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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
魔王の在り方 ~隠されたものの切れ端を見る~
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戦闘後ティータイム


シラキは自室で目を覚ました。


「お目覚めになりましたか」


掛けられた声の方を向いてみると、アルラウネがいた。

しばらくボーッとした後、アテリトートとの戦いで気絶したことを思い出す。


「うっ」


体を起こそうとするが、体に痛みが走り、起き上がれない。


「すでに動けないような状態で、無理矢理魔法で体を動かしていたのです。今は無理をせず、ゆっくり休んでください」


そういえば、肉体的には戦闘不能だったのを、咲雷神(サクライ)を使って無理矢理戦闘継続したのだった。

よく考えなくても相当無茶だが……戦闘中にテンションが上がりすぎると、こういうことを平然とやりだすからね。

仕方ないね。


「どのくらいで治りそうなんだ?」

「ルティナ様によると、立って歩くだけなら明日にでも、とのことです。しかし、戦闘は数日はお控えください」

「なるほど。ルティナが治してくれたんだ?」


アルラウネが無言で頷く。

俺は横になったまま、目をつむって体の調子を確かめる。


「今回は仕方ありませんが、あまり無茶はなさらないでください。ルティナ様が治してくださったからこの程度で済みましたが、そうでなければあと五日は寝たきりでしたよ」


アルラウネにそう言われ、俺は苦笑を浮かべる。

心配してくれるのはうれしいが、今もうすでにかなり安全圏にいる人間である。

なんと答えたら良いか分からなかった。


「あの後、どうなった?」


聞いてみるとあの時、必殺技ダイヤモンドカッターが押し合いを征し、アテリトートを縦に両断したそうだ。

ただ事前に思っていたとおり、吸血鬼であるアテリトートは体を縦に両断されても致命傷ではなかった。

その後倒れた俺を前にして、自分の負けを宣言。

立ってるヤツが寝てるヤツを前にして敗北宣言とか、茶番かな?

「本当の殺し合いなら私は死んでたかも知れない」とのこと。

うるせぇ!(笑)お前も手加減してただろ!

実際あの人、戦闘中にわざわざ全部の技名を聞こえるように言ってたし、戦闘中何度も会話してこっちを休ませてくれた。

俺と彼女じゃ肉体的な基本スペックがまるで違う。

今俺はぶっ倒れて数日戦闘不能だが、アテリトートなら同じ状況でも平然としているだろう。

俺より数段無理ができる彼女は、こっちが息切れするまで殴り続ける事もできたのだ。

上級応用でも最上級でも良いからひたすら撃ちつつ適当に殴るだけで俺に勝てた……まあ、優雅でも何でも無いが。

そうで無いにせよ、もう少し地力を生かしてごり押ししてこなかった時点で、かなり気を使われてる。

……いや、その言い方は失礼かもしれない。

アテリトートは手加減したつもりなんて無いだろう。

彼女は何というか、誇り高い人だ。

だから俺が手加減してもらったなんて言ったら怒られる気がする。


そんなこんなで事情を聞いた後は、一日寝て過ごした。

その次の日、今第四階層にとどまっているアテリトートに話を聞きに行った。


「ごきげんよう、シラキ。体調はどうかしら」

「ああ、ルティナのおかげでもう歩けてる」

「フッ…あなたが受けた治療は、世界でも有数。これを超える様な癒しの魔法は、それこそ"水竜姫"くらいしか使えないわ。ルティナに感謝しなさい」

「あはは。ずっと一緒にいるせいで忘れそうになっちゃってさ。でもこの間煉獄送りにされたときなんか、かなり実感したよ」


俺はフェデラにジュースを持ってきてもらうのだが、まるでフェデラが給仕か何かみたいだ。

丸机を前に、優雅に紅茶を飲んでいたアテリトートと仲良く談笑する。

その姿をみて、後からやってきたルティナが目を丸くした。


「なんか、仲良いですね」

「ん?あはは」

「フッ。安心しなさい、ルティナ。私にはもう心に決めた人がいるから、盗ったりはしないわ」

「な゛っ!?」


ルティナの顔が赤くなる。

ルティナのこんな顔をするのは、久しぶりに見た気がする。


「へえ、どんな人なんだ?吸血鬼?」

「"人間"よ。グウェン=エバンディス」


………あれ?

ルティナの顔が一転して苦笑いというか、凄いアレな表情に変わる。


「グウェンって言うと…フェデラの師匠で、ルティナの弟子?」


俺はルティナに確認を取る。


「ええ。私の一番弟子、ランクA+、深淵の魔術師」

「……女じゃなかった?」

「女よ」


…………。

お前レズかよぉ!?

思わず無言になる。

ルティナの方を見るが、相変わらずだ。

いや、まて、もしかしたら吸血鬼には男女のくびきに囚われない様な文化と方法があるのかも知れない。


「吸血鬼って女同士でも問題ない?それに子どもは…?」

「シラキ、あなたの疑問を解決してあげる。吸血鬼でも"そこ"は人間と変わらないわ。当然、女同士じゃ子どももできやしない」

「でも、いいんだ?」

「ええ、いいのよ」


俺は同性愛者だからと言って特に言うことは無い。

まあ、さすがに男に言い寄られたらやめてくれと言わざるを得ないけど。


「何も言わないで肯定してくれたのはあなたが初めてよ……あなた、いい男ね」

「はは…いい男の判断そこなんだ?」

「でも、確かに私が死ぬ前に子どもは必要だわ。数千年続く私の家系は、"家系"とは縁遠い吸血鬼の中でも重要な立ち位置をしているわ」


吸血鬼は人間を吸血鬼に変えるという能力を持つ性質上、生殖により子どもを産む事が少ない。

また個体として強い生物の宿命として、出産率が大変低い。

寿命もないため種の保全という本能も薄く、吸血鬼のほとんどが二・三代も遡れば人間にたどり着くらしい。


「アテリの家系は何代くらい続いてるの?」

「私で十三代目よ。実際の所は、大体一万年弱くらい続いているかしら」

「いちま……凄いな。てかよくそんなに続いてるな」

「ふふ。だから、私で途切れさせるわけにはいかないのよ。でも、そうね。あなたの子どもを産んでみるのも良いかもしれないわ」


アテリトートは身を乗り出して目を細め、妖艶な……というよりは若干捕食者のような瞳をこちらに向ける。

若干気圧されるが、横からもっと気になる気配がして気がそれた。

アテリトートが視界いっぱいに映っているため見えはしないが、ルティナの慌てたような雰囲気が伝わってきたのだ。

そんな風に気をそらしていると、アテリトートが拗ねたようにして身を引く。


「もう、もうちょっと慌ててくれても良かったのに……二人まとめてからかう予定が」


おい。


そんなこんな話ながら、アテリトートがこのダンジョンを訪れた本当の理由を聞いた。

それは、家を失った吸血鬼達の受け入れ先を探していたという事だった。


アテリトートの話に寄れば、吸血鬼達は南大陸の南側、巨大な洞窟の中に都市を造って暮らしていた。

個体数は人間と比べるとずっと少ないが、吸血鬼の八割が暮らすというその都市は、規模的に人間の大都市と比べても遜色ない。

そしてその戦力は言わずもがな。

吸血鬼達はいわゆる一般市民ですら平均してレベル4程度はあり、その統治者達となれば相当な戦闘力を誇る。

上にはレベル13が一人、レベル12~10にはアテリトートを入れて十数人もいるのだそうだ。

それが一人の…いや、二人の死神に襲われて、今や残っているのはアテリトート一人だけ。

都市も戦闘により多大な被害を受け、人間の陥落した都市と同じように冥界化してしまっている。

吸血鬼達は太陽の光を浴び続ければ死んでしまうため、残された吸血鬼達を受け入れられる場所が必要になった。


そういうわけで、俺のダンジョンに白羽の矢が立ったわけだ。

いくつかある分散先の一つではあるが、人数的には五千人ほど受け入れて欲しいとのこと。

一瞬インフレが加速すると思ったのだが、冷静に考えてみると案外そんな事は無い。

レベル4が五千人と考えると、マッシュと比べれば何てことはない数値だ。

戦力としては使えないし。


「私も滞在させてもらう時間は長くなると思うわ。もちろん、有事の際は私達も手を貸すわよ」


そんな事は無かったぜ。

アテリトートがいるだけでかなりの戦力アップである。

数は少ないが戦える者もまだ残っているので、そちらも参戦するとのこと。

立場としては同盟というか、食客のような形になる。


こちらとしては何の問題も無いので、ゴーレム遺跡ダンジョンに移住してもらうことにした。

階層整備にそれなりのマナは必要だが、十分に元は取れる。

しかし、恐れたほどインフレが加速しないで良かった。

何がまずいってミテュルシオンさんがそんな楽させてくれるとは思えないし、こっちの規模がインフレするって事はつまり相手が強くなるって事だからな。

恒常的にマナがもらえる類いのダンジョンに街とか作り始めちゃうと、大概インフレ率がおかくなる。


ちなみにこれはガリオラーデからルティナに話がいったのでは無く、グウェンからルティナに話が通ったそうだ。

何でも俺が煉獄送りにされている間に、ルティナは一度グウェンに会いに行ったのだとか。


しかし当時の様子を聞くと、死神ペレの強さが大概おかしい。

戦闘としてはペレがメインで、"儚き少女が見た夢"レオノーラは補助的な動きしかしていなかったそうだ。

一緒に攻め込んだ亡者達もいたが、それらは雑兵(と言うほど弱いかはともかく)同士で戦っていたため、ペレとは連携していない。

そして吸血鬼の強者達ともなればみなそろいもそろってプライドが高く、レベル10以上はまるで連携せず、個々に戦ったのだそうだ。

自分1人だけで挑む者もいれば、自分と配下で一斉に戦う者もいた。

それもそのはず、吸血鬼と言えばそれ自体が非常に強力で、そして傲慢だ。

アテリトートも個々で殴りかかるのを止める気にもならなかったそうだ。

そして、そのどれもがペレに切り捨てられた。

つまりペレはほとんど一人でレベル13を一人、レベル12~10を十数人殺したわけだ。

どっかおかしいんじゃないだろうか。

ウチのダンジョンなんてレベル10以上はルティナ入れたって四人だぞ。


「ペレは前回の終末でも大魔王と互角にやり合ってましたからね~。当時の私を入れた勇者パーティーでも勝てなかったでしょうし」


ルティナが思い出すようにそう言う。

大魔王と言えば、魔王達を束ねる存在だ。

神と竜族を除けば地上で最強の生物であり(龍族を入れてもトップ5には入る・ガリオラーデ談)、世界の始まりより生きていると言われている。

ほとんど神のような存在であり、ガリオラーデの育ての親でもある。

それと互角と言うことは、つまり地上でペレより強い生物など存在しないのではないかと言うレベルである。

エルダードラゴン達ならそれでも分からないだろうが、彼らはディレットを除き、全員が狭間で戦闘中だ。

当のディレットは弱体化(それでも並の魔王クラスだけど)しているし。

本気で攻めて来たら壊滅不可避だな。

"滅亡の大地"と比べると別次元だ……まあ滅亡の大地が全軍の四分の一でも俺のダンジョンに差し向けていれば、やっぱり壊滅不可避だったけど。

ちなみにアテリトートの統率力とレベル13の人の力でそれらをまとめていたので、我の強い奴らが消えてくれて統治は楽になったらしい。

吸血鬼ェ…。


その後しばらく雑談していると、ケントニスがやってきた。


「と、そうだ。アテリちゃんに頼みがあるのですが」

「なにかしら」

「ちょっとケントニスに"見られて"ほしいの」


ルティナが言ったのは、ケントニスにアテリトートを調べさせて欲しい、という事だ。

エルダードラゴンたちは全体的な能力もさることながら、それぞれの得意な分野では別次元の技量を誇る。

竜の賢者と呼ばれるケントニスも、特技である潜伏と探査に関しては右に出る者はいない。

そのケントニスに見られてほしいとなれば、相当な所まで暴かれてしまうだろう。

かく言う俺もケントニスには見てもらった。

何かルティナとケントニスが真剣な表情で話し合っていたのだが、内容は聞かせてもらっていない。


「……本気かしら」


アテリトートの声が重くなる。

大きな責任を背負っているアテリトートであれば、当然軽い気持ちで応じることなどできない。

ルティナが頷くと、アテリトートは口を開いた。


「良いわよ」


あれー?


「あれ?」

「貸し……とでも言うと思ったかしら?」

「正直」


ルティナが困惑するのも無理はない。


「私とあなたの仲じゃない。それに、あなたのことは信頼しているわ」

「私、アテリちゃんに信頼されるようなことしたっけ…」


ルティナが俺みたいなことを言っている。

そんなこんなでケントニスがじっくりとアテリトートを観察する。

何かしらやっているんだろうが、俺の探査能力じゃ何をしているのかさっぱりだった。

命尾がいれば何か分かったかなぁ。


「私は煉獄から帰ったのち、雷煌竜王と会いました。そこで……直接的ではありませんでしたが、シラキを良く探査しておけと言われました」


実際には雷煌竜王は「煉獄によりどのような影響が出ているか分からない。一度シラキを可能な限り詳しく見ておいた方が良いだろう」と言った。

ケントニスはそのときの様子や言い方から、それが建前でシラキを探査するように言っているのだと判断していた。

その結果。


「"運命の欠片"、と言うものが存在しているようです」


分かったのは、運命の欠片というものの存在。

それはそれぞれナンバーが振られ、スキルと似たような形態を持っている。

スキルは魂と深い関わりがあり、その為この欠片の存在に気付けるものは、よほどの探査能力を持っている必要がある。

その上で闇雲に探すのではなく、ケントニスのように何かしら"ある"と分かっていて探さないと見つけるの難しい。

何せルティナですら見つけられなかったくらいだ。

ヒント無しではいつまで経っても判明しなかった可能性が高い。

そして恐ろしいことに、神の子であるルティナですらその存在を知らなかったらしい。

ルティナのような高位の存在になると、口にしてはいけないことは多いようなのだが、それですらない。

神の子はそれこそ死後魂の行く先とか、俺が呼ばれた理由とか(未だに謎のまま)、下手したら終末が起こる理由とか知ってそうだからな。


「これの存在に気づける可能性のあるのは、神の子と大魔王。月天使、先代死峰山、大魔導師と大賢者…」

「要するに数えるほどな訳ね」


俺は現状、五つの運命の欠片というものを保有している。

ナンバーにして008,060,066,095、そして-013の五つだ。

008が元々"滅亡の大地"のものであり、066がグノーシャにもらい、ユニゾンのスキルとなっているものだ。

条件を満たすと他人に移るらしいが、その条件がどのようなものなのかは分からない。

残りの三つは一体どこから来たのかも分からない。

要するに分からないことだらけというわけだ。


「アテリトートが持っているのはNo.036と……-006」

「ふうん?」


アテリトートはそれほど興味を引かれた様子は無さそうだ。

しかし、マイナスね。

三桁であることから番号の総数は100個か1000個かと思っていたが、そうでも無くなってきた。

とはいえ最高で2000個くらいかなとは思うが。


「それで、ルティナは?」

「020と026の二つ。ケントニスも059を持ってたみたい」

「ルティナ様は神の子と言うこともあり、私の探査では分かりませんでした。しかし、ルティナ様であれば魂の扱いにも慣れている様子」


自分で探った訳ね。

そして、この場にいる全員が運命の欠片を持っている、と。


「それで、結局それに何の問題があるわけ?」

「分かりません」


アテリトートの問いに、ケントニスがしれっと…というか、お茶目なところを見せる。


「分からないって…」

「しかし、意味の無いことを彼の龍神がわざわざ言うとは思えません」


雷煌竜王か。

存在の踊場であったときは確かに、わざわざ大したことでもないことを意味深に言う様な人には見えなかった。


「とにかく、私はしばらく欠片について調べてみます」

「よろしく」


何かナチュラルに色々手伝ってくれるケントニス。

立ち去ろうとするケントニスは、普段と一切変わらない様子でシラキからルティナに視線を移す。

しかしその目がどこかいぶかしげな、あるいは責めるような視線であった事に、気付いた者はいなかった。



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