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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
死神三人衆 ~最大の敵、最大の対価~
79/96

死神と人間の戦い


シラキのダンジョン



射撃訓練演習魔法。

ある日ガリオラーデが得意げな笑みを浮かべて送ってきた魔法のアイテムだ。

発動媒体である杖に魔力を流し込み、ゲームスタート!

内容は単純で、いわゆる射撃訓練ゲームのそれだ。

ランダムで出てくる的を次々と撃ち抜き、その撃破数と正確性を競う。


ガリオラーデが作ったそのゲームだが、俺が好きだったのが影響したのかしないのか、すぐにみんなやりだした。

遠距離攻撃できない人はその時点でプレーできないのだが、なんとレフィルまで参加している。

彼はいつの間にやら遠距離攻撃手段を獲得しており、しかも相当威力が高く、有用な代物だった。

まあ今回威力は関係なく、必要なのはそこそこの数と正確性だが。

ちなみに的を覆い尽くすような大きな弾丸や、誘導弾はルール上禁止である。


俺は雷様のでんでん太鼓のように、拳ほどの大きさの発射台を背後に浮かべる。

九つの黄色く丸い発射台からは、サンダーバレットが発射可能だ。

別に射撃はいろいろあるのだが、せっかくの射撃ゲームなので、シンプルな魔法を選んだ。


次々と飛び出す標的を、撃ち、撃ち、撃つ。

普段精密射撃なんてやらないだけになかなか難しいが、ゲーム感覚で楽しめる。

今日一日はみんなでそれぞれ挑戦し、記録が出そろった。



91点 ルティナ

91点 クラージィヒト

86点 フェデラ

83点 リース

83点 アルラウネ


79点 アテリトート

78点 ドリアード達(平均)

78点 シラキ

77点 グノーシャ

75点 魔術師達(平均)

73点 ヘルズランタン達(平均)

71点 ソリフィス


66点 ノーム達(平均)

62点 ディレット

59点 ゴブリンシャーマン達(平均)


54点 ハースティ

54点 カミドリ

50点 レフィル

49点 コカトリス達(平均)

48点 属性鳥達(平均)

44点 ライカ



一位はルティナとクラージィヒトが同着、この二人がトップなのは予想通りと言えるだろう。

あの二人は万能キャラで、大抵のことは苦もなくやってのけるから。

ただ、フェデラ三位は完全に予想外だった。

何せアテリトートやリース、ソリフィスを上回っての三位である。

魔物レベル換算で7のフェデラが、ほかの高レベル勢に少なくない差をつけて上回ったのだ。


この射撃ゲーム、レベル差がそのまま結果に反映されるかと言えば、実際にはそうでもない。

主に必要なのは魔力のコントロールと、空間把握能力、精密性だ。

魔物レベルというのは基本的な戦闘能力を基準にしているため、絶対的な基準ではない。

これらの能力は、どれもレベルにあまり反映されない能力なのだ。


しかしフェデラは魔力のコントロールがうまいうまいとは思っていたのだが、これほどだったとは。

わかりやすい上位存在であるルティナとクラージィヒトに迫るって、相当だからな。

魔術に秀でた参加者の点数が、80以下で団子になってるのを見るとよくわかる。

一応ドリアードや魔術師、ヘルズランタン達は個体によっては高い得点を出すのだが、それだって85点を超えた者はいない。

リースやアルラウネという純粋な魔力型でようやく80を超える程度だというのに。

いやー、すごい!


まあフェデラにこそ驚かされたが、ほかはある意味妥当な結果と言えるだろう。

魔力系の魔物が70代に固まっているし、とにかく精密射撃が苦手な属性鳥達の点数が低い。

彼らは撃ちまくるかばらまくか誘導弾を使うかで、良く狙ってとかやらないから。

いや、それにしたってライカはちょっと情けない結果だけど。

ライカと戦うときは、走り回って攻撃をばらけさせるとかなり当たりにくくなるのを思い出す。

高レベル組はアテリトートは普通として、ディレットが低いのは性格的に考えると納得する。

あの人すごいおおざっぱだから。

そもそも魔力は動かす量が増えれば増えるほどコントロールが難しくなる。

ディレットなんて使う魔力がすごい多いから、単純に難易度は高いんだけど。

まあ、性格ですね。

あるいは個性と言うべきか。

ゴブリンシャーマンは、単純に不器用。

ゴブリンは知能の低さが小手先の器用さにまで影響している気がする…。


「フェデラ、こちらへ」


この結果を見たルティナが、フェデラを呼び出す。


「呪いを活用する方法を探しているそうですね。アテリトートからその手の本も借りたとか」


アテリは一体何冊本を持ち込んだのだろうか。

というかいつ持ってきてどこに保管してるんだ?


「私も詳しくはありませんが、これからは呪いも教えます。あなたには合っていますし」


フェデラはもっと強くなるだろうし、俺も頑張るとしますか。

俺は二人の会話から意識を外し、射撃訓練を再開した。






















西大陸で起こった大規模な戦い。

西大陸最大の国である軍事帝国と、"煉獄よりの使者"ペレと"儚き少女が見た夢"レオノーラの率いる亡者達がぶつかった。

いくつかの会戦を経て丘を含む草原に陣取った帝国軍一万に対し、無造作に展開する亡者側の数は約二万ほど。

にらみ合いが長く続くこともなく、両者は激突した。


帝国軍は指揮系統をきっちり固め、兵科も歩兵・弓兵・魔術師・ゴーレム・飛行船とバランス良くそろっている。

ゴーレムを前線に配置し、その後ろに歩兵。

弓兵を丘上、魔術師を後方に置く陣形であり、この世界の戦争における基本的な布陣だ。

飛行船は帝国特有の兵器であり魔力を原料にして空を飛ぶ帆船である。

そこそこの高度を飛行でき、対空攻撃手段を持たない相手には強いが、それ以外に対してはそれほどでもない。

亡者相手だとワイバーンや邪竜ともやり合えるため、制空権を失わないのは大きい。

魔法という要因があったとしても、戦争の内容はそこまで大きくは変わらない。

戦いの趨勢を決する大規模魔法が用意されていたり、そのカウンター魔法が用意されていたり、ということはあるが。


一方の亡者達は、スケルトンが全体の半数以上を占めている。

しかし部隊や陣形と言った概念が薄く、その統一性のなさは、それぞれの兵科が固まっている帝国とは対照的だ。

前に出すべき種類の亡者が後方にいたり、下げるべき遠距離攻撃系が中間にいたりする。

スケルトンを中核としてはいても、軍とは名ばかりの混成部隊だ。

ペレとレオノーラもただ後方に陣取っているだけで、全く指揮する様子もなかった。

しかし数は多く、死を恐れず、個体としての戦闘力も低くない。

そんな亡者達の集団は、人々にとって十分に驚異たり得た。


動員されている軍一万というのは、帝国だけでなく西大陸としてもかなりの数であり、この規模の戦いはそう多くは起こらない。

もちろん歴史的に見ればそれなりにはあるのだが、今回は今までとは少し勝手が違う。

その理由は、もちろん終末にある。

亡者は主に門から現れるとはいえ、人間と魔族双方の手の届かない場所なら、大抵どこでも出現し得る。

都市と都市の間に出現することもあるので、どこから攻められるのかわからないのだ。

それらは特に手を取り合うわけでもないが、それなりの数で散発的に攻めてくる。

国同士の戦いにある後方という概念が薄いため、すべての都市に多めの防衛戦力が必要になる。

つまり、常よりも自由に動かせる兵士の数が少ないのだ。

この場にいるのは、帝国が自由に動かせる戦力の多くを占めていた。


戦いは序盤・中盤にかけて帝国側が有利に進めた。

亜人族、特に人間は協調することで非常に大きな力を発揮する。

いかに数が多かろうと、それぞれ勝手に戦う亡者達では、しっかりと統制された帝国を相手に優勢に立つことはできない。

亡者達は危険度の高い者、突出した者から次々と撃破されていった。


亡者側も個体で見れば強力な者が多い。

凶悪な酸を吐きかける白く巨大な芋虫、アシッドキャタピラー。

射程1kmにも及ぶ砲撃をスタミナの続く限り行うランチャースコーピオン。

安定して高い基本能力をもち、その巨体でことごとくを蹂躙するマーダーセンチピード。

最上級魔法を放つ終末術師に、強力な爆発を起こす自爆を行うボムマウス。


しかしそれらの強力な亡者達を、帝国は効果的に処理する方法を持っていた。

すなわち、それは帝国が誇る数々の宝を身にまとった、王子・王女たちである。


黄金の鎧を身につけて前線で大暴れし、マーダーセンチピートを撃破する第三王子。

中央から膨大な魔力と数々の魔道具でもって強力な魔法射撃を行い、最上級魔法を含めた遠距離攻撃を打ち落とす第二王子。

後方からすべての前線でボムネズミを侵入前に爆破させ、味方に補助魔法までかける第三王女。

この三人の王子・王女達こそが、まさにこの戦場のキーマンだった。


西大陸にそびえ立つこの軍事帝国には、戦場に立って功績を挙げた者が帝位を継ぐというしきたりがある。

そのため、そこで育つ彼らは戦場において強力な力を発揮する。

ある者は強大な力でもって前線を押し込み、ある者は神算鬼謀によって戦場を支配する。

しかも彼らはその国の大きさに比例した、数々の強力な武具を用いる。

宝具と呼ばれるような武具を複数持ち、どの戦場でも多大な功績を挙げるのだ。


帝国が有利な状況のままに時間は流れ、ついに亡者達の軍は壊滅状態に陥る。

戦いの趨勢が決し、帝国側の完全勝利で終わろうとしていた時。

流れのままに、そのまま消化試合、とはならなかった。

後方でただ眺めているだけだったペレがついに動き出し、戦場のど真ん中を歩き出したのだ。

ただ前に進むだけだった亡者達が、ペレにだけは道を譲るようにして、軍団にまっすぐな道ができる。


あいた道を突き進むペレとまず相対したのは、戦場の中央、前線で戦い続けていた第三王子。

彼はゆっくりと歩いてくるペレを見て、その場で屹立して待ち受けた。

その場所だけ周囲から隔絶されたかのように喧噪が遠ざかり、死神と王子は対面する。

一対一の戦いが始まった。

空間を包み混む、雷と爆音。

地をえぐる雷が周囲に降り注ぎ、暴威となって可憐な少女(しにがみ)へと襲いかかる第三王子。

ペレが振るう鎌は黄金の鎧をかすることすらなく、戦いはワンサイドゲームで終わるかに見えた。


それは、わずか十数秒で幕を閉じた。

外からの視界を遮るように降り注いでいた雷がやむと、後には無傷のペレだけが立っていた。

倒れ伏した金色の王子を一瞥すると、ペレは帝国軍に向かって走り出す。

その後の出来事は、あっという間だった。


強大な前線指揮官を失っても、多少浮き足立つだけにとどめた帝国軍。

その精強な軍の中を、ペレは一人、まるで無人の野を行くがごとく走り抜ける。

鎌が一降りされる毎に立ちふさがる人間が真っ二つに切り裂かれ、衝撃が人々をなぎ倒す。

そうして走るペレの前が唐突に開けると、そのあいた空間を、上級応用魔法の業火が飲み込む。

第二王子が放つ、強力な魔法だ。

洪水のように流れる炎を、ペレはかまうことなく走り抜ける。

そして炎の収まらぬうちに空から襲いかかる、ガイアストライクを何倍にも凶悪にしたような、土の最上級魔法。

ペレは立ち止まり、大きく振りかぶって鎌を振るうと、巨大な岩の塊は真っ二つに両断される。

二つに分かたれたことで、廻りの帝国兵の上に着弾した巨岩の間をペレが走り抜けると、最後の魔法が放たれる。

味方を巻き込むこともいとわずに出現した、巨大な氷柱。

しかし、結果は変わらなかった。

砕け散る氷塊から飛び出したペレが第二王子に肉薄し、その身の丈に合わない鎌を振りかぶる。

強力な魔法の連発で疲弊していたはずの第二王子は、その瞬間口元に笑みを浮かべた。

腰に差されたままの短剣の柄についていた宝玉から放たれる、小さく鋭く強力な魔法。

疲弊によって動けないふりをしていたはフェイク。

必殺の一撃が、ペレの体を突き抜けた。


そして、第二王子は切り裂かれ、絶命して倒れ伏した。

無傷のままのペレは、そのまま第三王女に向かって走り出した。




















「攻撃が当たらなかったってこと?」


神の子達の庭で、俺は対面して座っているガリオラーデに聞いた。


「いいや、そのときの攻撃は確かに当たったらしい。

 ドラゴンの鱗すら突き抜ける威力の魔法を受けて、なぜかすれ違ったペレは無傷だったそうだ。

 ただ、あの戦い横目で見ていた者は多くとも、冷静に観察できていた者はいない。

 妖精郷からも斥候は送っていたが、余波の及ばない遠くから監視していただけだからな。

 何が起こったかを推し量ることはできていない」


西大陸で起こった、ペレが参加した大規模な戦争。

ガリオラーデはその内容をある程度把握していた。

西大陸に住んでいるガリオラーデは、同じく西大陸にある妖精郷との関わりが深い。

そういうわけで、妖精郷の斥候が得た情報を、ガリオラーデも聞いているのだ。

ちなみにグノーシャも妖精郷出身であり、ガリオラーデと面識もあるのだとか。


「その後も"煉獄よりの使者"は軍を突き抜け、最後に残った王女の元まで到達した。

 ただ、帝国軍槍術師範と親衛隊、及び魔人"汚れなき悲哀"によって王女は撤退に成功。

 槍術師範と親衛隊は全滅。軍は前衛こそ大打撃を受けたが、後衛は無事に残ったそうだ」


数字だけ見れば亡者はほぼ壊滅、帝国軍はゴーレム兵と歩兵が壊滅であり、帝国軍の勝利といえる。

しかし、亡者はこれからも増え続けること、強力な戦士や王子を失ったことを考えれば実質的には帝国側の敗北だった。


「"煉獄よりの使者"はその後追撃に加わることもなく、優雅に歩いて戦場を離脱。しかも"儚き少女が見た夢"は終始見ているだけだったそうだ」


死神というやつは単体でも地上の法則を超越した能力を持っているというのに、それが二人固まっているというのだからたまらない。


「できることなら戦いたくはないな」

「否定はしない。まあおまえは"滅亡の大地"と戦っているし、そう何度も死神と戦うことはあるまい。あいつらは今西大陸だしな」

「それもそうだ」


はっはっは。

そうやってガリオラーデと話していると、ダンジョンに侵入者のメッセージが届けられる。

確認してみると、そこには思わず二度見してしまうようなことが書かれていた。








lv?"儚き少女が見た夢"





魔物レベルには、評価されない項目ですからね。

と、書いているときに思いました。

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