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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
魔王の在り方 ~隠されたものの切れ端を見る~
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死峰山と大魔王の密会



現在、世界には七人の魔王が存在している。

月天使、ノーライフキング、水圧の騎士姫、大魔導の申し子、水平線上の蒼月、氷帝、獣王。

この七人に大魔王一人を加えた八人が、魔族最大の意志決定機関となる。

サブナックが死亡した瞬間、必要となっていた「シラキのダンジョンでの共闘」の為の同意が、全て集まった。


直接対決により認めたのが"水平線上の蒼月"。

アテリトートが認めたから、というのが"水圧の騎士姫"、"獣王"の二人。

そのときの賭で認めたのが"ノーライフキング"。

元々ルティナつながりで認めていたのが"大魔導の申し子"。

ガリオラーデつながりで認めているのが"月天使"、"氷帝"、そして大魔王だ。


しかし一人、この中に当てはまらない魔王、いや元魔王が存在している。

それは七人の魔王と比べても非常に古い存在。

"死峰山"である。














南大陸

大魔王宮


南大陸の南部、険しい山の中腹に存在する大魔王宮に、一人の来訪者が訪れた。

見た目は完全に捻れたローブそのものである大魔王の側近が、来訪者が先代の死峰山の使者であることを確認すると、大魔王はすぐに玉座の間へと迎え入れた。

入ってきたのは猫の耳を生やし、尻尾を揺らしながら歩く、童顔でありながらも艶やかな表情をした少女。

黄土色の帯が特徴的な着物を着て、背中には槍を背負っている。


「久しぶり」

「"九導(くどう)の槍"。久しいな……ふむ。お主が一人で来たのか?隠居したとは言え、未だ大きな勢力であろう」


控えめな様子で端的にあいさつした猫の少女、"九導(くどう)の槍"に対し、大魔王が聞く。

大魔王に限らず他勢力への使者として、先代死峰山が一人だけを送ったことは、今までに一度も無い。

また"九導(くどう)の槍"は死峰山の手勢の中では最も戦闘力が高いが、だからといって外交に適した人物というわけではない。


「こっそり来た」


比較的小さな声でそう言う猫の少女は、懐から袋を取り出し、そこから手のひら大の水晶玉を取り出す。

その水晶玉がボウッと光ると、そこに一人の美しい女性の姿が映し出される。

彼女こそ、動物族の魔物達の山、死峰山の支配者たる魔王"死出の門番"だ……少なくとも、一年前までは。


「相変わらず、退屈そう」


狐の耳と九本の尻尾、非常に長くきつね色の髪を持った魔王は、水晶越しに大魔王をみて開口一番にそう言った。


「数百年ぶりに会ったというのに、開口一番にそれか。変わらんな、"導きの九神霊"よ」

「あなたこそ。"原初の魔人"。数千年、あるいは数万年の疲労に打ち勝つその姿。尊敬に値する」


大魔王は魔王を引退した"死出の門番"を、魔王になる前の呼び名、"導きの九神霊"と呼んだ。

お互いに若干の懐かしさをにじませながらも、水晶玉を通し、不敵な笑顔を浮かべて話す。


「しかしお主はもう戻ってこないと思っておったぞ。よしんば戻って来るとしても、数百年はかかると思っておったが」


大魔王は不思議だと言わんばかりの様子で言葉を続ける。


「迷いし魂をあの世へと送り届ける場所、死峰山。そこは裏切りと策謀で溢れておる。

 その管理者たる"死出の門番"も、速ければ数年で死して交代し、百年続けられる者は僅か。

 そんななか、数千年間"死出の門番"であり続けたお主は一年ほど前、突然引退を表明し、姿をくらました」


大魔王はそこまで言い、一度言葉を句切る。

少しの間だけ場を沈黙が覆い、その場では猫の少女の尻尾だけが左右に揺れ動いている。


「退屈は我々を殺す毒。私は陰鬱に殺された(・・・・)

「であれば、門番に戻るつもりもなかろう、かといって望みがあるとも思えない。終末の始動も分かっていて魔王を引退したお主が、一体何用で余の元を訪れたのか」


大魔王が強い視線を向ける。

僅かな間を置き、水晶玉の向こうに座る九尾の魔王は、無表情のまま口を開いた。


「ミテュルシオン様の真意を」

「真意とは、何に対する真意かね?」

「運命の欠片。ヒュノージェの子。終末。おそらく、これらはつながっているはず」


九尾の魔王の言葉に、大魔王が目を見開いて驚く。

それはごくごく僅かな存在しか知らないはずのことを、目の前の存在が口にした為だ。


「欠片を、知っていたのか。さすがは、死出の門番……!世界で最も魂に触れる者、よな」

「理由はあった。私でも、きっかけがなければ気づけなかった」


大魔王の言葉には、驚きと共に賞賛の響がこもっていた。

かつてケントニスが評したとおり、地上で"運命の欠片"の存在に気付く可能性があるのはごく僅かだ。


「だが、そうであったとしても解せんな。死出の門番は、世界で唯一生者に託された使命。言うなれば主神直属の眷属…最もミテュルシオン様と会ったことのある存在。

 そのお主ですら分からないミテュルシオン様の真意を、わざわざ余に聞くと?」


死峰山は、死ぬときに地上にとどまってしまった魂をあの世へと送り出す山だ。

それは世界の始まりより主神ミテュルシオンに下された使命であり、今に至るまで常にその使命は果たされてきた。

代々死峰山に住む動物系の魔族の内一人が"死峰山"の名字と"死出の門番"の役職を受け継ぎ、山を統括して使命を果たす。

すなわち主神より直接指示を受けた存在であり、主神とつながりがある数少ない存在なのだ。

ちなみに基本的に"死出の門番"は魔王を兼任してきたが、先代の死峰山が前代未聞の引退を行ったためか、今の"死出の門番"は魔王にはなっていない。


「死出の門番が生者の使命なら、アビスの門の守護者こそ死者の使命。古来より、おそらく死峰山と同時期から存在するその守護者をあなたは親友と呼んだ。

 曰く、世界最強の魔族。曰く、唯一無二の大魔王。曰く、世界最初の存在。あなたは世界が生まれたまさにその日、ミテュルシオン様に会っている!」


"導きの九神霊"は言葉を止めることなく、半ば叩きつけるようにして言葉を投げる。

訪れる沈黙。

そのときの場の空気、と言うより大魔王の様子は、直接話していない配下達、レベル10を超える魔族である彼らですら緊張させるものだった。

猫の少女は尻尾を丸めているし、捻れたローブの男は杖を持つその手を僅かに震わせていた。


「フッフッフ…ハーッハッハッハッハ!!!!!」


沈黙を破った大魔王は普段なら絶対に上げないような声で、大きく笑い出した。

その笑い声はしばらく続き、そしてまだ笑い足りなそうにしながら言葉を紡ぐ。


「全く、大したものだ!この世界、『穏やかなる神の・因果と・終末の・剣と魔法の世界』が始まって一万年。そのことに気がついた者は、お主が初めてだ!!」


その様子に、直接対峙していない二人の従者がほっとして肩の力を抜く。


「やはり、あなたは魔族…あるいはこの世界で、最も真実に近しい存在」

「ククク…いやいや。余は最高級ではあっても最高ではない。あえて最高を挙げるとするなら、それは輪空神龍であろうな…最高級に会いにくい相手でもあるわけだが」

「……輪空神龍に会おうと思って会える存在など、それこそミテュルシオン様か龍神達くらい」


九尾の魔王が困った様に息を吐く。

輪空神龍はその名前と存在だけは知られているものの、会ったことがある者はほとんどいない。

それこそ、魔王や神の子ですら会ったことがない者の方が多く、会おうにもどこにいるのかすら知られていない。

まるでおとぎ話か伝説の様な存在だった。


「ま…余も深いところまでは知らん。だがそれなりに知っていることはあるが…ただで、とはいかん」

「神殺しの剣」


間髪を入れずに言った九尾の魔王の言葉に、大魔王はぴくりと眉を動かす。

そして九尾の魔王はそのまま言葉を繋げる。


「神さえその肉体を殺し、地上での行動力を奪うことのできる剣。六百年前、勇者はこれによって邪神を打ち倒した。

 その数年後、勇者が死んだ後は、ルティナが神殺しの剣を管理しているものと思われていた……サブナックがそれを使うまでは」


そこで九尾の魔王は一度言葉を切る。

言われた大魔王は、その老人という割には精悍な、しかし重ねた年月は確かに出ているであろう眉間に皺を作る。


「勇者が死亡した後、神殺しの剣は行方知れず…サブナックが使用した後も消えてしまったという話だが」

「私が持っている。これをあなたに渡してもいい」


九尾の魔王は特に感情を顔に出すこともなく、何でも無いことのように言い放つ。

しかし当然これが何でも無いことのはずがない。

そもそもこの剣は世界最高の攻撃力と世界最高の耐久力を持っている、純粋な武器としてなら世界最強の剣だ。

何せこの剣があれば素人でも神の肉体すら破壊することが可能であり、それを元々強い者が持てばどうなってしまうかなど語るまでもない。

それを渡すということはすなわち、この話の重要性と、九尾の魔王の大魔王に対する信頼を表していた。


「それほどまでに、知りたいか」

「ある意味では最強であり、最高に使いにくい剣。真実の対価としては最適……それに、あなたが持っている方が良い」


大魔王は自身の豊かに蓄えた髭を撫でながら、考えても変わることのない結論を口にする。


「よかろう。だがその前に。ルティナの弟子を知っているかね」


交渉という交渉もなく、僅かな時間で話が纏まるが、当然それはお互いの信頼関係があってこそだ。

例えばどちらかが今は亡きサブナックだったとしたら、話は簡単には纏まらなかっただろう。


「知っている。ミテュルシオン様によってこの世界に送り込まれた人間」

「ほう。魔王を引退し、表に出てこなかったお主の耳にも届いていたか」


からかう様に言う大魔王に対し、九尾の魔王は肩をすくめる。


「ガリオラーデは、ルティナの弟子が来たのは終末に抗うためと言っていたが……果たして、本当にそうかな」


大魔王は意味深にそう言う。

しかしガリオラーデは大魔王にとっては息子のような存在であり、そして親子仲も悪くない。

今度は九尾の魔王の方が不思議そうな表情になった。


「終末は地上にいる者全ての試練……それに、ガリオラーデがあなたに虚偽の報告をするとは考えにくい」

「しかし、ルティナやその弟子が本当のことを言っているとは限らない。ミテュルシオン様が本当のことを話しているとも限らない」


大魔王の言葉に、九尾の魔王が目を細める。


「彼らは動いていない、そしてすでに死神を一人倒している…が…」

「本当に終末を終息させたいのなら、亜人族側か魔族側、まずどちらかに与するべきだ。少なくとも、どちらからも離れているよりはずっと()い」


シラキとルティナの行動は、終末に抗するためだとすると合理的とは言いがたい。

悠長と言ってもいい。

しかし九尾の魔王は疑問の言葉を発する。


「仮にミテュルシオン様の真意が別にあったとして。何故、そんな回りくどいマネをする?ミテュルシオン様なら、何とでもできるはず」

「そこだ。終末など、あのお方ならいつでも止められる。にもかかわらず、"終末に抗うため"に人間一人をよこし、わざわざ"神の子"を付けた」


考えてみれば、不可解な話ではある。

主神ミテュルシオンは何を思ってシラキという存在を呼び寄せたのか。

それは大魔王にすら分からない。しかし、想像することはできる。


「気にはならないかね?……世界の役割、元"死出の門番"よ。かの主神が何を思い、何を望んでいるか…!」


そう言う大魔王は猫の少女が来てから初めて、どこか楽しそうにしていた。


「とりあえずあなたの話を聞いてから、考えさせてもらう」


そんな大魔王に対し、九尾の魔王は素っ気なくそう返した。




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