表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
死神三人衆 ~最大の敵、最大の対価~
94/96

炎の熊と目慣らし


目覚めてから大分たった頃。

ようやく軽く戦闘することを許可されたので、雲中庭園で運動することにした。

お相手は眷属の一人、ペレ戦で晴れてレベル7になった魔術師さん。

上級魔法や中級応用魔法をぼこすか撃ちまくって相殺し合う。


五十発以上の火球が爆音を奏でながら連続で爆発する。

走る熱線が地面から吹き上がる炎に吹き散らされる。

炎の丸鋸を十個一列に回転させながら走らせれば、その両側の外から炎の槍で一掃される。

火球を引き連れた炎の鳥が飛来すれば、放射状に広がる火炎でまとめて爆発させる。


お互いに炎属性魔法を使っているため、派手ではあるが、端から見ればオレンジと黒煙だけで色合いはいまいち。

互いに結構距離を置いて純粋に魔法を撃ち合うだけだと、なかなか決め手がない。

しかしこの状況なら目が見えなくても大して問題がないことが分かった。

何せ魔法なら他と比べてめちゃくちゃ感知がしやすい。こちらの魔法にも特に制限無いし。

本当なら魔力が混じりまくってなんとかスキー粒子みたいに感知が難しくなるのだろうが、そこは魔法博士。こんな状況でもしっかり周りが分かる感知魔法をサラッと組んでくれた。

適当なところで切り上げて選手交代。問題はここからだ。


次のお相手はドリアードレベル7、走り回る弓兵だ。

彼女たちは槍とかナイフとか使う者もいるけど、今回は弓兵。

ちなみに大人体型で黄色い長髪のドリアードで、頭の大きな赤い花が特徴的である。

森が本領の彼女たちだが、ここは所々に足場になる雲が浮いているだけで、基本平地だ。

俺は一発の火力よりも攻撃範囲を重視した魔法でドリアードの接近を防ぐ。

ちょくちょく飛んでくる矢はそれなりに強力で気が抜けない。

そもそもドリアードは補助妨害能力を持つが、直接攻撃はほぼ手持ちの武器だけ。自分の武器の扱いはうまい。

一回で五発撃ったり連射したりできるほかにも、一発に力を込めればレベル7相当の、上級応用魔法みたいな矢が飛んでくる。

矢は魔力をまとって放たれるため感知自体は簡単なんだが、迎撃が楽かといえばそうでもない。

目が見えない状態で、速くて小さい攻撃を迎撃するのは難しかった。

そのため打ち落とすよりも防ぐ方向に遷移し、常時魔法の盾を前方にはり続けることで対処。

そもそもドリアードは直接戦闘要員ではなく、攻撃能力はそれほど高くない。

どう考えても一人で戦うより誰かとチームで戦った方が役に立つ人材である。


人選を間違えただろうか。あるいは誰がアタッカーと組ませるべきだったか。

しかし飛んでくる矢が怖くて盾から気を抜けないのも事実で、そのせいで攻めが甘くなってしまう。

そのとき飛んできた矢が爆発するようにして暴風をまき散らすと、それと同時にドリアードが接近してくる。

吹き飛ばされないように踏ん張っていると、地面の雲から出てきた蔓が素早く体に巻き付いていく。

ドリアードやアルラウネが得意とする蔓の操作だ。実際には別物らしいが。

コートオブファルシオンから刃を出して切り払うが、いくらかの時間は稼がれてしまった。

大分露出度の高い服装のどこから取り出したのか、ナイフを持ったドリアードと接近戦に移行する。

体と魔力の動きから攻撃を避けるが、やはり接近戦は厳しい。

魔法の盾を挟んで距離を開けようとするが、うまくいかない。

半端な盾だと簡単に割られるし、かといって強い盾をはれる余裕はない。


分かってはいるのだ、本当はコートオブファルシオンと結晶武器の性能を、無難に生かして攻めれば普通に勝てる。

俺の基本性能と武装は実際世界でも有数、下手に小細工を弄するよりも真っ正面から愚直に押した方が強い。

頭の悪い攻め方だがそれが今はベターである。

それができてないのは精神的な問題だ。ようはビビってるのである。

目が見えないだけでそこまで変わるかといえば、まあ、変わるけど。

元から怖がりなところに追加で目まで見えないせいで、今はいろいろなことが怖い。

目が見えない生活を続けていて実感するが、決して怖くないわけではないのだ。

戦うのが怖いし、周りに誰かいないのも怖いし、知らない誰かに近づくことすら怖い。

目が見えないというのはそれ以上の重しとなって俺にのしかかり、ずいぶんと苦戦することになった。

観戦者達には情けない姿を見せてしまったことだろう。


その日はその後少し運動して終わりになり、後日また別の人と対戦を組んだ。

相手は次の遠征で同行予定、命尾の部下の中でも上位の魔物、クラテール。

褐色の肌、赤い短髪、筋肉質でガタイのいい青年だ。

元は熊らしいのだが、少なくとも今は外見上人間と区別がつかない。

その高い身長よりも大きい赤黒い斧を持っており、その武器ランクはA-、遺産(legacy)級の一品である。

魔物の中では少数派である闘気使いであり、レベルは8の上位。純粋な前衛として非常に優秀だそうだ。


「よろしく」

「おう、よろしくな。おまえの力、見せてもらうぜ」


気さくな彼の声と共に始まった戦いは、単純だった。

クラテールはその高い攻撃力・耐久力でガンガン接近してくる。

赤黒い斧とは対照的に、明るい赤色をしたゴツい全身鎧が炎のオーラのようなものを纏い、かなりダメージを軽減しているらしい。

一方俺は魔法を撃ちながらできるだけ距離を取る。

中級応用魔法から上級応用魔法を中心に、攻撃系に時々妨害系を織り交ぜて撃ちまくる。

その多くを斧の大ぶりで切り払うか、強靱な肉体で受けて突破する。

彼我の距離は精々四十メートルほど。何の障害もなければ、彼は秒で詰めてくるだろう。

しかしこちらが絶え間なく魔法を打ち込んでいるため、そのスピードは速くない。

そして彼の耐久力は高いようだが、確実にダメージが入ってはいる。

微妙なところだが、このまま続けば多少こちらが有利か。


「やるな!昨日もそうだが、よくこれだけ魔法を連打できる!」


クラテールの賞賛を受け、俺も魔法の音に負けない程度に声を張る。


「どうも、そちらこそ、全然疲れた様子もないな」

「体力が自慢だからな!だが、そろそろ行くぜぇ!!!」


気合いの声と共に、クラテールは戦術を変更する。

炎の鎧を解除したと思うと、明らかに様子が変わった。

持っていた大きな斧、その中心に閉じていた目が、カッと目を開いたのだ。


「起きやがれぇ!!!魔鋼眼光(まこうがんこう)!!!」


鎧がなくなり、魔法に体を傷つけられつつも、クラテールは飛び上がって勢いよく斧を振り下ろした。


「オラァアアアア!!!!」


大きな斧が雲でできた地面を打ち付けると、爆発したかのように大きな音がとどろく。

赤黒い衝撃波というか、土石流のようなものが俺の放った魔法を押しのけて迫る。

俺は魔法で加速しつつ斜め後方に跳躍し、浮いていた雲に着地してその波をやり過ごした。

かなりの威力だ。

俺が放っていた魔法はすべてはじかれるか飲み込まれてしまい、後には巻き上げられた煙のみ。

攻撃範囲も移動速度も良く、俺は避けるのに集中したために一瞬敵の位置をロストする。

そんな俺に、急速飛来する物体。

炎をジェット噴射のようにして飛び上がったクラテールだ。

距離を詰めたクラテールの振るう斧を、横に飛び降りるようにして躱す。

足場の雲は何ら抵抗にもならずに露と消えた。


「やっぱはえぇな避けるのがよ!」

「とっさの回避はまあ得意でね!」


俺が落ちながら両手で放った二本の風属性中級応用魔法ウインドセイバーをクラテールは難なく打ち払う。

赤黒い斧を後ろに向け、炎を爆発させるようにして撃ち出される。

攻撃してから追撃に入ったクラテールが、こちらに追いつくまでには多少の間がある。

そこで俺は魔力をためつつ、コートオブファルシオンを変形させた翼を用いて、空を飛ぶ。

そうして俺は直線上に撃ち出されたクラテールを悠々と躱した。


「んな、飛べんのかよ!?」

「慣れたものだ」


つぶやくように口にする。

慌てて体勢を立て直し、ひとまず着地することにしたクラテールを見下ろして、魔法の準備を行う。

階層の天井にゴロゴロと音の鳴る黒い雲が出現し、俺がいる場所を中心として横に広がっていく。

着地したクラテールはその様子をみて鎧を出現させ、赤い炎の闘気を溜め始めた。


「雷帝樂天」


俺は何かと便利に使い倒している最上級魔法を放った。

白く明るい雲中庭園に浮かび上がる雷撃が、広がった黒雲から一カ所に収束するように降り注ぐ。

クラテールはうなり声を上げながらも、闘気を噴出させて雷を耐える。

炎が固まったようにして一回り以上も大きくなった鎧が、軽く撃ったとはいえ最上級魔法をも防ぐ。

雷撃が収まると、ダメージこそ入っているだろうが、十分に耐えきったらしいクラテールの姿があった。

かなりの防御力、耐久力であると言えるだろう。


いかにしてこのタフな相手を打倒するかと考えていると、クラテールの方が先に動いた。

明るい炎が左手に集まると、非常に高温であろう白身がかかった球体に変わる。

それを浮かべると、斧のフルスイングで撃ち出した。


それなりに速いが、予備動作をじっくり眺めていた俺は余裕を持って回避する。

その後はさらに鎧を厚くして散発的に射撃を撃ってくる。

完全に防御態勢である。


その後の戦いは、終始優位に進めることとなった。

忘れがちだが、世の中鳥でもないのに空を自由に飛べる者は少ない。

近接攻撃主体で機動力はそれほどでもないクラテールが、自由に空を飛び回るシラキに勝つのは、あまりに難しかった。

クラテールのタフネスもかなりのものだったが、シラキは貫通力を高めた雷撃の槍で鎧を貫いた。

最終的に魔鋼眼光を用いて大規模攻撃を仕掛けるも、高機動のシラキを捉えるには至らず。

飛行能力の優位性を証明する形でシラキは勝利を収めたのだった。















「一体どうやったらあんなに飛べるようになるんだ?人間だろ?」


椅子にどかっと座り足を組んだクラテールが聞いてくる。

アテリトートの時もやった気がするが、机を挟んでクラテールと感想戦だ。


「ソリフィスとユニゾンで飛び回ってたら、一人でもできるようになってたんだよね」

「マジかよ。やべーな、ユニゾン」


間違いなくこれが原因だろう。

人間たとえ飛行可能な技が使えたって、そう簡単には飛べるようにならない。

元々二本腕である人間に、腕が一本増えてもまともに扱えない。

それと同じく、元々空を飛ばない人間には、たとえ翼が会っても飛ぶのは難しい。

しかしシラキはソリフィスと何度もユニゾンし、空を飛んでいる。

ソリフィスが空を飛ぶ感覚を、自分で行っているのとほぼ変わらないように感じているのである。

空を飛べる生物から飛び方を直接脳にコピーされたようになっているのだ。

彼らのユニゾン率は非常に高く、相手が主体となればシラキは四足歩行で走れるし、翼で空も飛べる。

常人には実行不可能な練習方法であった。

ちなみにレフィルもソリフィスもやはり人体を普通に動かせるようになっている。


「クラテールの斧はアレ目が開いてるときだけ強いわけ?」

「いや、魔鋼眼光は目が閉じてる時間に応じて、次に目を開けたときの技が強化される」

「あ、そういう。だから最後は防御固めてたんだ、時間稼ぎで」

「まあなぁ。正直アンタを捉えるのはよっぽどタメないと駄目だろうってのは分かってたからな。それだけ広範囲の攻撃は魔鋼眼光がなきゃ撃てねぇし」


魔鋼眼光は目の近くに火気があるときは閉じており、そうでないときは開いている。

クラテールの炎の鎧は、魔鋼眼光の目を閉じさせる役割も担っていた。


「前線能力高いよね。硬いしタフだし…てかあの炎の鎧何?」

「ありゃ獣器だ。ああ、ウエポンズビーストのことな」

「それってそんなこともできたのか……なんか固有能力的なサムシングを感じる…」


ぼそっとつぶやく。

レフィルは骨みたいな手、ソリフィスは角だしてるのを見たことがある。

ウルフのみんなを見てると、爪とか牙とか大抵近接攻撃用の刃物を出してる。

でも使わない魔物の方が多いし、結構よく分からない能力だ。


「つっても近接戦闘できなきゃどうしようもねえからな。広い場所で高機動遠距離相手はキツいぜ」

「クラテールはでも後衛守るのに適してるよね。闘気型だし」

「そっちは全域いけるんだろ、目が見えれば。どーなってんだ」

「そこはルティナパワーでね」

「大したもんだぜ」


人間が普通にやったら俺みたいにはならない、当然である。

なぜか魔法使いのくせに普通に近接するし、高機動型だし。

オールラウンダーなのは良いけど悪くいえば中途半端だし、器用貧乏になるのがオチだ。

やっぱりルティナパワーのせいだといわざるを得ない。


「つっても結構余裕なかったよ。そもそも空飛ぶのはかなり集中力いるし、疲れる。目が見えないから倍率ドン!」

「人間だからしゃあないさ。てかそうか。案外持久戦するべきだったのか、俺は」

「最初から分かってたら多分また違ったろうね」


クラテールは気さくで、どちらかと言えばおとなしいタイプの俺でも割と話しやすかった。

次の遠征のメンバーなのだから、気が合うのはうれしい話だ。

命尾とルティナが本気で選んだメンバーであるため、悪いわけがないのだった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ