はそういう風に見えていた。



「いや、一本しか使ってない。早すぎてそう見えているだけだ。」



 逆にしっかりと目で追えていたアデルは、その動きを注視しながら二人にそう説明する。



「加速!!」



「シールド!」


 コウタは一旦下がった後、間髪を入れずに突きを放つが、テレサはニヤリと笑いながら障壁を召喚してそれを受け止める。



(八枚⋯⋯。)



 ほんの一瞬、刹那のような一瞬だけコウタは攻撃を止めると、その間にぐるりとテレサの周りを見渡し、展開された障壁の枚数を把握する。



「まだだ⋯⋯!」



「ちっ⋯⋯。」



 地面に足がつくと、障壁の張られていない両サイドから剣を通して斬撃を放つが、それすらもテレサは冷静に対処する。



(⋯⋯十枚。)



「召喚!!」



 もう一度剣を召喚してテレサに向かって放つと、その剣は正確な動きでテレサの障壁をすり抜け、その後ろから彼女の背中へと襲いかかる。


「⋯⋯っ!!」


 咄嗟のことで集中が乱れたのか、テレサは過剰に背中へと障壁を回してその攻撃を防ぐ。



(十五枚⋯⋯。)



「加速!!」


 コウタはその隙を逃すことなく剣を振るいながら一気に畳み掛ける。



「シールド!!」



(十六、十七⋯⋯十八枚⋯⋯!!)



 障壁がその枚数まで達した瞬間、コウタは頬を吊り上げてニヤリと笑う。



「⋯⋯勝たせてもらいます。」



「甘い⋯⋯。」


 テレサは大量に張られた障壁の隙間からメイスを突き出すとコウタの左手に持たれた降魔の杖を叩き折る。


「んなっ⋯⋯!?」



(杖を⋯⋯壊された!)



「くそっ⋯⋯召喚!!」



 コウタは砕けた杖を投げ捨てると再び同じものを左手に召喚する。


 そしてテレサも、必殺の一撃を放つ為、メイスを構え直す。



「「⋯⋯⋯⋯っ!!」」



 二人はその瞬間、一瞬だけ目が合うと、現実すらも置き去りにする速度で脳内に思考が駆け巡る。



(障壁の再展開には大きな隙が出来る、そのまま展開した続けたとしても今の火力ならブチ抜ける、再展開するならその隙を突けば充分やれる!!)




(杖の召喚は速いし付け入る隙なんてない、けど、その剣が蒼色に染まるまで、一瞬のタイムラグがある。その一瞬があればやれる。)



((この勝負⋯⋯。))



 目があった一瞬の間に展開された思考の中で二人は同時に自らの勝利を確信する。



「私の勝ちです!!」



「僕が勝ぁぁぁつ!!」



「「⋯⋯⋯⋯!!」」



 テレサのメイス、コウタの魔剣、その二つはほぼ同時に振り下ろされる。




「——そこまで!!」



 その瞬間、怒鳴りつけるような叫びと共に二人の間に紫色の閃光が通り抜ける。



「「⋯⋯⋯⋯っ!?」」



 分割され力が落ちているとはいえ、テレサの障壁を吹き飛ばすほどのその光は、通過した風圧だけで二人の身体を後方へと引き下がらせる。



「⋯⋯止まったわね。あっぶな〜。」



 それを放った本人は、冷や汗を拭いながら空を仰いで深いため息をつく。



「⋯⋯なぜ止めたのです?マーリン。」



「僕まだ二割切ってませんよ?」



 当然、テレサとコウタの二人は至高の瞬間を邪魔されたことで静かに怒りながらマーリンに抗議する。



「よく言うわよ。あなた達、最後の一撃、完全にノーガードだったじゃない。」



 そんな怒りなどどこ吹く風といった態度でマーリンは呆れながら答える。



「最初に言ったわよね?やり過ぎ禁止って。テレサ、貴女は完全に頭狙ってたし、コウタくんも首狙ってたわよね?」



「二割どころか下手すりゃ即死よ、即死。」



「うっ⋯⋯。」



「そんなことありませんよ。⋯⋯多分。」



 図星を突かれて思わず何も言えなくなるコウタの横で、テレサはニッコリと笑いながら堂々と嘘をつく。



「ハイそこ、誤魔化さない。」



「タイミングもほぼ同時だったし、今回は引き分けね。」



「そうですか⋯⋯。」



 それを聞いてコウタはその場に座り込む。



「そんな落ち込むことないわ、この子相手に引き分けなら充分すぎるくらいだわ。」



「まぁ⋯⋯そうかもしれませんけど。」



 言葉ではそう言っていたものの、全く納得していないのか、その拳を強く握りしめる。



「とりあえず治療してもらいなさい。ここ痛いでしょ?」



「⋯⋯ふぐっ!?」



 マーリンがニヤリと笑いながら手に持った杖でコウタの脇腹を突くと、コウタは痛みで悶え苦しむ。


「セリアちゃん、ちょっとこっち来て⋯⋯。」


「⋯⋯はい?」


「いえ、この程度なら私が回復します。」


 セリアに手招きするマーリンを止めると、テレサはコウタに向かって手のひらを向ける。


「⋯⋯へ?」


「ヒーリング・ポイント」


 次の瞬間、コウタを取り囲むように緑色の光が半径二メートルほどの円状に展開されると胸の痛みが徐々に緩和されていく。


「⋯⋯これは?」


「領域回復魔法の一つよ、これがこの子の本来の力ってところね。」


「付与術師ほどではありませんが、妨害の魔法もあるんですよ?」


 コウタが問いかけると、二人は短くそう説明する。



「無数の盾を張り巡らせ、領域回復や領域妨害を使いこなす、それが本来の戦い方。補助性能に於いて付与術師と双璧をなすと言われる結界術師よ。」



(互いに補助特化で、こっちはオリジナルスキルまで使ったのに引き分け⋯⋯。)



「壁は高いなぁ⋯⋯。」



 マーリンの言葉を聞いて改めてコウタは目の前で微笑む無傷の女性との差を思い知らされる。



「——コウタ。」



 深くため息をつくと、遠くから聞こえてきた声を聞いてコウタの表情がフッと緩くなる。


「⋯⋯あ。アデルさん、今終わりましたよ。」


 コウタはこちらに歩み寄ってくるアデルに手を振るとニッコリと笑ってそう言う。



「ああ⋯⋯⋯⋯楽しかったか?」



 アデルはそう答えると、たった一言、短くそう問いかける。



「⋯⋯っ!」



 そう聞かれてコウタは夢中になりながら笑っていた自分の姿を思い出し、



「へへっ⋯⋯はい!」



 照れ臭そうに笑いながらそう答える。



「なら良かった。」



 アデルもその笑顔を見て呆れながらも小さく微笑み返す。



 越えるべき壁は多く、そして果てしなく高かった。



 それでも笑っていれたのは、帰るべき場所があったからかもしれない。



 ボロボロになった地下の闘技場でコウタとアデルの二人はニッコリと屈託のない笑みを浮かべる。

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