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記憶はないけど異世界なう  作者: 京菓子
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2話 異世界何でも屋

 翌朝。目が覚めたら全てが夢だった、という何かの物語のオチみたいな事もなく、目が覚めても俺はガリアという命の恩人の家にいた。つまりは異世界にいた。


 やはり疲れていたらしく、初めて来た場所なのに爆睡できた。


「坊主ー!朝だぞー!」


 俺が朝からベッドでゴロゴロしていると、扉が爆発したかの如き勢いで開いた。


「……おっさん。俺起きてるよ。あと、死ぬかと思ったよ」


 突然、扉が開いたのも驚きだが、何よりも音がすごかった。

 ……これから毎朝これで起こされるのか?不安だ。


「お、おうそうか……。それよりも、朝だぞ!起きろ!」


 俺はおっさんの過激な目覚ましに従い、ベッドから降りて、おっさんの後について部屋を出た。


 ちなみに、俺がおっさんから借りている部屋は家の二階に上がったすぐ右のところである。階段を下りて突き当たりの、この家で一番大きい部屋がリビング兼キッチンとなっている。おっさんが一人で住んでいるとは思えないほど、よく整頓された綺麗な家であった。

 ……本当にこの家っておっさんの家なのか?なんか意外だ。




 何はともあれ、俺とおっさんは朝食の席に着いた。今日のメニューはパンと野菜入りスープとハムエッグみたいな食べ物の三品だった。


「おっさんって家事出来るんだ」


「ああ、出来るぜ!というか出来なきゃ一人で暮らせねぇだろ」


 おっさんは朝食を豪快に食べながら親指を立てた。

 どうやらおっさんは家事が出来る系の男のようだ。おっさんが掃除洗濯してるイメージは全く生まれないが。


「ところでよ、坊主はこれからどうすんだ?別にここで暮らすのは構わねぇが」


 ……これから、か。そもそもこの世界の社会構造すらわからないし一人で生きていく事は不可能だろう。それにこの世界では力も必要だという事が昨日ではっきりとわかった。力が無ければすぐに死ぬのは明白だ。


「当分の間はおっさんの家で世話になるよ。俺だけじゃすぐに死んじまうから」


「そうか。まあいくらでも住んでてくれや。それでよ、昨日から考えてたんだがお前はこの辺の出身じゃないだろ?」


「ああ。というかこの世界の出身ですらないのかもしれない」


 おっさんは怪訝な顔をしているが俺は正直に白状する事にした。


「俺はこの世界の事は何も知らない。俺が暮らしてた国には怪物もいなけりゃおっさんみたいに赤い皮膚の人もいなかった。あと街にいた獣人みたいな人も」


 そもそもこの世界の動物や植物も見た事ない物ばかりだったし。


「うーむ。亜人族すらいない地方なんて聞いた事がねぇぞ。しかもモンスターの存在すらも……?」


 おっさんが頭を捻って考えてくれているがこの世界でも考えられない程の異常現象のようだ。

 確かに異世界人が一般に知れ渡っていたら俺の事も異世界から来たのかと普通に質問されるのだろう。


「一般的に怪物つまりモンスターのいない地方はあり得ない。しかし俺は異世界なんていう存在は聞いた事がねぇ。これでも多少は世界の事を知っているつもりなんだがな」


「いや、別にいいよ。俺も自分の記憶がほぼ無いからな。ていうかなんで俺の言った事を嘘だとは思わないんだ?」


 それなら不思議な事はないのに。俺が自分の身元を偽っている可能性を考えないのだろうか。


「馬鹿野郎。坊主がそう言うんだから異世界とやらから来たんだろ」


 おっさんは別に不思議な事は無いという風にそう言った。

 俺を信頼してくれているようだ。良い人に命を救われたものだ。


「それよりも俺もおっさんの仕事手伝うよ。働かないで食わせてもらうのは申し訳ないからな」


 俺がどこから来たかはひとまず置いといて、俺もこの家で暮らすとなるとおっさんの手伝いぐらいはしようと思う。

 居候というのは居心地が悪いし、この世界の常識を知るには社会に触れるのが一番だろう。


 おっさんもそんな俺の考えを汲んでくれたのか、快く頷いてくれた。


「手伝いか。そりゃいい。この国の知識やらを実際に体験出来るからな。だが、俺の仕事ってのは少々きついぜ。それでもいいか?」


「ああ、もちろんだ!」


「んじゃ、とりあえず朝飯の片付けして着替えてこいや。坊主の部屋に置いといたからよ」


 おっさんは伸びを一つしてから席を立った。俺も自分の朝食の食器を持ってキッチンへ向かった。




 食器洗いを終え、二階の部屋に戻ると確かにクローゼットに新しいシャツとズボンが入っていた。シャツは茶色の麻みたいな生地の物で思ったよりは快適だった。ズボンは生地が丈夫なもので少しヨレていたのでおっさんの物だったのだろう。俺が履くと少しぶかぶかだが問題はなかった。


「坊主ー!着替えたら降りてこいよー!」


 おっさんが階下から呼ぶのが聞こえたので早速部屋を出て階段を降りた。


「おう。ま、着れたみたいだな。よし、じゃあ行くか!」


 おっさんは俺が来るとすぐに玄関に向かった。いやいやいや、何しに行くんだよ。


「ん?へへっ、まあ来りゃ分かる」


 そう言うとニヤリと笑ってスタスタと家を出て行ってしまった。俺も急いでその後を追った。

 ……戸締まり大丈夫かな。




 おっさんと町を歩いて分かった事がある。おっさんが意外にも町の人気者だったのだ。


「ガリアさんおはようございます!」


「おうガリア!今日はどんな仕事だ?」


「ガリアちゃん!今日は野菜が安いのよ〜。買っていかない?」


 ……など町ですれ違う人に声を掛けられる事が頻繁にあった。

 声を掛けてくる人も様々で老若男女、人間も獣人も誰もが構わずガリアに気さくに声を掛けるのだ。

 悪い人ではないのは俺ももちろん知っている。しかし容姿はとても厳ついし、行動も豪快だし、と人気者になるにはやや荒っぽ過ぎる気がするのだ。

 いや、まあ人は見かけによらないという事がこの世界の常識なのかも知れない。


「……おっさんって人気者なんだな」


「お?なんだ、嫉妬か?いや〜人気者は辛いぜ。日頃の行いのおかげだな」


 どうやら褒められて嬉しいらしくニヤニヤと笑って俺を見てくる。

 ……一発殴ってやろうかな。そんな事しても多分おっさんにはノーダメージなんだけど。


「おし、着いたぞ」


 おっさんが声を掛けられているうちに目的の場所に着いたようだ。

 しかし、ここはまだ町の道路だ。辺りにも普通の家が建ち並んでいるだけだし。


「おっさん、ここで何すんだ?そろそろ仕事を教えてくれよ」


「教えてやろう。今日の仕事は魚屋の親父の依頼でこの道路の溝を掃除する事だ」


 ……溝掃除?おっさんの仕事って清掃員なのか?

 けど昨日は少年を助ける仕事だったよな?


「おっさんの仕事って清掃員なの?」


「いや、違う。俺はこの町の何でも屋をしている。町の住人の依頼をこなすのが俺の仕事だ」


「何でも屋?なんでもってマジでなんでもするのか?」


「ああ。人殺しみたいな犯罪は絶対にやらんがな。そもそもこの町でそんな物騒な依頼を出すやつはおらん」


 おっさんの仕事が分かったのはいいがいまいち内容が掴めない。それに町の依頼を聞くのがそれほど辛い仕事だろうか。


「ま、仕事してりゃ分かってくるさ。内容も大変さもな」


 おっさんは不敵に笑ってから今日の仕事を始めた。




 ……凄く疲れた。完全に侮っていた。


 溝掃除という仕事はまず側溝の蓋を外すところから始まる。そして溝の汚れをモップのような物で落としていくという単純な仕事だ。

 一見簡単そうに見えるかもしれない。だが側溝の蓋は重いし、汚れは強く擦らないと落ちないし、かなりの重労働だった。

 俺がヘトヘトになって一つの区画を掃除し終えた時には日が暮れかかっていた。


「おっ、やっと終わったか?」


 振り返るとおっさんが立っていた。そして俺が掃除していた区画以外の場所がピカピカになっていた。


「暇すぎて頼まれたところ以外も掃除しちまったぜ。どうだ?大変さが分かっただろ」


 ニヤッと笑って俺を見ているおっさんは息一つ切らしていない。


「そうだな。仕事って思ってたよりも大変だった」


「これ以外の仕事もこの位きつい仕事ばっかりだぜ」


「そりゃ困ったな……」


「ま、初日にしては及第点だぜ。これから慣れていけばいいのさ。さあ、帰って魚屋の親父に報告に行くぞ」


 そうして励まされた俺は、おっさんがスタスタと歩く後ろをノロノロとついていくのだった。




 魚屋の親父がくれた報酬はその日に仕入れた新鮮な魚だった。


「報酬ってお金じゃないの?」


「報酬なんてのは何でもいいのさ。今日はこれで豪勢な晩飯が食えるだろ?」


 そういうものか、と俺が言うと、そういうもんさ、とおっさんは笑って言った。




 その日の夕食は報酬の焼き魚だった。適度に脂の乗った身がとても美味しかった。


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