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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百九話 未知の業



 街の市街地の大通り、コウタと魔族の少年リーズルの戦いはセリア達の戦い以上に一方的なものであった。



「遅えぇ!!」


 結論から言えばコウタの防戦一方であり、リーズルのスピードとパワーに翻弄され続けていた。


 リーズルは壁や砕かれた地面を跳ねまわりながら高速で攻撃を叩き込む。



「くっ⋯⋯そっ!!」



 コウタはその攻撃が当たる瞬間に自らの周囲に剣を召喚することで攻撃の軌道を逸らし、紙一重で回避していた。



「ホラホラァ!どうしたっスかぁ!?」



 二つの影がぶつかり合う度に砕かれた剣の破片が飛び散り、七色の光を放って霧散する。



(速すぎる⋯⋯動きはギリギリ見えるけど、身体がついてこない。)



 その結果、コウタの身体には少しずつ痛々しい切り傷が増えていく。



(おまけに大技は全部封じられてるし、それ以外の小技じゃ全く通用しない。)



(そしてなにより、そろそろMPが尽きる。)


 通常の付与エンチャントはおろか、強化ブーストのスキルで底上げされた状態の付与エンチャントですらステータスの差は埋めることが出来ず、消耗の差も歴然であった。


 コウタは横目に自らのステータスを確認して苦々しく歯をくいしばる。



「ちっ⋯⋯⋯⋯せめて後一つ、なにか逆転の口火があれば⋯⋯。」



 距離を取ろうと後ろに下がると、コウタの身体に宿っていた三色の光が点滅して消えてしまう。



(⋯⋯⋯⋯っ、付与エンチャントが⋯⋯。)



 その拍子に盛り上がった地面に躓き、体勢を崩す。



「はっ、終わりだぁ!!」



(速っ、⋯⋯⋯⋯間に合わない。)


 その隙を見逃すことなくリーズルは一気に距離を詰めると、鉤爪の刃をコウタに突き立てる。



「こんっ、の!」


 崩れた体制の中、襲いくるその攻撃に無理やり手を伸ばす。


 瞬間、二つの影が交差するが、コウタの身体には新たに傷が付くことは無かった。



「⋯⋯⋯⋯あれ?」



 先に声を上げたのはコウタであった。攻撃を受けたはずの身体には切り傷どころか衝撃すら届くことなく、何かをしたはず(・・・・・・・)のコウタ自身が首を傾げていた。




「⋯⋯⋯⋯?⋯⋯⋯⋯あ?」


(避けた?いや、外しちまったっスか?)



 まるで自らの攻撃がすり抜けた様な感覚の後、リーズルは敵を切り裂いたはずの、攻撃を当てたはずのその手を見つめる。



「⋯⋯この動き⋯⋯この感覚⋯⋯⋯⋯。」



(⋯⋯⋯⋯これがあったか。)


 混乱するリーズルとは対象的に、コウタは今自分が何をしたのかを確信するとビリビリと痺れの残る自らの手を強く握りしめる。



「⋯⋯なにをしたっスか?」



「さあ?なんでしょうね。」


 心理的な余裕が完全に逆転した二人は向かい合って互いを睨みつける。



「⋯⋯殺ス。」



 リーズルは再び気持ちを入れ替えると、明確な殺意を示してコウタに向かって飛びかかる。



「⋯⋯甘い。」



「⋯⋯⋯⋯っ!?」


 再びその刃はコウタの身体をすり抜ける様にして起動を外れる。



(まただ⋯⋯。なんでだ⋯⋯?)



 勢い余って地面を転がりながら、飛び上がるように着地をして、その場からほとんど動いていないコウタに眼を向ける。



「くっ⋯⋯。」



(オレの付与は切れてない。あいつは付与も切れてるし、スキルを使ってる様子も見えない。)


 リーズルは再び強く地面を踏みしめると更に速度を上げてコウタに向かってとめどなく攻撃を放つ。



(なのになんで⋯⋯。)



が、それでもやはり攻撃は一つも当たらずにコウタの身体をすり抜ける。



(なんで攻撃が、当たらない!?)



「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 無我夢中で突進すると、自らの攻撃が当たる瞬間、胴体に向かって突き出した拳が叩き落されるのが視界に入る。



「⋯⋯⋯⋯ふぅ⋯⋯。」



(動きは見えてる。でも見てから反応するんじゃ間に合わない。)



 その動きはベーツの街のギルドマスター、エティスと戦った時に使ったものと同種のもの。


(反撃するんじゃない。避けるんじゃない。予測して、最短の動きで、受け流す。)


 コウタの世界のコウタの生まれた国で作られた技。ただし、その技たちをそのまま使っているわけではなく、その動きを基にコウタなりに改良されたもの。



「がっ⋯⋯⋯⋯クソッ!!」



 攻撃を受ける瞬間に自らの身体に攻撃が当たるその一瞬に、つま先を軸にして回転し、相手の武器や腕を弾き、掴み、受け流す。ただそれだけの技。


 あらゆる技能を瞬時に会得し、自らのものに昇華することが出来るコウタにのみ使いこなせる唯一無二の技。


 名をつけるならば異世界流体術とでも言うべき技。



「基本の体捌きは普段通り⋯⋯ただ足捌きを工夫して⋯⋯。」



「一歩で、一手で、投げ飛ばす!!」



 リーズルの身体はコウタの身体を軸にして弧を描いて宙を舞い地面に叩きつけられる。



「がはっ、このっ⋯⋯⋯⋯な、ん、なんスか!!何をしたんスか!?訳わかんねぇ!!」


 訳の分からないリーズルは見たこともない構えを取るコウタに向かってそう絶叫する。



「別に、強いて言うなら武道って奴ですかね?」


「⋯⋯ブドウ?」


 聞いたことのない単語に、リーズルはピタリと固まる。



(もっと、⋯⋯もっとだ。あっちの世界で覚えてきた動きを、こいつのスピードに、動きに、この世界流に落とし込め!!)



 それとは対象的にコウタは自らの頭の中で力加減や手先の細かい動きのイメージを再調整する。



「さあ、第二ラウンド始めましょう?」



 それを終えると、コウタはいつも通りの挑発的な笑みでそう問いかける。



「⋯⋯ブッ殺ス!!」


 リーズルは返事の代わりに殺意の篭った声でそう宣言する。


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