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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百二十九話 脱出


 四層を抜けてコウタがアデル達と合流することができたのはそれから丸一日経ってからのことであった。



 コウタが洞窟の中から出てくると、その外には既にアデル、マリー、セリアの三人が待ち構えていた。



「⋯⋯ようやく帰ってきたな。」



「むしろそっちが早すぎたくらいですよ。」



 呆れ果てた態度でそう言うアデルに、コウタは苦笑いで返事をする。



「コウタさんが居ないと時間感覚が分かりませんから、仕方なかったのですわ。」



「あー、時計くらい持ってくるべきでしたね。」


 コウタは自らの体内時計があるため時計は必要ないとあらかじめ言っていたことを思い出す。


 現にコウタの体内時計は眠っていてもほぼ正確に動くため、一度正確な時間を知れれば数日は正しい時間を頭の中で刻み続けることが出来てしまうのであった。



「それより貴様が出てきたという事は、強くはなったのだろうな?」



「まぁ多少は、ですけどね。」



 コウタがステータスを開いて三人に見せると、そのレベルは38と表記されていた。



「四つ上がってますわね。」


 セリアはまじまじとそれを見つめながら頭の中でその数値の差を計算する。



「やっぱり四層の敵は強かったですから。それに帰ってくる道中の敵も決して弱くは無かったですし。」


「そっちはどうです?ちゃんと強くなりました?」



「「「⋯⋯⋯⋯。」」」



 コウタが問いかけると、三人は同時に顔を見合わせてニッコリと笑う。



「⋯⋯?」



「えへへ、コウタさん、驚かないで下さいね?」



 マリーは嬉しそうに、照れ臭そうにそう言って自らのステータスをコウタへと見せつける。


「⋯⋯なにが⋯⋯⋯⋯っ!?」



 コウタが見るとアデルのレベルが50、セリアのレベルが51、そしてマリーに関して言えば、パーティーの中で最も成果を上げることが出来ていた。



「レベル⋯⋯36、すごいですね!」



「そりゃもう、頑張りましたから!!」



 マリーはそう言って堂々と胸を張る。



「とりあえず当初の目標までは達したというわけだ。」



 深いため息の後、アデルはそう言って話に区切りをつける。



「私はダメでしたけどね⋯⋯。」



「元の目標が無茶苦茶でしたから仕方ないかと⋯⋯。」


 一転してどんよりと雰囲気を暗くするマリーに、セリアは苦笑いを浮かべてフォローする。


「それでも強くなったのは確かですし、これでよかったんじゃないですか?」


「そう言う事だ。とりあえず、暗くなる前に村へ戻るぞ。」


「あ、えっと⋯⋯その前にちょっと紹介したい人が居るんですけど⋯⋯。」


 アデルの言葉に従って二人が動き出そうとした時、コウタが手を上げてその動きを制する。


「「「⋯⋯⋯⋯?」」」


「誰だ?」


 三人を代表してアデルがそう問いかける。



「じゃあ、ちょっと呼びますね。⋯⋯アイリスさん!」


「⋯⋯はい。」


 コウタの声に反応して岩陰からフードを被った少女がゆっくりと顔を出すと、アデルはフードの中から覗かせる顔をじっと見つめる。


(女性⋯⋯?)


(私達と同年代くらいか?)


「⋯⋯また女⋯⋯⋯⋯。」



 アデルとセリアが外見や服装などの特徴を見ている中、マリーだけは少しだけ別のところに反応していた。



「⋯⋯そちらの方は?」


「アイリスさん⋯⋯。」


「⋯⋯⋯⋯。」


 セリアの問いに答える前に、コウタが声を掛けると、アイリスは深く被ったそのフードを両手でゆっくりとたくし上げてその中に隠れた角を晒していく。



「「「⋯⋯っ!?」」」



 三人の表情は一気に緊張状態に変わる。



 同時に、アデル、セリアは反射的に数歩下がって武器に手をかける。



「ひぃ⋯⋯!?」



 あまりの変わりように、アイリスも思わず悲鳴を上げる。


「魔族!?」


「なんでこんなところに!?」


「どういう事です?」


「ちょ、ちょっと待った!!少しだけ話を聞いて下さい!!」


 三者三様の反応を示す女性陣を止めるため、コウタは慌ててアイリスを守るようにその間に割り込む。


「⋯⋯?」







 コウタが説明を終え、三人はようやくその警戒を解くと、一行はアイリスを連れてボウの村へと帰るために草原の道を歩き始める。



「中立派の方で、目的は私達と同じ⋯⋯。」


「レベル上げか⋯⋯。」



 ただし、その中でアデルだけはほんの少しだけ警戒感を示したままであった。



「大変でしたね、一人であの中になんて⋯⋯。」


「うん⋯⋯すっごく大変だった⋯⋯。」



 それとは対照的に、マリーは互いの苦労を共感しながら、アイリスと二人涙していた。



「なんでそこで打ち解けてるんですか?」



 その光景を見て、コウタは思わずツッコミを入れる。



「つまりは修行目的で放り込まれて、迷っていたところを貴様が連れて来たと言うわけか。」



「はい、連れの人が近くにいるみたいなんでそこまでご一緒しようかなと。」



「そういえば、中立派の方ならシリスさんの事も知っているのですか?」



 コウタがそう答えると、セリアがふと思いついたようにそう問いかける。


「知ってますよ、あの人無愛想だけど背も低くて仕草も可愛いくて年上とは思えないですよね。なんというか小動物的な可愛さというか⋯⋯。」


 アイリスは表情をパッと明るくさせてニッコリと返事を返すと、頭の中でシリスのそういった行動や言動を思い浮かべながら一人恍惚とした表情になる。



「⋯⋯ん?」



 が、その言葉に、セリアはピクリと反応する。


 アイリスの言っていることは大方理解できたが、ひとつだけ疑問に思ったワードか頭をよぎる。



「「⋯⋯年上!?」」



 直後にコウタとマリー、二人の声が重なる。


「え、なになに?」


 突然の大声にアイリスはビクンと大きく肩を震わせて動揺する。



「つかぬ事をお伺いしますが⋯⋯アイリスさんお歳は?」



「じゅ、十六ですけど⋯⋯。」



 セリアが問いかけると、シリスはオドオドとした態度で気まずそうに答える。



「それで⋯⋯シリスさんは⋯⋯?」



「十九⋯⋯だけど?」



 直後にコウタが問いかけると、アイリスは意味がわからないといった様子でおずおずと答える。


「⋯⋯あ、あの人年上だったんですか!?」


「私、同い年くらいだと思ってました。」


「私もそのくらいだと思っていましたわ。」


 直接会ったことのある三人は顔を付き合わせて少女の顔を思い浮かべる。



(そういやステータスの年齢の所とか一切見てなかったな⋯⋯。)



 同時にコウタはステータスを見るときにレベルや身体能力くらいしか見ない自らの詰めの甘さに呆れ返る。



「そんなに驚く事でも無くないか?」



 その中で一人、アデルのみは全く興味を示すことなくバッサリと両断する。



「そんなことないですって!!アレで十九とか詐欺ですって!!見たらわかります!!」



「私は未だに信じられませんわ。」



 マリー、セリアの二人は同時に否定の言葉を送る。


「いや、だってうちにも一人いるだろう、年齢詐欺が。」


「「⋯⋯⋯⋯あ。」」


 直後にアデルがコウタのことを指差してそう言うと、二人は同時に間の抜けた声を上げる。


「⋯⋯⋯⋯へ?」


 アイリスがそれに合わせてコウタの方を見ると、その顔はほんの少しだけ不快感に染まっていた。


「納得しましたわ。」


「よくある事でしたね。」


 同時に二人はホッコリとした表情で納得する。


「な、なんの話してるの?」


「えっと⋯⋯コウタさんも一応おんなじ感じなんです。」


 同じ感じ、と聞いてすぐさま年齢詐欺案件であることを理解し、恐る恐る問いかける。



「⋯⋯年齢は?」



「十七です。」


「と、年上!?コウタく⋯⋯コウタさんが!?」


 即答で返ってきたその言葉を聞いて慌てて態度を改めようとするアイリスを見て、礼儀正しい子なんだな、とどうでもいいことを考える。



「あーっと、気にしなくていいですよ。急に変えられてもこっちもむず痒いですし。」



「そ、そう?⋯⋯ならいいんだけど⋯⋯⋯⋯どう見てもマリーちゃんと同じくらいにしか⋯⋯。」



「十七歳です。」



 アイリスが全てを言い終える前に、コウタ再び即答で返事をする。



「う⋯⋯うん⋯⋯。」


(反応がシリスさんとおんなじだ⋯⋯。)



 不快感を露わにして、拗ねるような、いじけるような視線を見て、ようやくそれを受け入れる。



「どうでもいいが、そろそろ村に着くぞ。」



「本当だ。アイリスさん、フードかぶり直したほうが良いですよ。」


 アデルの言葉を聞くと、コウタはパッと表情を切り替えてアイリスにそう促す。


「分かった。」


「うう⋯⋯良かった。やっと、テレサさんに会える⋯⋯。」


 アイリスは再びフードを被ると今までの苦労を振り返り、またもやその目にうっすらと涙を浮かべる。


「⋯⋯⋯⋯ん?」


「「⋯⋯⋯⋯?」」


 アデル、マリー、セリアの三人は同時にその言葉に、小さな引っ掛かりを感じる。



「テレサ⋯⋯⋯⋯。」


(その名前⋯⋯どこかで⋯⋯。)


 セリアは最後列を歩きながら、顎に手を当てて頭の中でその人物の名を反芻させる。






 一行は村に入り、すぐさま宿に戻ると、今度はまた別の問題に直面する、



「——いない!?どういうことですか!?」



「⋯⋯なんかあったみたいですね。」



 受付で動揺して声を張り上げるアイリスを見て、コウタは退屈そうに問いかける。


「ちょっと聞いてきますね。」


「ああ、頼む。」


 コウタはそう言って座っていたテーブルから立ち上がると、スタスタとアイリスの元へと向かう。


「⋯⋯アイリスさん、どうしました?」


「こ、コウタくん。これ⋯⋯。」


 コウタが歩み寄ると、アイリスは涙目になって二枚の手紙を手渡す。


「⋯⋯?」


 手紙を受け取ると、コウタは小さな声でそれを読み上げ始める。




〝アイリスへ、これを読んでいるということは貴女は私が思っていたよりずっと早く帰って来てしまったということですね。

貴女がこれを読んでいる頃。恐らく私は、レスタの街にいる友人に会いに行っているでしょう。

宿屋には数日分のお金をお渡ししているのでしばらくその街でお留守番してて下さい。〟




「なるほどな⋯⋯。」



「つまり置いてけぼりを食らったのですわね。」


「というより、こんなに早く帰ってくると思ってなかったんですね。」


 一枚目を読み終えると、いつの間にか後ろで待機していたはずの三人がコウタの手にある手紙を覗き込んでいた。


「ど、ど、どうしよう。」


「どうするもなにも待ってれば良いのでは?」


 さらに不安そうに問いかけるアイリスに、セリアは不思議そうな声で容赦なく突き放す。


「でも続きがありますね。」



「「「続き⋯⋯?」」」



 コウタは気にせず二枚目の手紙を読み始める。



〝もし貴女がシリスのように一週間ほどで出て来たのであれば、こちらに来ても構いませんよ。

そちらからレスタまで徒歩でも大した距離ではありませんし、帰り道で拾うことも出来ますから。


——テレサより。〟




「どうします?」



 どうする、とはようはこの問題についてであった。


 手紙を読み終えると、コウタは三人に向かって短くそう問いかける。



「我々もレスタには寄るつもりですし、付いて来ますか?」



「い、いいんですか!?」



「なっ⋯⋯!?」


 勝手に話を進めるセリアに、アイリスは表情を明るくさせて問いかける。



「僕は構いませんけど⋯⋯。」


「私も別に文句はありません。」


 コウタが尻すぼみ気味にそう答えると、それに続いてセリアがはっきりとした口調でそう答える。



「「「⋯⋯⋯⋯。」」」



「うっ⋯⋯。」


 四人の視線を一斉に受けて、アデルは思わず口籠る。



「「「どうしますリーダー?」」」



「⋯⋯はぁ⋯⋯勝手にしろ。」



 重なった三つの問いに深いため息を吐き出すと、アデルは頭を抑えながら許可を出す。



「ありがとう、ありがとうこざいます!!」



 アイリスは何度も深く頭を下げてコウタたちに礼を言う。



「それでは今すぐ行きますか?」



「いいや、今日はしっかりと休んで明日から出発しよう。」



「「はーい。」」



 宿屋にコウタとマリーの間延びした返事が響く。


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