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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
新界定礎の始点 ~未知は尽きぬもの~
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神の子達の庭

「見ました?」


見わたす限りの草原。

青空をもこもことした雲が泳ぎ、太陽が時折顔を出しては辺りを照らしている。

そんななかに、ぽつんと立つ巨木。

百メートル以上はありそうな大樹の下には、木製の丸テーブルが置かれている。

木陰になっている丸テーブルに、三角形の頂点の位置に向かい合っている三人。


「いや、お前が見ろって言ったんだろ」


大樹を背にした私に対し、左前に座っている男が呆れたように言った。


彼は"魔族と神の子"ガリオラーデ=モーストン。

私の兄弟の一人だ。

緑青色の瞳に、先だけ白い緑の長髪。

背は高く黒いマントを羽織り、頭に生えた山羊のような二つの角が特徴的。


「誰かを思い出しませんか?」

「…そうね、小さい頃の私たち。特にガリオンに似ているわ」


これを答えたのは、右前に寝そべっているドラゴンの女性。

その巨体を横たえながら、頭を私の右前の位置に置いている。


彼女は"龍と神の子"ヴォルフレイデン=ヴォルドラベル。

白い身体に透き通る様な青い瞳。

二本の角は一メートル以上あり、その巨体においても確たる存在感を持っている。


彼女はこの距離でありながら、ちょうどいい声量で話していた。


「まあ、確かにそうだな。状況がそろっていたとはいえ、たった一ヶ月でC+か。人間とは思えん」

「シラキさんの名前のおかげです。すばらしい魂の持ち主ですね!」


シラキさんの成長速度は名字を差し出したことに起因している。

いえ、もちろん特訓に対する姿勢も相当影響していますけど。

とにかく、魂に空いた容量が大きい。


つい笑顔になる私に対し、ガリオンは微妙な表情だ。


「いや、まあ……そうなんだろうが」

「魂の一部を欠いても揺るがない存在には驚愕するわ」

「………いや、お前らがそれで良いなら良いけどな」


ガリオンがため息をつき、思い出すように視線を中空に向ける。


「懐かしいな。俺がそのレベルに達したのは、確か八つぐらいの頃だったな」

「私もです。あの頃は、今よりは時間もありましたね」


シラキさんを見ると、自分たちが生まれて間もない頃、まだ生き物として弱かった頃を思い出す。

なんだか不思議な気分だ。


「私は…………」


フレイはない記憶を思い出そうとしている。

ガリオンはあきれ顔でフレイを見た。


「何歳だったかしら?」

「お前ボケてるのか?」


ガリオンからこれを見越したツッコミが入る。

何せ彼女は、生まれたときには今のシラキさんより強かった。


「フレイは確か、生まれたときレベル6くらいはあった気がしますね」


生まれた時はベビードラゴンだったフレイは、昔はかなり小さかった。

人間と同じくらいの大きさで、力もドラゴンとは思えないぐらい弱い。

それでも人間に換算したらランクB-くらいの実力になるのだけれど。


「ああ、懐かしいわ。成長を経験させる、なんて言って赤ん坊の頃から外に出されたのよ」


フレイは竜王の子だ。

通常、竜王なら相応の力を付けるまで腹の中で成長させてから子を産み落とす。

そうした場合、子供は生まれたばかりでもレベル10はあることを考えれば、フレイは確かに特別だ。


昔、とあるロードドラゴン(lv13)がとあるレッサードラゴン(lv9)を見て、"ドラゴンの恥さらし"などと言っていたことを思い出す。


「フレイも大変ね」

「あなたたち程じゃないわ。私は大戦に参加してないもの」


私たちが生まれて大体二十年、"終末の時"が起こった。

邪神の侵攻に対して私とガリオンは戦ったけれど、フレイは参加していない。

確かにあの時は酷かった。

でも、後の平和な何百年の方がずっと辛かったのも確かだ。

私たちは邪神の侵攻に対するという使命があったせいで、きっと誤解していた。


「話が横道にそれたな。さっきの戦いだが、まあ最初から見ていくか」


この三人で話しているとよく話がそれる。


「まずシラキだが、魔法の使い方を間違っている。保有している高威力の魔法でもダメージを与えられないと分かった以上、ソリフィスの支援に回るのは正しいが、やるならもっと別の方法を取るべきだ。足を止めるとか、な」


うんうん。

でもシラキさんはまだそれほど魔法を覚えていない。

今のところ課題が多すぎて、支援魔法を覚える余裕がないという問題がある。

まあ、成長が早すぎるからこそ起こる問題なのだけれど。

それに魔力の無駄遣いが目立った。

これは彼自身自覚的に行っていたことで、多分速く慣れたかったんだとは思うけれど。

それでピンチになっていたら仕方がない。


「火力バカがよく言うわ」

「いつの話だよ!?俺だって支援くらいできるわ!」


ガリオンは昔は正しく火力バカだったけれど、今は実力的にはそんなことはなくなった。

……性格は変わっていないけれど。


「そうね。あなたは魔法が得意だものね。かける相手がいないだけで」

「いるわ!そういうお前だってかける相手いないだろ!」

「ドラゴンが群れる生き物に見えるのかしら」


ガリオンが黙る。


「まあ、そうね。魔法も第二段階に到達しているみたいだし、支援手段の少しくらいなら、すぐに用意できるでしょう」

「お、俺が言おうとしたことを……」


やられた、という表情をしているガリオンに対し、フレイは少しだけ口角を上げる。

フレイはポーカーフェイスだと思う。

ドラゴンがどうとかじゃなくて、フレイはごろごろしているときはあまり表情が動かない。


「あー、うむ。で、ソリフィスだが、問題は最後だな」


ガリオンがすぐに立ち直って話を続ける。

いつものことだ。

ガリオンが言う最後とは、ソリフィスがガイアストライクに向かって放った雷属性上位魔法"裁きの鉄槌"のことだと思う。

これによってソリフィスは怨念の騎士のガイアストライクを6割ほど削り取った。


「ソリフィスの魔力なら8.9割は消せてもおかしくなかった。そうすればシラキも残りを破壊できただろう。"裁きの鉄槌"の電撃は、簡単に密度を変えられるからな。威力を重視して圧縮しすぎた為に、逆に魔法の大部分を攻撃できずに終わってしまった」


私としても同意見だ。

ソリフィスの魔力ならもっと壊せたはず。

シラキさんを助けたいが為にトゲ側を優先し、魔力を調整しきれなかったが為に十分に破壊することができなかった。


「一瞬の積み重ねで推移する戦闘において、とっさに最適な行動を選択するのは難しいわ。生まれて間もないソリフィスには、難易度が高かったでしょうね」


敵の行動を見て内容を把握し、破壊に必要となる威力を割り出す。

自らの魔法の中から一つを選択し、必要な威力でもって発動する。


戦いっていうのはそういうことで、戦いであるならいつでもどこでも関わってくる。

だからこそ戦闘経験の差がそのまま戦いの上手さににつながり、基礎能力の差を覆す。

要するに。


「これからソリフィスも特訓しますか」


ということですよね。

実戦形式の訓練は二人一緒にできますし。


「さすがの特訓思考だな」

「そうね。これでこそルティナって感じ」

「むしろ何で今までソリフィスは特訓してなかったんだ?」

「シラキとの蜜月の時間を減らしたくなかったんじゃないの」

「そうなのか!?」

「違います!?私の今回の使命はシラキさんの面倒を見ることで…!」


私は使命の女神。

今回はシラキさんを育て、助けることが私の使命。

別にシラキさんを独占したいからソリフィスの特訓をしなかったわけじゃ…!


「……蜜月の否定はしないのか?」

「べ、別にそういうわけじゃ…」


私なんて、これでも女神なのに子供達にも鬼教官とか言われる始末。


「私は楽しいですけど、シラキさんは辛いですし」


身一つで他人のためにこの世界に来てくれたシラキさんにも、過酷な修行を課してばかりで。

でも、そんな私のことを、心の中ですら罵ることも憎たらしく思うこともしないシラキさんが好きって言うか。

いえだから、別にそんな子供みたいな理由でやらなかった訳じゃないですって!


「楽しすぎて忘れてたのね」

「うぅ…」


否定できない。


「ルティナが楽しいならそれが一番だろう」


ガリオンは当然とでも言いたげだ。

いえ、確かにそれはそうなんですけど。

私もガリオンやシラキさんのような心の軽さが欲しい。


「ガリオンの言う通りね。そもそもルティナは今までがつまらなすぎるのよ。今のうちにシラキと遊んでおきなさい」

「そんなこと言われても……シラキさんの好みとか、分かりませんし」


ガリオンが笑い、フレイの口角が上がる。

う、私何かまずいこと言った…?


「押し倒しちゃえば良いじゃないの、共通の楽しみでしょ?」

「う……私、そう言うの疎いんですけど」


もちろん冗談で言ってる。


「いやいやいや、真に受けるな。神の子が肉欲まみれとかキキーモラになんて言い訳すればいい」

「と、この中で一番肉欲に縁のあるヤツが申しております」

「ぬぅおおおぉぉぉぉぉぉ!」


ガリオンが頭を抱えた。

ガリオンは尻が軽い、ということは全くないけれど、私とフレイに縁が無いせいで必然的にそうなる。


ちなみに邪神の中には、生き物から力を得ている者が存在している。

知っている人は少ないが、"堕落"というのは魔物では無く邪神に利する。

特に"怠惰"や"色欲"は邪神の強化に直結する。

目に余る邪悪や堕落が長生きできないのは、生物の無意識的な総意に拒絶されるからではないだろうか。

……神が言っていい話じゃ無いかな。

多分ミテュルシオン様とか、主神達ならそういうのも分かっているのだろうけれど。


ちなみにキキーモラは種族として色欲の回収という役割をになっている。


「愛さえあれば良いのよ。ヴァルキリーもそう言っていたわ」

「キキーモラじゃないのか……まあ、色欲の定義はかなり甘いからな。サキュバスの情事もカウントされていないらしいし」

「それが邪神の糧になってしまうと、サキュバスが魔物として大変です」


そう考えると何が悪いのか曖昧だ。

グレーゾーンがどう判定されているのか。


「そういえば、そこら辺シラキは大丈夫なのか?もうヒュノージェだろう?」


重要な役割を持つ人間が堕落していると、世界的な悪影響が出る。

神々や天使達としては胃が痛い。

前回の終末は本っ当に酷かった。


「そうですね。不安はありますけど……フレイの言うとおり、シラキさんなら、多分、大丈夫だと思います、けど」


少なくとも今のところその心配の芽は無いけれど、言い切れないのが怖いところ。


「そうか、ならいい」


ガリオンもフレイも、この件に関しては過敏だ。

……一番過敏なのは私だけれど。


二人とも黙り込む。

そろそろ戻りましょうか。


「では、ソリフィスの特訓してきます」

「ああ、またな」

「またね、ルティナ」


私は頷き、席を立った。








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//ソリフィスはボス部屋で瞑想しています。

//ルティナはボス部屋に向かっています。

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ルティナが去っていった後。

この場には二人だけが残されている。


「で、見たか?」


フレイに問いかけるのは、先刻のルティナと同じ言葉だ。


「何を?」

「あの騎士、元はどこの出だろうと思ってな」


あの騎士、かなりの実力を持っていた。

ならば生前もそれなりに有名だったのではなかろうか。


「私の記憶にはないわね」

「そうか」


どこかで見たような気がする。

……気のせいだろうか?

世界中にいる騎士の全てを知っているわけでもないし、分からないのは仕方ない。

では、妙に気になるのは何故だろう。


「手が空いたらダンジョンを突っついてみようか」

「……自分が行くなんて言わないでしょうね」

「そのうち行くかもしれんな」


戦うのは好きだ。

だがいずれ来る日では、最前線に立てない気がする。

まあ、遊びに行けるくらいには暇だからな。


「相変わらず脳筋ねぇ」

「うるさいな、変わらんさ。……俺らは特にな」


腰が重いのがフレイなら、突飛な行動をするのが俺の役割なんだ。


「けれど、新しいことはありそうね」

「……シラキか」


六百年一緒にいる三人だ。

ルティナがどう感じているかぐらい分かる。


「喜ぶべきなんだろうけどな」

「むしろ………怖いわね」


鬱気味だったルティナがさわやかな表情をしているのは良い。

それは俺とフレイが、望んでいてもできなかったものだ。

……だが、これはシラキが死んだらどうなってしまうんだ?


「怖いな」

「……私の方から誰だ出そうかしら」

「ああ。俺も何人かに声をかけておく」


そう言ってフレイの身体が薄れる。

俺も自分の城に戻り、裏から手を回しておくことにした。

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