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プロローグ
夜1時。俺たちは今雨が降っている浮町の中を走り回っている。後ろから犬のように執拗に追ってくる足音がする。
ふと、薄暗い路地が見えた。そこに逃げ込み息を潜める。すると、あの犬のような足音が遠ざかっていった。俺たちは顔を見合わせ安堵の息を吐く。雨のせいで服が張り付いてきて、気持ち悪い。
この路地には街灯が一つしか立っていない。その街灯の奥から人影が見えた。ゆっくりとこちらへ向かって歩く足音もする。しまった。誘い込まれたか。恐らく走って引き返しても、奴らが待ち伏せしているに違いない。
街灯の光に照らされて出てきたのは、その唇に穏やかな微笑みを浮かべた一人の女だった。女は立ち止まった。男二人を前にしても動じない様子に少し怖いと思った。だが、それを悟られないように俺は言った。
「女一人にビビるなよ。」
すると、聞こえたのだろう、女はにっこりと笑って見せた。本当ににっこりと音がするくらい笑ったのだ。
「たかが女。されど女。あなたたち、私のこと知らないでしょ。」
俺はこの路地へ逃げ込んだことを激しく後悔した。