ユニゾンと運命の一片
第二階層
崖下
崖下の木陰で、命尾とグノーシャが座り込んでいる。
「フォックスシャーマンの命尾とか、隠す気ゼロだよね!」
「まさか。気付くのなんてあなたくらいですよ」
グノーシャが大げさに身振り手振りをしながら話す一方、命尾は目を瞑って集中している。
シラキが最近始めた魔法のアイテム作りを、命尾も行っているのだ。
「あれ、もしかしてそれ、自分の尻尾の毛を使ってる!?」
「そうですよ?超高級素材です」
驚いた様に言うグノーシャに対して、命尾はさらっと答える。
フォックスの毛は魔力と相性が良く、魔法のアクセサリーの材料に使われることもある。
命尾は自前の毛を使ってアイテムを作っていたのだ。
「マジ!?それは確かにそうだけど、っていうかそこまでする?僕の時だって尻尾は使わなかったのに」
「マスターの為なら、たとえ火の中水の中~♪」
「ええ~。や、まあ、いいけどさ」
おちゃらけた様子で命尾は言うが、グノーシャは、命尾はいざとなれば実際にやるだろうと思っている。
全く冗談になってない。
グノーシャは苦笑いを浮かべてそれはどうなのかと思う。
しかし、すぐに「あっ!」と思い出したような声を上げる。
「そんなに大切なら、僕からも一つプレゼントをしようかなっ!」
「プレゼント?あなたが?」
「実はこの前、精霊王に押しつけられてさ。テキトーに誰かに渡せーって」
グノーシャが持っているもの。
それはスキルと同種のものだ。
ユニークスキルを発現させる土台となり、発現したユニークスキルと入れ替わる。
その性質上一度しか使えないが、グノーシャはそれを発現させた上で誰かに渡そうとしている。
発現しているユニークスキルとは、「旅する小さな融合賢者」。
"ユニゾン"と呼ばれる、非常に珍しい魔法に関するスキルだ。
簡単に言えば、ユニゾンを超簡易に使えるようになるスキルである。
ユニゾンとは、複数人を一時的に合体して戦闘力を上げる魔法である。
マイナーすぎること、条件が厳しすぎることなどが理由で、実際に使っている人はごくごくごく僅か。
それに使っているとしても、補助のための精霊との合体などが主で、人や魔物と合体する者など、聖人より少ない。
片手の指に収まる程だ。
結論としては、シラキの戦闘力を多少上げるかも知れないスキル。
だがユニークスキルというのは、肉体でも魔力でもなく、魂に刻まれているものである。
それを軽々(けいけい)に他人に渡す、渡せるというのは、非常識極まりないことでもあり、どうなるか分からない行為だ。
命尾は心配になった。
精霊が他人に力を貸すという伝説もあるが、スキルのやり取りなどと言うことができるのだろうか、と。
スキルを他者に渡したり、目覚めさせたりというのは、それこそ神々の所業である。
「そんなもの…!副作用は」
「さあ?でも終末を生きるなら力は必要でしょ?それに精霊王が渡すぐらいなんだから、そうそう悪いものじゃないだろーし」
無頓着な物言いをするグノーシャに、命尾は責めるような視線を向ける。
しかしそれを下に落とし、ボソッとつぶやいた。
「別に他人を助ける必要なんてない。マスターはここに籠っていればいいのに」
そうこぼした命尾に対し、グノーシャが笑いながら言う。
「ねえ命尾、それ本気で言ってる?邪神どもは僕らが全滅するまで戦いを止めないし、この世界にいる以上逃げ場なんて無いんだよ?」
その表情や話方は笑っているが、話の内容はあまり愉快なものではない。
「そもそも、君たちはもう"滅亡の大地"にロックオンされてるんだ。あの死神の能力、忘れてないよね。例えディレットとルティナ様がいても、あいつの戦力如何では負けるんだからね」
グノーシャに言われるまでもなく、命尾は分かっている。
単純に頭で考えることと感情は違うと言うだけだ。
「君も、君より先に主に死なれたくはないでしょ?」
どこか面白そうに、確信を持って問いかけるグノーシャに、しかし命尾は当然と言った様子で答えた。
「私より早く死ぬことだけは、あり得ませんよ」
「そう?それなら良いけどね」
おちゃらけて話すグノーシャは、命尾の確信しているかのような表情に気付いていたが、何も言わなかった。
俺は今、ものすごく珍妙な格好をしている。
長めの黒髪、細めの目、丸めの顔、身長170センチ。
多少やせ気味だったのが、筋肉が付いて体重も普通と言える領域にいる。
ここまではごく一般的な日本男児の範囲。
それが、服装は灰色を基調として、赤い翼のような文様の入った、外套とも上着とも言える服を着ている。
長く、スカートやコートのように腰の辺りからひらひらとギザギザになっていて、不思議な感じがする。
袖も太く拡がり、ゆったりとして魔術師のローブと言い張れないこともない。
これを用意てくれたのは、神の子三人衆である。
ヴォルフレイデンの鱗や血などを材料に、ガリオンが魔術を編み、ルティナが作った服だ。
要するに神の子三人衆のお手製である。
高そう(小並感)
服に名前も付いていて、名前は"コートオブファルシオン"。
多分胴体にもアクセサリー覧にも装備できるとかそんな感じ。
その性能は、完全に神造兵器だ。
防御能力はAクラスの防具に匹敵し、軽く丈夫で動きを阻害しない。
自己修復能力を持つためほっときゃ直る上、洗濯も必要ない。
持ち主の意志で形状変化が可能であり、伸ばして鞭にしたり盾にしたりと用途は様々。
普段は持ち歩く必要もなく意志で即座に着脱可能、脱いでいるときは消えているため邪魔にもならない。
魔力補助能力もあり、容量は多くはないが、これ自体が魔力結晶としての機能を果たす。
更にこの服自体に回復魔法と"炎の翼"という魔法が組み込まれている。
前者は単純に劣化リジェネで、後者はガリオンがノリとロマンだけで入れたとか言う代物。
炎の翼は攻撃に使えたり、空を飛べたりと機能自体は色々あるが、主に魔力制御と魔力消費と言う面であまり実用的ではない。
実戦ではせいぜい対バックアタックと移動補助くらににしか使い道はないだろう。
……十分のような気もするが。
ガリオンとかは平然と空を飛ぶし、もっと魔力に習熟したら使えるのかもしれない。
訪れるかどうかは分からない未来だが。
何でも何ヶ月かかかって作った物らしく、あまりの品に笑顔が引きつった。
で、それが今おかしな格好をしている理由の一つ。
いや、この世界ではそれほどおかしな格好ではないし、日本ではコスプレですむ。
問題なのはもう一つの方、体から生えているそれぞれの部分だ。
頭からは狐耳が生え、触ってみると髪の毛とは違ってフサフサとしている。
人間の構造で生かせるかはともかく、口からは鋭い牙が生え、まるで吸血鬼のようだ。
背中からはグリフォンが持っている大きな翼が生えていて、気を抜くとバランスを崩しそうになる。
しかもお尻の上の辺りから大きな狐の尻尾が五本生えており、後ろへの重心移動に拍車を掛けている。
足は膝の辺りから毛が覆い、まるで狼人間である。
まあ、つまり、これがユニゾンした結果だった。
狐耳とふっさふさのもっふもふな尻尾が命尾。
鋭い牙と狼の足がレフィル。
そして背中の翼がソリフィスのものだ。
合体したとは言え、念話を使うまでもなく意思疎通ができるし、分担作業も可能。
俺個人の戦闘力だけで見れば、飛躍的、とまではいかなくてもかなり上昇している。
とはいえ、四人一緒になっているわけだがら、分かれて戦うのとどちらが良いのか良く分からない。
それに相性や条件があるせいで、俺とユニゾンできるのも現状この三人だけ。
うーん、微妙?
とはいえポンともらったことを考えればそんなものかも知れない。
ちなみに最初三人全員と合体したときは、ガチで後ろ方向に倒れた。
体全体からすれば尻尾と翼が占める重量の割合はかなり少ないのだが、中の三人が大分混乱していた故だ。
しばらく盆踊り、もとい体を慣らしたのだが、これがなかなか面白かった。
はいはいを始めたばかりの赤子と言うべきか、自転車の練習をする子どもと言うべきか。
それほど時間を掛けずに普通に動けるようになったので、初めての時しか味わえない体験だった。
練習の結果、とりあえずソリフィスが翼を操作して移動を補佐、命尾が魔法補助、レフィルが肉体の動きの補助を行うことになった。
それ以外にも観察したり魔力や生命力を感知するのはそれぞれやっているので、不意打ちはそうそう喰らわないだろう。
魔法も四人で分担している以上、一回で沢山使えるし、魔力の総量も驚くほどある。
"闘争と契魔の儀式"では完全に使っただけ得なので、それだけでも利はある。
使える手札の一つとして、訓練することになった。
今回は短めでした。その代わり次が長いです。
次回、「高ランク冒険者集会」