錯視る〜とまる〜
某有名小説に酷似していますが僕が以前から書きたかった題材なので掲載させていただきます。
北海道 道東のとある田舎道。
畑と農道が碁盤の目ようになっている。
山下信彦は、何時ものように車でこの田舎道を突っ走っていた。
時速75キロ。人通りも少ない道なので、このスピードでも危険はない。
「…続きまして臨時のニュースです。先程、午後3時頃に市内のコンビニエンスストアで強盗がありました。未だに犯人は逃走中で…」
やれやれ。この田舎町も段々と騒がしくなってきたな。
山下はラジオを切り、窓を開けた。
爽やかな秋の風が車内を通る。
ん?
山下は100メートル程先の交差点を見つめた。
秋の午後3時頃の夕日が眩しかったので、はっきりは見えないが交差している道に車が見えた。
しかし車は動くそぶりを見せない。
山下は少し心配になった。
こんな時間に農家じゃないだろうし…まさかさっきの強盗か?
次第にアクセルを踏む足に力を入れる山下。
交差点が近付いていく。
車は停まったままだ。
しかし交差点を過ぎようとした時にとんでもない事が起きた。
山下の車と停まっているはずの車が衝突したのだ。
互いに時速75キロ程のスピードであった。
救急車で運ばれた山下は、なんとか一命を取り留めた。
同じ頃、事故現場に刑事課の杉山泰弘が到着していた。
当事者達の証言があまりにも不可解だった。
山下と衝突した車を運転していたのは市内で働く田中という男だった。
そして二人とも
「車が停まっていた」と証言したのだった。
事件性は薄いが、気になる事は調べないと気が済まないというのが杉山の性格だったのだ。改ページ
杉山は、ある男を訪ねに行った。
北海道工業大学 略して北工大。
その工学部機械科学学科第5研究室。
杉山はボードに
「大川秀樹助教授 在室中」の磁石を見つけると 部屋に入った。
中には見たことも無い機械やら、使いっぱなしにされた器具やら、読み掛けの科学雑誌などが散乱していた。