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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第二章
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百話 再来の魔法使い



「⋯⋯どういうことですか?」



 色々な感情が頭の中で渦巻く中、コウタは剣を強く握りしめながら目の前の少女に問いかける。



「⋯⋯?何が?」


「どうしてあなたがここにいるんですか?」



 ようやく落ち着いたのか、コウタは初めて具体的な質問をシリスに投げかける。



「なんでって、私、こいつの上司だし。」


「上司!?」



 シリスは背後でばつの悪そうな顔をした男を指差してそう答える。



「うん。なんの上司なのかは言えないけど。」


「⋯⋯って、そうじゃなくて!!」


「ところで、レウス。」



 声を張り上げるコウタを差し置いて、シリスは背後を振り返って男に話を振る。



「⋯⋯あぁ?」


「なんであなたは勝手なことばかりするの?」



 無機質ながらも怒気を孕んだ声で、責め立てるように問いかける。



「個人の喧嘩は個人の自由。答える義理も無ければ止められる謂れもねえ。」



「それは他人に迷惑をかけないのが前提。暴れる事で私の本題を潰されてはたまったもんじゃない。」



 荒々しい口調のまま、注意を受ける不良のように屁理屈を吐く男にシリスは淡々と正論を吐き捨てる。



「⋯⋯チッ、別に。ただ噂の勇者候補サマと聖人サマの力が見たかっただけすよ。」


「そういうのは一方的にやるもんじゃない。魔族のあなたが何も言わずに喧嘩を吹っかければ魔王軍と思われても仕方ない。」


「あー、ハイハイ反省してまーす。」


 話しているうちに口調はだんだんと元の気の抜けたものに戻っていくが、言葉や態度で分かる通り、当然反省していないのが目に見えていた。



「はあ⋯⋯⋯⋯とりあえず武器ソレ、しまってくれる?」



 それを理解した上で大きく溜息を吐くと、シリスはコウタの手に握られた大剣を指差して頼み込むようにそう言う。



「⋯⋯⋯⋯。」


「あなたも。」



 手を開くと同時に大剣が霧散するのを見届けると、今度は後ろに立つ男に向かって手を伸ばす。



「⋯⋯ん?」



 すでに剣を収めている男はその行動を理解出来ず首を傾げる。



「それ、没収。」


「⋯⋯はぁ?」



「没・収。」



 反論しようと口を開くと、そんな暇すら与えずにシリスは強い口調で睨みつける。



「⋯⋯はぁ、分かりましたよ。」


「⋯⋯ん、それでいい。」


 シリスのドス黒い圧力に押し負けた男は不服そうに自らの剣を手渡す。


「それで、そろそろどういうことか説明して頂けませんか?」


「ん、分かってる。でもその前に、一旦ここから離れようか。」


「離れる?」


 端的に発せられるその言葉を聞いて、コウタは首を傾げて問い返す。



「そろそろ人が来ると思う。さっきばかでかい音出したから。」



「——みんな、こっちだ!」



 その直後、シリスのその言葉通りに路地の奥から人の声がする。


「ちっ、来ちゃったか。」


「⋯⋯嘘っ!?」


「取り敢えず隠れるよ。」


 慌てるコウタに落ち着いた様子でそう言うと、シリスは再びコウタ達に背を向ける。



「隠れるって、何処にですか?」


「「ん⋯⋯。」」


 コウタの問いかけに二人は言葉では無く行動で答える。


 人差し指を天に向けることで。



「⋯⋯上?」









「——改めて、私の名前はシリス。そっちのはレウス。よろしくね。」


 小さな喧騒から離れるように建物の屋上に移動すると、シリスは改めて挨拶する。



「コウタです。」



「セリアと申します。」


 シリスの後ろで腕を組みながら壁に寄りかかるレウスと呼ばれる男を横目に、コウタとセリアも挨拶を返す。



「知ってる。あなたたちはとても有名だから。」


「それはいいんですけど。なんていうか、聞きたいことが多すぎるんですけど。」



 コウタは苦笑いで会話を続ける。



「なに?言ってみて。」



 シリスはその言葉を聞いて快く質問を受け付ける。



「まず、なんで貴女がこの街にいるんですか?」


「調べ物の途中でこの街に用事ができたから。」


「では、その魔族の男性は何者なんですか?さっきの貴女の発言を聞くと魔王軍では無いようですけど、本当に安全なんですか?」


 シリスが一つ目の質問に淡々と答えるとコウタは矢継ぎ早に質問を繰り返す。


「こいつは私の仲間で、部下。さっきはいきなり攻撃してごめんなさい。でもこいつは私には逆らえないから安全だよ。」


 先程のやりとりを見てもそれは明確であったため、コウタはその言葉を受け入れる。



「⋯⋯さっきも気になったんですけど、魔族と人間が仲間って、そんなことあるんですか?」



「⋯⋯⋯⋯コウタは、なにも知らないんだね。」



 その上で質問を重ねると、シリスはガッカリした様子で溜息をつく。


「⋯⋯どういうことですか。」



「はぁ⋯⋯あのねコウタ。魔族っていうのは、本来強さと見た目以外人間とほとんど変わらないものなの。」



「魔王軍みたいに悪い奴もいれば、いい奴もいるし、魔王を崇拝している奴もいればそれ以外を崇拝してたり、こいつみたいに魔王軍そのものが嫌いな奴もいる。」



 シリスが語り始めると、指を指されたレウスも黙ってその話を聞く。



「人間だって同じ、魔族が嫌いな人がいれば、好きな人だっている。逆に殺したいほど人間が嫌いな人間もいる。ナストの殺人鬼みたいにね。」



「「⋯⋯っ!」」



 その発言にコウタとセリアは表情を強張らせ強く反応する。



「古くからある互いを嫌い合う文化や風習を捨てて、手を取り合う道を選んだ存在。」



「それが私達『中立派』。覚えておいてね。」



 話を終えると、シリスは無愛想にも見えるその顔を少しだけ柔らかくする。



「⋯⋯にわかに信じがたいですけど、理解は出来ました。」


「私も聞いたことはありますから。」



 二人は半信半疑ながらもその話を飲み込む。



「まぁ、普通の反応だったらそんなもん。理解してくれれば十分。」


 異端者扱いされるのは慣れているのか、シリスも特に気にした様子もないまま話を続ける。



「それじゃ、本題に入って良いかな?」


「どうぞ。」


 話に飽きて大欠伸をする男の横で、シリスが問いかけるとコウタは首を縦に振って即答でそう答える。



「あのね。今日あなたに接触したのはある人間を捕まえて欲しいの。」



「人間?ですか。」



 安全だの、手を取り合うだのと聞いた直後に放たれる誘拐犯まがいのその言葉に、思わず表情が固まる。



「うん。正確に言えば、ある人間が持ってる。剣の方なんだけど。」



「剣ですか⋯⋯そんなに強力な剣なんですか?」


 良いことではないが、それでも多少発言が柔らかくなったことに緊張の糸が緩まる。



「強力も強力。私が知ってる限り、聖剣を除けば恐らく最強の剣。」



 その直後、シリスの口からもう一つの情報が溢れる。


「⋯⋯っ、それって!!」



「そう、呪剣。」



 身体を起こして詰め寄るコウタとは対照的に、シリスは至って冷静に、かつ端的にそう答える。



「そして、その所有者がこの街にいる。それを探して欲しいの。」


「そ、それって本当ですか!?」


 慌てふためくコウタは身を乗り出して問いかける。


「うん。確かな筋の情報だよ。」


「マジ⋯⋯か。」


 それでも動じることのないシリスのその答えを聞いて、コウタは一度落ち着いて再び腰を下ろす。


「でも、呪剣はともかく人探しなら私達に頼まなくてもよいのでは?」


「普通の人探しなら自分たちでなんとかなるんだけどね。呪剣使いが相手となると、私達は手が出せないの。」


「何故ですの?」


 含みを持たせたシリスのその言葉を聞いて、セリアは首を傾げて問いかける。



「立場的に介入すると色々まずいの。」



 シリスはセリアの問いかけに食い気味で答える。



「中立派ってのは要はどっちの敵にも味方にもならないから中立なんだ。魔王軍の所有物に手を出せば、魔族に喧嘩売ってるのと変わりねぇ。」



 シリスがそのまま説明しようとすると、これまで黙って目を瞑っていただけのレウスが口を開く。



「だから人間側の私達に頼むのですね。」



「そゆこと。」



 補足と結論を口にするセリアの方を向いてシリスは小さく頷く。


 シリスの言う通り、人間側にいて、かつ魔王軍にとって完全なる敵であるコウタ達ならば喧嘩を売るような行為もさほど問題なかった。



「というかシリスさんはなんでそんなに呪剣が欲しいんですか?」


「欲しいというか壊したいだけ。現物があっちの手に渡らなければ私達はそれでいい。」


「⋯⋯?言ってる意味が⋯⋯。」



 セリアはその発言に珍しく混乱した様子を見せる。



「全七本のうち四本が四天王の手に、もう三本だって幹部達の監視下にある。どう考えたって過保護すぎる。」



 その異常性に気付けと言わんばかりに、レウスは間の抜けた口調のままセリアの言葉にそう答える。



「使い道もなんとなく予想出来る。だからこそ何か起こる前に一本でも多く潰しておきたいの。」



「⋯⋯⋯⋯。」


 その発言にコウタは視線を真下に向けて黙り込みながら思考を展開する。



「⋯⋯⋯⋯そもそも気になっていたのですが、どうして魔王軍は呪剣をばら撒くような真似をしたのでしょうか?」



「理由は分からないけど、それは多分、〝解放〟状態の呪剣が欲しかったんだと思う。」



「呪剣の〝解放〟の条件は〝適合〟と〝共鳴〟のプロセスを踏む事。つまりはそもそも呪剣に認められなくては〝解放〟までたどり着けないんですよ。」



 コウタは呪剣の知識があまり無いセリアの為に、補足を入れるようにシリスの発言に付け加える。



「だから、適合しそうな人間を精査しているのですわね。」


「よく勉強してるね。その通りだよ。」



 言うべきことをほとんど言われたシリスは首を縦に振って同意する。



「半分は最高幹部達に持たせて戦力増強、かつストックとして保管させる。もう半分は人間に持たせて更なる進化を促すってところだろうなぁ。」



「って感じ。分かった?」



 レウスの説明の後に、シリスは首を傾げて問いかける。



「ええ、理解しましたわ。」



 セリアはようやく落ち着きを取り戻したのか、いつもの調子で頭を縦に降る。



「おーけい。じゃあ早速持ち主の話をするね。」



 そう言ってシリスは一枚の紙をコウタに手渡す。



「使用者の名前は不明。今のところ黒髪で十代後半から二十代前半くらいの女性ってことくらいしか分かってない。腰には呪剣を装備してる⋯⋯はずなんだけど、私達が探した感じだと、見当たらないの。」



 コウタに手渡したものと同じ紙を見てその内容を読み上げると、最後に小さく溜息をつく。


「マジックバックかなんかに隠し持ってるか、もしくは一切外に出ず引きこもってるか、のどっちかだろ。」


「マジックバックってことは冒険者か商人の可能性が高いですよね。」


 それなら街の門の通行記録から探れるなどと考えながら小さく呟く。



「直接的な被害は出てないし、私達も二日くらい前に来たばかりだからもっと調べれば不審な動きを見せるかも知れないけど⋯⋯。」



「不審な動き⋯⋯コウタさん、もしかしてその女性⋯⋯。」



 そのワードに反応してセリアはコウタに投げかける。



「⋯⋯⋯⋯例の不審人物?」



 そう言われて一瞬遅れてコウタも同じ結論に至る。


「だとしたら危険ではありませんか?」


 もしそうだとしたら、何も知らないアデル達が鉢合わせれば、ただでは済まないことは明確であった。


「⋯⋯ええ。アデルさん達に報告しないと⋯⋯。」


 先程までとは比にならないほどの真剣な雰囲気で冷や汗を垂らしながら立ち上がる。


「ちょっと待って。」


「なんですか。」


 すぐさまアデルの元へと戻ろうとすると、走り出す前にシリスに手を掴まれ止められる。


「もう一つ言っておかなくちゃいけない事があるの⋯⋯——」








「——アデルさん!!」


 数分後、広場で待機するアデルに息を切らした状態のコウタ達が走り寄る。


「ああ、コウタ、一体どうした?」


「⋯⋯今すぐ、屋敷に行きましょう!!」


 目の前まで走り寄ると、ふらふらと膝に手をつきながら何も知らないアデルに向かって声を荒らげる。


「や、屋敷?だが見張りは⋯⋯。」


「それどころじゃ無くなったんです!いや、最初から時間なんて無かった!」


 戸惑うアデルにコウタは急かすようにそう叫ぶ。


「落ち着け!!何があった、何を知った?一つずつ教えてくれ。」


「⋯⋯⋯⋯来るんです。」


 息を切らしながら必死で何かを伝えようと口を動かす。


「⋯⋯?何がだ?」


 一度では聞き取れなかったアデルは落ち着いた様子で問いかける。



「来るんですよ、魔王軍がこの街に!」



 息を整えるとコウタは叫ぶようにそう言う。


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