エンチャント、ポーション、クレスト
シラキのダンジョン
それは前触れもなくやってきた。
というかそれ自体が前触れだったわけだが。
侵入者の通知を受けて見てみたところ、表示されていたのはレオノーラの文字。
ダンジョンの入り口で仁王立ちする可愛らしい少女人形におののき、そして斥候に行ったフォックスシャーマンが白旗を掲げていることに気付く。
話を聞いてみれば、ラブレターもとい果たし状の配達に来たらしい。
手紙の文面は以下の通りだ。
シラキへ
20を超える国が滅び、地上の約二割の人魔が命を落とした今日この頃、いかがお過ごしでしょうか。
………死神である私の手紙じゃないかしらね。
私達は今西大陸で二つほど国を滅ぼしたところよ。
魔王である海のお姫様にあいさつを済ませたら、あなたたちの元へ向かうわ。
この手紙が届いてからちょうど一ヶ月(三十日後)、みんなでお邪魔するわ。
全力で行くから、そちらも全力で準備しておいてね。
ペレ、レオノーラより
ツッコミどころが多い手紙だった。
シラキのダンジョン
第六階層・中枢
俺は一人美しく光るダンジョンコアの前で腕を組みながら、物思いにふけっていた。
あの色々と言われている死神と戦うことが確定してしまったため、まずとりあえず手近なところから話を聞いてみたのだ。
「死神"煉獄よりの使者"ペレ。自称、戦闘力が全死神中二位。前回の終末では大魔王と互角に戦っていました」
「彼女の鎌は魂を攻撃します。防ぐ手段はなく、やられたら耐えるしかありません。私はかなり耐性があるので、可能な限り私が引き受けます」
「もしくらったら、とにかく心と体に力を入れて、意識を落とさないようにして下さい。失神は死につながります」
「私以外で多少なりとも耐性があるのはドラゴンの二人だけで、後は大体同じだと思って下さい。アテリトートでもまともにくらったら数発で死にます」
以上がルティナの言。
「そうね…癪に障るけれど、戦闘力は本物よ。私とルティナ、それにディレットが同時にかかって、何とか互角になるかどうか」
「あの死神の鎌に射程はなく、射線上にいさえすれば攻撃は当たるわ。鎌自体も当たったら死ぬ…そう思っておいて間違いないわね」
「移動は遅いけれど、実際に鎌を当てなくても攻撃できる分弱点にはなりにくいわ」
「とにかく、あの鎌の攻撃にだけは当たったらだめよ。でも、鎌以外使ってるところは見たことないわね」
「人形の方はほとんど実力を隠していたけれど……そうね、レベル12か13くらいはあるわ」
「防御力は高そうだけれど、それ以外は不明ね。能力や本体の見分け方も不明」
以上がアテリトートの言。
何故こんな事になっているのか、俺でもキツいなーと思う。
一人でレベル10越えを十数人も次々殺して回る様なヤツを相手にしてどう戦えというのか。
しかもそんなのがもう一人死神を連れて、手下まで引き連れてくるとか何の冗談だ。
こちらの戦力でレベル10以上なのはルティナ、ディレット、ソリフィス、ケントロ、クラージィヒト、アテリトートの六人だけ。
死ぬぞ。
ただでさえ目に見えて戦力で負けてるのに、もしワールドスキルとかが重なったら爆死どころの騒ぎじゃない。
あるいは「今回は特別でね、もう一人来ているんだよ☆」とかだったり連れてくる手下がスーパー大戦力だったりしてもアカン。
最初っから戦うことを避けるレベルだ。
本当に最悪の場合、逃げることを考えなければならないのだが、その選択肢はとりたくない。
ダンジョンコアを用いれば全員を別の場所に転移することができるため、最初からその気なら逃げること自体は可能だ。
しかし当のダンジョンコアを一緒に持ち去ることはできないので、その時点でこのダンジョンは放棄したことになる。
そうなった場合、当然俺はダンジョンマスターではなくなるし、ミテュルシオンさんが助けてくれるなんてことはありえない。
ダンジョンの環境でしか育たない魔物の食料がなくなるため、この規模の眷属の維持はまず不可能だ。
当然単独で俺の眷属を養える勢力など存在しないし、よしんばいたとしても伝手も何も無い。
主要メンバーと主力の一部くらいはガリオラーデのところで厄介になることもできるが、それ以外は無理だろう。
こんな良い条件で戦えることなんてそうそうない、いや今こそが最高の条件なのだ。
ここで逃げても、今よりさらに悪い条件で戦わなければならなくなるかもしれない。
アテリトートの民も住む場所に困ることになるだろう。
死神はペレの他にもいる、今だけ良くてもその後もあるのだ。
そもそもマスターでなくなった場合、俺の目的の内の一つであるミテュルシオンさんへの恩返しが達成出来なくなってしまう。
何せミテュルシオンさんの頼みにはダンジョンを用いて、という前提条件がある。
いつか邪神が扉から現れるとき、育てたダンジョンを使って何かしら邪神退治に貢献することが、言うなれば俺の使命。
報酬はもらった。
仲間達に対する責任もある。
ルティナや仲間達みんな、それぞれ目的や思惑はあれど終末のため、その目標は共通していた。
しかし戦って厳しいことも事実。
逃げてもいい、逃げられないわけではない。
この件に関しては、仲間達みんなから話を聞いた。
「誇りを失えば死んでいるのと同じよ。私たちは特にね」
アテリトートは、ある意味一番逃げるなと言った人物だ。
少なくとも、彼女なら同じ状況でも逃げない。
前回住民を逃がすために彼女も一緒に逃げざるを得なかったのは、おそらく苦渋の選択だっただろう。
しかし今や多くの住民が彼女の統治を離れ、残りは運命を同じくする者達だけ。
負ければ最後まで残った住民を道連れにする事になるが、それでもアテリトートなら逃げない。
戦ってほしいが、俺の考えは尊重するし、もし逃げるようなら止めはしないだろう。
直接的な言葉にしなかったのは、彼女の厳しさと優しさ、両方なのだと思う。
「戦いたいが、逃げるのならそれでもついて行く」
これが眷属の総意。
ソリフィスやリースですらそうだし、眷属ではないグノーシャも同意見だ。
ルティナも同意見ではあるのだが、それを言ったときの表情はかなり苦々しげだった。
どちらを選んでも厳しい道であることが、よくわかるからこそだろう。
「どちらでも良い」
唯一そういったのがフェデラ。
彼女は終末に関係無く、俺個人との関係で一緒にいると言える。
極論を言えば、フェデラは世界が滅んでもいい、そのことを気にしていないのだろう。
ミテュルシオンさんは失敗しても仕方ないと言うだろうし、ルティナもそうだ。
仲間達も、しょうがない奴めと言ったとしても、それでも許してくれるだろう。
戦えば確実に死者は出る、勝ったとしても、その後一体何人が笑っていられるか分からない。
もし逃げたとして、おそらく誰も俺を責めないだろう。
そう、俺以外は。
ここで逃げて目的を諦めるのは、俺がなりたい俺じゃない。
考えてみれば、やはり答えは決まっている。
眷属達の存在意義は終末と俺であり、恐れるものは生死にあらず。
そして俺達は、求めるがままに生き、求めるがままに死ぬ。
「逃げたときのための備えは、この際戦力に突っ込む。ルティナが逃げろとでも言うまでは、逃走はなしだ」
俺一人しかいないダンジョンの中枢で、俺は口に出して誓った。
俺にとっては最も重い、己自身への宣誓。
俺は、自分自身へ誓ったことを、破ったことなど一度も無い。
何せ慎重で臆病な俺は、絶対にできると思ったことしか自分自身へと約束しない。
こんな重大な決断など当然したこともなかったが、今回ばかりはその決意で挑む。
だからこそ、決めたらそこでは迷わない。
俺は召喚を開始する。
現状大量に保持しているマナを全てつぎ込んで戦力に変換する。
レベル 名前 数 必要マナ
lv8 錬金術師 1 45,000
lv5 錬金術師 100 250,000
lv8 エンチャンター 1 45,000
lv5 エンチャンター 100 250,000
lv8 紋章師 1 45,000
lv5 紋章師 200 500,000
合計1,135,000
非戦闘員であり、サポート要員の三種。
錬金術師は土を金に変えることはできないが、各種ポーションを作ることができる魔物だ。
ポーションは魔法の液体で、飲んだりかけたりすることで様々な効果を発揮する。
回復したり、バフデバフを掛けたり、魔法と似たようなことができる。
ポーションは使い捨てで数が必要なため、これからはひたすらポーションを作ってもらおう。
エンチャンターはRPGで言うところの装備品を作る事ができる魔物だ。
主に魔法の装飾品を作ることを得意とし、形状によるが魔物でも装備が可能だ。
ゲームと違って一人でいくつも装備できるうえ、人数も多いため、これからはひたすら製造に励んでもらおう。
紋章師は先の二人とは違い、主に魔方陣を作ることを得意とする。
魔方陣は条件を満たすことで発動する設置型の魔法であり、自分がその場にいなくても使えるため、トラップや補助として使われる。
強い効果を求めると小さくできないが、大きく作ればそれなりの効果を発揮する。
やってもらうことはダンジョンに魔法トラップを設置してもらうことなので、ある程度大きくても問題ない。
魔方陣はかなり汎用性が高いが、補助は前述の二種に任せるため、こちらは攻撃用だ。
ダンジョンの性質上、無茶して魔方陣自体に魔力を集める機構を作る必要は無い。
自力で補給ができないため魔力を使い切ったら動かなくなるが、本体が無事なら魔力を補充するだけで何度でも再使用可能だ。
ダンジョンは相当広く、トラップは全階層に作る予定なので、これからはひたすら魔方陣を作ってもらおう。
何か全員に同じような事を言ったような気がするが、実際彼らを前線に出そうという気はみじんも無い。
彼らがサポート要員という名の生産職であることもそうだが、彼らは基本戦闘力が低い。
作った物を本人が使わない以上、彼らは一個下のレベルの相手とタイマンしたって負ける。
もしも彼らを前線に出すような事態になっているとしたら確実に末期、というかもはや負けである。
次。
レベル 名前 数 必要マナ
lv5 ルーンフラワー 100 250,000
lv6 サラマンダー 400 2,600,000
lv7 サラマンダー 100 1,500,000
lv7 ヘルズランタン 100 1,500,000
合計5,850,000
まず召喚するのはルーンフラワー、魔力をため込む花だ。
大分特殊な魔物で、植物系の魔物というよりは、まんま植物だ。
ため込んだ魔力で純粋な魔力の爆弾を作り撃ち出すが、普通に対峙すれば戦闘力は無い。
しかし転移魔方陣を花の下に置いてやればあら不思議、敵からすれば突然付近に爆弾が飛んでくるというひどい攻撃に。
要するに転移魔法を用いて、魔力の爆弾を敵のすぐ近くに転移させようということだ。
上級応用魔法三発分程度しか撃てないが、固定砲台だと思えばなかなかだ。
普段はちょっとした魔力回復装置としても使えるので、ゴーレム遺跡ダンジョンに、何カ所かにまとめて設置。
どうせ吸血鬼達の居住区であるこの階層は戦闘では使わないので、ルーンフラワーを置くのに最適だ。
サラマンダーは単純に補充なので良いとして、同じく火属性のヘルズランタン。
炎のともされたシャンデリアの様な姿をした宙を浮く精霊だ。
ゆらゆらと揺れながらゆっくりと移動する、宙に浮く火炎放射器である。
同じ炎だしサラマンダーとセットな。
次。
レベル 名前 数 必要マナ
lv6 氷孔雀 10 65,000
lv6 ブレイズバード 10 65,000
lv6 ランドアウル 10 65,000
lv6 アクアペリー 10 65,000
lv5 シルバーウルフ 100 250,000
lv5 アッシュウルフ 100 250,000
lv5 魔術師 100 250,000
合計1,010,000
補充組。
眷属の中でも中核を成す魔物達なので、ここは厚くなければ。
最後、ダンジョンの設備。
名前 数 必要マナ
転移魔方陣・中 20 160,000
朽廃の大火 1 30,000
魔吸いの森 1 150,000
断畳の森 1 160,000
雪崩 1 100,000
刻々水 1 30,000
合計630,000
転移魔方陣はルーンフラワー用だ。
一つの魔方陣で十本のルーフラワーが出す魔力爆弾を転送する。
送る側が十個吸血鬼街に、受け手になる魔方陣をいくつかの階層に設置。
アテリトートを信頼していないわけではないが、転送は眷属のみに設定しておいた。
というか眷属以外が自由に使えるようにするためには、個別に登録しないといけないから普通にめんどくさい。
それ以外は各階層専用の大規模トラップで、説明は使うときに。
最終的なマナの消費は8,625,000で、残りのマナは9,195。
資金はほぼ使い切ったし、これが我がダンジョンの全力全開である。
俺はペレとの戦いを思い浮かべ、小さく息を吐いた。
410日目終了
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
総合A- 攻撃B 防御C+ 魔力量A 魔法攻撃A- 魔法防御B+ すばやさA スタミナB+ スキルA-
(すばやさA- → A)
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
シラキ本人が結晶と認識している物を創造・変形・支配する能力。
その支配力は神が世界に対して行うソレに似ている。
ユニークスキル「共鳴」
"運命の欠片" No008,037,060,066,095,-013
"運命の欠片"No008 スキル「滅亡の大地」
質量を持ち、空間と空間を繋げる闇を操る。
自身を中心に半径百メートルをダンジョンと同じ扱いにする。
自身が殺害した相手のマナを回収する。
"運命の欠片"No066 スキル「旅する小さな融合賢者」
ユニゾンを補佐する。
自身と相手がユニゾン技術を持たない場合でもユニゾンを可能にする。
また二人以上のユニゾンを可能にする。
保有マナ:9,195
ダンジョンの全魔物(有効数字二桁)
ボス:ソリフィス(lv10)
・迷宮植物
ヒカリゴケ12000、ヒカリダケ1700、魔草1200、枯果実の木80、魔物の木50
ルーンフラワー100、幻樹10000、願望桜5
・魔物
大樹のケントロ(lv10)、グノーシャ(lv8)、ノーム10(lv6)、ノーム29(lv5)、ノーム30(lv4)、ノーム30(lv3)
レフィル(lv9)、アッシュウルフ212(lv5)、シルバーウルフ222(lv5)、グレーウルフ330(lv3)、
フォックスシャーマン(二尾)32(lv5) (一尾)100(lv4)、ハウンドフォックス(二尾)30(lv4)(一尾)100(lv3)
リース(lv9)、魔術師30(lv6)、魔術師300(lv5)、見習い魔術師60(lv4)、見習い魔術師300(lv3)
サラマンダー(lv8)、サラマンダー100(lv7)、サラマンダー400(lv6)、サラマンダー100(lv5)、ヘルズランタン100(lv7)
ハースティ(lv9)、ソードホーク50(lv6)、ソードスワロー77(lv4)、100(lv3)
ライカ(lv9)、サンダーバード50(lv6)
カミドリ2(lv9)、氷孔雀50(lv6)、ブレイズバード50(lv6)、ランドアウル50(lv6)、アクアペリー50(lv6)
ビッグスノーマン(lv8)、ビッグスノーマン20(lv7)、イエティ80(lv5)、スノースクワラル300(lv4)
アルラウネ(lv8)、コカトリス10(lv7)、プランケティ15(lv7)、ギガバウム10(lv7)
ゴブリンヒーロー(lv7) 8(lv6)、ゴブリンシャーマン26(lv4)、ホブゴブリン46(lv4)、ゴブリン0(lv2)
コボルトヒーロー(lv8)、キマイラ4(lv6)、トロル12(lv5)
ヒポグリフ10(lv7)、グリフォン15(lv6)、グリフォン25(lv5)
クラージィヒト(lv10)
サラマンダー(lv8)、サラマンダー100(lv5)
ワイバーン2(lv8)
ニードルビー6500(lv2)
イートアント12300(lv1)
ドリアード5(lv6)、ドリアード100(lv5)
マッシュ1000000(lv2)
・非戦闘組
錬金術師(lv8)、錬金術師100(lv5)
エンチャンター(lv8)、エンチャンター100(lv5)
紋章師(lv8)、紋章師100(lv5)
ケプリ100(lv6)
クイーンビー20(lv5)、クイーンアント20(lv5)、
フュートウルフ550(lv2)、フュートフォックス130(lv2)
・その他
ルテイエンクゥルヌ(lv13)
フェデラフロウ=ブロシア=フォルクロア(lv7)
情熱竜ディレット=ヴィニョル(lv12)
アテリトート=レザウ・ミシュ
ダンジョンコア(lv5)
・ダンジョン内の存在からマナを回収
・ダンジョン内で倒れた存在からマナを回収
・ダンジョン内の眷属の強化
・魔物の召喚が可能
・ダンジョンの整備が可能
・複数の魔物をひとまとめに扱うことが可能
・補正の追加が可能
・動物族の眷属を追加で小強化
・魔獣族の眷属を追加で小強化
一階層
洞窟
迷宮
二階層
吹雪の山
三階層
幻樹の森
四階層
大樹の層
五階層
雲中庭園
六階層
中枢部 「コア」
個室 「シラキの部屋」「ルティナの部屋」「リースの部屋」「フェデラの部屋」
ダイニングキッチン
大浴場
保存庫
畑 「ドリアード本体」*105
七階層:罠満載墓地ダンジョン(小規模・低レベル)
八階層:迷宮型洞窟ダンジョン(小規模・低レベル)
九階層:迷宮型城塞ダンジョン(小規模・中レベル)
十階層:ゴーレム遺跡ダンジョン(中規模・中レベル)
十一階層:フールド型森ダンジョン(大規模・低レベル)
十二階層:巨大地底湖型洞窟ダンジョン(中規模・高レベル)
転移魔方陣・中 *100
転移魔方陣・大 *15