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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
終末の日は来たれり ~始動した二つの終点~
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火花散る逢瀬


『冒険者ランクB、~が死亡しました』

『冒険者ランクA-、~が死亡しました』

『冒険者ランクB、~が死亡しました』

『冒険者ランクB+、~が死亡しました』

『冒険者ランクA-、~が死亡しました』

『冒険者ランクB+、~が死亡しました』

『冒険者ランクB+、~が死亡しました』



滅亡の大地戦から数十日経った某日。

短い時間で、次々と七人も死者が出た。

おそらくだが可能性としては二つ。

死神にやられたか、門の攻防戦でなにか起こったか。

このどちらかだろう。


滅亡の大地戦後、体が全快するのを待って、手近な下級門を叩いた。

どうやらどの門でも千以上の亡者が守備についているらしい。

場合によっては高レベルの邪竜も複数出てきて、それなりに強固だ。

ただ、ルティナとディレットのどちらかは付いてくる上、ウチの機動戦力を引き連れているため、普通に蹂躙して終わる。

カミドリを初めとした鳥たちの勇士に、正直胸が熱くなった。

今まで自分達が敵を圧倒することなどそうそう無かっただけに、割と感慨深い。


"滅亡の大地"にやられた体も完全に復調した俺は、終末が始まっていても、それほど変わらない日常へと戻っていた。

すなわち、主力が全員集まって観戦する中での模擬戦である。

しかし、今回は今までにない戦いが始まろうとしていた。

そう、ルティナとシラキによる、全力に近い戦いが。









第五階層

雲中庭園



雲中庭園の中央、雲が外側まで避けられて作られた空間で、二人が向かい合っていた。


このダンジョンの主にして、結晶を操る人間。

長めの黒髪を揺らし、ゆったりと自然体で立っている。

黒いズボンに、灰色と赤のコート。

腰には三本の刀を佩き、六本のきつね色の尻尾を揺らし、背から生えた翼を羽ばたかせる。

細い目を普段より少しだけ見開き、戦闘時に好む、何かに挑むような笑みを浮かべる。

そのシラキの晴れ晴れとした様な視線の先には、白のローブを着た神の子が立っている。


薄紅色の髪をまっすぐに伸ばし、こちらも同じく力を抜いた姿勢で立っている。

紅水晶の剣を右手に持ち、普段通りの柔らかな微笑みを浮かべている。

その体の周りには、星々のきらめきのような、複数の小さな光が瞬いている。


そして階層の中心で向き合う二人を、遠巻きにして多くの人が見つめている。

ケントロとグノーシャとノーム達。

命尾、レフィル旗下のフォックス、ウルフ達。

リース、フェデラと魔術師達。

ハースティ、ライカ、カミドリを初めとした鳥達。

ソリフィス旗下ヒポグリフ、グリフォン達。

そしてディレット、アウラウネとドリアード達。

眷属の多くが押しかけている状況であり、かなりの数の人達が遠巻きにしているが、この広い階層では何の問題も無い。

とはいえ、これほどの人数が模擬戦を見に来るのは初だ。

と言うのも、今回は魔物達には招集を掛けており、部隊としての体裁を取っている魔物達が全員集合しているのだ。

では、それは一体何故か。

その答えは、戦いの中に現れる。


向き合う二人の間には、普段見ることのない気が渦巻く。

本来闘気がぶつかり合うはずのそこには、まるで抱き合うかのようにお互いの心が絡み合う。

戦士であれば、決められた合図など無くとも、場の気の高まりからそのときを理解するものだ。

渦巻く闘気が頂点を迎え、ぶつかり合いが弾けたとき、そのときを合図とばかりに動き出すのだ。

しかし、この場で対峙する二人の場合は違う。

ぶつかった気と気が押し合うこともなく絡み合い、弾けることなく混ざっていく。

息苦しさもなく、とげとげしさもないそんな時間が続き、あるとき息を吸うと共に、シラキが動きだした。

その笑みを消し、ゆっくりと両の腕を上げていき、頭上でクロスしたそれを勢いよく横に振り下ろす。

シラキの周りに炎と雷、そして風の球が大量に出現し、それと同時にルティナが走り出す。


戦いは始まった。

五十を超えるシラキの魔法の球から、それぞれ中級魔法並の魔法が飛び出す。

もっとも速いのは、雷だ。

光や涯煉と言ったものの速度とは比べるべくもないが、それでもとてつもなく速い雷撃。

瞬く間に迫る雷撃を、しかしルティナは気にすることなく駆け抜ける。

確かに命中している雷撃は、しかしルティナの服に焦げあと一つ付けることなく消失する。

雷だけではない、迫る風の刃や爆発する炎弾も、一切の効果を及ぼしていないのだ。


それを確認したシラキは、左手で腰に差した鞘をつかみ、右手を横に持ち上げる。

そこから生まれるのは、業火を纏う、いや炎そのものと言った鳥。

最上級魔法、"炎帝鳳凰"だ。

燃え上がる炎の鳥はその産声を上げることなく現れ、持ち上げた腕を振ると共に、まっすぐとルティナに向かっていく。

まっすぐに迫ってくる最上級魔法にすら逡巡無く飛び込んだルティナが、立ち止まること無く駆け抜ける。

剣を振り下ろすルティナと、炎帝鳳凰を放った流れのままに抜刀するシラキ。

当然のようにそのまま音を鳴らして打ち合うそばで、突き抜けられた火の鳥が霧散した。


シラキは刀と剣を打ち合いながら考える。

最初の攻撃で、弱い魔法がまるで意味を成さないことを悟った故の、最上級魔法。

しかし、強大なる威力を持つ"炎帝鳳凰"ですら、直撃したはずのルティナは無傷。

しかも剣技どころか純粋な力でも負けているので、剣撃を続けるのはどう考えてもアウト。

数合の打ち合いの後、シラキは確かめるように土魔法を発動させる。

中級応用魔法"アースステイク"。

地面から猛然と突撃する土のトゲが、ルティナの脇腹に突き刺さる。

車のような速さの横殴りにされたルティナが吹っ飛ばされ……シラキは違和感を覚える。

元々ダメージは与えられない前提での攻撃だったが、あれだけの勢いなら結構な距離吹き飛ばされてもおかしくないはずだ。

にも関わらず思ったほどの速度で飛ばなかったルティナが、手早く体勢を立て直す。


まさか、衝撃そのものを殺された?

防御したり、速度を殺したり、特別踏ん張ったりした様子は見られなかった。

土の杭に比べて体重がずっと大きければ、物理的に考えて速度は落ちるが、ルティナは別に重くない。

少女の見た目通り、それなりの重量しかないのだから。


思考しながらも距離を取るシラキに対し、ルティナが手のひらを差し出す。


「"木枯らし夕凪"!」


その声と共に、シラキが知らない魔法が発動する。

シラキを中心に、ぶわっと木の葉が舞い上がる。

それと同時に、白い風が取り囲むように地面を走る。

シラキは魔法が実際に効果を発動するまでの一瞬で、防御するべきか、回避するべきかを選択する。

選んだのは、防御。

コートオブファルシオンに魔力を通し、自身の周囲を魔力で固め、ルティナがいる前方だけに水晶の壁を展開。

全力で飛べば、この場所を離れることはできる。

しかし、自身の周りに舞う無数の木の葉は、明らかに凶悪な魔力を帯びている。

それに触れずに逃れることなどできないし、触った場合、絶対碌なことにならない。


そんな中、酷く楽しそうに笑っているルティナを見て、言葉にならない感覚が走る。

その瞬間、シラキは全力で防御することを決意。

同時に白い風が立ち上り、竜巻となってシラキを包み込む。

風圧に押されながらも、シラキは右膝を突き、腕を前に出して丸くなる。

さらにコートオブファルシオンを引き延ばし、全身防御の姿勢だ。

過剰に思えるほどの防御姿勢、しかしそれが決して大げさではないことがすぐに分かる。


「"木枯らし夕凪"!!」


ルティナの声が響く。

始まったばかりの魔法に、同じ魔法をかぶせる様にして発動。

一発目の時点ですでに回避不能な数だった木の葉が、更に増える。

作り出した厚い水晶の壁に触れた木の葉が、まるで爆発するかのように斬撃をまき散らし、壁を切り裂く。


「"木枯らし夕凪"!!!!」


短い時間に三回目の魔法が継ぎ足される。

このレベルの魔法を短時間の内に連発する魔法力、同じ場所に魔法を重ね掛けする技量。

全方位から舞い込む木の葉が次々と斬撃をまき散らし、コートオブファルシオンに傷を付けていく。

今はまだ魔力防御とコートオブファルシオンによる二重の防御を突破できていないが、このまま続けばどうなるかは分からない。

もはや全力で防御に徹するしか無いと考えたシラキが、全身から滲み出すように水晶を発生させる。


「ブレイズフォォォォォォォオオオオオオオル!!!!!」


楽しさを抑えられないと言った様子で、ルティナが叫ぶ。

渦を巻く炎の柱が空から降り注ぎ、すでに作られていた竜巻と混ざり、炎の竜巻へと変化する。

すさまじい業火、熱、そして斬撃と衝撃波に全方位から襲われる。

満足に息もできず、ひたすら壊されていく水晶を生成し、防御のために魔力を取られつづける状況。


何が悪かったかと言えば、判断ミスだと言わざるを得ない。

痛みを恐れ、傷を恐れ、恐怖を恐れると言う、戦士として基本的なところが弱いままのシラキ。

ルティナの魔法が実際に効果を及ぼす前に、多少の傷を恐れず、効果範囲外へ逃れるべきだったのだ。

それができずに縮こまった結果が、今の状態である。


一方のルティナ。

必要魔力の多くない魔法から始め、リスクを軽減。

シラキが回避できない状況から確実に魔力を投入。

一回の判断ミスから圧倒的不利まで追い詰めたことからも、経験の差が露骨に出たと言える。


大したやり取りも無いままに、不利な状況へと追い込まれたシラキ。

そんな状態でもありながら、しかしシラキは笑みを浮かべる。

シラキからは見えてもいないルティナから伝わってくる歓喜に、シラキまで楽しくなったのだ。

相手は強大、自分は未熟。

そのようなことは常日頃から思っているのがシラキである。

追い込まれて安心し、自分が有利だと逆に不安になるような考え方をするシラキの精神的には、現状は窮地でも何でもなかった。


笑いながら、腹の底から気合いの声を上げる。

それと同時、地面からシラキだけを残し、押し上げるように分厚い紅玉の床が持ち上がる。

柱を立ててせり上がった紅玉の床によって、暴虐の嵐はシラキだけを残し、一メートルほど上に押し上げられた。

荒れ狂う炎の嵐の真下、脅威から解放されたシラキが間髪を入れずに魔法を発動する。


「三連涯煉!!」


笑いながら目を見開くルティナを、瞬く間に貫く青白い電のスジ。

防御のために体外に展開していた魔力を即座に攻撃に転用したのだ。

しかしその攻撃には二人とも頓着せず、同時に空へと舞い上がる。

シラキが自身の上級応用魔法三つの斉射に、一切の期待を掛けずに空へと舞い上がったのに対し、ルティナはシラキがそう考えるだろうことを理解して飛びだした。

まるでフェニックスのように、燃え上がる炎の翼を生やして飛ぶルティナと、六本の尻尾をなびかせながら、ソリフィスが持つ雄大な翼で飛ぶシラキ。

互いに剣を交えながら、踊るように空を駆けていく。


「雷帝樂天!!!」

「ヴォルケーノ!!!」


上を取ったシラキの最上級魔法と、下から突き上げるルティナの最上級魔法がぶつかり合う。

そして二つの魔法がぶつかり合うまっただ中を、まるで何事も無いかのように突き抜けたルティナが、シラキと剣を交える。

派手な火花を上げながら、二人は空中戦を続ける。










「アレは一体?」


謎の現象に対し、外野も疑問の声を上げる。

各隊の隊長達、すなわちシラキの眷属の主力達は、それぞれの隊と共にいる……訳では無く。

彼らは一カ所に集まって観戦していた。

このなれなれしさが、ある意味シラキの眷属達の特徴とも言える。


「ルティナ様はかつて最強の盾とすら呼ばれた神の子だし、その力かも?最上級魔法すら無傷で受けきったとか、冗談みたいな噂が立ってたものだよ」


ルティナの防御力に対してのフェデラの疑問に対し、グノーシャが答える。

見た目には現れない高齢のノームは、かつてを思い出すようにしている。

実際問題、シラキが放つ炎帝鳳凰が、ルティナにダメージを与えていない所を今見たばかりである。


戦場からはそれなり離れたところで観戦しているが、その視線は二人から片時も外れることはない。

何せこの戦いは、全力と全力の勝負だ。

"滅亡の大地"との勝負に、何か思うところがあったのか。

ルティナはいつもの調子でこの戦いを提案した。

しかし、いくら単体で勝利したとはいえ、相手は最弱に近い死神だ。

現状のシラキでは、四人ユニゾンしたところで勝ち目がないくらいには実力差がある。

そこでルティナが言い出したのが、"シンクロギフト"という技。

ドレッドノートと似た種類の技であるこれは、自分の力を他人に分け与えるというものである。

眷属というつながりが有り、互いにある程度信頼関係のある彼らであれば、拙い"シンクロギフト"でもそれなりの効果を発揮する。

今回に限ってこれだけ多くの眷属が集まっているのは、全員でシンクロギフトをおこなうためだったのだ。

とはいえ、これだけの人数で力を集めても、本人が扱いきれなければ意味が無い。

強化されたのは、シラキが扱いきれる限界までである。


つまりどれだけ扱いきれるかがシラキの強化に関わるわけだが、これはシラキにとっては有利だ。

何せ集められた力は、シラキ含め、四人で分担できるのである。

本来であればシンクロギフトで集めた力をユニゾン相手にも分配するなど、相当無茶な話である。

しかし、差し出す側とシラキ、そしてユニゾン中の三人のつながりが深いこと。

そして旅する小さな融合賢者(ノームブレス)も手伝ってのユニゾン精度によって、シラキは自分自身と比べると、ずっと大きな力を扱っている。

それこそ、ルティナと互角かと思うほどの力を。


「すさまじい……アレほどの、魔力のぶつかり合い」


リースが感嘆の声を漏らす。

ハースティも人間には分からない声で二人の空戦を賛美し、ライカが同意する。


「しかし、あるじ様と比べると、ルティナ様の魔法は巧みです。同じ魔法、同じ魔力でも、ルティナ様はより高い威力を引き出せる」


アウラウネが冷静に分析する。

その言葉の通り、実際にはシラキがより多くの魔力を投入することで、何とか魔法の攻撃力を拮抗させているのだ。

それに対し、カミドリが、機動力ではシラキが上回っているというようなことを言う。


「でも、接近戦じゃルティナが圧倒的ね。まともに打ち合ってもそうだし、そもそも刀であの防御を抜けるのかしら」


ディレットの言うこともその通りだ。

すでに戦っているシラキ本人が、刀でまともにダメージを出すことを諦めている。

一連の攻防で分かったことだが、ルティナは自然体ですら、防御に注力したときのディレット並の防御力があるのだ。

"滅亡の大地"の鎧がかわいく思えるほどの防御力。

そもそもルティナのそれが純粋な防御力なのかすら不明だった。


「にしても、本当に楽しそうに戦うよね、二人ともさ!」


グノーシャが楽しそうに言う。

それはこの場にいる全員が共有する感想で、感覚だった。


「まるで逢瀬じゃない、全く」

「うらやましいよね!」


やれやれと言った様子で言うディレットに対し、グノーシャが間髪を入れずに答えた。


「別に、そういうわけじゃ」

「情熱的だよね!」


リースが白い肌を桃色に染めて、興奮した様子で言う。

彼女がそんな風になるのは珍しい。

それは二人の戦いに対して、戦いという視点では無く、ふれ合いとでも言うべき視点から見ているからであった。

ディレットが呆れたような、むっとした顔ような表情でリースを見る。

しかしリースを含め全員が二人の戦いを見つめたままだ。

それを確認したディレットは軽くため息をついて二人の戦いに視線を戻す。

私もあんな風に戦いたい、そんなことを思いながら。










戦いは高機動戦闘へと趣を変えていた。

シラキからすれば、並の攻撃どころか、よほど力を込めないとルティナにダメージが通らない。

そしてそれほどの攻撃をするためには溜め無しではできず、それ以下の攻撃では足止めにもならないという状況。

攻撃では無く結晶の檻に閉じ込めてみたりもしたが、結果は速攻で壊されて終わった。

その為、溜めている間は回避に専念することにしたのだ。


一方のルティナは、逃げるシラキを巧みな魔法で追い詰める。

多彩な魔法で多様な攻め方をすることによって、機動力の差を物ともせずに攻撃している。

内実四対一と言ってもいい状況で、ルティナはシラキを翻弄していた。


そんな戦いの中、どうにかこうにかシラキの魔法が完成した。

シラキが魔法を作り、命尾がルティナの攻撃を読み、レフィルが判断・行動し、ソリフィスが飛ぶ。

いつもの役割分担であった。

そうやってルティナの攻撃を躱しつつ作られたのは、まぶしいほどの光の槍だ。

しっかりとした輪郭を持ったその槍は、言うなれば電気で内側を塗りつぶした槍だ。

電気は線のように見えるが、線を幾重にも重ねていけばその空間を塗りつぶすこともできる。

長さ数メートルという、まるで光の結晶とでも言う様な槍を構える。

込められた魔力、実に最上級魔法の数倍。

これでダメージ無い様だったら何かしら別のギミックを疑った方が良いだろう。


ルティナがシラキの槍を見た瞬間、烈風陣を展開する。

それと同時に浮き上がる、数十からなるブレイズランス。

しかしシラキは気にせず、魔力を投入。

ルティナを中心に厚さ十メートルはある結晶の球を、一秒以内で生成。


透き通った結晶越し、二人の視線が交差し。

そして、シラキがその槍を放った。










「はぁーっ、はぁーっ」


見た目に反してしっかりとした堅さのある、白い雲の絨毯の上、息の上がった四人が倒れていた。

横を向いて倒れている愛原と命尾、だらんと首を垂れて座っているレフィルとソリフィス。

全員が全員とも体力を使い切っていた。


ルティナ戦。

力を尽くして戦い、敗北。

ちなみに当人のシラキは戦う前から欠片も勝てると思っていなかった。


「みんな、お疲れ様」


リースが飲み水をくれる。

ちなみに持ってきた桶もコップも宝石製だ。

このダンジョンの小物はすでにシラキ作の宝石で溢れている。

シラキは普段から水筒を携帯し、何かと水を飲んでいるのだが、訓練後も当然給水タイムが来る。

最初はシラキだけだったのだが、リースやルティナがそれに習うようになり、いつの間にやら魔獣勢まで水を飲むようになった。

水うめぇテンプレ化。


「それで、アレって一定の威力以下の攻撃を無効化してたの?」

「当たりっ。私のユニークスキルで、無効と軽減を同時におこなってたんですよ」

「無効の判定が軽減した後にあるんだとしたら相当だな。さすが神の子とでも言うべきか」


シラキが苦笑を浮かべて言う。

息が整ってからいつもの反省会。

ちなみに息切れして倒れていたシラキ達だが、ルティナはルティナでしばらく動かなかった。

何をしていたかというと、うっとりとした吐息を吐いて放心していた。

こんなんばっかである。

ある分野において突出した人物である程、どこかしらまともからは離れてた所にいるものだ。

個性的とも言う。

とはいえ日本の創作群と比べれば、強い人達も全然普通だよな、とシラキは思うのだった。

ちなみに亜人族と比べて、魔族は個性的な方がデフォルトであるため、没個性的な者がいたらその時点でもう個性的になる。

シラキの眷属なんか良い例なのであった。


「シラキさんはユニゾンしてしまえば、もう基礎力はA+に匹敵します。これからは引き出しを増やしていくべきでしょうね」

「でもルティナ相手だと威力無いと勝負にならないけど」

「いえいえ、そんなことはありません。圧縮や組み合わせ次第では局地的な威力は上げられますし、それを当てることを考えれば、純粋な攻撃以外の技も必要になります」


二人向き合って育成方針を練る。

まるでRPGでもやっているかのようだ。


「先ほどの戦いでも使っていましたが、確かに毒や麻痺の類いは私には効き目が薄い。ですが視界を切ったり、物理的な拘束は普通に効果があります」


実際、シラキはそれらの妨害系の魔法も使っていた。

低威力の攻撃が意味を成さないため、使わざるを得なかったという方が正しいが。


「あんまデバフ系持ってないんだよな……というか、今まで影が薄かった気がする」

「今まで相手も使ってきませんでしたしねぇ。騎士、ケントロ、"滅亡の大地"……そういうのばっかりですね」


今度はルティナが苦笑する版だった。

考えてみれば、今までの敵は直接的な攻撃を好む者ばかりだった。


「最近は魔法の改変もそれほどやってなかったしな」

「でも、あの技は見事でしたね」

「ああ、あれ。長らく胸に暖めてきた必殺技だったのに、思いっきり弾かれたね」


シラキが戦いの途中で使ったとある技。

本人的には本当に必殺技だったのだが、あえなく弾かれて終わった。


「本当は避けるべきだったんですけどね」


ルティナが目をそらして言う。

神の子、テンション上がりすぎてつい迎撃してしまった模様。


「まあ何にせよ、次の戦いまで頑張っていきましょう!」

「ああ!」


まだ世界は崩壊しておらず、洞窟の中も日常にいた。



平和ですね。こんな平和が続くのも後数話……おっと。ところで読んでくれている皆さんは私の小説を読んでどう思っているでしょうか?できれば感想などいただけると励みになります。実際感想ってヤツは本気でモチベに直結しますから…。マッチ売りの少女みたいなノリで感想乞食をすることも辞さない構え。

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