子どものように生きる魔物達
33日目
第五階層廊下
シラキ、アイハラシラキよ、何か大切なことを忘れていないか?
か、神様!?ミテュルシオン様!?
……という様な漫才を脳内で行いながら歩く。
つまり、ダンジョンは人だ!ということだ。
"国は人"のノリだな。
いや、魔物だけどさ。
魔物はダンジョン、魔物は塹壕、魔物は罠!
…冗談です、多分。
何にせよダンジョン内の魔物の様子を見ておこうという話だ。
魔方陣からボス部屋(の奥の部屋)に跳んでボス部屋に出てみると、ソリフィスがグリフォン四人相手に訓練を行っている。
今行っているのは、連携の訓練だろうか?
動き回り続けるソリフィスに対して、常に四方を囲み続けられるようにグリフォンが動いている。
なるほど、この訓練なら大怪我は負わないだろうし、たまにソリフィスが放つ牽制やフェイントがうまい具合に実戦になぞらえている。
だだっ広いボス部屋を縦横無尽に駆け回る姿は見ていて楽しい。
それにソリフィスほどのヒポグリフの動きを追うのは相当難しい。
なんと言っても空飛ぶ馬だ。
それはそれは速い。
まあグリフォンだって空飛ぶライオンだが。
ヒポグリフもグリフィンも筋力と素早さ、スタミナは高いが、魔法は使えない。
…ソリフィスは特殊。
この二種族の追いかけっこはなかなかの迫力だった。
ちなみにソリフィスはすぐに俺に気付いていたが、グリフォンはそうでもなかったらしく、訓練の合間に俺に気がついて驚いていた。
そしてその隙にソリフィスに蹴り飛ばされていた。
人の視察を邪魔するヤツは馬に蹴られて…何という理不尽。
戦闘中故致し方なし。
俺はソリフィスの訓練をしばらく観察し、その後は横を通って洞窟を歩く。
向かったのは、クイーンビーが巣を作った場所。
ダンジョン入り口からは全くの反対方向で、洞窟区画の一部屋を占拠している。
猫ほどの大きさのある蜂なのでお察しではあるが、巣は今の時点でも大型トラックと同じぐらいの大きさがある。
作ってる途中だけど。
しかし、いやぁ…。
すごいね。
割と考え無しに召喚したけどこうなるとはね。
レベル2のニードルビーは、空を飛べるけど速くはないし、針こそ強力だがその他の能力は貧弱。
クイーンはレベルは5だけど戦闘力はほとんどない。
増やす・増やす・ひたすら増やす。それだけ。
…十分脅威だわ。
こんなのが裏山にでも住み着こうものなら村が滅びる。
外から声をかけ、出てきたニードルビーに進捗状況を尋ねてみる。
念話で。
言葉は分からないが、何となく巣ができるまであと五日はかかると分かった。
もうめちゃくちゃだな。
蜂と意思疎通してるよ俺。
次に遭遇したのはコボルトの群れ。
というかコボルトロードを中心にした十数匹のコボルト。
こいつらはいつの間にか住み着いていた野良だ。
俺を見て驚いていたが、軽い警戒モードに入った。
ふむ、一応ダンジョンマスターである俺を襲うことはしないらしい。
彼らは俺の眷属ではないので意思疎通ができないが、まあ気にしない。
そのまま歩いていると、大部屋でゴブリンが思い思いにくつろいでいた。
武器防具の手入れをしている者、横になっている者、なにやら数人で話している者。
人間と似たようなものだな。
俺を見るとみんなすぐに姿勢を正したが、正直居心地が悪い。
適当にあいさつして大部屋を後にした。
引き続き蟻の巣のような洞窟の道を歩いていると、魔物の集団が近づいてくるのが分かった。
ダンジョンにいる以上俺は道も分かるし魔物の位置も分かるのだ。
近づいてくる一団は速さからして狼だな。
まあ、そうでなくても眷属は分かるが。
部屋に入り、足を止めたあたりで横の道から狼の群れが飛び出してきた。
全体的にデカい。
俺がいる位置とは反対側の壁の前で静止し、シルバーウルフだけが俺に歩み寄ってくる。
ちょこん、ぺこり。
擬音にするとこんな感じだった。
大きさ的には俺より大きいのだが、何かかわいい。
お座りしたシルバーウルフに飛びかかり、遠慮なくカシャカシャもふもふとしていると、シルバーウルフの声?が聞こえる。
(お供しても?)
そう言ったんだと思う、多分。
(ばっちこーい)
多分こんな会話。
何となくで言葉のない意志のやり取りしているので、当然適当だ。
……何か自分が人間離れしていくことを自覚するなぁ。
ハウンドウルフは速さと連携が売り。
攻撃は普通、他は貧弱。
最低レベルの魔物だが、群れになるとその強さは大きく上昇する。
ウルフソーサラーは魔法が使えるハウンドウルフ。
こいつも単体では弱いが群れに交じってると群れがかなり強くなる。
シルバーウルフはハウンドと比べて別物の強さだ。
更に速くなり攻撃力も高く、スタミナもある。
魔法も多少は使えるし、頭も悪くないし、レベル5の面目躍如といったところか。
ハウンドウルフ、ウルフソーサラーが群れでどこかへと走って行き、残ったシルバーウルフと共に移動する。
途中インプやグリズリーといった野良魔物とすれ違ったが、どちらもこちらを見ているだけだった。
インプ、レベル1。
子鬼。
身長七十センチくらいで羽があり、灰色の肌を持つ。
簡単な魔法も使えるが、それでも弱い。
単体でゴブリン以下だが、集団戦では生きるかも。
グリズリー、レベル3。
熊。
魔法っ気はないが肉体的に強力。
多分サシならホブゴブリンより強い。
襲ってきたら熊鍋にしてやろう、とは後になってから思った。
あれくらいならサシでも勝てる。
むしろ横にいるシルバーウルフの方がヤバいと思う。
多分良い勝負になりそう。
魔法使いって速い敵苦手だけどね。
そんなことを考えながら進むと、召喚組最後のパーティーと遭遇。
つまり狐の群れ。
俺が歩いているとどういうわけかフォックスシャーマンの一匹が歩いてきて、俺にあいさつした。
(マスター、お元気そうで何よりです!)
えっ。
さすがに驚いた。
なに、この、なに?
明確に女性っぽい元気な敬語が飛んできた、っていうの?
そもそも形のない意志のやり取りではなく、ちゃんとした言葉を発しているのだ。
しかも念話で。
「お、おう。元気そうだな」
横ではシルバーウルフが彼女?を軽くにらみつける。
そして彼女は涼しい顔で受け流す。
何、確執でもあるの?
そんなことを思いながらも彼女に先導され群れの前に出る。
狐たちは多少姿勢を正したものの、会釈する以外は特別何もしてこない。
「もしかしてリーダーなのか?」
(はい!私たちを動かすときはいつでも私にお声かけ下さい!)
ちょっとこの子が流暢すぎて戸惑うな。
他の魔物達はそんなに明瞭に話すことはできず、鳴き声から相手の意図を把握する、みたいなことやっているのだ。
…まあでも元気なのは良いことだ。
「そうか。まあさしあたっては斥候として活躍する機会が多いだろうから、よろしくな」
ハウンドフォックス、レベル3。
基本的には牙と爪で戦い、魔法に耐性がある。
レベル3の中では弱い方だが、割と増えやすい。
フォックスシャーマン、レベル4。
幻惑系の魔法が得意。
隠れて偵察したり、援護や嫌がらせで本領を発揮する。
正面から戦ってはいけないタイプ、裏方に徹してもらおう。
(はい!マスターのため、誠心誠意働かせていただきます!)
「おう」
どうしたんだろう、この子の意志からあけすけな敬愛に似たものを感じる。
どういうことだってばよ。
分からないことは聞く。
なぜなら物知りが近くにいるからだ。
(どういうことだ、ルティナ!)
第五階層にいるルティナと念話で話す。
(つまり世界は滅、じゃなくて、シラキさんは彼らにとって父であり主。敬って自然なんですね)
そうか、父か。
……そうか?
それにしては他の子達が淡泊ではないか。
いや、少年でもないしそんなものか。
(愛の子は愛)
そしてルティナから送られる一言。
ああ、うん。ルティナが何を言ってるのかは分かった。
俺が無意識にでも愛を持って召喚したから、この子達も愛を持って接するのだ。…とでも言いたいんだろう。
動物の魔物にこんな目で見られるほど影響を与えるとはたまげた深層心理だな!
俺のどこにそれほどの愛があるのか甚だ謎だ。
(あとシラキさん、感じたと思いますけど、その意志のやり取りは自分の感情を隠せないので気をつけて下さい。そのうちビー達が泣きますよ)
ああっ、ダメ出しが来た!
つまり蜂たちと接触するに当たって、俺の恐怖と不快と困惑がない交ぜになったような思いがダダ漏れだったわけだ。
主失格ですわ。
(分かった、気をつける)
通信終了。
(マスター、ご視察ですね?私もご一緒して良いですか?)
彼女が俺の念話が終わるのを待っていたかのように話しかけてきた。
いや、実際待っていたのだろう。
「え?いや、そんなに大したものじゃ。散歩みたいなものでさ…そうだな、一緒に来るか」
フォックスシャーマンが仲間に加わった。
……元々仲間だろう。
「ところで名前はあるのか?」
(あっ、申し遅れました。私の名前は命尾と言います。今後とも、よろしく!)
アイエエエエエエエエエエ!日本語!?日本語ナンデ!?
…てかよく考えたら横文字じゃない魔法とかいっぱいあったじゃん、魔法の盾とか。
ならば名前も日本語でも構わないのか。
「あ、ああ。よろしくな」
狼と狐。
お供を二人連れてダンジョン内を歩く。
眷属の仲間には全員合ったので、次の目的はごく少量だが仕掛けられているトラップだ。
無数の分かれ道を迷うこともなく進み、数分で目的の場所に着く。
それは洞窟の中の一室、半径十メートル程の円形の広場だ。
光る植物たちに照らされた一室は、ダンジョン内の他の部屋と比べておかしな所はないように見える。
しかしダンジョンマスターである俺にはここに何があるのかしっかりと知覚できていた。
手をかざして仕掛けを起動させれば、地面に魔方陣が浮き上がる。
(見たところ、転移の魔方陣でしょうか?)
マジか、魔方陣見ただけでそれがどういう魔法を起こす物なのか見抜いたのか。
基本的に知識面最弱から始て間もない俺にはハードルが高い芸当だな。
「すごいな!見ただけで分かったのか?」
(えへへ、こういうのは得意分野でして。でもすごいです、マスター!転移魔法を当然のように使えるなんて!)
へ?
どういうことだ?
「いや、俺が使ってるんじゃなくてダンジョンの力だけど」
(でも、マスターはダンジョンマスターとして選ばれたわけですから、もはやマスターの力と言っていいのでは?)
?
どういうことだ?
首をかしげる。
(えっと、つまりですね、ダンジョンマスターとダンジョンコアというのは、ボスとは違って魂でつながっていると聞きます。生命として最も深いところでつながっているのですから、もはやダンジョンコアもあなたの一部なのでは?)
そうなの!?
「初耳だ」
(すみません、私も確証はないのですが……ルティーヌ様に聞かれては?)
「ルティナのことか?」
(あっ、はい、ルティナ様です)
ルティーヌ…?
まあルテイエンクゥルヌだからルティーヌでもあってるか。
「んー……まあ、後で聞いてみるよ」
元々魔方陣を見に来ただけだしな。
あと転移の魔法がそんなにすごい物なのかも聞いておかないと。
これが終わった後、食事中にでも聞くか。
俺は一人頷いてそのことを一旦置いておき、頭を目の前の魔方陣の話に切り替える。
この魔方陣はルートトラップ。
命尾が言った通り、転移の魔方陣だ。
使い方は簡単。
この上に乗った奴を"石の中にいる"状態にする。
……冗談だ。
そんな凶悪即死トラップではない。
というか瞬間移動では物体がある場所には転移できないらしい。
空気や魔力なら問題ないが、液体や固体はアウト。
そもそもこの魔方陣はとばす先に同様の魔方陣がないととばせない。
おかげで転移で即死させるのは難しくなった。
まあ、溶岩の真上だとか出口のない部屋とかには送れるんだけどね。
そういう使い方をするわけじゃないから、単純に分断や幻惑に使うわけだ。
この仕掛けはなかなかに便利で、ボス部屋の中にとばしたりできるし、何より自分もとばせる。
つまり俺や仲間の移動に使えるのだ。
「よし、飛ぶぞ。準備は良いか?」
(いつでも)
(どうぞ!)
うまい具合に二人の意志と声が重なった。
またお互いににらみ合いを始める。
俺はつい笑みを浮かべ、魔方陣を起動した。
そうしてダンジョン内にいくつか設置した魔方陣を見て回った。
命尾もシルバーウルフも結構楽しそうだったから何よりだ。
その後食事中にルティナに話を聞いてみたが、意外な答えが返った来た。
まず転移の呪文だが、思っていたよりもレアだったらしい。
まず個人で使えるのは世界中でも数えるほど。
設置型の魔方陣などを使い、事前に準備を整えた上で使える組織が一握り。
それも冒険者ギルドや魔王軍などの大御所であり、要するに数えるほどだ。
つまりその数えるほどに俺が入ってしまう。
ダンジョンマスター、というかダンジョンってすごいな、とまた実感した。
で、ダンジョンコアがどうたらという話。
まさかのルティナでも分からないという結果に。
ただ、もしそうであるなら色々納得がいく、というようなことをつぶやいていた。
ま さ に 神 の 領 域
そこに踏み込むと知恵熱が出そうなので聞かなかった。
鳥も鳴かずば撃たれまい。
主に自滅的な意味で。
33日目終了
設備投資
・転移魔方陣*5設置
合計マナ5000消費
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
総合C+攻撃C- 防御D 魔力量B- 魔法攻撃B- 魔法防御C すばやさC+ スタミナC- スキルC
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
ユニークスキル「 」
ダンジョン
保有マナ
24,130
ダンジョンの全魔物
ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)
迷宮植物:
ヒカリゴケ4400、ヒカリダケ550、魔草440
眷属・グループ(能力順):
グリフォン4
シルバーウルフ1、ウルフソーサラー5、ハウンドウルフ20
フォックスシャーマン10、ハウンドフォックス10
クイーンビー1、ニードルビー10
ゴブリン30
野良、その他:
ゴブリン29、ホブゴブリン3、コボルト18、コボルトロード1、ハウンドウルフ28、食人花11、インプ5
一階層
洞窟・迷宮
二階層
更地
三階層
更地
四階層
更地
五階層
コア、個室2、ダイニングキッチン、大浴場、保存庫