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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
132/287

百三十二話 愉悦


(いきなり決着じゃつまらない⋯⋯けど、この人なら本気でも多分大丈夫だ。)


「加速!!」


 コウタは開始の合図と同時に地面を蹴ると、青色に染まっていく刃を真っ直ぐにテレサに向かって突き出す。




「⋯⋯インフィニティ・シールド」



 対するテレサは冷静にその速度を見定めると、前方に一辺一メートルほどの大きさの六角形の盾を展開してコウタの攻撃を受け止める。



(固った⋯⋯!?)



 コウタの突きは甲高い金属音を立ててその障壁に弾かれる。



「ちっ⋯⋯召喚!!」



 コウタは一度後方に下がって剣を六本ほど召喚すると、その剣を様々な軌道を描かせながらテレサに向かって投げ飛ばす。


「甘い。」


 テレサのその言葉と同時に前方にあった障壁が分裂すると、コウタの剣の一本一本を完璧に防いでみせる。



「障壁が増えた?」



「あれが彼女達、結界術師の基本技にして最大の特徴、インフィニティ・シールド。」



 驚愕するアデル達に、マーリンは視線を戦闘に向けたまま説明を始める。



「使用者の魔力によってその硬度を変え、硬度を落とす事でその障壁を分割することができる。」


「そして彼女は高い魔力と空間把握能力、そして圧倒的反応速度でその障壁を完璧に使いこなし、全ての領域を制圧する。」


「戦いが終われば、返り血一つ受けていない、あの真っ白な戦闘装束で戦場から帰還する。⋯⋯故に白き結界術師。」


 マーリンが語ったその二つ名は、まさに伝説の勇者の仲間に相応しいものであった。



「買い被りも良いところですけどね。あの時は仲間が強かっただけですし。」



 それを聞いていたテレサは苦々しい笑みを浮かべながらマーリンにそう返す。


「⋯⋯⋯⋯。」


 その態度を見てコウタは一度攻撃を止めて分析を始める。



(増える盾に高い反応速度、確かに相性は悪くない。ていうか⋯⋯。)



(この人全然集中してないな。)



 相手にされていない、という事実に対して、腹が立つことはなかったが、コウタには実力の差をまじまじと見せつけられているような気がした。



「あら、攻撃はもう終わりですか?」



 全く攻撃をしてこなくなったコウタを見てテレサは笑みを絶やさぬまま首を傾げる。


「いいえ、少し考え事をしていただけです。」


「ではこちらからも攻めてみましょうか。」


 ニッコリと笑みを返すコウタに対して、テレサはそう言って腰を落とすと、その表情を無に切り替えて武器を構え直す。


(来る⋯⋯!!)


「⋯⋯加速。」


 直後、テレサの真下の地面が爆発したように弾けると、コウタの視界からテレサの姿が消える。


「んなっ⋯⋯!?」



「ほら、一発で終わらないでくださいね。」



 コウタが再びテレサの姿を捕捉した時には既に自らの懐に入られていた。



「ちぃ⋯⋯⋯⋯!!」



 槍のように真っ直ぐに突き出されるメイスを細い剣で受け止めると、コウタの身体はその衝撃で遥か後方へと吹き飛ばされる。


「うおっ⋯⋯!?」


「ほら、二発目ですよ?」


「速っ⋯⋯!!」


 慌てて着地をすると、テレサの姿が再び目の前に現れる。



「⋯⋯っ、加速!!」



 コウタはテレサと同様に加速のスキルを使って無理矢理その攻撃を回避すると、コウタのいた地面は大穴を開けてその硬い地面が周囲に飛び散る。



「なんてスピード、いや、パワーも⋯⋯。」



「結界術師って支援職でしたよね⋯⋯?」



 それを見ていたマリーは混乱した様子でまじまじとテレサの姿を見つめていた。


「確かに普通の支援職だったらあんなスピードで武器を振り回すとか無理だけどね。あのレベルまでいくとまた別なのよ。」


「たとえ支援職だろうと、レベルが上がれば身体能力は上がるし、魔力も上がる。」


 その結果として生み出された戦法が魔法と近接のハイブリットであった。


「彼女も昔は普通の支援職みたいにステータスも低かったんだけどね、レベルが上がってステータスも物理職並みに強くなってからは、あの子はあの戦闘スタイルに固まったの。」


 マーリンは懐かしむような視線をテレサに向けて小さく呟く。


「昔はもっと面白い戦い方も出来たんですけど⋯⋯ね!!」


「今も充分面白いですよ!!」


 自慢げにそう言ってメイスを振り下ろすテレサの攻撃を、コウタは悪態をつきながら回避する。


「⋯⋯ちっ、加速!!」


「あら⋯⋯。」


 コウタが距離を取ろうと大きく後方へと下がると、テレサはそんな声を上げて追撃の手を止める。


「⋯⋯やっぱり強い。」


「あら、もう疲れてしまったのですか?」


「ちょっと焦っただけですよ。まさか貴女も加速のスキルを使うとは思わなかったんで。」


 コウタは額に冷や汗をかきながらニヤリと笑ってそう呟く。


「良いですよね、このスキル。支援職の強い味方です。」


 テレサは未だマイペースな雰囲気を醸し出しながら汗一つかくことなく爽やかな笑顔で答える。


「⋯⋯そうですね。」


「けど、負ける気はありませんから。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 コウタの答えを最後に、二人は再び黙り込むと、深く腰を落として武器を構える。


「「加速」」


 


「ぐっ⋯⋯。」


 二人の身体が衝突すると、コウタの身体はゆっくりと後方に押し込まれる。



「流石に力では負けませんよ?」



「⋯⋯分かってます。」



 コウタがそう答えると、その背後から数本の剣がテレサに向かって襲いかかる。



「⋯⋯っ!?シールド!」



 コウタの奇襲に一瞬動揺の色を見せたが、それでも余裕を持って対処する。


 弾かれた剣はその勢いのまま地面や天井へ突き刺さる。


「ならっ⋯⋯!!」


 コウタは間髪入れずに突きを放つが、その攻撃もテレサの障壁によって弾かれる。


「⋯⋯くそっ!」


「弾かれた!」


 コウタはそれでもなお諦めることなく無数の剣を飛ばす。


「⋯⋯っ!」


「まだだ!!」


「見えてます。」


 全てを弾かれ、蹴りを放つがそれさえもテレサに届くことはなく、完全無欠の盾によってなす術なく弾かれる。



「⋯⋯ちっ。」



 打つ手がなくなりコウタは再び後方に下がりながら距離を取る。



「⋯⋯目隠し、蹴り技、どれも素晴らしいですが、少し遅いです。」



 余裕の表情を崩すことなくテレサは淡々と事実を述べていく。



「なら、もっと速く動くだけです。」



「加速!!」


 コウタはそう言ってニヤリと笑うとテレサに向かってではなく、真横に向かって思い切り走り出す。


コウタの目の前に壁が迫ってくると、その壁を蹴って天井、天井から床、床から壁へとスピードを上げて部屋中を跳ね回る。



「⋯⋯?一体何を?」



「加速⋯⋯加速⋯⋯加速⋯⋯。」



 それはベーツの街でコウタがエティスに使用した技。


 そして、旧キャロル城でザビロスの部下であるグリシャへ使用した技。



「スピードがだんだん速く⋯⋯なるほど、そういうことですか。」



 テレサはコウタの狙いにすぐさま気付くと視線でその動きを追うのをやめて、目を瞑って集中し始める。


「狙いすまして⋯⋯一撃で⋯⋯仕留める!!」


 そんなテレサに目もくれることなくコウタはさらに速度を上げ始める。


 身体が軋み、限界に近い速度が出た瞬間、コウタは高速でテレサの背後へと回る。


「⋯⋯今!!」


 最後に踏み出したのは天井、狙うのは背中、コウタは躊躇いもなく真っ直ぐに刃を突き出す。


「おおおおぉぉぉぉ!!」


「⋯⋯残念。」


 テレサは振り返ることすらせず、読んでいたかのようにコウタの持つ刃にピンポイントで障壁を張る。


「⋯⋯うぐっ。」


 障壁は砕けることなくコウタの攻撃を阻み、限界まで上げた速度の反動が全てコウタの腕へと跳ね返ってくる。


「⋯⋯知ってましたよ、読まれることくらい。」


「だからこその三段構えです。」


 ミシミシと骨や筋肉が悲鳴をあげるが、それでもなおコウタはニヤリと笑って手を伸ばす。


剣牢アルマ・カテーナ


「⋯⋯⋯⋯。」


 召喚された剣はテレサの身動きを封じるようにガチガチにその身体を縛り上げる。



「そんで⋯⋯これで最後!!」 



 コウタの声に合わせて、地面に落ちていた武器や天井に刺さった剣が宙を舞い、テレサに向かってなだれ込む。


「散らばった剣を⋯⋯!!」



「いけえええええぇぇ!!」


 コウタは大きく距離を取りながらその光景をジッと見つめる。



「——インフィニティ・シールド」



 身体の自由は封じられ、四方八方から数多の剣が降り注ぐ状況で、テレサはそれでも冷静であった。



「どうだ!?」



 手応えを感じニヤリと大きく口角を上げてテレサの方を見上げる。



「——変ですね。」



「⋯⋯っ!?」



 コウタは直後に聞こえてくるテレサの声にピクリと反応する。



「情報ではもう少し強いはずなんですが?」



 見るとコウタの放った剣は全てテレサの障壁によって受け止められていた。


「ちっ、なら⋯⋯!」


(直接剣で⋯⋯!)


「それは少し甘いのでは?」


 コウタが身動きの取れないテレサに向かって走り出すと、テレサは手に持ったメイスを手首を支点にして振り回し、自らの動きを封じていたその武器を一瞬で叩き折る。


「⋯⋯っ!?全部砕かれた⋯⋯。」


「加速!!」


「⋯⋯加速」


動揺するコウタに向かって一気に距離を詰め、メイスを振るうと、対するコウタも速度を上げた斬撃で応戦する。


「⋯⋯っ、ぐっ⋯⋯。」


 が、やはりパワーではコウタの方が一歩劣り、なす術なく押し込まれる。



(やっぱり強い⋯⋯もう一回距離を取って⋯⋯。)



 コウタは一度テレサのメイスを弾き落とすとバックステップで後ろへと下がる。



「逃がしませんよ。」



「⋯⋯っ!?」


 コウタの背中に何かが衝突すると、その身体は再び前方へと押し出されてしまう。



「背後に!?」



 よく見るとコウタの背中の後ろにはその行く手を阻むための小さな障壁が作られていた。



「⋯⋯ガラ空きです。」



 その隙をついてテレサは両手に持ったメイスを横薙ぎに振るう。



「ちっ⋯⋯付与エンチャント!!」



 回避も防御も不可能とみると、咄嗟に自らの身体に付与魔法を発動させる。


 メイスはミシミシと音を立ててコウタの身体にめり込む。


「ぐっ⋯⋯。」


 その勢いで左側に吹き飛ばされ、すぐ横にあらかじめもう一枚張られた障壁にぶつかって跳ね返る。



「さあ、次が最後です。」



 崩れ落ちるコウタの身体に再びテレサは横薙ぎにメイスを振る。



「⋯⋯⋯⋯!!」



(⋯⋯受け、流す!!)



——異世界体術。


 メイスが身体に衝突する直前、コウタは自らの身体を回転させ左手で軽くメイスに触れてその攻撃を受け流す。



「⋯⋯?外した?」


 振り抜かれたメイスはコウタを捕らえるために張ってあった障壁にぶつかって弾かれる。


「⋯⋯っぶな⋯⋯⋯⋯。」


 その隙にコウタはゴロゴロと地面を転がりながらシールドの包囲網から抜け出して距離を取る。



「あら、凄いわね。アレを避けるなんて。」



(⋯⋯けど今ので14%(パー)、どの道決着はすぐつきそうね。)



 マーリンはコウタのHPの減少率を見て心の中で小さく呟く。



「はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯強過ぎる。」



(あれだけ大量に分割してるのに、全然割れる気がしない⋯⋯。質量で押し切ろうとしても反応が早すぎて手も足も出ない。)



 その両方を兼ね備えたさっきの策も、涼しい顔で受け止められた。


 やはり明確に足りていないのはパワーとスピードだった。


「だったら⋯⋯。」


「⋯⋯召喚。」


 コウタは空いた左手を前に出すと、一本の杖を召喚する。



「⋯⋯それはシリスの杖ですね。」



 元の使い手を知っているテレサもそれがなんなのかすぐに気が付いた。



「ええ、実は許可取ってないんで内緒にして欲しいんですけど。」



「多分知ってるでしょうから気にしなくて良いと思いますよ。」



「なら、遠慮なく⋯⋯。」



 そう言った瞬間、コウタの身体と手に持った薄水色の剣が、深い蒼色に発光する。



「⋯⋯っ!?青い⋯⋯力?」



「⋯⋯付与エンチャント・魔。」



 同時にコウタの目付きは鋭いものへと変化する。



「⋯⋯っ、蒼剣モード!!」



 アイリスはその姿を見て声を荒らげてその名を呼ぶ。


「言われた⋯⋯。」


 カッコよく紹介しようとした矢先に出鼻を挫かれたコウタはなんとも言えない表情でアイリスの顔を見つめる。


「あ、ごめん⋯⋯。」


 アイリスはしまった、と言わんばかりに自らの口を両手で抑えると、申し訳なさそうに視線を逸らす。


「⋯⋯データにはない力ですね。」


「他人に見せたのは二回目ですからね。」


 先ほどよりもさらに深く蒼色に染まる剣を見つめながらコウタはテレサの問いに答える。



「なんだあの力!?」


「新しいスキル⋯⋯でしょうか?」


「コウタさんいつの間に!?」



 遠くの方ではアデルやマリーが興味深そうにまじまじとこちらを見つめている姿が見えた。



「⋯⋯仲間には教えてあげたほうがよかったのでは?」


「⋯⋯次から、そうします。」



 それを察してテレサが問いかけると、コウタは苦笑いでそう答える。



「でもなんかあの姿⋯⋯アデルさんみたい。」


「蒼い剣に、蒼い力、まるで対極ですが。」


「⋯⋯コウタ。」



 アデルは二人の言葉を聞いて、その煌々と輝く蒼をじっと見つめる。



「見掛け倒しでないと嬉しいのですが。」



「試してみます?」



 テレサは歯を見せて笑いながらそんなことを呟くと、コウタも同じような笑みを浮かべて剣を構える。



「ええ、お願いします。」



 テレサの美しいその顔は、湧き上がる好奇心と高揚感で再び大きく歪む。

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