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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百二十六話 蒼き剣戟



 骨のような素材で作られた二本の剣を振り回しながら魔物はその蛇のような下半身でスルスルと滑るようにコウタへと突撃してくる。


「くっ⋯⋯!?」


(めちゃくちゃ速い!!)


 それでもコウタは二本の剣を捌きながら無理矢理に距離を取る。


「シィィィィイ!!」


(くるっ⋯⋯!!)


 五メートルほど離れた距離で魔物が剣を振りかぶるのを見ると、手に持った槍を構えて次に来る攻撃へと備える。



「コウタくん、避けて!!」



「へっ?⋯⋯どわっ!?」


 刃が振り下ろされた瞬間、咄嗟にアイリスの声に反応して体を横にズラすと、コウタが立っていた地面とコウタの前髪、彼が持っていた槍の先が同時に消し飛ばされる。



「あっぶな⋯⋯。」



(槍が真っ二つに⋯⋯なんだあの異常な切れ味!?)


 霧散する槍の切り口と、地面に付いた傷跡を見て、魔物のその攻撃の破壊力が容易に想像することができた。



「めちゃくちゃなスピードに、冗談みたいな攻撃力。どうやって攻略すべきか⋯⋯。」



「シャァァァァ!!」



 コウタが思考を展開すると、魔物は標的をコウタから外して、九十度真横へと振り返る。


「っ、アイリスさん!!」


「シャァァァァ!!」


 アイリスはコウタの声に全く反応することなくその場に立ち尽くしていた。


 魔物は容赦なくその二本の剣を振り上げる。



「⋯⋯っ!!」



 魔物の突き立てた刃が少女の身体に突き刺さった瞬間、彼女の身体は煙のようにじんわりとその形を失い、それと同時に全く別の場所から彼女の姿が現れる。



「⋯⋯消えた!?」



「⋯⋯シャ!!」



 魔物が再び剣を振り上げると、今度はアイリスの身体が時間が止まったかのように微動だにしなくなる。



「⋯⋯っ!!」



 再び斬撃を受けると、同じようにアイリスの身体は消えて無くなり、今度は片手に雷の魔法を纏った状態で魔物の目の前に現れる。



「あれは⋯⋯オリジナルスキル?」




「⋯⋯スタンガン!!」




「ガァァァァァァァァ⋯⋯!?」



 アイリスは雷が迸る右腕で魔物の首筋を殴りつけると、周囲に雷光を放ちながら魔物の身体は電撃の餌食となる。



「効いたっ⋯⋯!!」



 アイリスは嬉しそうにそう言うと、煙を上げた自らの腕を引き抜く。



「いや、まだです!!」



「ちっ⋯⋯うぐっ!?」



 コウタの言葉の直後、アイリスの身体に魔物の尾が突き刺さり、小柄な少女の身体は大きく真横へと吹き飛ばされてしまう。


「⋯⋯ゴホッ、ゴホッ!!」


「シャシャ!!」


 肺が熱くなり、目一杯空気を吐き出すアイリスに、魔物は容赦なく刃を向ける。



「やばっ——!?」



 振り上げられる刃を前に、アイリスは両手を前に出しながら強く瞼を閉じる。



「⋯⋯⋯⋯。」



 次の瞬間に振り下ろされた刃がアイリスの身体に牙を剥くことは無かった。


 少女はその理由を直後に理解する。


 瞼を開くと、そこには二本の刃を純白の剣で受け止めるコウタの姿があった。



「コウタくん⋯⋯ありがと。」



「⋯⋯加速!!」



「⋯⋯ッ!」


 弱々しい言葉に返事をすることなくコウタは速度を上げた蹴りを魔物の腹部へと叩き込む。



「流石四層、一筋縄ではいきませんね。」



「うん、普通首に電気流したら気絶するはずなんだけど⋯⋯。」


「そもそも相手は人間じゃないですからね。」


 納得のいかない様子を見せるアイリスに、コウタは苦笑いで返事を返す。



「でも効いてるみたいだからもう一回私が⋯⋯。」


「いえ、下がっててください。」


 立ち上がり、再び掌に雷を乗せるアイリスを片手で制すると、コウタはそのまま三歩ほど前に出て立ち止まる。



「でも⋯⋯。」


「僕もちょっと試したいことがあるんです。」


「ここなら魔王軍の監視もないだろうし、丁度いい。」


 ゆっくりと自らの力で青色に染まっていく剣を見つめながら、左手に召喚したのはたった一本の杖。


「⋯⋯っ、その杖って⋯⋯⋯⋯。」


 その瞬間、コウタの杖の青を更に深く濃く強く染まっていく。


 召喚したのは降魔の杖、使用者の魔力を底上げする為の武器。


 白霞の剣と降魔の杖、これこそがコウタが初めてこの世界で〝組み合わせて〟使った武器。


 が、強力な力を手にする反面、重大な欠点も存在していた。


 攻撃力を上げようと大量に強力な武器を召喚すれば、コウタの身体には大きな負担がかかり、それを維持し続ければ当然意識のリソースをそちらに割かざるを得ない。


 そうなればその状態での戦闘はどうしても力任せなものへとなってしまう。


 その結果が先のブリカでのリーズルとの戦闘であった。



(あの時は壊されたけど、今は違う。)



 だからこそそれを省みて、改良を加える為の方法を考えた。



「火力と集中力、そして体力の消耗、そのバランスを真ん中で保つ。」



 魔力で強くなる剣があり、魔力を上げる杖でその威力を更に上げる。



 そのせいで大量に召喚した杖に気を取られて集中力が落ちるのなら、杖を減らせばいい。



そして減った杖の分の魔力を、別の方法で上げればいい。



 その為の付与術師なのだから。




付与エンチャントマナ



 直後、コウタの身体は青色の光に包まれる。



「青い光?」



「元々付与術師は無駄に魔力にステータスの補正がつく。レベルが上がれば当然僕自身の魔力も上がるんです。」



 レベルが上がり、自分自身の魔力が上がった今、大量に杖を召喚する必要は無くなっていた。



「これが身体の負担とMPの消費を抑えた最新の戦法スタイル。」




「名付けて〝蒼剣モード〟。」




 迸る蒼いエネルギーを刃に乗せて、コウタはニヤリと頬を釣り上げる。



「キシャ⋯⋯!!」



 魔物はコウタのその姿を見て再び剣を構えると先程同様に真っ直ぐに振り下ろす。



「甘いっ!!」



 その攻撃は蒼色に染まった剣の一振りによって相殺され、周囲に暴風の如き衝撃波が舞い上がる。



「カカッ⋯⋯!!」



「加速!!」


 機を伺いながら連続して急所を狙うコウタの剣を、魔物は二本の剣で捌き始める。



「カカッ⋯⋯カッ!?」



 ジリジリと引き下がっていく魔物の身体は突如ギリギリと震えながら動きを止める。



「動きが止まった?」



(これって、移動阻害魔法?)



 コウタのこの戦法には抜きん出た特徴は何一つなかった。が、その一方で目立った弱点もなかった。


 消耗を抑えることで、MPに余裕ができ、その分長時間戦える上、その力を他の技に使える。


 操る武器を減らすことで、集中力に余裕ができ、その分の処理能力を戦闘へと還元できる。


 基礎的な火力を底上げすることで、格上相手にも立ち回れる。


 力一辺倒の大技ではなく、攻撃を捌き、回避することに全神経を集中させる異世界体術とも違う。


 コウタが持つ強みを最大まで残した、いわば単純強化形態。



「そろそろ勝たせてもらいます。」



コウタは一気に距離を詰めると、振り下ろされる刃を横から蹴り飛ばすことで攻撃を回避する。



「⋯⋯ッ!?」



 残った腕を躊躇いもなく切り落とすと、冷たい視線を浮かべながら剣を構える。



「さようなら。」



「⋯⋯ッ!!」



 最後の瞬間、魔物は抵抗しようと弾かれた腕を動かすが、その抵抗は全く間に合うことなく、コウタの剣は無慈悲にその喉元を貫く。


「ア、アアア⋯⋯⋯⋯。」


 魔物は身体中から真っ黒な蒸気を上げて腐っていくように崩れ落ちる。



「つ、強い⋯⋯。」




「⋯⋯さ、次に行きましょう。」


 想像を超えた強さの前に、アイリスが気圧されていると、丁度コウタの付与魔法が切れてコウタの持つ剣の青も少しずつ薄くなっていく。



「う、うん。」



「⋯⋯?どうしました?」



「いや、なんかコウタくんちょっと怖かったな⋯⋯なんて。」


 トドメを刺す瞬間、コウタが魔物に向けた表情が、アイリスにはとても残酷なもののように見えていた。



「何がですか?」


 コウタが首を傾げて問いかけると、アイリスは改めてコウタの目をじっと見つめる。


「⋯⋯⋯⋯。」



(気のせいだったのかな⋯⋯?)



 だが、その真っ直ぐな目を見るとどうしてもそんな風には見えなくなってしまう。



「ううん、なんでもない。行こう。」



「はい!」


 アイリスは首を振って促すと、コウタは元気よく返事を返して二人は先に進んで行く。



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