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すごいしゃりしゃりしたリンゴの話

作者: 緑丘
掲載日:2016/05/15

短編その2です。

 ここにリンゴが一つあります。

 摩訶不思議、とても謎めいた魔力を秘めたこのリンゴの名はマジックアップル。

 このリンゴを食べればどんな普通の人間でもあらふしぎ、この世ならざる力を持った魔法使いに早変わり。

「なんてことはないよねぇ」

 しゃくりと一口噛むと粉っぽい繊維が切れると共に甘さが口の中に広がる。

「これは間違いなくふじりんご」

 リンゴの表面を軽く拭きとっただけであとは丸かじり。乙女っぽくないって? そんなことどうでもいいじゃない。だって私は魔法少女でもなんでもなくただのいい年こいて独身の普通の女なんだから。

 ガブリと噛み付いたリンゴの断面を見ると微かに血がついている。

 なんとなく悲しかった。

 一口食べたリンゴをそっとテーブルの上に置いて、その代わりに眼鏡を取った。

 眼鏡をかけてパソコンの前に座る。モニタの電源を入れるとメールの受信を示すアイコンが点滅をしていた。

 メールボックスを開くと仕事関係の名前がずらり。うんざりしながらスクロールしていくと、その中に一つだけ嬉しい名前を見つけた。

 思わず顔が緩むのを自覚した私はちょっと顔に力を入れて平静を装う。誰も見ていないのに無駄だというのも自覚している。

 仕事の関係で地元から少し都会なこの場所に出てきて数年。地元で付き合っていた彼はそのまま残り、こうしてメールをしてやり取りをしている。というところに落ち着いている。

 無論、落ち着いているのは良い事とは言えないが……。

 そろそろ身を固めたい、なんて気持ちが無いわけではない。

 嬉しい半面このようなルーチンに陥っている現状にため息を一つ付きながら、私はメールを開いた


 久しぶり


 こんにちは。西野です。

 君が子供の頃から好きだったリンゴ、この間送りました。届いたかな?

 リンゴは冬の始まりくらいが一番美味しいから、コタツの上のお供にしてくださいね。


 ところで、君は春は帰ってこれるのかな?

 返事待っています。


 そこでメールは一旦終わっていた。

 少しだけ考えて簡単にメールを返し、洗面所へ向かった。

 眼鏡を外して冷水を顔に浴びせる。起床してから朝一で宅配が来てからした行動と言えばダンボールを開封しリンゴを一つ取って齧りついた。くらいだった。

 長い前髪をカチューシャでまとめ、新しいタオルを取り出し顔を拭いていると新しいメールを受信した音が部屋に響いた。

 パタパタとわざとらしくスリッパを鳴らしパソコンの前に戻る。

 

 良かった。


 リンゴは低温で湿度の高いところに置いておくと長持ちするよ。

 ビニールに入れて野菜室に入れておけば1ヶ月は持つかな?

 あとはジャムなんかにすれば春まで持つかもしれないね。

 

 君の家の冷蔵庫に収まるくらいの数を送ったから、早めに保存してくれると嬉しい。

 春を君と迎えられるのを楽しみにしている。


 目を細めながら返信メールを書いていると、また新しいメールが届いた。


 追伸

 

 今回のは偽物だけど、こっちに帰ってきた時に本物を渡すよ。


 偽物? なんのことだろう。リンゴに本物とかあるんだろうか?

 不思議に思いながら冷蔵庫の野菜室にリンゴを一つ一つ丁寧に入れていくとダンボールの底の方に固い感触を感じた。

 なんだろう?

 取り出してみると、箱……? のようなものが入っている。

 上から3分の1ほどの高さに切れ目が入っていて、どうやら開く仕組みのようだ。

 まさか……、爆弾?

 なーんて、お話の見過ぎだろう。

 そんな訳はない。ではなんだろう。

 まさか……、指輪?

 箱を開く。

 中の空間におおよそ合わない小ささの輪が入っていた。

 まさかだった。

 

「痛っ」


 今頃になって、歯茎に痛みが走った。

 けれども今度は悲しくはなかった。

 このマジックなアップルを食べ終わって、春が来るのが楽しみだ。


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