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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第一章
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十話 レイド




 夕方にコウタが討伐、捕獲をしたグランドボアはその日のうちに解体され、ギルドの特別メニューとして振る舞われた。


 そして、コウタとアデルの夕食も例に漏れずグランドボアのステーキ肉であった。



「もぐもぐ⋯⋯グランドボアの肉って⋯⋯思ったより臭みがなくて⋯⋯食べやすいんでふね⋯⋯。」



「もぐもぐ⋯⋯グランドボアはフォレストボアと違って⋯⋯山菜の中でも香草しか食べないから⋯⋯臭みがほとんどないらしいぞ⋯⋯。」



 二人は厚切りのステーキをハムスターのように口いっぱいに頬張りながらそんな会話をしていた。



「ふぅ⋯⋯ごちそうさまでした。」



「悪いな金どころか食事まで頂いてしまって。」



「いえいえ、あんなに大きかったら一人前も二人前も変わりませんよ。利子だとでも思って下さい。」



 アデルは食事を終え、手拭いで上品に口をぬぐいながら礼を言うと、それに対してコウタは笑みを浮かべながらそう返す。



「それにしてもすごいな、アレがあるとはいえ、まさかグランドボアを倒してしまうとは、あいつはここらでは一番強いモンスターだぞ。」



 アデルは周りに他の冒険者がいることも考慮してオリジナルスキルのことを明言せずにそう言う。



「そうなんですか?だから一気にレベルが上がったんですね。」



 そう言ってコウタはアデルにステータスを見せると、彼のレベルは一気に8まで上がっていた。



「三時間も粘ったかいがありました。」



「さっ!?ず、随分頑張ったのだな。」



「はい。大変でした。」



 驚きを隠せないアデルに対して、コウタは達成感を滲ませながら満足げにそう答える。



「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」



 アデルはその様子を見て顎に手を当ててコウタをじっと見つめながら思考を張り巡らせる。



「⋯⋯⋯⋯?」



(このレベルでグランドボアを倒すポテンシャル、あらゆる武器を呼び寄せるオリジナルスキル、盗賊と戦った時に見せた戦闘センス⋯⋯。)



 首を傾げるコウタを見つめつつ、アデルはそうやってしばらく考え込むと、ふと口を開いてこう切り出す。





「なあコウタ、⋯⋯私とパーティーを組む気はないか?」




「⋯⋯⋯⋯パーティー、ですか?」



 アデルから投げ掛けられる言葉を聞いて、コウタは一瞬黙り込んだ後に問い返すと、アデルは黙って首を縦に振る。




「それはつまり、一緒に魔王と戦って欲しい、というわけですか?」



「そういうことになる。」



 コウタがストレートに尋ねると、アデルはなんの迷いもなく即答する。



「えっと、⋯⋯⋯⋯どうして僕なんですか?もう少し探せば僕より強い人なんてすぐ見つかると思うんですが。」



 一旦考え込むと、苦い笑みを浮かべてふと最初に出てきた疑問を投げかけてみる。



「貴様の才能と将来性を買っているのだ。貴様なら間違いなく魔王を倒しうる存在となる。」



 アデルはコウタの目をまっすぐに見つめてそう答える。



「⋯⋯⋯⋯。」



 コウタはアデルの真剣さを汲み取り、再度その意味を深く考え込む。



(僕は魔王を恨んでいるわけでも疎んでいるわけでもない。たとえパーティーを組んだとして⋯⋯果たして⋯⋯僕はこの人の気持ちについていけるのか?)



「⋯⋯⋯⋯すいません⋯⋯少し考えさせて下さい。」



 いくら考えても答えは出ず、結局煮え切らない答えを返すことになってしまう。



「そうか、わかった。すまなかったな急にこんな事言って、貴様はもう少しこの街にいるのだろう?私もしばらく鍛え直すつもりだから、答えが出たら教えてくれ。」



 アデルは少し残念そうに答えると取り繕うようにニッコリとコウタに微笑みかける。



 その夜、コウタは宿を取り、早めに寝床についたが深い眠りにつくことはなかった。









翌日——


 寝不足気味でギルドに向かい、食堂で軽めの朝食をとっていると、そこに昨日の夜とはうって変わって明るい表情のアデルが現れる。



「おいコウタ!!」



「何でしょう?」



 目を爛々と輝かせるアデルに若干の鬱陶しさを感じながらも働かない頭を動かして気の抜けた返事を返す。



「貴様今日暇か?」



「基本いつでも暇ですよ。」



 唐突すぎる質問にコウタは大きなあくびをしながら適当にそう答える。



「では明日は?」



「暇ですが、どうしたんですか?」



 そう聞くとアデルは一枚の紙を差し出して、こう続ける。




「私とパーティーを組まないか?」




「⋯⋯⋯⋯コレはアレですか、昨日の出来事がループしてるぞ〜みたいなドッキリですか?」



 コウタは未だ働かない頭で適当にツッコミを入れて話を流すと、頭と身体をゆらゆらと動かす。



「何を言っているんだ?コレだ、コレ!!」



 そう言ってアデルは手に持った紙に書かれた一際大きな文字を指差す。




「大規模クエスト、ですか?」



「そうだ。一つのパーティーではなく複数のパーティーで同時に挑むクエスト。通称レイド。私と共にこれを受けないか?」



 アデルは期待の眼差しをコウタに向けながら説明し、手を差し伸べて問いかける。



「えー、遠慮しておきます。」



 コウタはもぐもぐと彩りの良い野菜を口にしながら脱力しきった声でそう答える。



「何故だ!報酬は十五万ヤードだぞ!?しばらく生活には困らないくらいは出るぞ!」



 アデルはバンッと机を叩きながら問いただす。



「言ってなかったですけど僕、昨日のアレのおかげで朝からシーザーサラダとスープのおしゃれセットを楽しむくらいのお金が入ったので、しばらく働かなくていいです。」



 コウタは完全に堕落しきった発言を臆面も無く言い切ってアデルの意見を否定する。



 フォレストボアのかわりに持って返ってきたグランドボアは、買い取り価格が十倍ほども違い、コウタは初日にして、十万ヤードもの大金を手に入れたのであった。



「それに討伐クエストって書いてあるじゃないですか、大人数で挑む事が前提の討伐クエストの相手ってどんなのですか。恐ろしく強いのが容易に想像できますよ。命かけてまでお金を欲するほど切迫してませんし、今日、明日は採取クエストでも受けて、ついでにフォレストボアでも捕まえてお金にしますよ。」



「ううっ⋯⋯。」



 あまりの勢いで否定するコウタの態度に、アデルは思わず呻き声を上げて戸惑ってしまう。



「だが、討伐に成功すれば高い経験値も得られるぞ!?いつまでもレベル8ではいろいろ嫌だろ?」



 そう言われると確かにそうだか、よく考えてみると、コウタ自身冒険者となってまだ二日目であり、今すぐ上げる必要性も感じなかった。



「それもそうですが⋯⋯。」



「だろ!?そうだろ!?じゃあ登録してくるぞ!!」



 丁度いい反論の言い回しを考えている隙にアデルは受付へと走り出す。



「あっ、ちょっ、まだ決めてませんって!!」



 反射的にそれを止めようとするが、コウタがそれを言い切る前に受付の女性が高速で印を押す。



「すいませーん。もう受注してしまいましたぁ〜。」



 受付の女性がくねくねとわざとらしくそう言う。どうやら先日コウタの味方をしてくれていた受付の女性は既に敵の手に落ちていたようだ。



「ちょっ⋯⋯何でそんなに早いんですか!!」



 必死に訴えるコウタをガン無視して二人は得意げにハイタッチをする。





「——すいませんコウタさん、実はこのクエスト、ギルドからの依頼で、強い冒険者の方にはできるだけ受注して欲しいんですよ。」



 その後、コウタが詳しく話をきこうと詰め寄ると受付の女性は、半分面白がり、半分申し訳なさそうにそう言う。




「僕まだ、登録二日目ですよ!?」



「だがグランドボアを倒せる実力はあるだろ?」



 コウタが怒りと戸惑いの混じった声で反論すると、その後ろに立つアデルがハッキリとした口調で横槍を入れる。



「僕より強い冒険者なんていくらでもいるでしょう?そもそもレベル8ですよ?」



 完全にハメられた事を理解すると、呆れてため息をつきながらコウタは更に否定の言葉を重ねる。



「この街の冒険者って実はそんなに強い人いなくて、そもそもレイドクエスト受けられる実力者ってそんなにいないんですよ。」



 受付の女性はぐったりとうつむき小さく溜息をつくと、疲れきったような態度でそう言う。



「⋯⋯なんでですか?」



「ここらの魔物はさほど強くも無い、だから強い冒険者は大体更に強い魔物を狩るために別の街に行くのだ。」



 しかめっ面でそう問いを投げかけると、女性の代わりに後ろに立つアデルがそう説明をする。



「そのおかげで人を集めるのが大変なんです。」



 受付の女性は、ふっ、とカラカラの乾いた笑みをこぼす。



「それに私も貴様と共に戦ってみたい。もしかしたら、将来、共に魔王に挑む仲間になるやもしれぬからな。な?いいだろ?」



 コウタに参加してほしい理由とその根拠を説明し終えると、今度は逆にアデルがコウタに詰め寄る。



「⋯⋯⋯⋯はぁ。」



 逃げ道のないことを知ると、コウタは肩を落とし、クエストのことを尋ねる。



「やるしかないならやりますよ。で、相手はどんなのですか?」



「ああ、こいつだ!!」



アデルが二枚目の紙を見せるとそこには——





〝翼竜ワイバーンの討伐〟と書かれていた。




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