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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
死神三人衆 ~最大の敵、最大の対価~
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縁を見て人を知る


シラキ達が単独勢力で挑み、最終的には命尾が介入したペレ戦。

結果的に地上側からは二勢力のみが参加したこの戦いであるが、本当はいくつかの勢力に参加を望む意思があった。

しかし、そのことごとくがこのとき援軍を送れない事情を抱えていた。


まずは最も交流のあるガリオラーデと、彼と近しい妖精郷。

彼らは散発的に攻撃を仕掛けてくるデスフェニックスの対応に追われていた。

シラキ達がペレと戦っていた時は、彼らの方も本格的な戦いが始まっていたのである。

この戦いでガリオラーデが一度は殺害したものの、デスフェニックスは不死鳥の名の通り復活を果たしていた。


次に南大陸の勢力であるセルセリアと大魔王。

南大陸は魔物が勢力を四分しており、大魔王、死峰山、天使、吸血鬼の勢力があった。

しかし吸血鬼の勢力がペレによって壊滅され冥界化して以降、亡者は大魔王との小競り合いを繰り返していた。

単に地域が冥界化しただけであれば、軍としても強大な大魔王は難なく対処できていただろう。

しかし明らかに偶然ではない疫病の蔓延により、大魔王は現在進行形で旧吸血鬼領を奪回できずにいる。

むしろ、もしこれが亜人属領であればとっくに深刻化していたであろう脅威を、水際で押しとどめ続けていると言える。

ちなみに大魔王領と共に旧吸血鬼領に接している死峰山は難攻不落で知られており、命尾のいない今でも娘である死峰山霊城(れいき)が変わらぬ堅牢ぶりを維持していた。

旧吸血鬼領と直接接していないセルセリアも、海と空の両方から攻撃を受けており、戦争状態が続いている。

南大陸最西端の海岸付近で行われる大規模な空戦は、率いる軍全体が飛行能力を持つセルセリアだからこそ可能な戦法だった。


最後に、冒険者達の本拠地ナシタ。

聖女シャンタルや騎士団長藍川が働きかけてくれたが、ナシタはナシタで死神と戦っていたので、援軍など出せようはずもなかった。

死神"愚鈍なる天秤"とは結局首都決戦が行われ、最終的には勝利を収めていた。

こちらの戦いも相当な死闘であり、ナシタが無事で済んだことは地上としても重要だ。

ナシタには冒険者ギルドを含めた世界中の組織の本拠地がある。

そのためナシタが陥落した場合、世界中の組織で指揮系統の混乱が起きかねなかったのだ。


しかし死神"愚鈍なる天秤"には逃げられてしまい、ナシタは精鋭での追撃を決定。

山間部での戦いが予想され、吉報を待つ、という状態だ。

また、ナシタに戦力を結集したために生まれた隙を埋めるため、リーズエイジが力を尽くしていた。

リーズエイジがペレに対応できなかったのは大体そのためということになっている。

ちなみに澄香もナシタ決戦には声がかかっていたのだが、無視してシラキの助けに向かっていた。


なおシラキは知らないが、中央大陸のさらに中央にある穀倉地帯は、冥界化している地域がある。

一都市とその周辺が丸まる冥界化しており、その地域の抑えにそれなりの戦力が割かれている訳だが。

北部にある天空城ケイチ入り口から南下していた命尾達が、時間がないとばかりに中央突破を敢行。

大した被害もなく冥界領域の戦力をぶち抜いており、結構な騒ぎになったりしていたのだった。















シラキのダンジョン


永寿と出会った次の日。

また視界のない状態での訓練を行おうというところ、永寿に裾を引っ張られた。


「やってみた」

「ん?何を?」

「見えないようにして歩いてみた」


永寿がそんなことを言ってきたのには驚いた。

彼女のことはまだ良く分からないが、もっと物事に無関心な子だと聞いていた。

実際永寿はまともに会話が成立するだけで珍しい少女であるのが、まだそこまではシラキも知らない。


「へえ、それでどうだった?」

「転んだ」

「あはは。痛くなかったかい?」

「少し」


永寿が無表情のまま言う言葉に、俺は思わず笑ってしまう。


ここは前回永寿と会ったときと同じく大樹の層。

練習のために歩いていたら入り口にいた彼女と遭遇した。

偶然か、出待ちされていたのか。

身長差が大きくて話しにくいため、俺は前回と同じくしゃがみ込んだ。


「どうしてそうしたの?」

「知りたかったから」

「何かわかった?」

「……大変だった」

「そりゃそうだ」


なんせ俺は転んだ結果、生えていた魔草の花に頭から突っ込んで、蜜で濡れたことだってある。

俺は面白くなって、永寿のほほを軽くつまむ。

その肌は瑞々しくてハリがあり、あまりのもち肌にぷにぷにといじり回してしまう。

しかし永寿は嫌がるでも喜ぶでもなくわずかに不思議そうな顔をしたまま動かない。

それどころか何を思ったのか永寿は俺のほほに両手を伸ばし、同じようにもみ始めた。

俺の肌は当然触るまでもなく、永寿ほどのもち肌ではない。


「……永寿?」


この世界に来て比較的慣れてきたものだが、永寿が相手だと名前を呼ぶのにも少し逡巡してしまう。

しかし死峰山と呼ぶわけにも行かないし、結局永寿(えいじゅ)と呼んでいる。


「ん」

「………何を知りたかったの?」

「うん」


俺がほほを放しても、しばらく永寿は離してくれなかった。

そして最後まで、俺の最後の質問にまともな答えは返ってこなかった。

彼女との会話はよく分からないことだらけである。


後に聞いたことだが、永寿は大樹の層を目隠ししたまま、杖と探知魔法だけで踏破したらしい。

特別得意でもない探知魔法を使って、突っかかったり転んだりしながら、時間をかけて。

良い根性している。素直に感心した。

ちなみに早い段階で美夜子に見つかって何やってるんだと聞かれたらしい。

美夜子は死峰山でも多少だが永寿の世話をしていたらしく、永寿が目隠しと杖を持ってどこぞへ消えていけば、気にもなったことだろう。

しかし永寿の話を聞いた美夜子は止めるわけでもなく、たまに様子を見るだけで放置したらしい。

何やってんだと一瞬思ったが、彼ら魔物、あるいは死峰山ではごく普通のことのようだ。

命尾の夫と子供がたくさんいて、しかもみんな死んでいると聞いたときほどではないが。なかなかのカルチャーギャップであった。


二回合ってからというもの、永寿が自分の後ろにくっついてくるようになった。

永寿が何を考えているのか、自分がどうするべきなのか。

分からないので美夜子に話を聞きに行ったものの、美夜子も分からないというしょうも無い結果に終わった。

しかし、永寿の行動に何かしらの変化が見られることは、今までにほとんど無かったのだという。

だからといって、それが何を意味しているのかも分からないのだが。


永寿に話しかけたり何かを聞いたりしても、普段はほとんど反応が返ってこない。

何ら反応を示さず、背後霊のごとく四六時中無言で付いてくる様は不気味ですらあった。

情緒が未発達とかいうレベルじゃない。幼稚園児でももう少し反応が返ってくるはずだと思う。

普通の人間であればかなりのストレスになりかねない状況だが、シラキはこれをスルーした。

というより、"そういうもの"として受け入れることに成功したのである。


シラキは、永寿のことを己が守るべきものであると認識した。


驚くべきことに、永寿と死鋒山の魔物達との間にはほとんど交流がなかった。

あっても多少の面倒を見ていたという美夜子を初めとした数人に加え、クラテールなどのわずかな若者のみ。

肉親である命尾と話したことすらほとんどないというのは、それが身近な人のことだということもあって、相当衝撃的だった。

ちなみに姉である霊城の方も命尾と親子の交わりは少なかったそうなのだが、仲間としての交流は普通にあったというからまた違うのだろう。

昔は死峰山では別に珍しくもなかったというし、それに関しては俺から何か言えることではないのだろう。

ものによっては交尾した後につがいを食い殺す生物だっていることだし。

そういう生態なのであれば、そういうものと受け入れるほか無い。


しかしシラキは、子供は親に愛されているべきだと思っている、理想としているところがある。

かつてフェデラに優しくしたのも、彼女が家族を持たなかったことが理由の一つにある。

だからシラキが永寿を放っておけないと思ったことも、おかしなことではなかった。


これらの事実に命尾は実に微妙な表情を浮かべたわけだが、ルティナは運命を、巡り合わせのようなものを強く感じていた。

何せ命尾の存在は、二重の意味でシラキの生命線になり得るものであったのだから。




















外見の好みの感覚というのはその時代、社会によって異なるものである。

近現代の人間であれば基本男女ともに、どちらかと言えばすらっとした体型が良いとされる。

だがこれは豊かで平和な国だからこそ起こった現象であり、食料の少なかった時代はふくよかな体つきの方が人気だ。

そのような体つきになれるほど豊かであるという事実が魅力であったからだ。

デブだ肥満だ等という言葉が問題になっているのは、人間の歴史からすれば極々わずかな期間でしかない。

人間の体が脂肪をため込むようにできているのもそのためだ。


翻ってこの世界ではどうか。

まず亜人族と魔族によって明確に基準が異なる。

亜人族は一概には言えないが比較的体は大きい方がよいが、それは健康さや財力、力が重視されるからだ。

詰まるところ生きる、生活する上での実利であり、そういう意味で外見はあまり重視されない。

ちなみにこれは割と男女共通認識である。

魔族の場合は魔力でも闘気でもとにかく力が求められる。

種族的に高レベルの魔物となれば話は変わるが、基本は力こそパワーだ。

何なら力が価値観の七割ぐらい占めていてもおかしくない。例外も多いが。

割と自然な流れであるようにも思うが、ここで一つ疑問がわいてくる。

なぜ見た目や体型をまるで気にしない魔族達が、人間から見たら美形の者が多いのだろうか。


そう魔族、というか人と似た見た目をしている魔族は、大抵俺の目から見て美形に分類される。

これが闘気主体の人間ならば話は分かる。

強い闘気を使える人間はそのまま強力な生命力を誇る訳で、肌は綺麗になるし、健康だし力も強い。

他にも淫魔やドリアードと言った人間と関わりの深い魔物も、美形なのは当然だと思う。

でもそれ以外の魔族が美人でイケメンなのはどういうことか。

そりゃ多少は美的価値観の共通する部分もあるが、魔族の美的感覚は亜人族とは全く異なるのが常識だ。


そういう疑問を、せっかくなのでペレ戦後にミテュルシオンさんと会ったときに聞いてみた。

この世界に来てから数カ月おきに合っているが、するのはいつも近況報告と雑談だけである。

ミテュルシオンさんは今現在の問題などに関わることはほとんど話さない。

しても既に死んだ人物の話だとか、千年前はどうだったとかそんな話であり、死神も含めて今も生きている人の話はほとんどしない。

そんな雑学扱いで聞いたわけだが、ミテュルシオンさんの回答は短かった。


「設定した者の趣味が悪かった」


この一言だけ、意味深である。

とりあえず色々分からないままだがそれはひとまず置いておくとして。

なぜ魔族が美形だと趣味が悪いのだろうか?


「前は今よりもずっと過酷で劇的な世界でした」


少し考えていると、ミテュルシオンさんがそう追加した。

その言葉で、嫌な予想が走った。

見た目が良い方が楽しいとか、そういう理由なんだろうか。

だとしたら俺個人としても良い意味で受け取りがたいし、ミテュルシオンさんらしくないとも思ってしまう。



この発想には、実のところ様々な事実に繋がりうる要素が含まれていたのだが、それが考察によって結実することはなかった。

長引く前にミテュルシオンが話題を変えることによって、この話が打ち切られたからだ。



ミテュルシオンさんが改めて始めたのは、魔法式の話。

唐突になぜか世界で誰も知らない魔法式の一部を教えてもらえた。


「これは出力次第で魔力の流路と隣接していなくても効果を発揮します。それに式と式の間からは特定の式を用いて陰の魔力を抽出できるのですよ」


というミテュルシオンの発言があったわけだが、説明を聞いても意味不明であった。

難関大学の数学の受験問題見た時のような感覚……でもないか。

結果はとりあえず分かるのだが何故そうなるのかが全く分からない。

明らかに俺が知っている魔法式の中でも頭一つ以上抜けて性能が良い。

これなら止まってた伏雷の魔法も作れるし、それどころかこの式で代替可能な魔法が軒並み性能上がるぞ。

別にバランス崩れるほどの騒ぎではないが、地味に長い歴史の中で作られてきた魔法達が大量に更新されうる性能をしている。

鐙がない時代の鐙とまでは行かないが、手洗い時代に洗濯板が出てくる程度のインパクトはあるかもしれない。

これは秘密にしておこう、ガリオラーデあたりに見せたら速攻でバレそうだが。

ちなみに何故こんなことを教えてくれたのか聞いたら、おまけだそうだった。


何の?てかどういうことなの?


なんだか分からないまま話は終わったのであった。







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