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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
終末の日は来たれり ~始動した二つの終点~
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やめろ。→人生→やめろ。


シャンタル来訪から一ヶ月ほど。

シラキ達は今ある洞窟型ダンジョンに来ていた。

洞窟型と言ってもアリの巣の様な迷宮では無く、大きな空洞のような場所がつながっている洞窟だ。

現在おこなっているのは、コアアタックモード。

初めて行った大樹のダンジョンこそ大部屋の連続だったが、今回の洞窟は全くの別形式だ。

ドーム状の広場でぶつかった敵を蹴散らし、高さ十メートルほどの通路を抜けた先。

広場に出てみると、そこはかなりの広さを持った空間だった。

広さは数キロ、高さすら数百メートルはあるであろう空間。

その空間の、地面よりも天上に近いであろう場所に出たシラキ達。

床は一面の地底湖になっており、所々島のように陸地が点在している。

本来真っ暗なはずの洞窟は、しかしある程度視界が通る程度には明るく、所々天上まで伸びる太い柱が神秘的だ。

さらに水中のいくつかの場所で何かが光っており、暗さのせいで黒く見える水が、明かりの場所だけ青くなっているのが美しい。

崖のような壁を眺め、滝上の飛び込み台に立つ様な気持ちで下を見下ろしたシラキは、隣にいるレフィルに話しかける。


「降りれるか?」

「シルバー以上は問題ない、がグレー以下は無理だろうな」


レフィルが崖を睨み付けながら言う。


「むう……俺が道作るか?」


今度は反対側にいる命尾に聞く。

どのみちこのままでは後方にいる部隊が下に降りれない。


「そうですね。ここはマスターのお力で、ぱぱっと!」

「オッケー!」


俺が手のひらを向けると、キラキラと綺麗な効果音と共に、遅い自転車程度の速度で幅五メートルほどの道ができていく。

崖にそい、途中で何度も折り返すことで下の水面まで道ができていく。

数分後には、地面まで続く水晶の坂道ができていた。


「さすがです、マスター!」


命尾が明るい声でよいしょ、もとい褒めてくれる。

その声色に偽らざる好意が込められていることには、シラキも気付いている。

魔物達の感情をある程度感じることができるシラキが、命尾ほどの強くてまっすぐな好意を感じ取れないわけがない。

彼らがお互いに対して何かをするとき、それは大抵純粋な感情に起因している。


「ん」


少し照れつつも、自分でその道を実際に歩いて大丈夫であることを確認する。

割と高い硬度の水晶で作ったため、そうそう壊れることはないのだが、気分の問題である。


「よし、じゃあ行くか。ライカ達も呼ぶね」


そう言ってから、後方の広場で待機中の航空戦力に念話を送る。


(広場の高い位置に出た、進軍開始。ぶつからないように気をつけてな)


この場にいるのはソリフィスとユニゾンしたシラキを除くと、レフィル隊と命尾隊だけだ。

他の部隊は少し間を開けて後方から進軍中である。

レフィルを先頭に道を駆け下りていくのを見ながら、もう一度この空間を確認する。

崖から下を見下ろし、高鳴る胸を押さえ、笑みを浮かべながら後ずさる。


「ステキじゃない、それ」


かけられた声に振り向くと、後ろからディレットが歩いて来ていた。

彼女の明るい金髪は、洞窟の中では若干雰囲気が変わり、少し薄暗い。

しかし表情はいつもと変わらず、楽しそうな笑顔を浮かべている。

ドラゴンであるディレットからすると、人の姿から見るダンジョンは楽しいものであるらしい。

シラキがダンジョンに行くときには、必ずと言って良いほど付いてきていた。


「それ?」


聞き返すと、ディレットが自分の左胸を指で指し示す。

そうしてから不思議そうに目を丸くした。

ジェスチャーだけならともかく、その後の表情にシラキの方も困惑する。


「ええと……大きい」

「バカ、ハートよ、ハート」


ディレットが顔を赤くして言う。

スルーされると思っていたシラキも困惑する。


「えっと、いや、何かあった?」


様子が少しおかしかったので聞いてみる。

するとディレットは自分の体を上から下まで見渡してから言う。


「人間の体って、ずいぶんなじむものだったのね」

「……それって、かなりいまさらじゃ?」


多分ハート、つまり心を示すために、心臓がある左胸を指し示す。

そういう人間らしい行動を自然におこなったことに対して、自分で自分に驚いたのだろう。

ただ、ディレットが人間の体になってからずいぶん経ってると思うんだが。


「う…仕方ないじゃない、気にしてなかったんだから」

「へー……」


ディレットの知らない一面を見た気がした。

こうしているとディレットが見た目通りの年齢、つまり何歳か年下に見えるから不思議だ。


「ディレットってダンジョンに来る前は人間になったことなかったの?」

「ん、ええ。この体になったのも、狭間の戦いに参加しないから元の体が使えなかったからだし、それより前はずっとドラゴンの体だったもの」

「体って、別のに変わってもすぐに動かせるものなの?」

「あー、どうかしらね。すくなくともドラゴンは元から人間の体を持っているから、そのせいかも」


確かに竜が人になる、というのは本を読んでいてたまに見かけた。

元からそうだから使える、と。


「なるほどな」


しみじみと納得したように言う。


「それより、もう後続が来るわよ?」

「あ。じゃあ俺は行くわ!」


俺は右手を挙げてあいさつし、ディレットが頷くのを見ると、助走を付けて崖から飛び降りる。

ゴー、という風の音を耳にしながら、俺は頭を下に体勢を変えて急速に落下する。

そして力を抜いていた翼を広げ、息を止めて調整。

カーブを描きながら速度を水平に、先に見える島に向かって飛翔した。

……結局何がステキだったのか聞き忘れた。











ダンジョンに挑みだした事の発端になったのは、通算三度目になる白い夢だ。

そこで再開したミテュルシオンさんに、ダンジョンコアレベル5について説明されたのだ。

問題になる新機能はこれ。


・物理的な接続無しでもダンジョンを維持可能


これが何を意味しているかと言えば、遠距離でもダンジョンが作れるようになったということだ。

そして遠距離にダンジョンを作れると言うことは、その場所へ一瞬で移動できると言うことでもある。

これで遠出するときでも安心だ。

とはいえ全くただでワープができるわけでは無く、最低でもダンジョンコア及びダンジョン一階層分が出先に必要になるそうだ。


今は大樹のダンジョンで得たまま使っていないダンジョンコアと、第四階層大樹の層を丸々移設すれば、一つは作れる。

しかしまあ一つで足りるはずもないのでダンジョンコアを得るためにコアアタックに挑んでいたのだ。


ちなみに、スキル"滅亡の大地"を使えば自力でのワープは可能だ。

"滅亡の大地"は闇と空間を操るスキルだが、遠隔でも自分でだした闇になら移動することができる。

初めから自分の拠点に闇を置いておけば、いつでもそこに移動可能になるわけだ。

実際にダンジョンを攻められてた時にも、この技は使われていた。

ダンジョンが攻撃されていた当初、滅亡の大地は東大陸のある国を責めていたという話だ。

ダンジョン上階に鎮座していたのは、闇を自分の形にした人形に過ぎなかったわけだ。

そして国への攻撃が終わった後、分身の闇に移動した。

これが滅亡の大地が大陸を瞬間移動したトリックになる。


とはいえ、これができない理由はもちろんある。

まず、闇を遠隔で操作・維持するのは、大分難しい。

今の俺では、精々丸一日維持するので精一杯だろう。

まず拠点に闇を配置し、移動した先で闇を残して一端拠点に帰り闇を設置、その後出先に戻るというループは不可能だ。

疲れるから一つ目の闇を維持できなくなるのであって、疲れた状態では次に出した闇もすぐにおじゃんだ。

これでは安定した移動手段としては使えない。

そもそもリソースを割いている訳だから本体の能力も多少は落ちるし。


そんなわけで俺は陸軍と空軍でもってダンジョンを蹂躙。

ボスであるウナギとウツボを足して二で割った様なデカい怪獣も倒してコアアタックモードをクリアした。

その調子でいくつものダンジョンを制覇し、ダンジョンコアを手に入れたのだった。

ちなみにそれで手に入れたマナの多くは、ボスと魔物達を再召喚するのに使用された。

ケントロが仲間になったのは本人がそれを承諾したからで、コアアタックでボスまで仲間になるわけではないのだ。


クリアしたダンジョンは次の六つ。

巨大地底湖型洞窟ダンジョン、迷宮型洞窟ダンジョン、ゴーレム遺跡ダンジョン。

迷宮型城塞ダンジョン、罠満載墓地ダンジョン、フィールド型森ダンジョンだ。

様々なフィールドで様々な敵と戦い、ずいぶん良い経験になった。

得られたダンジョンは現状、第六階層の下に仮置きしてある。

ちなみにこれらのダンジョンは全て、小規模なダンジョンだ。

デカいダンジョンになると攻略するだけで時間がかかるし、下手をすると戦力が足りない。

小規模のダンジョンでも、今の戦力だから危なげなく攻略できているのであり、実際はそれなりの戦力である。

毎日毎日ダンジョンに挑むわけにも行かないし、これくらいが妥当なところなのだろう。


ところで、ダンジョンに挑んでいて手に入れたアイテムが一つ。

"鍵の欠片"という名前の謎のアイテムだ。

それは黄色の欠片で、これだけだと何の欠片なのかは分からなし、実際にこれがなんなのか分かっていない。

ルティナですら知らない割にダンジョンコアにアイテムとして登録されており、厄ネタのにおいがする。


「まあ、分からない物は分からないからな」


そうつぶやいて俺は、大して悩むことなく中枢を後にする。

そして廊下にでてみると、畑の方向から歩いて来た命尾とばったり出くわした。


「あ、マスター。どちらへ?」

「ん、いや風呂やってそのまま入ろうかと」


今思いついた。

ウチの風呂係は俺だ。

と言っても風呂に入る人自体少ないが、俺なんかは毎日入らないと精神がアレになる。

ディレットなんかは相当気に入ったのか、何度も風呂に入っている様だ。

人型以外の魔物も誰かと一緒なら入らないこともないらしい。


「ではご一緒します!」

「両方か」


準備から入るまで。

俺と命尾は連れだって風呂場に行く。

風呂の準備でまずするのは、水を抜くこと。


「"滅亡の大地"使えるようになってから楽だわ、ホント」

「ふふふ、あの死神がこの使い方を見たら呆れるでしょうね」


滅亡の大地の闇を操り、風呂の底に展開することで水を転移させる。

デカい風呂らしく水も結構な量だが、この方法だと数十秒で水が抜ける。

これができるまでは水魔法で水をふわふわと移動させるという、満タンのコップをこぼさず移動するみたいな有様だったし。

ちなみに闇に取り込んだ水は後で畑にぶちまける。

俺の日々の垢が肥料になるというリサイクルの精神。


次に行うのは風呂掃除。


「十八連ウォーターレーザー!」


十八本の水のレーザー(極低威力)で汚れを落とす。

風呂掃除で遊ぶのはよくあること。


「ウイングボム!」


命尾も遊んでるし。

その後は水属性中級魔法"水の鞭"で水を渦のように動かし、掃除完了。

ここでも滅亡の大地は役に立った。


次、水溜。

まずは水晶である程度隙間ができる様に床を作り、その後水を溜める。


「ウォーターボール!ウォーターボール!ウォーターウォール!ウォーターウォール!」


テンション上がってきた。

岩でできた風呂にじゃんじゃん水を溜める。

……たまに思うけどこの水ってどうやってできてるんだろう。

大気中の水分だけじゃ絶対足らない量なんだけど…まあ、今更か。


ラスト、加熱。


「「荒天花!!!」」


命尾と二人でダブル荒天花。

たかだか風呂焚きで上級魔法をぶっ放す魔法使いのバカ。

後は荒天花の熱をうまく伝えるタメに水晶を変形させ、しばらく続ける。

まあ、この火力なら暖まるまですぐだった。


その後は二人で風呂に浸かった。


「マスターとお風呂グヘヘヘヘ」


止めろ。

その愛らしい見た目と綺麗な声で変態ムーブするの止めろ。

どうして命尾はこうなってしまったのか。

……いや、そういえばかなり初期からこうだった。


なお嫌いではない模様。


そのままシラキは命尾用に深さを調節して足場を作ったりした。

今更だけど魔物どもは平然と風呂に入る。

…こいつら好きだ。

しばらくまったりとしながら、そう思った。


「マスターは一番大切なことってありますか?」

「んー…どうした……まあ、両親かな。後は友達と社会と……ああ、いや人生そのもの、かな」


そんな気がする。

まさか答えが人生になるとは、自分でも思っていなかった。


「マスターって、そういうことに無頓着に見えて、ちゃんと答えを持っていますよね」


命尾が水晶の足場の上から、すぐ隣にいる俺に背中を預けてくる。

体勢的に頭以外全身が湯に浸かっているのだが、ホントにこのこ達気にしないなぁ。


「尻尾とか、いいの?」

「大丈夫ですよ、お湯につけたくらいじゃ痛みませんから!」


そういや魔物だったな。


「両親ですか。どんな人だったんですか?」

「……優しい人かな。あとは視野が広いのと…俺の意志を尊重してくれる人」


両親の顔を思い浮かべながら話す。

思えば、もうそれなりの期間両親と会っていないな。


「寂しい、ですか?」

「んー、いや。二度と会えないわけじゃないし、今は昔より多くの人に囲まれているから。寂しくはないかなぁ」


こっちに来ても、"家族"と一緒に暮らしていることは、昔と同じだと思う。


「ん、それで何の質問だったの?」

「実は、レフィルのヤツがこの前唐突に哲学を始めまして。根源的に持っているモノがどうとか」


ちょっと笑った。

レフィルもそういうこと考えるんだなぁ。


「まあ、俺はなんて言うか、一直線でなくていいって言うか。寄り道推進というか」

「普通の人間ですね、分かります」

「しかし後悔しない生き方を、それでいて目指すという」

「マスターの事ですね!」

「目指して失敗するところまでがデフォ」


人間だから。

……人間だからと言っておけば何でも許されるという風潮。

俺の中にないとは断言できない。


「それを失敗させずなおかつ楽しむことが私たちのやることですね」

「何か本末転倒の様な……まあ、楽しければいいよね」

「そうですよ、私あなたと出会ってからこっち幸せ続きなんですから」


命尾がシラキが見えない方向を向いてにへら、と笑う。


「それは、重畳。…そんな命尾の大切なモノとは?」

「マスター・シラキ。……と言うつもりでしたが。ここはマスターと出会ってからの全て、と答えておきましょう」


命尾は弾んだ声でそう言った。

俺も笑ってわしゃわしゃすると、命尾は気持ちよさそうだった。

そして、妙に色っぽい声でオチが付いた。


「あぁ…んっ、ふう…」


やめろ。マジで。


そんな入浴だった。

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