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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
魂縛の煉獄界 ~別れと出会い~
62/96

瞬く閃光が煉獄を駆ける

ケントニスと出会ってから数十日後。

煉獄の熱帯雨林は、けたたましい爆音に包まれた。

とはいっても、この森は広大すぎてうるさいのは氷山の一角にすぎないが。


周囲数百メートルは吹き飛び、葉っぱがはげてその巨大な幹と枝だけを残した木々。

そんな木々のうちの一つに着地した俺の肩で、手のひら大にまで縮んだケントニスが口を開く。


「なるほど、ライゼンデの劣化コピーかと思いきや……無差別攻撃をばらまくタイプでしたか」


今相対しているのは、二階建ての一軒家よりも背の高い、旅客機くらいの大きさの亀だ。

こいつは「煉獄の熱帯雨林」のユニークエネミーであり、体も心も回復したので、攻略に乗り出したわけだ。

こいつの居場所はケントニスがすでに把握していた……ゲームだったらぶっ壊れレベルで何でもできるな、彼女。

ただ、力の節約とかで戦うのは俺だ。

何でも分身だと消費した力の回復効率がものすごく悪いんだとか。


で、出会い頭に亀は巨大な光球を空に打ち上げ、それが分かれて降り注ぎ、絨毯爆撃。

防ぎはしたのだが、かなりの威力がある範囲攻撃だった。

周囲は森とは言いづらい環境に変わってしまったし、常に浮いていた葉っぱやガスも吹き飛んで消えた。

そして自分ごと爆撃した亀は甲羅に引っ込み、無傷。


「あれ、澄香は?」

「突撃していますよ。私たちも近づきましょう…即応できる位置まで」


見てみれば、澄香は亀の甲羅に斬りかかっている。

俺も跳躍すると、亀の周囲から小さな光弾がまるで壁を作るかのように多数出現、発射。


「面攻撃かよ」


巨木の裏側に隠れ、一斉に飛んできた弾丸をやり過ごす。

澄香は……無事らしい。

おそらく攻撃を切り払ったんだろう。

近づいてみて分かるが、澄香の攻撃で傷ついてはいても、それほど深手では無さそうだ。

中身にあたらなければ意味ないが、迂闊に手足や首を狙うと、そこから攻撃がこないとも限らない。

てか、多分来る。


「どうするか…」

「第二射、来ますよ」


相手の技の発動タイミングからそれがどんな技かまで、ケントニスは一瞬で見抜く。

多かれ少なかれ相手を観察するのは誰でも行うことだが、ケントニスの速さと精度は地上でもトップクラスである。


「澄香、第二射来る!」


俺の声に反応した澄香が亀に一太刀浴びせ、それと同時に亀と同程度の大きさの光球が打ち上げられる。

俺は魔法の盾を発動させ、更にその裏に結晶…アクアマリンで分厚い壁を作り完全防御態勢。

驚くべき速度で澄香が戻ってきたことを確認すると同時、炸裂した光球が降り注いだ。

けたたましい轟音が途切れることなく連続して響き、爆発の衝撃が発動させた魔法と能力を通して伝わってくる。

短い間に響き渡った爆音が終わると、俺は自分たちを覆っていたアクアマリンを消し、同時に澄香が飛び出していく。

俺はそれを見て、細く息を吐いた。


爆発はかなりの威力を持っており、一発につき上級応用以上最上級以下の威力がある。

それがクリーンヒットするのが大体三発ほどで、合計すればそれこそ炎属性最上級魔法"炎帝鳳凰"が直撃するくらいの威力があるだろう。

しっかりと防御しきったが、それは全力で防御に注力した結果である。

爆撃の初撃が来てから次まで約十秒、全力防御から次に全力防御できるまでに必要な時間は……八秒くらいか?

猶予二秒であの亀の装甲を抜けるほどの魔法を多分撃てん。

俺は亀の頭部の穴にバーニングボムをぶち込む。

爆発、しかしその爆発自体に違和感を感じる。


「何か、中で爆発したにしては…」

「そうですね、入り口の時点で爆発していました。目に見える弱点を放置はしていないと言うこと」


当然だが甲羅から出ている部分も防御しているらしい。

多分甲羅の部分よりは脆いんだろうが、直接斬りかかったらカウンターが飛んでくるだろう。

さて、どうするか。

考えるが、精々十秒かそこらで策が出るほど知力が高くない。


「第三射、来ます」

「澄香、来るぞ!」


第二射の時の焼き増しになった。

しかし、今度は澄香を引き留める。

キリッとした表情には戦場に身を置く者の風格があるが、それをしているのが十代前半の少女なのだから素直に感心できない。


「どうだ?」

「私一人だと、反撃覚悟で穴を狙うしか手はないわ。今同じ所を切ってるけど、治ってるから望み薄だし」

「防御を捨てれば最上級魔法くらいなら撃てるけど、それで何とかなりそうか?」

「……装甲は抜ける、大ダメージにもなるけど、それで倒せるかは」

「単体で爆撃範囲外に逃れるのは?」

「それならできるわ。亀から行って帰って、約三秒」


はっや。

全く意味の無い比較なのだが、この子はワールドカップ余裕で金メダルが取れる。

もっと意味の無い話だが、地球のトップ選手が闘気を操れるようになったら。

まあ、そんなことを考えている場合じゃないことだけは確かだ。


「どうするか」


圧倒的に時間が足りない。

いや、爆撃と射撃を受け続けるだけなら問題ないのだが、それで終わるほど優しいか?という疑問。

おそらく持久戦では分が悪いであろうという予想もある。

澄香は言うまでも無く、俺の魔力も有限だ。

相手のあの様子を見るに、閉じこもって持久戦する気満々。

時間を掛け過ぎるのは下策だ、かといって無謀に突っ込めば返り討ちは必至。


「試しに離れてみるか?」

「え?」

「俺は爆撃範囲外からでも余裕で攻撃できるし、亀の足は遅そうだ」


澄香が考えたこともなかった、と言う表情をした。

彼女はどうもソロ活動っぽいし、近接極振りだから無理もない。

しかし一瞬で表情を戻し、短く言葉を発した。


「そうね、そうしましょう」


この判断の速さ、戦いに望む心構え、まさしく優秀な戦士のそれだ。

そんなわけで第四射が来たわけだが、今まで亀の頭上で炸裂していたのが、移動を始めたこちらを追ってこっちの頭上に撃ち上げてきた。

当然防御の準備はしてあったので、攻撃を難なく防ぎ、その後は思い切って距離を取る。


結果としては、戦闘が終了した。

あの亀は実際鈍足で、爆撃も限界まで飛ばして精々二百メートルだった。

なので俺は五百メートルほど離れた地点で水晶の足場を作り、空から魔法攻撃を放つ。

使ったのはルティナ戦でも使った、電撃を凝縮した槍、雷属性最上級魔法"結閃浄雷牙"。

敵の射程外からピュンピュン魔法投げるだけの簡単なお仕事です。

亀は亀で普通に射撃してくるが、そんなもんが当たるか。

弾の速さも的の大きさも敏捷性も…爆撃で森がはげてるのもやりやすい理由になってるし。

槍自体では刺さるだけだったので、第二射以降では槍の中に電撃の球を埋め込んでおき、突き刺さったところで爆破。

中から電撃で焼いた。

このくらいの応用ならどうとでもなるね。

元々"結閃浄雷牙"単体でも当たれば電撃なのだが、多分その防御能力で抑えてるんだろう、大したものだ。


俺は息を吐いて、隣で複雑そうな様子の澄香に話しかける。


「澄香?」

「あ、うん。なんか…こんな風に戦うなんて、初めてだったから」

「……そか。じゃあ、下りるか」


俺が足下の水晶を戻そうとうずくまったその瞬間。

ヒュッと、風を切る音が聞こえた。

そして、突き刺さる音。

俺の真横に、澄香が背中から倒れこんだ。

その左胸からは、一本の矢がまっすぐに突き立っている。


「ぁ……」

「シラキ!防御して抜きなさい!!!」

「っ了解!」


突然の事態にあっけにとられたが、すぐさま飛んできたケントニスの叱責で我に返る。

自分で調べる前に腕にできる限りの魔力を纏い、覆い被さるようにして矢を引き抜く。

澄香は目をこちらに向けているが体が動く気配は無く、しかし意識はあることが分かる。

俺は即座に自身を覆う水晶を生成し、澄香を抱えて飛び降りる。

展開した水晶壁を貫通し、ドス、という音と共に落下中の俺の左肩に矢が突き刺さるが、即座に抜いてそのまま落下。

木々の下に入った時点で手を広げるように水晶の枝を伸ばし、蜘蛛の巣のように固定。


「ケントニス、どうすれば良い!?」

「攻性魔力で魔力を消しなさい!傷付け過ぎないように!!」


澄香の左胸に手のひらを押しつけ、可能な限りの速さと丁寧さで魔力を送り込む。

心臓付近では敵の真っ黒い呪いのような魔力と、そして澄香本人の魔力がぶつかり合っており、敵の魔力の集まっている場所に強引に攻撃を仕掛ける。

しかし俺の攻撃的な魔力は、敵の魔力と一緒に澄香まで攻撃してしまうため、どうしても澄香も傷付けざるを得ない。

そうこうしているうちに、澄香の目がどんどん虚ろになっていく。


「ケントニス、まずい、澄香が持たない!」


焦燥に胸が痛み出す。

矢は猛毒と死の魔力を同時に送ることで澄香を傷付けている。

澄香は闘気によって強化された肉体が毒に抵抗するものの、敵の魔力にあらがえるほどの魔力は持たない。

敵の魔力によって澄香の魔力が押されると、肉体が壊死し、毒を抑える力も弱まる。

しかも矢が刺さったのは心臓だ。

抑えられなくなった猛毒が血と共に体全体に巡り初めており、もう魔力をどうにかしても手遅れに近い。

魔力はあらかた駆除したが、一緒に澄香の魔力も傷付けており、心臓は弱々しく停止寸前。

ダメだ、解毒も回復も間に合わない。

澄香が、死ぬ…!


「っ!っつ!!」

「シラキ、自分の腕の治療に回らないと、手遅れになります」


歯を食いしばったその口から、意味を持たない音が漏れる。

分かっている、即座に抜いたとはいえ、この矢の殺意は本物。

魔力は一瞬で消したが、俺の肉体の毒に対する耐性なんて、たかが知れてる。


「……て」


逡巡して動けない俺に、かすれるような声が届く。

目を向ければ、強い意志を宿した瞳が、俺を射貫いた。


『見捨てて』

「……!」


その言葉と意志は、間違いなく俺に決断させた。


「……ァァアアアアア!!!!」


獣のような…自分にできる最大の叫び声と共に、迷いを消し去る。

澄香から右手を放し、自らに解毒魔法を掛ける。

それをみた澄香が先ほどまでの力強さをなくした、泣き笑いのような表情を浮かべる。

しかしシラキは、澄香が心から送る肯定の意志を、強く感じ取れていた。


「来る、シラキ!対空防御!!!」


ケントニスが耳元で強く言葉を発する。

俺が歯をむき出しにして魔法の盾を展開すると、空から矢の雨が降り注いだ。

矢にそれほどの威力はなく、強い意志の魔力が込められた魔法の盾は、降り注ぐ矢を全てはじき返す。


「この方向、距離900メートル」


ケントニスが、遂に敵の位置を特定する。

遠距離からの狙撃、完全にやり返されることになった。

900メートル先からこれほどの攻撃ができる。

間違いなく弱い相手では無い。


俺はすでに意志をなくした澄香の亡骸を、できうる限りの丁寧さでその場に横たえ、立ち上がる。

肉体はすでに危機を脱した。この程度で済んだのは、ひとえに刺さってすぐに抜いたおかげだ。

俺が澄香だったら、澄香よりも速く死んでいただろう。

俺は澄香をその目に収め、魔力を使い気るつもりで魔法を発動させる。



雷鳴。

右手を高く掲げたシラキの元に雷が舞い降りる。

そこにいたのは、輝く電のような鋭いオーラを纏った人間。

しかし、その肩の上に乗るケントニスには、一切の害を及ぼしていない。


「ケントニス……澄香を見ててもらっても…」

「任せて下さい。シラキは、どうぞ思うがままに」


ケントニスは強い言葉でそう言い、肩から飛び降りる。


「ありがとう」


跳ねた。

地を蹴った閃光が、薄暗い森を駆ける。

双方の距離を瞬く間に縮めた閃光が、黒い肌を持ち歪んだ意匠の弓を構えた男へと、その勢いのままに飛んでいく。

引き絞られた弓には強大なる闇が収束していき、冷酷な目をした男からその矢が放たれる。

悪夢のような厄災を乗せた矢はまっすぐに進み、シラキの眼前へと迫るが、シラキの右手は"水宝剣・志石"の柄に掛けられたまま。

左手で掴んだ、鞘に収められたままの"暗幕の外の守護者"を、右手と交差させるようにして目の前へと掲げる。

そうして暗黒の矢と"暗幕の外の守護者"は、鍔迫り合うかの様に押し合って止まり、そのすぐ横をシラキが駆け抜けてゆく。

一秒が限界まで引き延ばされた時間の中で、シラキはその男の眼前まで迫り、止まることなく抜刀の構えを取る。

その刹那、両者の鋭い視線が交差した。



閃光が瞬き、輝きを取り戻したとき。歪んだ意匠の弓と共に、男の首がはねられた。








モンスター雑感



lv9牛頭ゴズ

総合A攻撃A 防御A 魔力量C 魔法攻撃- 魔法防御B すばやさB スタミナA

『煉獄の熱帯雨林』ユニークエネミー09番。

攻防耐に優れ、機動力も低くない優秀な戦士。

情緒が少なく、非常にシンプルで、それ故に強い。

魔法は通りやすいが、倒すまで彼の攻撃をいなし続ける事ができる魔法使いというのも希だろう。

そもそも魔法使いは単独で運用するような兵科…もといジョブではなく、前衛が壁になって後衛を守るのが定石だ。



lv9黒死の弓

総合A攻撃A+ 防御B 魔力量A 魔法攻撃B+ 魔法防御A- すばやさB スタミナA-

『煉獄の熱帯雨林』ユニークエネミー04番。

"黒死の矢"という技を使う、『煉獄の熱帯雨林』でもトップクラスに殺意の高い敵。

その効果は致死性の毒、致死性の魔法毒を合わせ持ち、また十分に集中して撃てば、その矢を高い精度で隠す事ができる。

射程は1.5キロにも及び、不可視の距離から隠された一撃必殺の矢を放つスナイパー。



lv10緑影亀

『煉獄の熱帯雨林』ユニークエネミー02番。

総合A+攻撃A+ 防御A+ 魔力量A- 魔法攻撃B+ 魔法防御A すばやさD スタミナA+

驚くほど防御力の高い甲羅に身を隠したまま、高威力広範囲の爆撃で周りを吹き飛ばす亀。

攻撃力の足りない相手に対しては無敵だが、遠距離から高威力の攻撃をされると手も足も出ない。

どうしようもなく足が遅い上、甲羅に籠もっている間は動けないのだ。



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