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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
魂縛の煉獄界 ~別れと出会い~
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シラキの人生に


深い森の中でサバイバルを始めて一日目。

その日のうちは隠れ場所で浅い眠りを繰り返した。

申し訳程度にウッドゴーレムを生成しておいたが、本当に気休めだ。

こんな時マシな護衛を作れたら良かったのだが、仲間の魔物達がいるため、ゴーレム系はすっかり放置していた。

まあウッドゴーレムでも呼び鈴になれば上々だろう。

それにこの森の木を使ったウッドゴーレムは、地上のそれより強力だった。

とはいえ、吹けば飛ぶことに変わりはないが。


二日目。

コインは脱出よりも、とりあえずこの場所で生き抜けることを選んだ。

その為行ったのは、中級魔法、"ストーンゴーレムの生成"の練習だ。

使ったことはなかったが、知識としては知っていたので、割と短時間の内に習得することができた。

ただ、そのとき敵に見つかった。

やってきたのは、悪霊四体、巨大蜂一体。

正直言って、割と楽な編成で安心した。

初っぱなから炎属性上級魔法"荒天花"と風属性初級応用魔法"ガスト"の合わせ技を放ち、悪霊を殲滅。

抜けてきた巨大蜂にはブレイズランス三本斉射して事なきを得た。

派手にこそやったが、それほど爆音を轟かせたわけでもない。

俺はさっさとその場を離れることにした。

奴らはそこら中にいる上、一度戦うとその音やら魔力やらを聞きつけて寄ってくる。

おかげで走りながら何度も戦闘を繰り返し、何とか別の場所に隠れた頃には数時間が経過していた。

初日に水晶を駆使して煙を防ぎながら作った、焼いた恐竜の肉を食い、疲れた体と精神を癒やす。

数時間後に鏡餅に見つかり、またしても過酷な戦闘を強いられることになった。


三日目。

魔力結晶がもうほとんどない。

そもそも日常の時にメアリーに呼ばれてそのままなので、少ししか持っていなかったのだ。

この森にいれば魔力はガンガン使うし、魔力切れは誇張無しに死を意味する。

魔法無しじゃ巨大蜂にすら殺されかねない。

俺は認識を改め、護衛を増やすよりも身を隠す技を磨くことにした。

ゴーレムがいたところで、一度戦えば周りからわらわらと敵が集まってくる。

ならば、最初から戦わないように努力した方が良い。

しかし、正直隠蔽系の魔法に関してはさっぱりだった。

今まで全く必要になかったのだから仕方ない。

その日はまたしても連戦マラソンをやらされる羽目になった。


四日目。

魔力をケチって戦っていたら、スケルトンに腹を刺された。

ピンチではあったが、魔力を使いまくって何とか生還。

魔力消費を抑えようとして結果魔力をより大量に消費することになるというこの体たらく。

それに回復魔法を掛けても腹を貫かれた事実は変わらず、こちらの動きが鈍った。

ただすでに何度も刺されている割には体が動いており、少々不思議ではある。

栄養不足・休息不足・怪我加算中であるのに、自分の肉体性能のイメージと比べると、ずいぶん長持ちしている印象だ。

なんにせよ、運良く隠れる場所を見つけられたおかげで何とかなったものの、厳しい状況であった。

服も下着も替えられないが、水はあるので血を洗い流すことくらいはできる。

とはいえ、下着の替えがないというのも俺としては気分の良いものではない。

そんな問題を抱えながらも、その日は一日隠れ家に引きこもっていた。


五日目。

魔力結晶が尽きた。

肉はあるが、それほど柔らかいわけでも美味でもなく、調味料もないただ焼いただけの肉は実に味気ない。

水分こそとれているが、各種栄養が足りているとは思えない。

特に塩分が心配だ。

運動量が多く汗を掻く上、そもそも塩分は生きる上で必須。

とはいえ、それほど心配はしていない。

どのみち、この調子じゃあ戦って死ぬ方が速いからだ。

スケルトンとの戦いで、"黄玉の乱れ紅葉"が折れた。

残る武装は"水宝剣・志石"と"暗幕の外の守護者"、コートオブファルシオン、そして"シルバーセイント"と"爪のネックレス"。

シルバーセイントは新しく作った片手剣で、刀である故の耐久力の問題もなく、気軽に使える武器だ。

しかし刀ではないのでまだそれほど習熟していない。

爪のネックレスはソリフィス、命尾、レフィルが三人で爪に魔法を掛けてネックレスにしたものだ。

小さいが補助効果のある魔法装飾品で、他にもあるのだが、例によって今は手元にない。

服は大分ぼろくなってきたが、いざとなったらコートオブファルシオンの形状変化でどうにかする。

作ってくれたルティナ達に本気で感謝した。


六日目。

何か、剣の腕が上がった気がする。

というよりは、この森に出てくる敵との戦いになれたのかも知れない。

目や口を狙い、恐竜が近接戦で倒せるようになったのは大きい。

それでも未だ魔法は必要だ。

蛾も、蜂も、悪霊も、スケルトンも、全部魔法なしじゃ勝てない。

この日は死にものぐるいで戦い、隠れ場所を見つけた頃には、傷をしっかりと治す程の魔力も残らず、すぐに気絶するように眠りに付いた。


七日目

運が良かったのか、この日は半日以上見つからずに隠れていることができた。

ただ、見つかるときは大抵鏡餅か悪霊か魔法使いだ。

今回も見つかったのは魔法使いだった。

俺が魔力の動きを察知して隠れ場所を飛び出すと、先ほどまでいた場所に黒い球体が殺到し、爆発した。

前に魔法使い二、悪霊三、後ろに恐竜一。

最悪!の一歩手前の組み合わせ。

物理無効の悪霊と魔法反射魔法使いのタッグ!

俺はすぐさま振り向いて恐竜に向かって走り出す。

木から木へ飛び移り、恐竜のビームと後ろから飛んでくる魔法を回避。

魔法の矢が数発命中するが無視だ無視!

接近した恐竜の放つ衝撃波で吹き飛ばされ、事前に把握していた木に着地。

予定調和だ、恐竜は接近されると衝撃波を放つが次弾装填までには時間がかかる。

俺は水晶の手を伸ばし、恐竜の首を掴んで引っ張り、ターザンの水平版みたいに半回転。

恐竜の重量は俺一人ひっついたくらいではビクともしないが、恐竜本人は俺を無視できる訳ではない。

動きの鈍った恐竜の高い頭部に着地しその勢いのまま、非常にタフで防御力の高いこの恐竜の、唯一脆い部位に刀を突き立てる。


「キシャァァァァァァァアアアアアアアアッ!!!」


恐竜が悲鳴を上げて大きく首を振る。

"暗幕の外の守護者"は眼球を突き抜け、脳を直撃した。

俺は刀をそのままに、残りの魔法使い達に向かって飛び出す。

断続的に飛んできている魔法を避け、無理な物はコートオブファルシオンで防ぎ、機動力を駆使して攪乱。

悪霊がこちらを掴もうと手を伸ばした隙を突き、"水宝剣・志石"で魔法使いの首を切り落とす。


魔法使いと戦士を比べると、特にCランクやBランクにおいて、魔法使いの方がずっと目立つ。

威力や汎用性、様々な場面において魔法使いの方が強いように見える。

何せ魔法が派手だ、上級魔法の一つも見れば、戦闘力のない人間からは強大に感じるだろう。

しかしまともに勝負すれば、戦士の方がずっと有利なのだ。

俺は結晶の能力で作った第三・第四の腕を用い、引く・押すの二つで強引に体を動かして悪霊の攻撃を回避する。

魔法使いは魔法を当てることを諦め、魔法の矢で攻撃してくるが、その魔法に一撃性はない。

数秒と立たずにまた悪霊の隙を突き、サンダーボルトで一掃。

そのまま恐竜の所に戻り、休むことなく刀を引き抜き、今度は作成しておいたナイフ取り出す。

戦闘中には使えないような-溜めに時間と集中力を使いすぎる-高濃度の凝縮ウインドカッターで切り込みを入れ、その後ナイフを使って肩の辺りの肉を剥ぐ。

はぎ取っている途中で何体か寄ってきた悪霊と巨大蜂を燃やし、忘れ物がないか見回してから走り去る。

しかし、いくらも行かない内に、体が動かなくなってきた。


「はぁ……ふぅー……」


まずい、かも。

体から力が抜けて、しかも体中の痛みが思い出したように感じられる。

あー、ダメだ、かもじゃねぇや、これはまずい。

千鳥足のようによろめきながらも、木陰に身を隠す。

一方向からは丸見えだが、何もしないよりはマシだ。

体のいろんな場所が痛い。

そういえば、さっきも後ろから何発か魔法が当たっていた気がする。

魔法防御力はそれなりにあるとは言え、全く効かないなんてことはない。

その上この一週間、しっかりと休めていない。

怪我も治りきっていない上から何度も負っているし、単純に来たるべき限界が来たのかも知れない。

体力も止まって意識すると息切れしてる。

あー辛い。

魔力もない、体力もない、アイテムもない、そして先も見えない。

何もかも投げ出したくなってしまう。

疲れた、そしてこのままここで寝れば、目覚めるとしてもあの世だろう。

このところ毎日走れるだけマラソンした後みたいな状況だったのだが、そのまま眠ったりはしていない。

こんな前から丸見えな場所で意識が飛べば、果たして楽に死ねるだろうか?

俺はいたいのが嫌だから、誰かを殺すときもできるだけ楽に死ねるようにと思って戦ってきた。

それでもやっぱり先ほどの恐竜のような殺され方は嫌だ。

きっとそれはすごく苦しくて、死の寸前の一時に感じる、真実の苦痛の一つなのだろう。

心地よさの欠片もない状態で、炬燵の中にいるときのような眠気に耐えながら、幾たびか瞬きを繰り返す。


そして、右手を握りしめ、地面を叩きつけるようにして立ち上がる。

まだ、こんなところで死にたくない。

今死んだら、ルティナやソリフィス達、そして両親と命尾に対して、あまりに情けない。

恥ずかしすぎて顔を向けられなくなる。

満足に寝れず休めず戦いっぱなしで傷だらけでまともな飯もなくひたすら苦しむ毎日。

言うてまだ一週間、長い人生の中では一瞬の時間に過ぎぬ。

俺は木の根に手を付き、ゆっくりと歩き出した。









八日目。

休息日とは何だったのか。

七日目はあの後しばらく歩き回ってから、ようやく見つけた窪地で眠った。

敵には見つからずにすんだが、果たしてこの幸運がいつまで続くだろうか。

そして、眠っていた俺はスケルトンの襲撃でたたき起こされた。

俺が作ったストーンゴーレムが通り魔みたいなノリでなぎ倒されていく様を見ながら戦いに移ったのが真っ暗になった夜中。

敵も基本的に夜は動かないのだが、悪霊やスケルトンはその限りではない。


急いで気合いを入れて刀を抜き、一合目を弾いて二合目。

刀で受けた瞬間足に力が入らず、かくっと崩れ落ちる。

当然この隙を逃すことなくスケルトンは突きを繰り出し、俺はとっさに体をそらす。

結果、スケルトンのレイピアは左の二の腕を貫通し、そしてスケルトンは石の槍に貫かれた。

三本の石の槍で貫かれたスケルトンはその場に崩れ落ち、俺も尻餅をつく。


発動したストーンジャベリンは、仕掛けてあった魔法トラップ。

石のゴーレムの中に仕掛けておいた物だ。

使う機会があるとは思っていなかったし、使っても有効打になるか疑問だったが、結果的に非常に役に立った。

俺は左腕を水晶で固定し、コートオブファルシオンの裾を全力で噛みしめ、刺さったレイピアを引き抜く。


「ひぃっつ!」


体に刺さったモノを引き抜く経験も、結構増えてきたが、痛いのに慣れることはない。

ただコツは一気にやること、引き抜く恐怖を噛みしめる前にさっさと抜いてしまうことだと思うようになった。

そうして抜いたレイピアを投げ捨て回復魔法メガヒールを掛けるが、固定していた水晶を解除して始めて気付く。


腕が動かねぇ。

ど、どうしよう、明日になったら治ってたりしないかな?

ルティナがいれば治してくれそうなモノだけれど。

そういや数日前に肩刺されてたし、それもあるのかもなぁ。

肩は動くけど指、手、腕はダメ。

……いいや、治らないモノは仕方ない、寝よう。


幸いそれほど音は立たなかった上、使った魔法も最低限だったため、その場所を移らずにはすんだ。

と言うか移る気力と体力がなかった。

悲しみに押しつぶされて泣き出してしまう前に、さっさと寝ようとして、疲れのせいか本当に泣くこともなく眠ることができた。


周りが明るくなってから左腕は水晶で体にがっちりと固定し、邪魔にならないようにした。

魔法メインで戦うなら、片手がない位どうと言うことは無い。

問題は姿勢制御が難しくなることと、魔法使いと戦うのが絶望的に気が重いと言うこと。

ああ、恐竜もヤバいな、両手ないと頭に乗った状態から刺せない。


しかしそれほど深く考えることなく、俺はまた森での生活に身を投じていく。

そうしてこの日の戦闘中、それは起こった。

またスケルトンに刺されたのだ。

それも腕や足や腹ではなく、内蔵、肺を。

刺されたこと自体は何回目かも分からないため、スケルトン自体はその場で倒した。

しかし、あまりの苦しさでその場にうずくまる。


「かふ、かひゅ」


変な音を立てながら息を吸うが、それを処理する肺には剣が突き刺さっている。

痛みと苦しさでどうにかなりながら、おぼれあがく様に腕を中に振る。

剣を抜いたら、割と短時間で死ぬ。

かといって刺さったままでもそのうち死ぬし、抜かなければ治せない。

そうだ、抜くと同時に結晶で穴を塞ごう。

強烈で曖昧な痛みの中で、まるで自らの手首を切るような恐ろしさを感じながら、歯を食いしばって剣を引き抜く。

あまりの苦しさと痛みに目から涙がこぼれ、息を止めながら、最大出力で結晶操作と回復魔法を掛ける。

自らの内臓の正確な位置や形も分からないままに、しかし穴だけは結晶で塞ぐことに成功したと思う。


「ヒュー、ヒュー」


蚊のなくような音で呼吸しながら、敵が来ないことを祈って回復魔法をかけ続ける。


「うっ……ひぐっ……」


いつの間にか、俺は泣きながら嗚咽をこぼしていた。

こんな風に本当に泣くなんて、一体いつぶりだろうか。

しかしそのまま泣いていることもできず、霞む視界の中で体を起こし、考える余裕もないままにどことも知れず這っていく。

涙が溢れ続ける瞳に映ったのは、スケルトンと複数の悪霊。


「あっ、…っく、ガァ!」


それを見て、それまで胸を満たしていた恐れや悲しみはそのままに、胸に怒りが込み上がってくる。

それは漠然とした物であり、もしかしたら理不尽や苦痛そのものに対する怒りなのかもしれない。


「クソ……クソ!殺されて、たまるか!」


飛びかかってくるスケルトンの剣を受け、めちゃくちゃな風魔法で吹き飛ばす。

そして、同時に飛びかかってきていた悪霊に、肩や手を掴まれる。


「俺は、ッ!」


すぐに襲い来る苦痛を感じながら、自らを巻き込む放電を起こす。

しかしそれで悪霊を一瞬で殺せるわけでもなく、そのまま正面からスケルトンが飛びかかってくる。


「俺は!!」


俺の人生に。

大切な人達に。


「胸を張りたいんだぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!」


死へと至る感覚と、首を切られる感覚。

そして大きな地震が起きているときのように揺れる視界だけが、最後に感じたものだった。



ユニゾン時の役割

ソリフィス:魔力強化、肉体強化、魔法制御、雷魔法、飛行

レフィル:肉体強化、反射(反射神経)、観察(動体視力)、五感強化、近接戦闘補助

命尾:魔力強化、魔法制御、魔法補助、炎魔法、探知・索敵、魔力解析

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