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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
終末の日は来たれり ~始動した二つの終点~
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自己ダンジョン踏破

おまけ回。シラキ不在。見なくてもストーリー上問題ありません。次の次からまた動乱です。


洞窟内を歩く、いくつかの足音と、羽ばたく音。

それらの主は、ソリフィス、リース、グノーシャ、ハースティの四人だ。

割と異色の組み合わせである四人は、ダンジョンを逍遙しょうようしていた。

逍遙のついでに、ダンジョンについて考えよう、と言うものである。

ダンジョンの弱点や必要なものなど、このダンジョンに住んでいる者であれば、大なり小なり気にしている事なのだ。

そんな彼らは今回、第一階層から始めて順番に下りていくことにしていた。


第一階層の洞窟。

広さ一平方キロメートル、高さ数十メートルの空間を、アリの巣のように洞窟が存在している。

これは三次元的にうねる通路が幾重にも交差し、迷ったら最後、数日は出られない可能性もある迷宮だ。

方々にトラップを設置し、有事においてはシラキの眷属達が組織的に攻撃する、難易度の高いダンジョンだ。

しかしこの階層は前回の対滅亡の大地戦ではほとんど役に立たなかった。

と言うのも、このダンジョンの容量を上回る程の物量で攻められたからだ。

何万という大群が投入された結果、迷宮が意味を成さなかったのだ。

迷宮内部を埋め尽くしたからと言って、次の階層までの道が見つかるわけではないが、おそらくそれを成したのが黄泉の黒煙だ。

埋め尽くすような亡者達の中には、二千以上の黄泉の黒煙がいた。

それらがお互いに情報をやり取りして、入り口から第二階層までの道を発見したのだろう。

ちなみに迷路を物量で突破されるのをみて、当時シラキはやるせない表情をしていた。

迷宮内部の構造が他の死神にもバレている可能性もあるため、多少内部を変えているものの、マナも使うので多少の範囲にとどまっている。


「狭くて射線の通らない洞窟だと、私たち魔術師の出番はなさそうかな」


洞窟の中を歩きながら、リースが言った。

基本的に遠距離攻撃が主な仕事である魔術師にとって、狭くて直線距離の短い場所は相性が悪い。

少ない人数ならば壁となる前衛がいれば戦えるが、三桁を超える様な数の戦いになると、活躍するのは難しい。

例えば広場に陣取り、前衛の後ろから入り口をモグラ叩きにする場合。

相手が弱ければ、あるいは相手が弱ければ成立するが、無限に打ち続けることができない以上、数で押されればいずれは突破される。

そんなとき、足の遅さがネックになる上、そもそも魔法をそんなに連射していたらすぐにガス欠だ。

それにある程度魔法防御力のある敵なら普通に突破できてしまう。


「この階層でもっとも生きるのはウルフ隊だろうな。視界が悪く通路が多いため奇襲も撤退もしやすい」


歩きながらソリフィスが答える。

奇襲しやすく撤退しやすい構造であるこの洞窟は、レフィルの一撃離脱の精度を上げる。

やはり物量相手だとやりづらいものだが、それでも一定の活躍はできる。


「あと僕たちもね。ノームもまあ、同じような理由で動きやすいし」


土の中を移動できるノームにとって、洞窟は最高の環境だろう。

このダンジョン内の壁は非常に頑丈にできているため、土の中にいればほとんど無敵なのだ。


「だろうな」


ソリフィスが同意すると、ハースティが羽を広げる。

声にこそ出ていないが、ハースティの意思表示だ。


「鳥は動きづらいよね」


リースがハースティの羽を撫でながら言う。

ライカやハースティなどは、言葉こそ話さないものの、しっかりとした考えを持っている。

今回は鳥であるハースティが、洞窟では陸に上がった魚のようだと言う様なことを示していた。

狭い洞窟内ですら飛行を可能にする彼らだが、その機動力を生かせなければ意味が無い。

結局、洞窟というのは人を選ぶ地形であると言うことだ。




第二階層、吹雪の山。

吹雪の吹き荒れる夜の雪山と言うのがこの第二階層だが、その環境はやはり過酷だ。

暗い闇に吹雪が合わさって視界は驚く程狭く、すぐ近くにいる者の姿すら満足に見えない。

地面には深く雪が積もっており、歩くだけでも一苦労だ。

ずぼっ、ずぼっ、と音を立てながら四人は歩く。

ハースティだけは空を飛んでいるため積もった雪は関係無いが、視界の聞かない場所を飛ぶというのはそれだけで危険だ。


「ちょ、ちょっとこれは、まずいかも」


歩き始めてまだ数歩、その時点でリースが足を止め危機感を覚える。

果たしてこの四人で無事に第三階層にたどり着けるだろうか、と。


「僕は全然へーきだけど、リースとハースティはまずいんじゃない?」

「うむ。我が主も、ずいぶん強力な階層を整備したものだ」


全員が同意して、第二階層を引き返す。

彼らにはこの山を登ろうとして、本当に遭難する未来がありありと浮かんでいた。


「うーん…ここまですごいなんて」

「並の生物じゃ突破できないよね、これ」


彼らとて並以上に強力な魔物であり、すぐにどうこうと言ったことはない。

しかし迷わず次の階層にたどり着けるかと言われれば難しいし、十分事故が起こりえる。


「我とハースティは上空まで上がってしまえば雲の中を進めるが……そこはバード系の領域だな」


ライカ、ハースティ、カミドリ達が率いる航空隊が、最初に活躍するのがこの吹雪の山上空だろう。

上空まで行ってしまえばそこは晴れており、吹雪は吹いていない。

そのため航空隊は最近、雲の量が多い吹雪の山上空を飛ぶ練習を盛んにおこなっている。


「僕は地面の中潜って進めちゃうけど、ノームくらいしかできないしね!」


ノームのような例外を除けば、歩くか飛ぶかしか選択肢はないのだ。

彼らは一度第一階層に戻り、転移魔方陣を用いて第三階層へと移った。

階層の入り口と出口の近くには、必ず転移魔方陣が設置してある。

それはトラップ用ではなく、自分たちの移動用に設置したものだ。

もちろんシラキの眷属以外は使用不可能であり、使用にはダンジョンマスターの許可が必要である。

ちなみに眷属達は全員許可を得ているため、いつでも使用可能だ。




第三階層、幻樹の森。

面積二十平方キロメートル程、高さ数百メートル。

中央の天井には巨大な陽光結晶が設置してあり、階層を太陽のように明るく照らしている。

その陽光結晶はダンジョンマスターたるシラキが一から手作りしたもので、その魔力が込められている。

地上は両側を崖に囲まれた谷のようになっている部分に、森と平原が拡がっている。

その風景は外とほとんど変わらず、違うのはシラキの眷属しかいないと言うことぐらいだろう。


慣れた様子で森を歩く彼らは、マッシュやギガバウム、プランケティなどとすれ違う。

第二階層はその環境の良さからほとんどの眷属が駐留、もとい生活していた。

空を見上げれば二体のワイバーンが複数のバード系とドックファイトを繰り広げている。

森と平原の境では、フォックスシャーマンとノームが一緒になって探索系の魔法を行使していた。

平原の片側ではヒポグリフが昼寝をしているし、反対側ではゴブリン達がシラキから支給された結晶剣の慣らしをしている。

そんな多種多数の魔物達を横目に見ながら、森を抜け、平原を越え、第三階層への階段までたどり着く。


「地形的な障害は何も無いからな」

「でも戦いになったらここが主戦場だよね」


むしろ何も無いからこそ主戦場なのでもあった。


「私の部隊が一番活躍できる場所だよ?」


そして崖の存在が魔術師部隊にとっては都合が良いのであった。

両側の高い崖から魔法を撃ち下ろす形になる。

また空軍が強力なため、簡単には崖の上を攻撃できない。

なにせあのディレットすら一度たたき落とした実績がある。

滅亡の大地との戦いでは、名前の通り亡者の如く前進する敵に対し、もっとも相手を倒した部隊が魔術師部隊だ。

彼らはシラキの眷属におけるダメージディーラーであり、その魔術師達がもっとも活躍するのがこの階層なのであった。





第四階層。

ここは大樹のダンジョンそのままである。

床から天井まで、絡み合い敷き詰められた木と木の葉で作られたダンジョン。

構造的には第一階層の洞窟と似たり寄ったりだが、火事や落石など、大規模なトラップがいくつか仕掛けられているのがこの階層だ。

そして全体的に空間を広く取っているダンジョンなので、大人数でも行動しやすい。

吹き抜けになっている箇所など、集団同士がぶつかるとショッピングモールで戦争しているような様相を呈する。

何かと派手な階層だ。


「そういえば、グノーシャ達ってどうして大樹のダンジョンにいたの?」

「へ?」

「だって、ノームって木々の中は移動できないよね?」


リースが聞く。

そもそも精霊自体が珍しいが、それでも各種族の精霊は、その属性にあった場所にいる。

ウンディーネなら川や湖、サラマンダーなら火山と言った具合だ。

ノームに関しては土の精霊だけあって様々な場所にいるが、基本は土に接している場所に住んでいる。


「ああ。アレは元々大樹のダンジョンで生まれたノーム達だよ。木とも相性自体は悪くないしね」

「でも、グノーシャは違うんだよね?」

「うん。まー私があそこにいたのは偶然って言うか、気まぐれ?みたいなものだから」


グノーシャは明確な理由を口にしない。

それが本当に理由なくそこにいたのか、あるいはあまり言いたくない事なのか、リースには測りかねた。


「精霊というのは何かと気まぐれだと言われている。グノーシャなどは、精霊らしい精霊なのだろうな」

「うんうん。ま!それも精霊によるけどね!」

「グノーシャみたいなのが沢山いたら、すごく楽しそう」


グノーシャが大げさにジェスチャーし、リースが楽しそうに笑う。

第四階層は、特に誰とすれ違うこともなく終わった。




第五階層、雲中庭園。

実質ダンジョンの終着点とも言える雲の決戦場。

他のダンジョンからのコアを元にした階層がいくつかあるが、それらは第七階層以降であり、第六階層の位置には居住区が入っている。

雲中庭園が決戦場として作られているので、ここが最後の階層という意識なのだ。

それに追加されたダンジョンはいずれ他の場所に移される予定なので、結局はここまでがダンジョンの本体と言うことになる。

所々に雲が浮いている以外、何も無いフロアと言えるだろう。

ギミックも雲の内部に魔力が詰まっている以外になく、実にシンプルだ。

ここはダンジョン内では、攻めてきた敵と最後に正面から戦う場所なのである。


「決戦場!以上、終わり!そんなことより、この階段長すぎぃ!」


グノーシャがこのフロアを一言で終わりにした。

第四階層から透明な螺旋階段を下りていた面々は、途中で面倒くさくなり、ソリフィスとハースティにそれぞれ掴まって下りてきたのだ。


「ありがと。こういう時、飛べると便利だよね」

「この高さだからな」


予定外の滑空を楽しんだ彼らは、中央に向かって歩き出す。


「ここってさ、言うこと無いよね」

「精々雲を遠隔操作できるという程度だからな」

「でも私もやってみたけど、結構難しかったよ?」


雲の操作自体はシラキに許可されれば誰でも可能であるが、うまく使えるかは別問題。

広い空間にいくつもある雲を効果的に使うのは、それはそれで難しい。


「あー、まー確かに、戦闘中に使えって言うのも難しいかもね」

「防御的な動きを重視すれば、それなりだ」


雲の操作に関しては、誰がうまいということはなく、皆似たり寄ったりだ。

というか、そもそもほとんど動かす機会がないため、あまり触られていないというのが現実だが。


「僕としては、吹雪の山が最難関だったかな。氷系と無生物以外、あそこはキツいでしょ」

「逆にアンデット相手なら、第三階層が一番だよね。大規模攻撃系が多いから」

「そして対個人においてはこの第五階層を使うと」


三人が列車のように言葉を連結させる。

言葉を発してはいないが、ハースティは空軍を運用できる点について伝えた。

実際、雲中庭園は現状全ての眷属が戦える様に作られている。


「シラキは適当に作ったって言ってたけど、その割にはまとまってるね」

「シラキ君って何かを作るのとか好きみたいだし、適当って言ってもふざけている訳じゃないし」

「我が主はおそらくバランスに考慮したのだろう」


ソリフィスの言葉に全員が同意する。

ダンジョンはバラバラなように見えて、案外まとまっているのであった。



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