終末の日は来たれり
冥界の邪神、死神以外の者達のことを"亡者"と呼ぶことにしました。名前を決めていなかったという作者の屑。第一話も少しだけ改変して亡者の名前出しときました。
『終末が始まりました。冥界の門が開き、邪神の軍が侵攻を開始します』
『空より来たる凶報、"空賊"が出現しました』
『海に消える城、"軍艦亀"が出現しました』
『闇を導く者、死神"狂える様に歌う闇"が光臨しました』
『地を喰らう者、死神"染虫の侵略者"が光臨しました』
『大地を飲み込む者、死神"滅亡の大地"が光臨しました』
『崩壊の足音は冥界より来たる。屍と悪意は隊列を組み、意志無き軍歌と共に大地を踏みならし、死と破壊をもたらすだろう』
『ワールドスキル"滅亡の行進"が発動されました』
シラキが来てから210日。
終末が始まった。
まるで鐘の音が鳴り響くかのような音と共に、頭の中で"神の伝達"が聞こえた。
話には聞いていたが、実際に聞くと少々驚く。
そしてその"神の伝達"の途中から、滅亡の大地がどのようにして地上に来るのかが分かった。
ダンジョン上層部、つまりは外。
第一階層の上にある地上部分は、ダンジョンコアの感知範囲に入っている。
その地上に、四つの門が出現した。
四つある門の中心に、門の一つから出てきた滅亡の大地が居座った。
門からは続々と敵が出てきており、ダンジョンマップの地上部分が敵を示す赤い点でいっぱいになった。
その状態からしばらくの時がたった。
敵の数は現状では一万以上。
現在も絶賛門から吐き出されている最中なので増える一方だ。
下級の門がそんな一気に亡者を出すなんて聞いてないんですけど!?
と言った目でルティナを見たら普通にルティナも驚いていた。
で、すでに二つある入り口から亡者達が侵入しており、第一階層を進んでいる。
今のところ第一階層にいるのは数千といったところか。
レフィル隊と命尾隊、グノーシャ隊、そしてディレットが威力偵察に行って何度か交戦しているが、一体一体の強さはそれほどでもない。
しかし、地上には今来ている敵の上位互換と思われる敵がいる。
ダンジョンコアのレベルが上がった恩恵か、敵のレベルも表示されるようになっている。
それによると、現状敵は十種類プラス一。
lv2ブラックスケルトン
lv4スケルトンナイト
lv?怨念の騎士
lv?地獄の騎士
lv3罪術師
lv5怨念術師
lv?終末術師
lv2ヘルドック
lv5ヘルハウンド
lv3黄泉の黒煙
lv?滅亡の大地(?)
このうち今最前線にいるのが"ブラックスケルトン"、"スケルトンナイト"、"ヘルドック"だ。
レベルを見れば、こちらが負けないのも分かるというもの。
楽なのは今だけかも知れないが。
大体種類別するなら、上から歩兵、術兵、騎兵、その他と言ったところか。
現状一番怖いのは、一人だけ滅亡の大地の横から動かない"終末術師"。
下に二つ下位互換がいる魔術系とかやめて欲しい、あいつ多分最上級魔法とか使うぞ。
次に怖いのは"地獄の騎士"、こいつが現実的に一番被害を出しそうな気がする。
今のところ数は十人しかいないが、すでに全員第一階層に侵入している。
前線指揮官なのかも知れない。
魔物達にはこいつらとは鉢合わせしないように言ってあるので、とりあえずぶつかることはない。
とにかく、今は敵戦力を削ることに専念しよう。
中央大陸
大陸北部
首都ナシタ
大都市ナシタは今、大量の亡者達によって城壁を取り囲まれていた。
体長五十メートル近くある巨大な二足歩行の獣、キャッスルイーター。
その足下には、スケルトン達が地を埋め尽くしている。
上空には真っ黒なワイバーンが多数飛んでおり、城壁の上の兵を狙っている。
首都を取り囲む城壁の上で、緑髪の少年、アディンが指揮を執っていた。
「魔術師部隊!キャッスルイーターを集中攻撃しろ!!」
のっしのっしと動きは鈍いが、その歩幅によってそれなりの速度で歩く獣。
茶色の毛皮に身を包んだキャッスルイーターに魔法攻撃が集中し、大声で断末魔をあげる。
「弓兵部隊!ワイバーンを撃て!一匹たりとも通すな!!」
空を飛ぶワイバーンにも雨の様に矢が射かけられ、それがいくつもその体に突き刺さっていく。
すでに何匹ものワイバーンが地上にたたき落とされていた。
「まさか、こんなに早く来るとは思ってなかったな」
指示が一段落したアディンに、"駆け回る伝説"ノウルスが話しかける。
「ええ。大都市が襲撃を受けるという情報はありましたが…門の位置を確かめる暇もありませんでした」
アディンは落ち着いた様子で答える。
この少年はこの小ささで、軍の指揮も板に付いていた。
「それについては盗賊ギルドの連中に任せるしかないだろうな」
現在、ナシタにいる盗賊ギルドのメンバーが総出で門の位置を探っている。
彼らの力であれば、位置が分かるのも時間の問題だろう。
「今のままなら、城壁は持ちます。が…」
「あの白いのがどう動くか、か」
城壁に押し寄せる亡者達の後ろに、キャッスルイーターと同じくらい巨大な、四足歩行の白い怪物が居座っていた。
東大陸
大陸南部にある帝国
首都・宮殿内部・玉座の間
「死神というやつか」
玉座に座りながらそう言ったのは、絢爛豪華な衣装を身に纏う皇帝。
そしてその前に、鋭い目をした巨漢が立ちはだかる。
冒険者クラスA、東の大陸においても有数の戦士だ。
目の前にいるのは真っ黒な鎧を身に纏う死神"滅亡の大地"。
「陛下」
「うむ。剣の開放を許可する。叩きつぶせ」
戦士が剣を掲げると、その剣が赤い輝きを放ち出す。
その輝きは巨漢を包み、赤く強大な鎧を作り出した。
それを見た"滅亡の大地"は鎧の内で笑みを浮かべ、足下から闇を広げる。
「祭りだ」
その城の中まで、外から複数の龍の咆哮が響いた。
南大陸
大陸西部
人が一切住んでおらず、魔物の大陸と言われる南大陸。
その西側、白い宮殿の上空で、激しい空戦が繰り広げられていた。
黒のワイバーンと、純白の翼を羽ばたかせる天使達だ。
それぞれが勝手に動き回るワイバーンと比べ、統率のとれ、連携して動く天使達。
この場においては天使達が優勢であるが、圧倒的な数で襲いかかるワイバーンは尽きる様子はない。
そんな戦況を地上から眺めながら、魔王"月天使"セルセリアは考えていた。
前回の経験から、下級門からはワイバーンは出てこないはず。
すでにこの段階から中級門が開いている可能性がある。
魔王達からすればワイバーンが群れた程度どうとでもなるが、亜人族はそうも行かないかも知れない。
とはいえ、終末が始まっていきなり襲撃を受けている以上、むやみに遠くに移動するべきではない。
しばらく考えていたセルセリアだが、結局部下の天使達に周囲の門を破壊するように命じた。
中央大陸南
シラキのダンジョン
終末が始まってから、敵の侵攻は休むことなく続いている。
第一階層。
まさか本当に物量で第一階層の迷宮を突破する奴がいるとは思ってなかった。
ウルフ隊が無人の野を行くが如く無双していたが、敵が多すぎて減った気がしない。
一応大がかりなトラップが残っているが、それはあえて使わず、機会を待つことにした。
戦果としては、ディレットとウルフ隊が大体2000くらいは削ったはずだ。
第二階層。
第二階層の防衛に関しては、普通に遠距離攻撃をしている。
第一階層を物量で突破できる以上、第二階層の森も物量で突破できてしまう。
マッシュ達の毒は術士系とドック系には多分効くと思うので散布。
遠距離攻撃できる眷属が総出で入り口付近のモグラたたき。
森の中に入ったら近接部隊を投入。
最優先撃破目標は怨念術師だ。
自分のこと故に良く知ってるが、魔法使いという奴は攻撃偏重で防御が弱い。
範囲攻撃持ちはさっさとつぶすに限る。
あと、ディレットに地獄の騎士だけピンポイントでつぶしてもらった。
若干相手の圧力が減った様に思うが、全体的には影響がなかった。
相手には指揮官というポジションがないのかも知れない。
敵に第二階層を突破させながらも、崖の上を保持して継戦。
第三階層ではソードバードが腐るうえ、地上を制圧されるとさすがのソードバードもキツい。
敵の損害が4000ほど、こちらも多少やられた。
第三階層。
ある意味本番、総力戦を開始。
戦力を全投入して遅滞戦闘、というか下がりながら敵を削る。
大樹の層内部の五階層、全ての場所で激戦だ。
ただ第二階層で術士系をかなり減らせているため、こちらは一方的に遠距離魔法が撃てる。
近接部隊が敵を止め、魔法使いが遠距離から敵を減らし、その隙を突いて近接部隊を交換。
ひたすらこれを繰り返す。
魔法使いの魔力が切れるまでは安定するが、切れたら一斉に下がる。
遠距離攻撃で大きく勝っているこちらは撤退も楽にできる。
それにこのダンジョンは俺達の庭だ。
戦闘中は使用しなかったトラップを起動し、かなりの時間の足止めに成功。
敵を3000ほどは倒したはずだ。
第三階層中間地点の吹き抜けに防衛ラインを構築し、俺は考える。
懸念事項は二つ。
未だに増援を吐き出し続ける門は一体どれほどの戦力を抱えているのか。
そして地上部に陣取ったままの滅亡の大地(?)はいつ動き出すのか。
少なくともこちらは限られたリソースを削って戦っている。
魔法使い部隊はもちろん、近接部隊だって無限に戦い続けられるわけじゃない。
戦い続けていれば、いずれ限界は来る。
そして若干気になっているのは、このコアの名前に表示されている(?)の文字。
戦闘したからか時間経過のためか、レベルの分かっていなかった三種の内二種は見えるようになっている。
lv6怨念の騎士
lv7地獄の騎士
lv?終末術師
後は終末術士だけ。
下位互換の二種を見れば、おそらくだが終末術士のレベルは8か9。
レベル6以上からレベル表示がなくなるのだとしたら"滅亡の大地"も見えないのは分かる。
あるいは死神はデータが表示されにくいとか?
今の段階では推測の域を出ないが、今後のためにもちょくちょく確認しておこう。
シラキは考えつつも、ダンジョンの状況を俯瞰していた。