高ランク冒険者集会
中央大陸北
大国ナシタ
俺は今回行われる集会に出席するために、大国ナシタへと向かった。
俺のダンジョンから、距離的にはかなり離れているのだが、ソリフィスのスピードがすばらしく早かった。
時速何百キロ出ているのかは分からないが、とにかく早かった。
この速度で、むき出しで飛んでいれば普通辛いだろうが、そこはルティナが何とかしてくれている。
風魔法のおかげで高速で移動しているとは思えないほどそよ風だ。
こうしてソリフィスとルティナのおかげで早く移動できていると思うと、自分がどれほど他者に助けられているかを実感する。
まあ、実感する機会が沢山あるので今更ではあるのだが。
それに乗っている間は、下はソリフィス、後ろにルティナが密着しているせいで、人肌が暖かい。
よく言われる話しだが、やはり誰かと触れていると心が温まるというものだ。
ルティナの体は柔らかいが、若さ故のリビドーはしぼんで何も言ってこない。
ミテュルシオンさんになにかされてる可能性が微レ存?
ソリフィスは高速で飛んでいるものの、高度が高く、森や草原がずっと続いているため、地面はゆっくりと流れていく。
人工物で溢れた日本と比べると、この世界は自然で溢れている。
まあ人間の生活圏の外は全て野生と魔族の世界なので、町の外は全て危険地帯だ。
こうやって空を飛んでいても、地表でたまに魔物を見かける。
町から町に移動するだけでも、それなりの危険があるのがこの世界な訳だ。
もしかしたら、俺はこの世界で最も早く移動できる人間なのかも知れない。
そうやって移動すること数日。
俺達は中央大陸最大の都市、ナシタに到着した。
空からみて驚いたが、平地に建つその都市は、今まで見てきたどの町より大きい。
高い城壁で囲まれ、その外側には広く畑が拡がっている。
降下して南門を見れば、城壁の上に派手な黄金の槍を持つ女性、聖女シャンタルがこちらに手を振っている。
事前にシャンタルにはソリフィスに乗ってきて良いと言われていたのだ。
城壁を守る他の兵士達が大分焦っているのを見ながら、シャンタルの横に着地する。
「お二人とも、ようこそナシタへ」
シャンタルが笑顔で迎えてくれるが、周りの兵士、いや騎士達がかなり不安そうな様子なのを見て、少々不安になる。
俺とルティナはソリフィスから下りて答える。
「ソリフィスに乗ってきちゃったけど、本当に大丈夫?」
「ええ、大丈夫です。これでも聖女ですから、話しは付けてあります」
自信満々にそう言うシャンタルに連れられて、町の中を歩く。
相変わらずルティナはすっぽり顔を隠した上に、俺の腕にしがみついている。
ソリフィスとルティナが二人そろって人目に付く訳だ。
町中では奇異の目で見られるものの、三人の内一人がシャンタルだと知ると、多くは納得したような顔に変わる。
これは…。
「シャンタル、何かすごい変な視線で見られてるんだけど?」
「そうですね。まあ魔物を、それもヒポグリフなんて言う強力な魔物を連れていれば当然でしょう」
「いや、そういうことじゃないんだけど…」
シャンタルは良く分からないといった様子をしている。
この娘、思ったよりも天然だった。
何をやらかしたのか、どうもシャンタルだから仕方ないと思われているような雰囲気が。
まあ、そのおかげでソリフィスが騒ぎにならないのだから、それはそれで助かるのだが。
この日はいつだかリーベックで泊まったより高い、中の上くらいの宿に泊まり、次の日に。
宿でもどこでも思うが、シャンタルのネームバリューが相当仕事している。
亜人族の町で、魔物なんて一匹たりとも存在しないこの町で、ソリフィスがスルーされる。
この時点で相当すごいぞ。
それに今回出席する集会は、基本的にA-以上の冒険者ばかりだ。
そこに冒険者クラスにしてBの俺が出てることからも分かる様に、それだけシャンタルは影響力を持っているのだ。
集会は町の中でも中心に位置する場所にある、巨大な神殿の様な建物で行われる。
シャンタル、ルティナと共に中に入った俺は、まず驚かされることになった。
それは建物の大きさでも、通路や大部屋の豪華さでもない。
その場所に集結している人々にだ。
百人以上いるであろう人々が、みんながみんな俺より強い。
ヤバい。
魔窟だわここ。
"槍葬の聖女"の異名を持ち、伝説の槍を持ち、世界で五人しかいない聖人の一人であるシャンタルが、この中だと普通に見える。
ちなみにこの集会は世界中から冒険者が集まるのだが、彼らは船で集まるわけではない。
もっと速く移動できる手段がこの世界には存在しているのだ。
この世界のいくつかの地点を結び、大陸間移動を可能にしている場所。
それは、ダンジョン、「天空城ケイチ」を経由する道だ。
天空城ケイチ。
どこかの海の上空に浮かんでいる、空飛ぶ城だ。
転移魔方陣によってできた入り口がいくつか存在し、その入り口が各大陸に点在している。
現状、短期間で大陸間移動を可能にする唯一の手段だ。
しかし、そんな物があるのなら簡単に他の大陸に行けるかと言えばそんなことはない。
入り口から別の入り口に到達するためには巨大な城の内部を移動しなければならない。
天空城ケイチは完全なダンジョンであり、しかもそこで出現する魔物は入り口付近ですらレベル5以上。
下手をするとレベル8や9、10と言った高レベルの魔物がエンカウントする。
こんな通路を利用できるのは、ランクA以上の冒険者か、それなりの戦力をそろえられる者に限られるのだ。
この集会に集まっている者も、このダンジョンを一パーティーで移動できるような猛者ばかりである。
しかし危険であることを除けば、天空城ケイチは非常に魅力的な移動手段だ。
護衛に高い金を払ってでも、遠隔地まで短期間で荷物を運ぼうという商人はいる。
高ランク冒険者にとっては、稼ぎ場として比較的縁があるのであった。
ちなみにこの天空城ケイチ、多くの高ランク冒険者が入っていながら、一度も攻略されていない。
城の奥までいくとレベル二桁の魔物と簡単に遭遇するらしい。
その神秘性や難易度から、数々の伝説がささやかれるが、奥に"何"があるのかは誰も知らないのである。
ロマンのある話であった。
これから行われる集会とは、冒険者の中でもトップクラスの力を持つ人々が集まる、いわゆる立食パーティーだ。
イベントとしては終末で出現されるとされる魔物や死神の情報の発表。
そして娯楽的なノリなのか、人類最強と言われている冒険者パーティー、イノセントクロウズのメンバーが交流戦を行うらしい。
俺としても人類の最高峰、イノセントクロウズには興味がある。
イノセントクロウズ。
それは亜人族最強と言われる冒険者パーティーだ。
伝説的な活躍をいくつも残しており、その名声は中央大陸に限らず、世界中に轟いているとか。
そんなパーティーのメンバーは五人。
この五人、と言うのが何とも、信じられないような者達だ。
世界中に冒険者は数いるが、ランクAは総数でも百人ほどしかおらず、A+に至っては世界で八人しか存在しない。
そんな八人の内、実に五人がこのイノセントクロウズのメンバーなのだ。
最強の八人中五人が同じパーティーとか冗談みたいな話である。
しかもイノセントクロウズの戦力は、並の国の武力を上回るとすら言われている。
そんな連中の戦いが見れるのだから、興味を持つなと言う方が無理である。
ちなみにその五人だが、ちょっと見回したらすぐに見つかった。
この強者達の集まりの中でも、一際存在感を放っている一団。
実に堂々としている。
接点もないので遠目から眺めるに納めたが、この集団の中にいても簡単に見つけられるくらいの者達であった。
普段からダンジョンに籠もっていて、ほとんど人と出会っていない俺である。
知り合いなど誰もいないこと、それに緊張から壁際の椅子に座ってそわそわとする。
ルティナがそんな俺を見て笑うが、俺の側を離れようとはしない。
しがみついてこそいないが、やはり人混みは苦手らしい。
シャンタルに関しては知り合いが来ているらしく、そっちの方へ行った。
そうやって集会の始まりを待っていると、こちらにまっすぐと向かってくる人がいる。
ルティナよりも薄く、そして暗いピンク色のグラデーションしている髪。
黒に近い灰色の服を着て、鋭く、まるで蛇のような目をした女性だ。
それなりに美人で、長く尖った耳から、彼女がエルフであることが分かる。
そしてルティナがその女性を見た瞬間、がたっと椅子から立ち上がった。
「久しぶりね、ルティナ。五十年ぶりくらいかしら?」
「クリスティナ…久しぶりです」
クリスティナ、と呼ばれた女性が笑みを浮かべる。
その笑みが、蛇のように鋭い目も手伝って、若干怖い様な印象を受ける。
「どなた?」
まさか、と思いながら俺が聞くと、クリスティナはこちらを向いて会釈する。
「エルフの国の大臣、クリスティナです。以後、よろしくお願いします」
「前回の終末の時の、勇者パーティーの参謀です」
こいつ、世界に八人しかいないランクA+冒険者の一人だ!
本でA+冒険者の話は知っていたが、こんなにポンポン出会うとは。
てか前回の終末って六百年前でしょ?
エルフって言うのは本当に長寿なんだな。
「それは…どうもご丁寧に。ルティナの二番弟子、シラキです。よろしく」
「ルティナの教え子は、教わった内容や直接鍛えたかどうかに関わらず、皆大成するわ」
「…それは、すごいね」
クリスティナが出してくれた手を握り、握手をする。
「クリスティナも来てたんだ。国は良いの?」
「ええ。この集会に出る方が大事だし。それに今の冒険者の最高峰を見ておきたいから、ね」
「…遠目に見た感じだと、当時と同等くらいの力はあるよね」
「まあ、噂負けしている感じはないわね」
考えてみれば、目の前の二人がこの中でも群を抜いて化け物だった。
ちなみにちょっと怖かったのは見た目だけで、ルティナと楽しそうに話している様子を見ると、怖い印象は受けない。
そう思っていると、シャンタルが二人の女性を引き連れてやってきた。
「シャンタル?」
「シラキさん、こっちは」
シャンタルが紹介しようとすると、右にいた方の女性がそれを遮って前に出てくる。
「私は騎士団"ルアーズ"の団長、藍川奈々よ!」
長く、青みがかった黒髪に、泡のような装飾の付いた黒っぽいつば広帽子。
天真爛漫な笑みを浮かべ、どこか子どもっぽい顔立ち。
白と青色の動きやすそうなドレスを着て、二本の剣を腰に差している。
身長は俺より少し低いくらいで、体つきはどちらかというと慎ましやかだ。
その若い女性を前にした瞬間、奇妙な感覚に襲われた。
美しい。
魅了されたかのように、藍川奈々と名乗った女性から目が離せなくなった。
そんなはずないのに、どこか輝いているような、後光でもさしているように見える。
まるで女神を見たときのような印象。
俺がそんな風に感じたのは、しかし短い間だった。
自分がこの世界に来たときのことを思い出したのだ。
真っ白な場所で出会ったあの老婆は、間違いなく目の前の女性よりも圧倒的な存在感を放っていた。
「シラキです。よろしく」
俺は相対した瞬間の感覚などなかったかのように、普通にあいさつを返していた。
そのとき、藍川が驚いた様な表情をして黙る。
「……えっと…藍川?」
困惑して聞くと、藍川が慌てたように答えた。
「わ、私、奈々で良いわ。冒険者ランクはAで、剣で戦うけど、あ、でも、団長だから普段は指揮をしてて…」
「奈々、落ち着いて下さい。深呼吸して」
何がどうしたのか、突然とり乱したようになった藍川をシャンタルがなだめる。
と言うか本当にどうしたのか、堂々としてハキハキとした第一声とは打って変わった慌てようである。
若干顔も赤くなってるし、最後は尻すぼみになっていた。
ちなみにもう一人の女性、というか少女はバカにしたような、呆れたような表情で藍川を見ている。
「だから言ったじゃないですか、効かないかも知れませんよ?って」
「い、今のは効かなかったんじゃないわ」
楽しそうなシャンタルに、深呼吸をして大分落ち着いたらしい藍川が返す。
「とにかく、私のことは奈々で良いわ。よろしくね、シラキ」
「了解」
藍川、いや奈々は今度はしっかりとした調子に戻ったが、まだ少し顔が赤い。
そんな彼女と握手を交わすと、代わるように後ろにいた少女が前に出て、ぺこりとお辞儀した。
少女は俺より、というかルティナよりも小さく、ほとんど子どもとも言って良い感じだ。
しかしその落ち着いた表情は、下手したらルティナや奈々よりも大人びているような気がする。
黒髪の上には獣耳(猫?)が生えており、純粋な人間ではないことが分かる。
上も下もダークグレーの服で、体の大部分を覆い隠しているマントも、首の辺りだけ白に近い灰色で、それ以外は黒だ。
色の濃さこそ違うものの、上から下まで黒と灰色で、その体の小ささも合わせて印象的だ。
「名前はシクロ。パーティーは"フース"。よろしく」
「こちらこそ」
言葉少なで、落ち着いた雰囲気の少女だ。
だがどんなに小さな女の子に見えてもこの場所にいるという時点で素の俺より強い。
目に見える場所に武器を持っていないし、ひょっとしたらシーフだろうか。
声は見た目相応に幼げだが、奈々同様聞き取りやすい。
そう思っていると、シクロが無造作にこちらに近寄ってきて、すんすんと臭いを嗅いだ。
「獣みの薄い臭い。刺激のない、ぬるま湯のような臭い。……横の二人とは、大違い」
どうすれば良いのかと困惑する俺を他所に、シクロは抑揚のない言葉でそう言った。
横の二人、というのは多分シャンタルと奈々のことだろう。
雰囲気のせいでこれが褒めているのか貶しているのか全く判断できない。
「総評……好ましい」
好ましいらしい。
良かった。
「それはつまり私たちが好ましくないと言いたいのですか?」
「違う。シャンタルは刺激が強い。奈々は高温」
「…もしかしてこれ、においの話じゃなくて、性格…てか性質の話してる?」
そんな気がしてきた。
「シクロはにおいから相手がどんな人間か判断します。奈々は、他者を魅了します」
シャンタルがサラッと言うけど、それってすごくないですか。
ユニークスキルと言うことになるのだろうか。
そして奈々が申し訳なさそうに頭を下げる。
「ごめんなさい、私のスキルは常に発動してるから止められないの」
「ああ、いや。気にしなくていいよ、強制力があるわけでもないんでしょ」
多分彼女の能力に強制力はない。
まあ魅了なんて言うくらいだからレジストしないとどうなるか分からないが。
ゲームなら自動で仲間を攻撃するようになるところだがはたして。
「確かに、強制力はないけど…抵抗した様子もなかったのに、どうして魅了が解けたのかしら」
「ああ、アレはミテュルシオンさ…様に会ったときにもっと強いの感じたから、それでかも」
「しゅ、主神にあったの!?」
見れば三人とも驚いていた。
今まで表情の動かなかったシクロまで目を見開いている。
ひょっとしてやらかした?
そう思って横を見ると、相変わらずフードを被ったままのルティナが肩をすくめるような仕草をした。
「なるほど…確かにミテュルシオン様と比べられれば、そうなるかも」
そんなこんな喋っていたら集会が始まった。
緑髪の小さな少年、"ナシタの勇者"アディンが短い開始のあいさつをする。
あいさつを短く抑えるのには好感が持てるというもの。
その後は情報をまとめた冊子が配られ、先ほどのメンツでそれについて話し合った。
冊子にはバカにならない量の情報がまとめられており、かなり助かる。
帰ったら魔物全書に内容を移しておこう。
それほど飾った料理ではなかったがその味は美味で、思ったより色々と食べれた。
レベルAだという吟遊詩人の歌は地球のものとも近く、気分が良くなる。
その場にいた冒険者達ともそれなりに楽しくおしゃべりし、この時点でもかなり満足していた。
パーティをそれなりに楽しんだ後。
冒険者達にとってメインイベント、と言うべき戦いが始まった。
小さめのコロシアムの様な場所を貸し切り、交流戦を行っていた。
模擬戦のルールは簡単、三対一かつ場外、まいったと言う、戦闘不能で負け。
当然のように武器を使っているが、ちょっと死んだくらいなら普通に治してくれるらしい。
まあこの会場には教皇やら聖女やらがいる上、ランクAの神官がいる。
今この場所は世界で一番安全な場所だと言っても過言じゃない。
イノセントクロウズの四人が中央のステージのすぐ側で試合を見ているのに対し、ステージ上にいるのは一人だけ。
イノセントクロウズの純ファイター、"大戦士"泰虎だ。
見た目は完全に侍のそれで、浪人のようだ。
背が高く体格はそれなり。
着物のような服装、黒髪をちょんまげの様に後ろでまとめ、腰には刀を帯びている。
そしてその泰虎だが、かなり圧倒的だ。
すでに三組九人を大怪我もさせることなく倒している。
戦闘は全て刀ではなく西洋剣を使っており、しかも攻撃方法は剣の側面で殴っているだけだ。
大抵の冒険者は一撃食らったらそれで終了。
これだけ戦ってほとんど攻撃を受けていないし、バテた様子もない。
攻撃力、機動力、スタミナ、どれをとってもすさまじい。
観客席には結界が張ってあって攻撃が通らないようにされているのだが、先ほどから何人も泰虎に吹き飛ばされて、結界に激突している。
相手だってAランク、どいつもこいつも俺より強いというのにだ。
今戦っているのはシクロのパーティー、フースの三人だ。
シーフであるシクロの他に、泰虎と同じく侍風の男と、魔法系の金髪の女性。
見ていれば分かるが、三人とも決して弱くない。
泰虎とまともに撃ち合っている男は守りに入っているように見えるが、純粋に強く、しっかりとタンクの役割を果たしている。
シクロはまるで黒い影が動いているかのように、目で追うのが難しいくらいの速度で飛び回っている。
後ろにいる女性は攻撃・補助・回復を一人で行っており、リースと命尾を二人ずつ足したような活躍だ。
参考になるかと言われるとレベルが高すぎてアレだが、少なくとも魔法系の後衛の動きはかなりタメになる。
まずあのレベルの強さになると隙の大きい魔法は撃たせてくれない。
一組目の魔法使いが何度か上級応用魔法を撃とうとしていたが、悉くつぶされた。
戦士が遠距離攻撃できないかと言われればそんなことはないらしい。
岩がガンガン突き出しながら進んだり、剣で薙いで真空波みたいに空圧を飛ばしたり。
剣が光を纏ったかと思ったら十メートル以上ある半透明の巨大な剣になり、それを叩きつけたり。
あれらは気力を使った技だと思う。
俺は魔力の流れは見えても、気力はうまく読めない。
当たり前だが、戦士と魔法使いでは使っている力が違う。
分野が違うのだから両立が難しいのも頷けるというものだろう。
泰虎に限らず、ここにいるようなメンツは気力だろうが魔力だろうが、反物理的な現象を起こせる。
威力だけ見れば魔法使いの方が高いが、戦士の技の方が隙が少ない。
一対一なら戦士の方が強いが、複数なら魔法使いの方が重要。
だからといって一人で前衛を相手しながら後衛の術をつぶすのだから相当だ。
そしてこうなってくると技は中級と中級応用メインになってくる。
上級応用魔法を使わせてくれないのはその通りだが、かといって上級魔法は使えない。
上級魔法という奴は大抵が広範囲攻撃だ。
そのため個人に対してはダメージが分散し、どうしても効率が悪い。
しかも範囲が広いから味方の前衛を巻き込むという使いにくさだ。
かといって中級未満の魔法だと弱すぎて使い物にならない。
いや、魔法の矢はみんな使っているけど。
アレって純魔力攻撃で必中だから、物理防御力に依存しないダメージが出せるという。
そのせいでどんなに高速紙防御キャラでも、体のどこかには魔法防御力の高い装備を付けるという事態になってる。
冷静に考えてみて、速度や方向にかかわらず必中ってメチャクチャだよな。
てかそもそもおかしいのである。
だって魔法の矢の魔法式のどこを見たってそんな設定ないんだぜ?
しかも魔法の矢から機能を一部撤廃しただけの魔法弾は必中じゃないし。
これじゃゲーム世界だ。
もうこれは世界システム側の設定か、あるいは神の加護でもかかってるかだな。
人の手でどうこうできないって意味では変わらん。
思いっきり脱線したな。
中級近くの魔法を多用するのは、中級の汎用性が高いからだ。
範囲攻撃もあれば威力特化攻撃もあり、物理的・精神的な状態異常もある。
ただこの世界、状態異常を扱うのは何かと問題がある。
毒や麻痺なんかは効果が低くても実戦じゃ大問題だから強い。
使い勝手が悪いのはそれ以外だ。
石化は怖いけど、発動も扱い方も難しい、というか亜人族で使える奴がいるのか謎。
……てか石化なんて使えるのはコカトリスやメドゥーサくらいじゃないのか。
盲目もあるけど、目が見えなくても魔力や気配は感じるから、どれくらいキツいかは人と状況による。
精神的なものとなると、混乱や魅了、恐慌と言ったところか。
これ恐慌以外は、効果薄いんだよね。
魅了なんかは特に顕著で、本人に忌避感がないならともかく、ガチで嫌いなこと強制するのとか不可能。
抵抗如何に関わらず、強制力が低いのだ。
一方、恐慌はヤバい。
体硬直するし、軽く思考停止するし。
何にせよ確実に一定の効果をもたらすようなものじゃないし、判断力がないと扱うのは難しいね。
分かりにくいけど、今まで見てた感じ、泰虎は精神的なデバフは全部効果無し。
二戦目に盲目喰らってた(ルティナが教えてくれた)けど、普通に戦ってたし。
などと思っていたら、状況が動いた。
シクロはすごい速さで後ろや上から奇襲気味に攻撃していたが、泰虎の自分の周りに衝撃波を発生させるような技がクリーンヒット。
そのまま泰虎が剣を振り上げると、赤い光が地面から発生、シクロが吹き飛ぶ。
その隙を突くようにフースの前衛が攻撃するが、泰虎はかすらせながらこれを避け、返す刀の攻撃が入る。
彼は吹っ飛ばされてかなりキツそうだ。
シクロもさっきのですでに戦闘不能。
状況を鑑みてか、金髪の女性が投了した。
「すごい…って俺さっきからそれしか言ってない気がする」
それが偽らざる俺の気持ちだった。
いや、もう少し言うなら、すごく興奮する。
自分もあの場所に立ちたい、と思う。
「じゃあ、行きましょうか」
「へ?」
シャンタルの言葉に、つい間抜けな声を出してしまった。
「そうね。ほら、行きましょ」
奈々も当然とでも言うかのようだ。
いや、ちょっと待って
「ちょま、俺実力はB+以下!」
「こういうのは、何でもやってみるものですよ」
「…シャンタルに同意するのはアレだけど、実際その通りよ」
「ちょ、何ですかアレって!?」
俺が出ても足手まといにしかならないんですけどぉ!?
困ってルティナを見ると、ルティナはにこっと笑った。
え、これ行けって言ってる?
「シャンタルにつき合ってたらどんな目に遭うか分かったもんじゃないわ」
「し、失礼な!私だって人といるときは少しは気をつけますよ!」
…この二人漫才しているし。
分かった、この気楽にアクティブを見習って、この人達におぶってもらうことにしよう。
ルティナが俺にそうしろと無言の言葉を投げかけている。
「では、…えっと、お世話になります」
「任せて下さい。私たち二人がいる以上、後ろには通しません」
「なんて言って、守るより攻める方が好きなのにね」
「それはあなたもでしょう」
そんなこんなでシャンタル、奈々、俺の三人で挑んだが、普通に負けた。
てか奈々とシャンタルがホントに強くて、そして二人がかりで勝てない泰虎はもっと強かった。
二人が横に並んで攻めまくるのを見て、正直胸が熱くなった。
てか二人はともかく、泰虎はすげーうれしそうだったし。
そんなこんなでなかなか充実した集会だった。
次回は魔王達、死神達が沢山登場します。例によって世間話です。
次回「井戸端会議」