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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
新界定礎の始点 ~未知は尽きぬもの~
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大地の騎士に手向けを

ソリフィス召喚から10日。

時たま入ってくる魔物が迷ったり住み着いたりするのを見ながら、ひたすら特訓した。

ソリフィスに乗る練習もしているが、何しろ乗馬経験などない俺だ。

手綱も鞍もないから苦戦するのは当然だろう。

初日など、加減して走るソリフィスの首にしがみつき、落ちないように必死だった。

とはいえ毎日何度も練習しているだけあって、何とか陸を走る間はまともに乗れるようになった。

全速力で走るソリフィスはその後半身に恥じない快速を見せ、1キロ四方の更地を瞬く間に走破した。

ソリフィスは俺に気を遣ってくれているし、念話もあったから良かったが、そうで無ければ相当な難易度だっただろう。

彼、空も飛ぶし。

大して高くもない洞窟内とはいえ、ソリフィスに跨がって飛んだ中空は相当に刺激的だった。

はっきり言って怖かったが、早く外の大空を飛んでみて欲しい物だ。


そんな風に毎日を過ごしている頃、突然強力な反応がダンジョンに侵入してきた。

ダンジョンマスターのダンジョン把握能力というのはなかなかに超能力で、侵入者があればコアに触れていなくても分かるのだ。

修行中だった俺とルティナはすぐに中枢へと戻り、コアを操作して侵入者を探る。


結果、"怨念の騎士"という魔物であることが分かった。

アンデットであり、レベルは6。

生前騎士やそれに準ずる者が怨念を抱いたまま死ぬと怨念の騎士として復活することがある。

怨念の騎士の強さは生前の強さ、怨念の強さに多大な影響を受ける、とのこと。

lv6というと、この辺りでは最強の魔物だ。

とはいえランクC、B相当の魔物なのでそこまで強いわけではないだろう。

まあ一対一でやれば俺より強い魔物なのは確かだが。


「怨念の騎士って、この辺りじゃよく見かけるのか?」

「怨念の騎士ですか?…あまりこの辺りじゃ見ないけど……」

「となると、どこから…」


話していると、ソリフィスからの念話が届いた。

この念話を始めるときにいつも感じる、耳の裏を撫でるような感覚になかなか慣れない。


(我が主、侵入者だが)

(ああ、怨念の騎士だそうだ。徘徊してるけど何かあったか?)

(我に向かって強烈な殺気を放っている。おそらくボスに成り代わるつもりだろう)

(何?それは困る)


魔物がダンジョンのボスを倒したなら、倒したヤツがボスになる。

というほど単純な話ではないが、この1階層しかない、魔物の数も少ないダンジョンでは自然とそうなるだろう。

とはいえ魔改造してレベル9並の強さを持つソリフィスがレベル6の魔物に負けるとも思えない。


(よし、ちょうど良い相手だし、俺も戦ってみようかな)

(分かった、ここで待つ)


念話の接続を切る。


「ソリフィスはなんて?」


ルティナは念話には混ざれないが、俺とソリフィスが念話していること自体は分かるらしい。


「ボスに成り代わろうとしてるのかもってさ」

「それは、撃退するしかないですね。怨念の騎士に話が通じるとも思えないですし」


怨念の騎士の現在位置を確認する。

まだ浅い場所だが、住み着いていたゴブリンやコボルトが何体かやられている。


「ふむ、やはり魔物同士でも殺し合うのか」

「領土問題もありますしね」

「だよな。レベル的に少しキツいけど、ソリフィスに手伝ってもらって俺も戦おうかと思う」


貴重な適正レベル帯(?)での戦闘経験だ。

これを逃す手はない。


「では、私は後ろに隠れてますね。危なくなったら手を出しますから」

「頼む」


強力なバックアップの元、俺は一階へと転移した。






一階に行ってしまうと詳しい敵の位置が分からなくなってしまうと思っていたが、怨念の騎士の放つ強い殺気が大体の距離を教えてくれていた。


「……殺気って初めて感じたけど、これはすごいな」


向けられてくる殺気は、迷宮越しにもはっきりと感じられる。

それはボスであるソリフィスのみならず、ダンジョンマスターである俺にも向けられていた。

肌で感じられる超常の感覚に、興奮を禁じ得ない。


「何で俺の位置とか分かるんだ?」

「ヤツの殺気はこちらに放たれているのではない。周りに放たれているのを我々が感じているのだ」


ソリフィスが教えてくれた。

なるほど、そういうことなのね。

でもそれは指向性を持って放たなくても、ダンジョン中心の俺たちに届く程の殺気を放っているということになる。

本当にレベル6か?


「怨念の騎士は生前に左右されるし、場合によってはレベル7や8を超えることもあります」


そういうことなのね。

謎は全て解けた!

そして俺が単独で戦ったら確実にデットエンドにされそうだと言うことも分かった。

どこが適正レベルだ!


「怨念の騎士は、元々Bランクが4人で挑むレベルの敵ですし、個体差が大きいんです」

「そうなの?確実に俺が戦う敵じゃないじゃん」

「大抵はCランク5人でも何とかなるんですけど、希にいる強い個体の為に、そういう編成になってるんです…まあ、ソリフィスがいますし」


全然適正じゃなかった。


ソリフィスはレベル7の魔物ヒポグリフ。

実質的にはレベル9相当、つまりランク的にはA前後。


「仕方ない、ソリフィスが戦う邪魔にならない程度に、援護ができればするってぐらいか」

「分かった。前衛は受け持とう」


ここは後ろからの援護に徹する。

それってなんて黒魔術師?

付け焼き刃だが回復魔法も覚えたので、プリーストのまねごともできる。

まるっきり後衛じゃねぇか!前衛に出る意味ねぇぇぇぇええええ!?

いや、一応剣も習ってるよ?身のこなしも多少は良くなったよ?

でもやっぱり魔法系なんだよなぁ。




しばらく雑談していると、ようやく殺気が近づいてきた。

迷宮を彷徨う怨念の騎士を、ルティナが誘導してくれたおかげだ。

ゴーレムの魔法を使ったらしいので、後で教えてもらおう。

俺は自己補助魔法をかける。


肌の防御力を上げる"ストーンスキン"

脚の速さを上げる"ラビットフット"


防御ガン振りといえばその通りだが、こういう戦闘前にバフを掛けるのは大事なことだ。

はっきり言って気休めだが、ないよりは良い。


ソリフィスも自己補助魔法を使っている。

ソリフィスは補助魔法も回復魔法も多少は使えるような設定で召喚した。

要するに大概万能だ。


腰に付けてあるナイフを確認し、準備完了。

ルティナは下がり、影に隠れた。

するともうほとんどルティナがいることが分からなくなる。

さすがだ。


大して待つこともなく、彼はやってきた。

銀色の、しかし所々汚れたりヘコんだりしている全身鎧。

鎧の隙間からは濃い紫色の煙が出ている。

右手にはロングソード、左手には薄汚れた頑丈そうな盾。


お互いは直立し、50メートル程の距離で向き合う。

この場に充満していく闘気に、自然と笑みがこぼれた。

広場の中央でぶつかり合う互いの闘気が最高潮に達したとき、渦巻く意志はついに弾けた。


走り出す怨念の騎士。

それと同時にソリフィスも駆けだした。

翼を羽ばたかせ、地面を蹴り上げるソリフィスは、あっという間に高速道路を走る自動車にも負けないほどの速度に到達する。

すさまじい加速だ。

ソリフィスに乗った時の恐怖体験を思い出す。

両者の距離は一瞬で収縮し、それを見た怨念の騎士がその場に止まり、盾を構える。

衝突。

ソリフィスの鷲の右前足が、盾をおもいっきり蹴りつけた。

騎士の身体を巻き込み、10メートル程も後退するも、騎士は交通事故にも劣らぬ衝撃を防ぎきる。


みなさん見ましたでしょうか。

あの質量があの速度でぶつかってどうして無事で済むんだ?


50メートルは離れているため詳しくは分からないが、怨念の騎士は押し返されながらもロングソードを横薙ぎにしたらしい。

ソリフィスは盾を蹴りつけ、速度を殺しきる前に空へと退避。


おかしいって。

何あの戦い、人間じゃねぇ。

いや、魔物だけどさ。


とにかく射線が通ったことを確認し、指三本束ねた三連装魔法の矢を斉射した。

それぞれ両足と右手を狙うが、魔法の矢は狙った場所に違えることなく飛んでいく。

ホーミングだ。

というかこれがなかったら射撃を当てられる自信が全くない。

しかも3本同時射撃だ。

とりあえず相手に向かって撃てば当たる。

ちなみにルティナは慣れているらしくひょいひょい避けていた。

信じられるか?これ秒速200メートル以上出てるんだぜ?

ちなみにほとんどの冒険者は魔法の矢を避けられないらしい。

本当に良かった、おかしいのはルティナだ。


当然のように魔法の矢は3本とも命中する。

結果としては怨念の騎士を1メートル程後退させただけにとどまった。

俺はこれからの戦いについて行ける気がしなくなってきたよ。

通常の魔法の矢はあまり意味が無いことが分かったので、威力を上げるため魔力を指先に集める。

そうする間にも、ソリフィスと怨念の騎士の攻防は続く。

3回目の突撃、怨念の騎士がカウンターに動いた。

突き出される剣を、突撃するソリフィスは知っていたかのように横ロールして回避。

おまけとばかりに電撃を喰らわせる。

動き続けていた怨念の騎士が止まった。

あ、チャンス。

完全には溜まりきっていなかったが、指2本を突きだし、言い放った。


「魔法弾!!」


ドウッ!!という効果音の下、直径1メートル程の光球を撃ち出した。

魔法の矢の変形であるこの魔法は、

先ほどとほとんど変わらぬ速さのまま、怨念の騎士に直撃。

そのまま壁にたたきつけ、爆発した。

周囲に土埃が立ち、視界が遮られる。


(さすがだ、我が主)

(ん。だがどれほどの効果があったかは疑問だな)


少なくとも壁にたたきつけるくらいは威力があったが、さっきまでの攻防を見るにそれほど効いていない気がする。

俺は今よりも更に威力を出すべく両手に魔力を集中する。

ソリフィスは俺の横に来て立ち止まった。


(強敵だ、倒れてはいまい。それにまだ手の内を隠している)

(どうする?)

(我が主としては、どうしたい?)

(余裕があるなら、相手の技を全部見てみたいが)

(心得た)


こちらの念話が終わると同時、土煙を切り裂いて怨念の騎士が飛び出した。

速い。

今までは余興とばかりの速度で飛び出してくる。

それに合わせ、ソリフィスも飛び出した。


最初の交差の再現になるか、と思ったとき。

怨念の騎士が地面に剣を振り下ろした。


「ストーンスロー」


耳に届く、しわがれたような低い声。

直後、地面から無数の石つぶてが飛び出した。

あれは、土系の初歩呪文!

ソリフィスは構わず突っ切った。

飛来する石つぶての数々をその肉体が弾いていく。

防御力、いや魔法防御か?も結構なモノのようだ。

…いや、あれは俺の方に攻撃が飛んでこないようにかばってくれたのか。

だが加速を妨害されたのか、ソリフィスの突撃は盾に受け流される。


(我が主、そちらに行く!)


ソリフィスの忠告が飛んでくる。

その通り、怨念の騎士が俺に向かって走り出す。

彼我の距離は25メートル。

俺は右手を魔力を放ちながら払う。


「ファイヤーウォールッ!」


俺を中心にした半円に高さ6メートル程の炎の壁が立ち上る。

火属性初級応用魔法、ファイヤーウォールだ。

この炎は物理的な壁として機能するため、簡単には通れない。


これで止まってくれるか?

…ダメそう。


目の前の炎の壁から剣先がつきだし、真っ二つにした。

重装備の騎士が剣で炎の壁をたたき割る姿は、内側から見てもなかなかの迫力だった。

しかし、仮にも俺はCランク魔導師(?)。

あの炎の壁をたたき割るのにはそれなりのスタミナを必要としただろう。

時間は稼げたので、俺はファイヤーウォールを解除し、騎士を遠巻きにするように走る。

炎の壁を切り裂き動きを止めた怨念の騎士には、ソリフィスが頭上から襲いかかった。

あの巨体が空から落ちてくるとか、下にいるのが俺だったら死んでるな。

まああの騎士はぴんぴんしてるが。



そのままひたすら俺は引き撃ち、ソリフィスはど突きを繰り返した。


分かったことは、この騎士は魔力のほとんどを防御に回していたということだ。

ソリフィスの攻撃を繰り返し受けていても平気でいるのはおかしいと思っていたが、そういうことだったのだ。

そして俺は、それがどういうことか最後の最後で知ることになった。


俺の魔法弾が直撃し、倒れ伏した怨念の騎士。

俺とソリフィスの攻撃を防ぎ続けてきたスタミナが、遂に底を突いたのだ。


戦闘はそれで収束するかに思えた。

しかし、倒れたはずの騎士から感じる、寒気のような感覚。

少しだけ軟化していたしていた緊張感が、一瞬で張り詰める。

一見すると、立ち上がった騎士が即座に動く様子はない。

今のうちに攻撃するべきか…?

しかし、そんなことを考えたのは一瞬だった。

怨念の騎士から立ち上る煙が収束し、鎧はまるで糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


「ガイアストライク…!!」


固まった煙から怨念の騎士が放つ低い声が響き、地面から塵が騎士の頭上に収束する。

現れたのは、黒く光沢を持つ、巨大な円錐形のトゲだった。

直径にして15メートル程もある岩の塊。

紛れもない、土属性の上級魔法。

それが俺に向かって動き出す。


や、ヤバいっっっ!!

心の中で悲痛な叫び声を上げる俺。

死んだかもしれない。

あの大きさ、速度。

避けられない。


怨念の騎士は残りの全ての力をこの魔法につぎ込んだのだ。

ソリフィスも見ている余裕もないが、多分間に合わない。

とにかく、破壊するしかない。

あの見るからに硬そうな巨大質量を破壊する!

できる気がしないがとにかくやるんだよ!


破壊破壊破壊破壊破壊破ハカイハカイハカイハカイッ!!!!!!!!!!!!!


迫り来る巨岩を目が飛び出るほどにらみつけ、全身の魔力の全てを右手に集中させる。

1秒が何倍にも引き延ばされた感覚の中、轟音と共に瞬く閃光。

まばゆいばかりの稲妻が奔り、巨岩に直撃する。

とにかく、うるさかった。

自分自身ほとんど認識していなかったが、総体積の6割ほど、巨岩の先端がえぐれていた。

それでもなお自分を容易く押し潰せる質量の巨岩。

手のひらをさしだし、最大魔力を撃ち放った。


「うぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


放たれると同時、膝から崩れ落ち、全身を襲う脱力感。

もう動けない。が、どのみち避けられない規模と速さの攻撃だ。

放たれたのは、直径4メートル程もある青白い魔力の弾。

先端をえぐられていた巨岩に直撃し、爆発する。

わずかな時間の中、半ば放心した状態で見つめる。

あれで砕けていなかったら、後はもう死ぬだけだ。

限りなく長い1秒の中、煙を突き抜けてくる巨岩を見て。

残ったいまだ大型トラック以上の大きさがある巨岩。


俺の肉体を押しつぶし、つぶれた肉塊に変えるに十分な力。

その状況にあきらめ、どこか客観的に眺めながら、なお他に手がないかと心の底で考える。


ゆっくりと流れる時間の中、眺めていた自らの死は、突如破裂した。

その巨体が消え去り、破壊後にばらまかれはずの高速の石つぶてすら降り注ぐことがなかった。


少なくとも助かったらしいことに気がついた俺は、視界の端にたなびく薄紅色の髪を見て、意識を手放した。






25日目終了


シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)

総合C+攻撃D 防御D 魔力量C+ 魔法攻撃C+ 魔法防御C すばやさC スタミナC- スキルC-


スキル

ユニークスキル「結晶支配」

ユニークスキル「  」



ダンジョン


保有マナ

75,200


ダンジョンの全魔物

ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)

迷宮植物:

    ヒカリゴケ4000、ヒカリダケ500、魔草400

野良・その他:

    ゴブリン6、ホブゴブリン1、コボルト6、ハウンドウルフ28、食人花6、インプ3



一階層

洞窟・迷宮


二階層

更地


三階層

更地


四階層

更地


五階層

コア、個室2、ダイニングキッチン、大浴場、保存庫


この時点ではシラキを魔物レベルに換算すると4です。

この怨念の騎士が8、ソリフィスが9。

とはいえ魔物レベルも冒険者ランクも目安にすぎません。

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