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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
魔王の在り方 ~隠されたものの切れ端を見る~
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死神トリオとフェデラと大魔王


草木の一本も生えぬ荒れ果てた荒野。

元は草原であったその場所は、侵攻する亡者によって踏み荒らされた。

生き物の気配も無いその場所にたたずむ、大きさの合わない二つの影。


「余りやりたくないって?そうね…でも、どうせメアリーの事だから、騎士姫に会いにも行っていないでしょ。今なら少なくとも、お別れくらいはできるわ」


影の内の一つ、巨大な鎌を持った少女…ペレが、物言わぬ人形…レオノーラに向かって言う。

小さな体でせっせと動き回っているレオノーラと違い、ペレはスカートを揺らしながらも、その場所から動かず眺めている。


「シラキで良いのかって?そうね」


声というものを発さないレオノーラに対し、ペレが一方的に話す。

何も知らない者が見れば、おかしな少女にしか見えないが、当然そういう訳ではない。

レオノーラに会話ができずとも、二人は何の問題もなく意思の疎通ができているのだ。


「"運命の欠片"の集中を避けるためにも、最高ランクの亜人はダメ。神の子と大魔王は欠片の意味が無い。

 前回からいる魔王も、全員ダメ。騎士姫は余り動かないし、月天使とノーライフキングは論外。死峰山は行方不明だし。

 新しい魔王もダメ。"獣王"、"氷帝"、"闇王"は力不足。"蒼月"は欠片が効くか分からないから除外」


地面に陣を描き、魔法の準備をしていたレオノーラが一息ついたように肩を上下させる。


「シラキも欠片がまずいんだけど……彼には他にはない力がある。前提として、四騎士に勝てる可能性がなくちゃいけないわけだし、選択肢が少ないのは仕方ないわ」


レオノーラがペレを見ながら首を傾ける。


「え?シラキが死んだらどうするかって?」


八人のレオノーラ達が描かれた陣に沿うように円を描いて立つ。

人形達が魔方陣を囲む様は実に怪しげだが、実際に怪しげな儀式を行っているのだからその通りである。


「まあ次点で"氷帝"か、亜人族の誰かか……結局はドングリの背比べで、これと言った相手はいないのよね」


動こうとしないペレの前で、魔方陣が光り出す。

神秘的な音と共に光は強くなり、そして光の中から共存するはずのない闇がわき出していく。

そうして渦巻いた闇が人の形を取っていったかと思うと、そこには暗い紫を基調とした死神……"狂える様に歌う闇"メアリーが立っていた。


「あれ……ああ、そういうこと」


メアリーは目を開けたとき自分を取り囲んでいたレオノーラと魔方陣を見て、納得したようにつぶやいた。


「こんばんはメアリー。気分はどうかしら?」

「最悪。何もできずに死んだわ、まるで人間だった頃みたい」


笑みを浮かべて話しかけるペレに対し、メアリーはぶっきらぼうに答える。

陣の上にいたレオノーラはいつの間にか一体だけになっており、ペレの側に移動する。

メアリーはしばらく体の動きを確かめた後、周りを見渡した。


「私のバイオリンは?」

「バイオリン?見てないけど、あなたを殺した人が持っていったんじゃないかしら?」

「ふーん」


メアリーはそれだけ聞くと、結局どうでも良さそうにそうつぶやいた。
















十二階層

巨大地底湖型洞窟ダンジョン



空間の半分を水で満たされた地下を、魔法が飛び交う。

撃ち合っているのは、二人と一人の二チームだ。

所々にある陸地から距離を取り、氷で作られた足場の上に立っているのは、リースウェーデ。

右手に持った杖を掲げると、周囲に複数の氷の魔法が浮き上がり、撃ち出されていく。

大きさ一メートル以上の氷槍や、白い軌跡を描く光、上空に打ち上がって降り注ぐトゲ鉄球の様な氷。

全て冷気属性魔法であり、中級応用魔法"アイスジャベリン"、上級魔法"氷蓮華"、上級魔法"氷球雨"の三つだ。

それらが次々と襲いかかる先には、光を放ちながら水面のすぐ上を飛行する存在。

コートオブファルシオンで翼を作り、咲雷神(サクライ)を発動した上で、水面のすぐ上を飛んでいるシラキだ。


弾丸のように飛んでくる氷槍をヨーで回避し、ゆっくりと進む三発の氷蓮華を魔法弾で撃ち抜く。

氷蓮華は炸裂すると広範囲を氷の中に閉じ込めるが、炸裂するまでは動きが遅い。

撃ち落とされ巨大な氷の結晶となった氷蓮華は、そのまま徐々に水に沈んでいく。

しかしすぐ前方で手のひら大の氷塊が降り注ぎ、シラキは強引に突っ込むことをせずに直前で方向転換する。


リースはシラキが方向転換したことを確認すると、今度は後ろに氷の壁を生成する。

そうして受け止めたのは、風属性上級魔法"サイクロンリッパー"。

全くの反対方向からそれを放ったのは、それなりに離れた陸地に立つフェデラだ。

フェデラは自らの魔法が防がれたことを確認し、すぐさま次の行動に移る。

氷の壁にガリガリと傷跡を付けたばかりのサイクロンリッパーが弱まり、リースを中心とした竜巻へと変わる。

サイクロンリッパーを形成していた魔力を使い、遠隔から風属性上級応用魔法"木枯らし夕凪"を発動させたのだ。


竜巻に飲まれたリース。

シラキがホバリングして様子を見ていると、竜巻そのものを飲み込むような竜が姿を現す。

全てを凍てつかせるように白く、そして青い目をした巨大な竜。

冷気属性最上級魔法、"氷帝百竜(びゃくりゅう)"だ。

自分の方へと向かってくるそれに対し、シラキはフェデラのいる方へと飛翔する。

フェデラは念話で話すこともなければ、相手を見ることもなく、シラキの意図を把握し、行動に移した。


(おおとり)の声!!」


空気を振るわせる重々しい音と共に、人間大の透明な球が放たれる。

上級応用魔法"鳳の声"はまっすぐに突っ込んでくる氷帝百竜の鼻先に着弾し、爆発する。

俺も左腕を前に出して最上級魔法を発動する。


「ブリリアントロア!!!」


爆発の直後、輝く金色の光、極太の光線が白き龍を飲み込んだ。

ブリリアントロアによってどんどんと小さくなりながらも、しかし白き龍は進み続ける。

ついには光線の根元、シラキの眼前まで迫った竜が、突き出された左腕に食らいつく。

そうしてシラキの左腕を氷らせ、両者の最上級魔法が解除された。

後には押し負けたシラキと、押し勝ったリースが残り、リースが追撃をかけようとした、その瞬間。

まるで瞬間移動でもしたかのようにリースの視界からシラキが消え去った。

そしてシラキの体で見えなかった後ろから、放たれていた風魔法がリースに直撃した。












「勝ったーーーー!!!」


地底湖に浮かんでいる陸地の一つ。

シラキが両手を挙げてそう叫んだ。

リースVSシラキ&フェデラの戦いであったが、戦闘力的にはほとんど互角だったのだ。


「うーん、負けちゃった」

「ありがとうございました」


リースは残念そうにそう言い、フェデラは深くお辞儀をする。

今回の戦いは色々理由があったのだが、その一番の理由は、フェデラ快気祝いであった。


フェデラが冒されている四つの呪い、"不妊"、"黒結晶化"、"渇愛"、"牛歩"。

この内、最も深刻だった黒結晶化の呪いによって体内に作られていた黒結晶。

シラキは先日、遂にこれを全て取り除くことに成功したのだ。


ネックになっていた子宮と心臓の黒結晶を安全に取り除く方法。

物理的に肉体を傷付けずにそれを成すためには、"結晶支配"のスキルを非常に高いレベルまで上達させるか、もしくは空間に作用するような技が必要だった。

どちらにせよシラキからすれば非常に高難易度な方法であり、しばらくは実現不可能だと思われていた。

しかしシラキは今や、空間に作用するような"技"を使用可能なのである。

そう、"滅亡の大地"だ。


この闇は別々の空間を繋げる扉となることができるスキルであり、それは人の体内であっても侵入を可能とする。

すでにシラキの魔力を一切妨げることなく体内に受け入れるという、常人離れした魔力操作を習得しているフェデラだ。

シラキがフェデラに対するときだけは、その体内に闇を生成することが可能であった。

後は単純、のどや足の時と同じように黒結晶を取り除いていくだけ。

外科手術で体を切らずに中身だけ切除するようなものだな。

初期の頃からは格段に強くなっているシラキは、"滅亡の大地"を維持しながらこの作業をやってのけた。

そうしてフェデラは、生まれて初めて体内から黒結晶を一掃した状態を味わうことができたのだ。



フェデラフロウ=ブロシア=フォルクロア

魔物レベル7

総合B+攻撃C- 防御C- 魔力量A- 魔法攻撃B+ 魔法防御B+ すばやさC スタミナB- スキルB



フェデラは普段の修行も一切手を抜いておらず、すでにレベル8(ランクA-)に片足突っ込んでいる。

"牛歩"の呪いがあるため足の速さだけはどうにもならないが、それ以外は立派な魔法使いだ。

今はまだ使えないが、そのうち最上級魔法も習得するだろうし、先が楽しみである。


ただそんなフェデラだが、一つ気になることがある。


「お疲れ。しかし、戦ってて思ったんだけどさ…何か俺の動き読めてる?」


たまに思うんだが、フェデラは俺の動きが予測できているように見える。

今回も打ち合わせとか全くしてなかったにもかかわらず、迷い無く俺が動きやすいように立ち回っていた。

日常生活でも欲しいときに飲み物を持ってきてくれたりするし。


「シラキ様と出会って、それなりに長くなりますから」


フェデラは笑ってそう言った。


「そんなもんか…」


シラキは気付いていないが、フェデラは実は一日の内、かなりの時間シラキを見ている。

それだけ付き合っていれば、ある程度相手のことも分かるというものだ。

ただ、フェデラはシラキが次に使う魔法や動きなんかも分かることが多いため、明らかに"ある程度"の範囲を超えているが。

ちなみに彼らは、同じ場所で住み、食事と訓練、生活を共にしている。

そんな中、フェデラの他にルティナ、アルラウネ、無き命尾なんかがシラキことをよく見ていた。


「シラキ君は、遂に単独で空を飛べるようになったね」


リースの言うとおり、遂に俺はソリフィス無しでの飛行が可能になった。

ちなみに飛行するに当たって決定打となったのは、咲雷神(サクライ)だ。

咲雷神(サクライ)は単純に身体能力を強化するだけではなく、実は「速度そのもの」とでも言うべきものを与えている。

つまりどういうことかというと、咲雷神(サクライ)の能力だけで上に落ちる…というか高度を上げることができる。

肉体の力を一切使わずに移動できるわけだ。

極端なことをいえば、宇宙空間で静止した状態からでも移動に移ることができるのである。

もはや身体強化でも何でも無いし、雷魔法って何だよって感じだが。

咲雷神(サクライ)自体の維持にかかる消耗も、慣れてきたら格段に少なくて済むようになってきたし、いずれは常に咲雷神(サクライ)掛けたまま戦えるようになるかもしれない。

多分こんなもん使えるようになっちゃったから存在の踊場に行けたんだろうなぁ。


そして、咲雷神(サクライ)に加えてコートオブファルシオンかもしくは結晶支配で生成した翼と、風魔法を併用。

属性鳥達やソリフィスと比べると格段に劣るものの、浮いたり飛んだりが可能になったのだ。

ソリフィスとのユニゾンによって、何度も空を飛んでいたことが、重要な経験になっていたことは言うまでも無い。


「最後に私の前から消えたのって、咲雷神(サクライ)だよね?」

「イエス。後ろから魔法が来てるの分かったから、一瞬で落ちた」


そう考えると俺が避けなかったら、後ろからフェデラに撃たれていたのか。


「シラキ様なら避けられると分かっていましたから」

「お、おう」


喜んで良いのか?


「それで水に浸かったけどな」


勢いよく水に突っ込んだからなぁ。

普通に痛かった、水泳で飛び込み失敗した時みたいに。

肉体も強くなったし、コートオブファルシオンのおかげもあってダメージはほとんど無いけど。


「水の上に立たれると私は何もできません。そんな私をうまく使ってくれました」

「こっちは戦場を選べる側だし、フェデラはここで戦わないのが一番だろうけどね」


俺の飛行、リースの最上級魔法、フェデラの調整。

色々と実りのある模擬戦だった。

















まず始まりに、創造神様がいた。

創造神様のことはその存在以外、名前も姿形も知られておらず、知られていることはたった一つだけだ。

それはミテュルシオン様を含めた主神達が、創造神様により作られたということ。

この世界の最古より存在する書物にもそれは記されているが、ミテュルシオン様自身が仰っていた事でもある。

そして創造神様により生み出された数人(人数不明)の主神達の内、ミテュルシオン様がこの世界を作った。


この世界の名前は、『穏やかなる神の・因果と・終末の・剣と魔法の世界』。

この世界の中には細かく分けるといくつもの世界があるが、終末に関係しているのは三つ。

経過(けいか)の・地上世界』、『渦煙(かえん)の・狭間の世界』、『紫煙(しえん)の・冥界』。

そう、世界の危機……大本となる世界の中心である、地上の存亡を駆けた戦いでありながら、舞台となるのは複数ある世界の内三つだけだ。


「大魔王様は、魔界からの介入を考えていらっしゃる?」


重苦しい声でそう言ったのは、捻れるようなローブにすっぽりと全身を包んだ男。

本来顔があるはずの部分は真っ黒な闇に覆われ、その表情をうかがい知ることはできない。

大魔王一番の側近である彼が見上げる先にいるのは、荘厳な玉座に腰を下ろした長身の老人。

地上最強の魔族にして一万年の時を生きる大魔王だ。


「いや……余がこの世界に再び生まれたとき、ミテュルシオン様ははっきりと魔界は介入しないと仰っていた。個人単位ではあるだろうが、集団としては気にしなくて良いとな」


魔界や天界といった世界は、終末には関係してこない。

魔界の悪魔達もそうだし、天界の天使達などはいつも通りの静観だ。


「今回、欠片の数は相当少なかろう。終末関係者が一から二十番…魔王が三十番台、最高ランク冒険者が四十番台に、四精霊が六十番台におる。ナンバーが百までだとすれば、マイナスナンバーを加えて百十五」

「少なすぎますな…天界や魔界が関わらない分もあると」

「うむ……当分の間見えている終点は三と四。おそらく問題となるのは二つ。イノセントクロウズと、ルティナの弟子」


大魔王は手元のチェス盤に二つの駒を置く。

片方は剣と杖が交差し、中間の交わる点に太陽のネックレスがかかっている。

もう片方は翼を生やし、赤い翼の模様を浮かべたコートを羽織った雷だ。


「イノセントクロウズは五人全員が欠片持ち。それに死神を入れて最低六つ。もう一方は…やはり神の子本人よりも、その弟子の方に集まると?」

「まず、そうなるであろうな。ルティナにはやる気が無い……分からんでもないが」


大魔王は豊かに蓄えた髭を撫でる。

側に立つ男はそんな大魔王のそばで、直立したまま動くことなく話す。


「では、「人と神の子」「弟子」「竜と神の子」「情熱竜」「滅亡の大地」が二つ。「土の精霊」と煉獄で共にいたという巫女を入れて合計八」

「アテリトートの二つと闇王を入れて十一……さすがは選ばれし"人間"よな。まず動かない"竜"や、分散するはずの"精霊"の欠片すら所持している」


大魔王は僅かに忌々しさを表しながらそう言う。

一方ねじれた男は忌々しさを明確にする。


「闇王がもう少し有能ならまだ良かったものの…」

「あやつの根底にあるのは下らぬ劣等感と虚栄心のみ。弱者に勝つことのみ求めたものが、強者に勝てぬは必然よ」


大魔王は興味なさげに言い放つ。

彼は全員の魔王達がどのような者であるか、正しく理解していた。


「確かに、如何に神殺しの剣を持ってしても、持ち手の性質までは変えられなかった様子」

「かの剣は確かに重要ではあるが……むしろより大事はセレナの方よ」

「水竜姫殿は、剣聖の出番がある可能性を示唆していましたが」


大魔王はこの世界において、確認されている中で唯一完成されたアビスの門の鍵を持っている。

その鍵を借りて冥界へと向かい、帰ってきた水竜姫は大魔王にそれだけ言って去って行った。


「消し去れるのなら、消し去ってしまいたい物よ。未だあやつを縛り付けておるのだからな」

「アビスの門番たる剣聖は、ご友人とのことでしたが」


友人であるはずの者の生存を願わぬ主に、男がそう聞く。


「人間とは、短く生ききってこそ輝くもの。無為な長寿は竜や堕天使にでも任せておかねば、人間らしくもないわ」


大魔王は迷うことなくそう言いきった。

それは、まぎれもなく友を想うがゆえの言葉だった。





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