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記憶はないけど異世界なう  作者: 京菓子
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1話 命の恩人

ほぼ初作品です!京菓子(きょうがし)と申します。書き溜めなどをしておりませんのでかなり不定期な更新となります。申し訳ありません。ブクマ、評価、感想等あれば励みになりますのでよろしくお願いします。

ちなみになのですが学生なのであまり時間に余裕も無いんです……。

 ある日、気がついたら、俺は異世界にいた。


 なぜそんな事が言えるかって?さっきから俺の目の前に棍棒持って襲ってくる緑色の化け物がいるからなんです。


「グギャアゲギャア!」


 緑色の皮膚と角、薄汚い衣服、血に濡れた棍棒、涎を垂らしている口の中には人間で言うところの犬歯がずらりと並んでいる。これは絶対にゴブリンでしょうよ。

 そのゴブリンがさっきから俺を対象として攻撃してくるのだ。この世界が日本ではないことは確定だろう。


 こんなに呑気に話しているが、俺は決して余裕ではない。ゴブリンの一撃は俺に対しては即死レベルのダメージを与えるし、俺は戦闘経験が皆無な上に、武器や防具といった類いの物を装備していない。ていうか、無地の白シャツにジーンズという軽装だ。

 ゴブリンと出会ってからかれこれ数十分間、俺は全ての攻撃を必死で回避しているのだ。逃げようとしてもゴブリンしか足が速く、撒ける可能性は低い。おまけにここら一面は草原なのだ。遮蔽物は全くない。まじやべぇ。


 しかし、ゴブリンの攻撃は単調だ。上からの振り下ろし、その次に横薙ぎ。その繰り返しのみである。だから避けるのは容易い。

 数十分も攻撃を避け続けた結果、ゴブリンは苛立ち攻撃が大振りになっていた。避けるのが簡単になったのだが、俺もギリギリで回避し続けた結果、疲労が溜まっていたのであった。


「うおっ!」


 一瞬、気を抜いた隙を突かれ、ゴブリンの放った棍棒の横薙ぎが俺の右足を直撃した。血が溢れ、肉は砕けた骨と混ざり合っているが、緊張のせいか痛みは感じない。だが、右足はもう使い物にならず、立っている事も出来なくなった。


「ゲギャゲギャゲギャ!」


 ゴブリンは草原に倒れた俺を見て、仕留めた喜びを露わにした。一歩、また一歩と俺の方へ近づいてくる。その姿は醜悪であると同時に恐怖を体現した様だ。


「ここまでか、ってまだ何もしてないんだがなぁ……」


 立つ事すら出来ず、ゴブリンを睨む事しか出来ない俺は死を悟った。数十分もゴブリンの攻撃を避けた事が奇跡なのだ。本来ならもっと早く死んでいてもおかしくはなかった。そう思う事で、自分を納得させる。自分は漫画やアニメの主人公では無いのだから、ご都合展開など起きはしないのだ、と。


 ゴブリンが棍棒を振り上げた。ゴブリンは最後にニタリと笑うと棍棒を振り下ろした。俺は恐怖に耐えられず目を瞑った。


 しかし、いつまで経っても攻撃はこなかった。不思議に思って目を開けると、そこにはゴブリンが爆散したと思われる跡が残っており、その汚い赤色の血の上に立っていたのは……おっさんだった。


「おい坊主!もう大丈夫だぞ!あ、あとその足にこのポーション使っとけ、多少はマシになる」


 そう言って近づいて来たのは回復薬とおぼしき瓶を持ったおっさんの姿。こちらを見て快活に笑う屈強そうな人物がそこにいた。


「あんた……俺を助けてくれたのか?」


 身長は俺より少し低いくらい。腕と足が丸太のように太く、頰や身体に傷跡がいくつもある。金属製の胴当てと籠手を装備した、短く刈りそろえた髪と赤色の皮膚を持つ鬼のような人物。それが俺を助けた命の恩人であった。


「おうよ!森に木の実を採りに行った息子を探してくれって、ミーナさんからの依頼だからよ。親に心配掛けされんじゃねーよ!もうじき日も暮れる、危なかったな。ま、助かって何よりだ!」


 何より、依頼は必ず完遂する。それが俺の信念だからよ。と、おっさんは俺の肩に手を置きながら、キメ顔をしている。

 俺がそのミーナさんの息子だったら格好いいと思っただろうか。

 ……残念ながら俺はその息子ではない。


「ミーナ?それ多分人違いじゃねーか?俺はミーナなんて人は知らねーぜ」


「何っ?となると、俺は人違いをしたのか?……俺はなんて恥ずかしいセリフを……!」


 やはり、おっさんは人違いをしたようだ。折角のいい言葉もキメ顔も台無しである。俺の前で頭を抱えて悶えている。


 自分を助けてくれた人物だというのに……。もっとこう、ご都合展開はありがたいけど、格好良く仕上げてくれよ……。

 そう思いながら、おっさんに貰った緑色の瓶に入ったポーションを右足に振りかけた。すると、傷は少しずつ癒えて、足の感覚が戻ってきた。こんな優秀な薬が当たり前に実在するなんて、地球だったら争いの種だろ。


 傷が癒えるのを待ちながら、暇を潰すくらいの気持ちでおっさんと雑談でもしよう。


「で、おっさん。その依頼の子供ってどんな感じの子供なんだ?」


「ああ、歳は十四で髪は金髪。茶色の服をきているらしい」


「俺と全く違うじゃねーか!」


「そーだな」


 おっさんの人探し能力は皆無だった。雑談とかそれ以前の問題だった。こんなので依頼が完遂できるとは思えないんだが。


「おい、 おっさん!あそこにいる金髪の男の子ってその依頼の子じゃねーのか?怪物に襲われてるぞ!」


 俺がおっさんに呆れていると、俺がゴブリンから逃げ回っていた所から一キロ程離れた場所に、ゴブリンなどの怪物に襲われている少年が見えた。


 少年は聞いていた通りの容姿で、武器は持っていなかった。カゴに木の実などを沢山入れているところを見るに、本当に一人で木の実を取りに行ったのだろう。少年の周りにはゴブリンなどが群れをなしていて、一人で逃げることは無理そうだ。今は怪我をしていないようだが、今にも殺されるかもしれない。


「おい、おっさ……」


 俺がおっさんに助けを請おうとして顔をおっさんの方に向けた時、すでにおっさんは俺の目の前から消えていた。そして急に、目の前から暴風が起こった。


「はぁ?!」


 風から目を背け、俺が再び少年の方を見ると、そこには、少年を助けて怪物を殲滅しているおっさんの姿があった。ここから一瞬でこの距離を移動したのだ。


「すっげぇ……」


 夕日に照らされながら、少年を助ける姿は、先ほどまでのおとぼけなおっさんとは大違いだ。


 前言撤回。

 俺を助けてくれた命の恩人はやはり凄い男であった。






「いや〜間一髪だったぜ!ありがとな坊主。お前が気付いてなけりゃ今頃このチビは死んでたと思うぜ」


 時が少し経ち、夕日が地平線に近づいてきた。

 おっさんが怪物を殲滅し、依頼の少年を助けた後、俺は少年と一緒におっさんに連れられて町の中を歩いていた。少年は緊張がなくなったせいか、おっさんにおぶられながら眠っている。というわけで、今はおっさんと俺の二人で会話しているのだ。


 当たり前だか、ただ歩いているわけではない。ミーナとかいう依頼主に少年を送り届けるためだ。


「いや、俺は何もしてないよ。どころか、おっさんに助けてもらったじゃねーか」


「そんなのは偶然ってもんだぜ。それにお前が居なけりゃ発見が遅れてたのは事実だしな。ところでよ、お前、名前はなんて言うんだ?俺はガリアって言うんだが」


 名前か。そういえば思い出せない。自分についての記憶が全くないのだ。生まれは多分日本だろう。黒髪だし。身長も人並みだ。しかし、名前やどうしてこんな世界にいるのかがさっぱり分からない。


「はぁ?!おめぇ記憶がねぇのか?それじゃ帰る場所も無いって事かよ!」


 確かにその通りだ。俺はこれからどこに行けば良いのだろうか。力もなく、この世界の知識もないのに。


「うーん……。じゃあ俺んとこで住むか?」


 ……え?

 おっさんの突然の提案に驚愕してしまった。おっさんは真っ直ぐこちらを見ている。その顔には嘘や企みは無いだろう。この男は信頼できる。なぜだかそんな気持ちが生まれていた。あんなに格好いいところを見せられて、魅せられない人はいない、というのは言葉遊びだが素直に尊敬するのは当たり前だろう。

 そもそも命の恩人を疑うのは失礼だしな。


「良いのか?よろしく頼む!」


「おうよ!遠慮がねぇのは良いことだぜ!俺のことはガリアって呼びな!」


「いや、おっさんって呼ぶけど」


 なんか、おっさんって呼び方がしっくりするんだよな。隣でガリアのおっさんが突っ込んでるけど…まぁ無視だな。このおっさんは普段は頼りない気がするのだ。なんか、何をするにも不安に思うっていうか。信用できないっていうか。ああ、もちろん芯の部分では信頼しているが。


「おっさんでもいいがよぉ」


 おっさんが項垂れているのでこの話は終わりとしておこう。






 その後、ミーナという少年の母親に少年を送り届け、おっさんの家までやってきた。おっさんの家は思っていたよりも普通にレンガ造りの一軒家で、普通に生活出来そうだった。……もっと汚いとか、暗いとか、臭いとか思ってた。……おっさんごめん。


「ここが俺の家だ!俺一人じゃデカすぎるくらいだから、お前も遠慮せずに堂々と暮らせよ!」


 おっさんはそう言うと、家の扉をぶち開けて、ズカズカと入っていくのだった。豪快極まりない。


 その後は夜になっていたし、俺がゴブリンから逃げ回った事で疲れているのもあって、おっさんから風呂に入れられて、飯を食わされ、すぐに寝かされた。


 気がつけば、全く知らない世界に来ていて、殺されかけて命拾いして、その恩人の家に迎えられる。そんな幸運に感謝しながら、そんな漫画やアニメや小説みたいな数奇な自らの話に驚きながら、俺は不思議な一日を終えたのだった。

一応、主人公の名前は決めているのですが書くタイミングはだいぶ後になると思います。

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