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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
魔王の在り方 ~隠されたものの切れ端を見る~
73/96

ダンジョンマスターとは普通悪役である


命尾を殺したサブナックが当時襲撃してきた原因を、どうやってかガリオンが突き止めてくれた。

どうもサブナック、ガイスライヒェ、ソルロン、ガリオンというラインで伝わったそうだ……謎だ。

で、サブナックが襲ってきた理由、それは怨恨にあるらしい。

どうも何百年も前の事件の時、下っ端だったサブナックをルティナが無視したことがあるらしい。

そのときの屈辱?を晴らすために襲ってきた……いやどう考えても意味不明です、本当にありがとうございました。

ルティナも当然そんな数百年前の事件の雑魚敵のことなんか覚えているはずもなく、信じられないといった様子だ。

実際理解不能な理由であり、ガリオンも大分困惑していた。


「シラキさん。…その、すみませんでした」


ルティナが頭を下げた。


「え?何が?」

「私の不始末で、命尾は」

「いや、関係無いだろ。どう考えてもやったサブナックが悪い。それにルティナには恩がありすぎるから、こういう所で多少は返さないと」


もはやルティナには返しきれないレベルで恩があるからな。

まあルティナのせいじゃないよ。


「ありがとうございます」


ルティナは表情を曇らせたまま口を開こうとしてやめたり百面相していたが、結局いつもの調子に戻ってそれだけ言った。












サブナックの襲撃の日。

この襲撃自体はガイスライヒェが提案したという事で、理由は不明だがこちらとしては大歓迎だ。

わざわざ探しに行く手間が省けたというもの。

しかしダンジョンに侵入してきた闇王の軍を見て、俺は困惑した。

なぜなら、その戦力が"滅亡の大地"が攻めてきたときと比べてずっと弱かったからだ。



lv1   ゾンビ        4000

lv3   ポイズンゾンビ    1000

lv4   カースゾンビ     1000


lv1   悪霊         500

lv5   スペクター      100

lv7   レイス        100


lv2   スケルトン      4000

lv3   骸の戦士       3000


lv4   彷徨える戦士     2000

lv6   怨念の騎士      500

lv8   ゴーストナイト    10


lv3   悪魔の使い魔     500

lv4   レッサーデーモン   100

lv7   グレーターデーモン  1


lv10  リッチ        1

lv11  サブナック      1



戦力的には、"滅亡の大地"の時の三分の二くらいだろうか?

第一階層の洞窟が数に任せて突破されるのを妨害することもなく眺めながら、俺は憤りを感じざるを得なかった。

確かにこちらが感知できないところに軍を伏せている可能性や、何かしらの秘策がある可能性は十分にある。

と言うかそれがないと考えるほど希望的な思考はしていない。

それでも俺は仏頂面にならざるを得なかった。

理由は実に自己中心的な考えで、それは単純に、命尾が死んだ相手がこの程度であってほしくなかったからだ。


初めて見る魔物が多くいるので、ダンジョンコアから魔物辞典を確認する。


レベル7の高位の亡霊、レイス。

総合B+ 攻撃- 防御- 魔力量A- 魔法攻撃B+ 魔法防御B すばやさC+ スタミナ-

闇の様なローブを着込んだ宙に浮かぶ亡霊で、体全体が霊体のため物理攻撃が効かない。

複数の上級応用魔法を操るが、元になった生物によって扱う属性が変わるため注意。

死へ誘う声を発し、その声を聞き続けると死んでしまう。

太陽の光が弱点で浴び続けるといずれ消滅してしまう……陽光結晶…あっ(察し)。


悪霊系の魔物は皆黒くてブカブカのローブを頭から被り、顔が見えない。

物理攻撃がすり抜け、場合によっては生物に憑依し、そして太陽の光を嫌う。

憑依に関しては冒険者レベルで勝ってればまず大丈夫なので、俺を含め主力は問題ない。


レベル8の亡霊、ゴーストナイト。

総合A- 攻撃A- 防御B+ 魔力量C+ 魔法攻撃C+ 魔法防御B+ すばやさA- スタミナ-

高い攻撃力と突進力を持つ、亡霊の重騎兵。

鎧の上から闇の様なローブを着込み、恐ろしい見た目をしているが、装備している鎧が実体であり、鎧に対しては物理攻撃が通る。

馬と騎士の双方が重装備を着込んでいるが、それは霊の力であり、消滅すると後には元になった別物の装備が残る。

残った装備は壊れている場合も多いとか。

魔法は使えないが……厄介な敵であることに変わりはない。


レベル7の悪魔、グレーターデーモン。

レッサーデーモンの上位互換。

全体的に能力が高く、物理も魔法も使えて、どこにも穴が無いが、これといって特筆すべき点もない。

ただしたまにいる特殊個体?的なヤツは人間並みに個性があるため注意。



そうやって魔物の確認をしつつも、油断はせずに状況を見守る。

今回の戦いは万が一にも負けるわけにはいかないので、ダンジョンの順番もガチ編成に変更してある。



シラキのダンジョン


一階層・洞窟

二階層・大樹の層

三階層・フールド型森ダンジョン(大規模・低レベル)

四階層・吹雪の山

五階層・罠満載墓地ダンジョン(小規模・低レベル)

六階層・迷宮型洞窟ダンジョン(小規模・低レベル)

七階層・迷宮型城塞ダンジョン(小規模・中レベル)

八階層・ゴーレム遺跡ダンジョン(中規模・中レベル)

九階層・幻樹の森+草原

十階層・巨大地底湖型洞窟ダンジョン(中規模・高レベル)

十一階層・雲中庭園

十二階層・中枢部



第一階層では相手に全く干渉せず、敵全員が第二階層に移ったところで行動を開始する。

相手は正直に進んでいるので、第二階層に全軍が固まった状態だ。

予備戦力も何も無く、全軍突撃である…まあ、中途半端に軍を分けるよりはずっと良い。

とはいえ、この時点でもう俺がやりたかったことの準備は整った。

それはつまり、マッシュの大軍による挟み撃ちである。


現在、ダンジョンには百万のマッシュがおり、これ以上増やせないという状況だった。

今まではフールド型森ダンジョンという非常に大規模な階層に押し込んでいたが、今回は窮屈だったそれを吐き出す良い機会なのだ。

一回で百人の人間を転送可能な大転移魔方陣を用い、最大稼働で第一階層にマッシュを送り込む。

この裏取りの転送は第九階層の幻樹の森から行っており、正面にある第三階層が手薄になることはない。

狭くはないが開けているわけでもない大樹の層で、ひたすらマッシュをぶつけ続けるのだ。


敵の種族はそろってアンデッド、それに悪魔という毒の効きそうにないメンツ。

毒のないマッシュの戦闘力はレベル1くらいしかないが、そんな事はどうでも良い。

体当たりとのしかかりだけ行いながら、文字通り数で押しつぶす。

マッシュは間違いなくバランス崩壊レベルの魔物で、それはその繁殖力にあるのだ。


ダンジョンは直線ではないため完全ではないが、敵はおおむね"甲"の字の下の方を先に向けた様な隊列をしている。

前列にゾンビ系、右翼にスケルトン系、左翼にデーモン系だ。

サブナックは中央後ろに陣取り、それをゴーストナイトが護衛している。

そして悪霊系はまんべんなく混じっているという編成だ。


タイミングを合わせてマッシュに攻撃を仕掛けさせる。

目の前のダンジョンマップの上で、マップを埋め尽くすような青い点が、赤い点に近づいた端から次々と消えていく。

それと共に、二対一くらいのペースでガンガン赤い点も減っていく。

沢山死んでできた死体を乗り越えて襲いかかり、もしくは後ろから何十万のマンパワーの圧力で押しつける。

ポイズンゾンビもカースゾンビも悪霊系も生物としては怖いが、特攻戦術を前には全く意味が無い。

後方からも仕掛けているが、中央はもちろん、両翼もそれなりの敵がいるため前線の数倍のペースでマッシュがやられていく。

おそらく広範囲の魔法によって、数十から数百のマッシュがまとめてなぎ払われたりもしているようだ。

しかし大樹の層は開けているわけではないため、使えても上級応用魔法が精々だろう。

こうやって使う魔法を制限させることによって、貧弱なマッシュが一発で根こそぎにされる事態を避ける。


マップを見る限り、明らかにサブナックが魔法を使っている。

例え魔族であろうとも、魔力もスタミナも有限だ。

次々となぎ倒してさぞ気持ちよかろうが、その調子でどこまで持つか見物だな!

この戦い方、まるっきり悪役のそれだが、たまにはこういうのも良い。

前からだけでなく全方位から攻め立てているため、戦っていないのは中央の部隊だけだ。


そのままの攻勢を維持し、数十分が経過した頃。

敵の軍勢はその総数の八割程を失っていた。



lv1   悪霊         500

lv5   スペクター      100

lv7   レイス        100


lv6   怨念の騎士      470

lv8   ゴーストナイト    10


lv3   悪魔の使い魔     50

lv4   レッサーデーモン   80

lv7   グレーターデーモン  1


lv10  リッチ        1

lv11  サブナック      1



ゾンビ部隊、スケルトン部隊は全滅、デーモンも使い魔、レッサー合わせて大体死亡。

ゾンビは言わずもがな、スケルトンも一度分解されたら勝手に戻ったりはしないため、安心してバラバラにできる。

ただしマッシュは物理攻撃しか持たないため、悪霊系は無傷である。

こちらの損耗はマッシュが十八万強…約十八パーセントだ。

敵は上位陣が残っているのは当然だが、デーモン部隊も損耗は少ない。

おそらくグレーターデーモンが指揮をとっているのだろう。

つまり強敵はレイス、ゴーストナイト、グレーターデーモン、リッチ、サブナック。


(ドリアード隊、出番だ。幽霊系以外には目もくれるな)


そこで俺はドリアード隊を前面から投入する。

物理組が壊滅し、残った幽霊系をドリアードに撃破させる。

マッシュの頭を踏み台にして飛び回る女達が全滅するころには、幽霊系も全滅状態にまで追い込めた。

敵もマッシュを殲滅しながらじりじりと前進しており、二階層と三階層を繋ぐ階段まで到達。

それまでと比べて狭くなる階段では数押しもできず、簡単に第三階層まで進軍される。

しかし、だからといってマッシュの攻め手を緩めることもなく、ひたすら屍を築いて特攻を続ける。

どうやらサブナックが最前線まで移動したらしく、森ダンジョンの何百何千という数のマッシュが一辺になぎ払われた。

ここまで来ると遠目でも何をやっているのか分かるため、遠くに配置したフォックスシャーマンから正確な情報が送られてくる。


津波のような、黒い濁流とも言うべきものが一直線に走って行き、飲み込まれた大量のマッシュが消え去った。

最上級魔法が三つ、同時に発射されたのだ。

どうも見ていると、サブナックが放つ魔法は全て三つで一組らしい。

毎回三発なのは戦略的にわざとやっていること……とは考えづらい。

目算ではあるが、すでにサブナックは総魔力量の半分くらいは消費しているはず。

その状態でわざわざ使う魔力を大きく増やしてまで三発同時発射を続けたりはしないだろう。

特殊な魔法の使い方なのか、それともスキル、アイテムの類いの力か。


どちらにせよ大樹の層で戦っていたときと比べ、数倍では効かないペースでマッシュがやられていく。

しかし森に来てフィールドは完全に開けており、サブナックの魔法も、全方向のマッシュを全て消し去るほどでは無い。

結局、マッシュを捨て駒に相手のリソースを削っていることには変わりない。



lv7   レイス        70


lv6   怨念の騎士      200

lv8   ゴーストナイト    10


lv4   レッサーデーモン   40

lv7   グレーターデーモン  1


lv10  リッチ        1

lv11  サブナック      1



いやぁ、減った減った。

ちなみにマッシュは追加で二十万近く減った。

損耗率にして約四割。

信じられるか?これ、マッシュとドリアードしか戦ってないんだぜ。


最初こそ冷徹な目で戦況を見ていたシラキだが、その表情はすでに呆れ半分、笑い半分へと変わっている。

マッシュのこれ、バランスが死んでるとか言う次元じゃなくおかしい。

ミテュルシオンさん、これで良いのか、マッシュ…。


とはいえ、これほどうまく事が進んでいるのには理由がある。

どうもサブナック、大樹の層で何回か最上級魔法をぶっ放していたらしい。

中級魔法はおろか、初級魔法ですら一撃死が可能なマッシュに対し、そんな狭い場所で最上級魔法って。

控えめに言ってバカなんじゃないだろうか。

それに今だってそうだ。

いくら最上級魔法一発でマッシュが万単位で吹っ飛ぶからって、もっとマシなやり方があるはずだ。

言ってしまえばマッシュはレベル1相当の雑魚であり、威力なんかなくても範囲さえ広ければまとめてなぎ払える。

もうちょっとこう、出力とかさ、考えて撃とうよ?


それからはサブナックもさすがにまずいと思ったらしく、上級応用魔法も見られなくなった。

しかし今更この惨状に変化が訪れるわけもなく、現状は推移する。

そんな中で、見ているだけでもう何かどうでも良くなったシラキが隣にいるルティナに話しかける。


「ルティナ…なんか、さ」

「うん……」

「こんな時、どんな顔したら良いんだろうね?」

「………ええと、その……ごめんなさい。私にもちょっと」


ルティナですらこんな調子である。

周りを見ているが、リースやレフィルが同じ様子で、グノーシャに至っては端で寝てる。

そんな中、ソリフィスだけがいつもの真面目な調子で答える。


「あえて言うのであれば……慢心、魔法の使い方……そもそも戦いに対する姿勢から間違っているのかも知れないな」

「……確かに」


魔法の無駄打ち、非効率的な運用。

それに部隊の動かし方もお粗末で、おそらくあのアンデット達は同じところで戦っているというだけで、連携というものができていない。

まあゾンビやスケルトンに連携というのもおかしな話かも知れないが、少なくとも煉獄の骨畜生は理性的な動きを見せていた。

部隊内部での連携がまともにとれているのは、おそらくデーモンの所だけなのだろう。

まず指揮ができるであろうリッチ、指揮ができるかも知れないゴーストナイトの二種は自分の周りで遊んでばかり。

どこが悪いと言うよりは、全てが悪い。

すなわち戦いに対する姿勢そのものが間違っている、と。


「当を得ているな」


俺は感心をにじませてそう言う。


「我が主、デーモンが白旗上げているそうだ」


と、そこで突然ソリフィスの元にフォックスシャーマンから連絡が来たらしい。

優先順位が低いと思われる報告は俺ではなくソリフィスや部隊長などに送られる。

まあ命尾がいた頃は彼女が全部一手に引き受けていたが。

しかしこのデーモン部隊、明らかに他よりうまく動いている部隊だな。

罠にしては露骨すぎる気もするが。


「白旗……どうしよう?」

「シラキさんとしては?」

「まあ降参するなら許してあげてもいいと思うけど、罠だとアレだし。隔離?」


今まで降伏する者などいなかっただけに、困惑である。

しかも相手はデーモン。

怪しさ爆発。


「ならば我が主、レフィルを向かわせるので良いか?」

「ん、そうして」


それなりに強くて、不意打ちされても逃げられる。

俺やソリフィスがのこのこ出てくのはアレだし、ディレットやルティナが行くほどでもない。

交渉はともかくレフィルなら言いくるめられる事も無いだろうし、悪くないだろう。


その思惑通り、レフィルはさっと行ったと思ったらすぐに帰ってきた。


「戦わずまっすぐ進むように言っておいたぞ。端でおとなしくしている限りは何もしないと」

「おっけ」


これで厄介だった敵が一人減った。

後の問題はレイスとゴーストナイトだろう。

森ダンジョンは陽光結晶がないくせに外と変わらないくらい明るいが、どうやら日光としてはカウントされていないらしい。

レイスは元気に飛び回っており、マッシュでは妨害することすらできない。

ゴーストナイトはうまく走り回って戦闘しているらしく、アンデット特有のスタミナ無視もあって落ちる気配がない。

多分この調子では、いくらマッシュをぶつけたところで倒せないだろう。

魔力と言う名のリソースを消費している分、まだリッチやサブナックの方が楽かもしれない。

当の魔法組はいよいよ魔力がまずいらしく、ゴーストナイトに任せておとなしくしている。

まだ何とか落ちてくれる怨念の騎士が全滅したら、そのときこそ次の段階だろう。


シラキは主要戦力を一切使わずに、サブナックの戦力のほとんどをすりつぶしていた。


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