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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
新界定礎の始点 ~未知は尽きぬもの~
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狐・鶏・獅子・狼・蜂・妖魔

「ハァァアアアアアアアアアッ!」


ダンジョン地下4階。

いつもの訓練部屋に響く、低い唸るような気合いの声。

床から塵が舞い、中空へと収束する。

直後、収束していた塵芥が一瞬にして黒光りする巨岩へと変わった。

直径15メートルのトゲはその巨体に似合わぬ速度で飛び、地面へと激突する。

大きな音を出しながら、床をえぐるように擦り、地響きを起こしつつ停止する。

見れば黒塗りの巨岩はほとんど破損しておらず、その頑強さは確かに再現されている。

昨日見た土の上級魔法、ガイアストライクだ。


「よし、成功だ!…よね?」


振り返ってみてみれば、後ろで見ていたルティナが何とも言えない表情で頷いた。

怨念の騎士と戦った次の日。

後から色々聞いてみたところ、やっぱり最後はルティナが助けてくれたようだ。

あの時は目の前の戦いに集中しすぎていたせいか、ルティナが控えてくれていることを忘れていた。

仕方ないね。

なんといっても初めての実戦だ。

ランクと実戦不足のちぐはぐさが印象的だったと笑いながら話してくれた。

色々反省点は言われたが、とりあえずのところ十分だったそうなので素直に喜んでおこう。

最終的には全魔力使ったせいで気絶したが、体調的には寝れば治るので無問題だ。


怨念の騎士が放ったのは、土属性上位魔法、"ガイアストライク"。

上位魔法というのは、一般的にBランク以上の力を持たないと発動できないと言われている魔法なんだそうだ。

あの戦闘の後、相変わらず俺はCランク相当のままだが、魔力自体はBランク並に強いんだとか。

そんなわけで俺は上級魔法も使えるようになったのだ。

ただ上位魔法と言うだけあって魔力の消費も多く、全快状態からでも3発くらいしか撃てない。


「一度見ただけで上級魔法を習得するとは。さすが我が主」

「誰も言わないから私が言いますけど、普通魔法はそんな簡単に習得できるようなモノではありませんよ?」

「一定の実力さえあれば使えるってことじゃない訳か」

「一定の実力があって、かつ何度も練習を繰り返し、適正があれば使えるようになります。訓練していれば何かの拍子に使えるようになることもありますけど」


はー。

正直良く分からない。

まあ必要なのは実力と鍛錬と相性ってことだな。


さて、ガイアストライクだが、やはり強力な魔法だ。

巨岩の真っ黒い外見は見せかけではなく、普通の岩と比べると大変硬い。

しかもあの図体を一瞬で生成する上スピードもある。


俺があの時全魔力を込めて放った魔法の矢もとい魔法弾が破壊したのは、巨岩の総体積の2割ほどだった。

一連の戦いで魔力を消耗していたため、魔法弾にあれ以上の威力を持たせられなかった。

一方怨念の騎士の方は確かに消耗していたが、元々魔力の使い方がうまかったんだろう。

消耗を抑えていた上、最後のガイアストライクには命をベットしていた。

アンデッドに命と言われても変な話だが、賭けられる物はあるらしい。

ガイアストライクを撃って"死んだ"のがその証拠だろう。

そして俺の攻撃前に6割ほどを消し飛ばした雷光はソリフィスのもので、最後の2割を処理したのはルティナだ。

ソリフィスは俺を守ることにかなり気を遣いながら戦っていたようだ。

"ガイアストライク"を破壊しきれなかったことを結構悔やんでいた。

そのせいか今日のソリフィスは魔法の訓練に精を出している。


「シラキさんは常識外れなくらいには魔法の習得が速いです」

「でも名前を代償にした人は覚えが速いんだろ?」

「いえ、名前を差し出して得られる効果は個人差が大きいです。シラキさんは相当効果が出てますね」


俺が強くなる速度は普通の人よりもずっと速いそうだが、それはほぼ名前を捧げたおかげらしい。

それは良いのだが、そのおかげで普通どれくらいかかるのかが良く分からない。

"一般知識"も何かと穴がある為分からないことは多い。

この世界は教育も一部の富裕層しか受けられないし、全体的な水準が低いのだ。

本当に基本的なことしか分からないのも仕方ないのだろう。


「へー…まあわざわざ異世界から来たわけだしな」

「それにしたって、一度見ただけで習得しなくても」

「まあ、すばらしい教官とすばらしい環境とすばらしい加護が合わさって人より強くなれなかったらおかしいからな」


恵まれているのだから当然。


「どうせなら私が教えたかったのに…」


ルティナがボソッとつぶやいた。

すばらしいことに聞き耳に成功したためしっかりと聞き取れた。

この女の子は全くもってかわいいと思うんだ。

そんなつもりはなかったが、顔がにやけていたのかルティナが少し顔を赤くしてこちらを軽く睨め付けてくる。

私にとってはご褒美です。

この女神様は戦っているときは凜々しいがそうで無いときはかわいい。

ルティナの顔の赤さが増した。

すると俺の感情がより表情に出やすくなる。

まさに無限ループ!


「あー、とりあえず俺としては初めてまともにマナを得られたことに言及しておきたい」


このまま続けてもしょうもないので話を変えた。

……あからさまだなぁ。


「防御特化ではあったが、あの騎士はレベル8相当の能力を持っていた。得られたマナも大きいだろう」

「ああ、あいつ一人で7000もマナがもらえたからな。で、魔物を増やそうと思う」


つい修行にかまけていて煮え切らなかったが、やはり魔物は増やすべきだと思うんだ。

ダンジョンの雰囲気にも慣れてきた訳だし、そろそろ戦力増強時だろう。

そもそも魔物を生み出すのは先行投資だ。

能力に応じてマナが手に入るのだから、いずれは収支が上回る。

それに魔物は増える。

低レベルの魔物は人間と比べて圧倒的に増えやすい。

子供である時間が短くすぐに成人するから簡単に戦力が増える。

まあ高い出生率も短い幼年期も全て高い死傷率に起因していると思うが、増えて死ぬ分にはマナは増える一方だ。


「次は、どんな魔物を召喚するんですか?」


ルティナも復活している。


「安くて増えやすいのかな。まあ多少は他にもあるけど、後は趣味だ」

「ダンジョンは空間が余っている。質を絞る必要も無い」


ソリフィスも同意してくれているようだ。

実際ダンジョン空間余りすぎてるからこれで良いんだ。


「で、動物系の魔物を多く召喚しようと思ってるんだが、2階層の一部を森にしたいと思っている」

「ダンジョンなら内部構造が洞窟迷宮でも、ほとんどの魔物は生息できるが」


ソリフィスの言う通り、魔物は岩だらけだろうと何だろうと問題なく生息できる。

すごいな。

いや、あらゆる魔物を生息させるダンジョンと魔草の方がすごいのか。


「ああ、まあ今すぐじゃないけど、"枯果実の木"ってのもそのうち必要だろうなと思って」


"枯果実の木"は比較的上位の魔物の餌となる果実を付ける木だ。

魔草はあらゆる魔物の食料になるが、高レベルの魔物には物足りないのだ。

一方"枯果実の木"は高レベルの魔物には良いが、低レベルの魔物の食べ物にはならない。

ソリフィスにいつまでも魔草を食わせているのも悪い。

平時ならともかく、何かあったとき魔草だけでは傷の治りも遅いだろう。

そうでなくとも、今のソリフィスには能力に若干のマイナス補正がかかっていると考えていい。

様子を見て早めに何とかしなければ。

ちなみにこの木の果実、例によって人間が食べると毒だ。

こいつは人にとって何ら利益のある物では無いが、燃えにくい上切り倒すと毒を吐く。

この毒、魔物にはあまり意味が無いため何から何まで人類の敵だ。


「とりあえず、具体的な内容を聞いて良いですか?」

「おーけー」


俺が魔物の情報を見て、今回召喚しようと思ったのはこいつらだ!



今回召喚する魔物一覧

lv2ゴブリン×30


lv1ハウンドウルフ×20

lv3ウルフソーサラー×5

lv5シルバーウルフ×1


lv3ハウンドフォックス×10

lv4フォックスシャーマン×10


lv2ニードルビー×10

lv5クイーンビー×1


lv5グリフォン×4


必要な経費は47000。

もらえるマナは1日あたり4。


いや、どうしても低レベル魔物の収益は低いんだ。

高レベルになると収入は一気に増えるが召喚コストも一気に増える。

大体低レベルの奴らは増えて死ぬを繰り返すから全くこの通りの収支にはならないのだ。

ゴブリンなんて人と図体も大して変わらないのに千倍は増えるぞ。

……考えてみるとおそろしいな。

本来この手のシュミレーションゲームは真っ先に収益を増やすことを考えるのだが、このダンジョンなかなか甘くない。

マナを増やす以外一切使い道無くて良いから、100マナで1マナ/日くらいの収支が出せる設置物が欲しい。

…ま、とりあえずは説明だな。


「狼と蜂はそれぞれ1つの群れ、狐は良く分からないけど、グリフォンはソリフィスの下に付けようかと思ってる」


俺が召喚した魔物は俺の眷属として生まれてくる。

俺の眷属の魔物はダンジョン内で受けられる補正が他の魔物より大きいし、連携も取りやすい。

いろいろな意味で生み出した魔物の方が生き残って欲しいのだ。

そして最初からグループとして生み出せば、野良やその他にやられる可能性が減る。


「という思惑なんだけど大丈夫かな?」

「良いと思いますよ。ただ、確かに森はあった方が良いかもしれません」

「ああ、やっぱり?」


そりゃ環境が合ってりゃ合ってるほど良いよね。

ソリフィスのこともあるし。


「ソリフィスはどう思う?」

「問題ない、グリフォンは我が鍛えるとしよう」

「良いね」


ソリフィスが育ててくれるならそれに越したことはない。


「私からも特にないです」

「ん、ああ、じゃあ早速召喚するな」


中枢部に移動し、まずは狼。

合計26体の狼を一片に召喚した。

高い効果音と共に現れる複数の光と繭。

待つこともなく光る繭から次々に狼たちが生まれてくる。

彼らは全員が生まれたことを相互に確認したのか、膝を折り、頭を下げた。


ハウンドウルフ。

体長2メートルくらいある灰色の狼で、結構大きい。

ウルフソーサラー。

見た目ハウンドウルフとあまり変わらないが、身体が一回り小さい。

シルバーウルフ。

大きさはハウンドウルフと変わらないが、毛並みが綺麗な銀色だ。かっこいい。


一番前にシルバーウルフ、その後ろに他の2種類の魔物が正座(?)し、群れとしての様相を呈している。

しっかりと成功したらしい。

良かった、これでお互いにいがみ合ってたりばらばらだったりしたらいきなり予定が崩壊するところだった。


「ダンジョンマスターであるシラキさんが群れとして召喚しましたから、ちゃんと群れとして行動してくれると思いますよ」

「ああ、召喚者の意志ってそういう所まで反映されるんだ」

「シラキさんなら、生まれてくる魔物も穏やかで同士討ちしたりは少ないと思います」


なるほど。

というかこれは褒められているのだろうか?

この世界において優しすぎるのもボケてるのも考え物だろう。


「私は良いと思いますよ。シラキさんみたいに優しい人がいて欲しいです」


顔に出てたか。

ほんとルティナ好き。

とりあえず、狼たちは横にどいていてもらおう。

そういえば今ダンジョン内にいるハウンドウルフがどうなるのかは気になるところだ。


「言葉は分かるか?」


と聞くと肯定するようにシルバーウルフが頷いた。


「よし、んじゃそっち」


部屋の横を指差さす。

狼たちはおのおののペースで立ち上がり、指さした方に移動して腰を落とした。

これ、言葉がどうとかじゃなくて、俺の意図が通じてるんじゃないか?

と、直感がきた。


次に召喚したのは、グリフォン。

鷲の上半身は白く、ライオンの下半身は茶色に近い黄色。

ソリフィスよりは小さいが、それでもライオンと同じくらいの体躯。

4体のグリフォンは光の繭から現れると同時、そろって頭を下げた。

頷く。

よし、お前達はこれからソリフィスの部下だ。

というようなことを念じたら、ソリフィスの後ろに下がり座った。

やっぱりこれ通じてるな。

一方通行の念話みたいなモノか?

いや、命令は送れるのか。


「ルティナ、これって念話か?」

「うーん、どうでしょうね?でも命令は送れると思います。ダンジョンマスターも中枢部から魔物に指示が出せるそうですから」

「それは、必要だね」


中枢にいるままに全魔物に指示が出せるのか。

ボスの存在意義を奪うような、いや細かい指令までは無理か。

戦略的な指示を出すのがダンジョンマスター、戦術的な指示を出すのがボス、及びグループの長と。

なるほど、じゃあダンジョン内で軍隊のまねごともできるわけだ。

まあ前提段階で魔王軍総攻撃はもう決まっていたけどね。


とりあえず次だ次。


めんどくさいのでゴブリンと狐、蜂を一遍に召喚する。

おかげで結構な広さがある中枢部が魔物でいっぱいになった。

彼らは一様に頭を下げる訳だが、ゴブリンは分かりやすい。

ハウンドフォックス、フォックスシャーマンも大型犬くらいの大きさはあり、人間的なお辞儀も決して見苦しい物ではない。

まあ動物が頭を下げてる時点で違和感があるが。

問題は蜂だ。

小型犬ほどの大きさのニードルビーと、ルティナくらいの大きさのクイーンビー。

すごいぞ。

このビジュアル。

尻に包丁並の大きさの針を付けてるってだけでも怖いのにこのナリだ。

三十センチ以上ある蜂とかおぞましいわ。

元の世界の人々が見たら悲鳴を上げて逃げ惑うこと請け合いだ。

てか俺もさすがに表情が引きつりそうになったわ。

で、何となくこいつらもお辞儀しているらしいことは分かるが、どう動いているのかよく分からない。

……ま、まあ、一応主な訳だし、しゃきっとしないとな。


「じゃ、ソリフィスに任せて良いか?」

「良いのか?好きにやらせるが」

「ああ、どうせスペースはいくらでも余ってるし」

「了解した。行くぞ」


ソリフィスの声に全員が反応し、グループごとにぞろぞろと広間から出て行く。

通路端に付いたソリフィスが魔物を順次一階層へ転送していった。

転送の魔方陣は俺かルティナかソリフィスしか使用できない。

第三者が使えてしまったらダンジョンとして成り立たないからな。


次からは最初から一階に召喚しても良いかもしれない。


「さて、修行に戻るか」

「そうですね」


やはり修行漬けの毎日だった。







26日目終了


シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)

総合C+ 攻撃D 防御D 魔力量B- 魔法攻撃B- 魔法防御C すばやさC+ スタミナC- スキルC-


スキル

ユニークスキル「結晶支配」

ユニークスキル「  」


ダンジョン


保有マナ

28,313


ダンジョンの全魔物

ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)

迷宮植物:

    ヒカリゴケ4000、ヒカリダケ500、魔草400

眷属・グループ(能力順):

    グリフォン4

    シルバーウルフ1、ウルフソーサラー5、ハウンドウルフ20

    フォックスシャーマン10、ハウンドフォックス10

    クイーンビー1、ニードルビー10

    ゴブリン30

野良:

    ゴブリン6、ホブゴブリン1、コボルト6、ハウンドウルフ28、食人花6、インプ3






一階層

洞窟・迷宮


二階層

更地


三階層

更地


四階層

更地


五階層

コア、個室2、ダイニングキッチン、大浴場、保存庫


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