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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
ダンジョンと人魔竜 ~渡る世間は強者ばかり~
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走り始める世界


リーベック



"槍葬の聖女"シャンタルに誘われ、昇格試験を受けることになった。

この前のシャンタル救出に加え、聖女シャンタルからの推薦もあり、ランクBまでの試験を受けさせてくれるようだ。

町まで一緒に来たメンバーはルティナ、フェデラ、ディレットの三人。

ディレットは果たして連れて行って良いのか不安だったが、ディレット本人は全く留守番する気がなさそうだった。

どうやら人間形態になって真っ先に行動を開始したらしく、色々と見て回りたいそうだ。

折角人間形態を取っているのだから、町にも行ってみたいらしい。

シャンタルが見た瞬間臨戦態勢に入ってちょっと申し訳ない気分になった。


これと言ってイベントもなく、リーベック中心にある冒険者ギルドに到着。

シャンタルを含めたメンバーに見守られながら、昇格試験を受けた。

能力的にはB+のシラキである。

鎧袖一触であった。

ランクC+試験はゴブリンロード、ホブゴブリン、ゴブリンが一体ずつ。

爆雷波で全員を巻き込んで供回りを倒し、そのまま収束させるという応用技でロードも一撃。

ランクB-で出たのはメガバウムとバウム二体。

弱点属性である炎属性の上級魔法"荒天花"で全て焼き払った。

最後のランクBで出たのはlv6の妖魔、ゴブリンヒーロー。

開始直後に上級魔法"雷哮牢"でダメージを与えつつ動きを封じ、バーニングボムを直撃させた。

フェデラ程ではないが、俺だって上級魔法と中級応用魔法を同時に発動させるくらいはできる。

そしてどうして即効で叩いたかと言えば、ゴブリンヒーローに接近されたら非常に厳しいと知っているからだ。

Bランク昇格試験にソロで出てることからも分かるが、こいつ接近戦だと普通に強いから。

技術や反射神経といった能力で表しにくい部分がかなり良いため、戦士系の人はこの試験手こずるだろう。


ちなみにフェデラも昇格の資格自体は持っていたらしく、C+まで昇格。

敵も一蹴だった。


「とりあえず、これで集会出席権は得られましたね」


Bランクの冒険者カードを受け取ると、シャンタルが話し出した。

唐突な話で、集会という言葉をオウム返しする。


「終末に備えて高ランクの冒険者を集めた集会、というかパーティーです。"茶会"や"賢者の塔"が集めた情報を配布するとか」


こういう話を聞くと、ギルドとしても備えをしていない訳ではないようだと思う。

終末の情報は欲しいので、詳しい予定などを聞く。

どうやら有名人や、シャンタルの知り合いなども来るらしい。

話を聞くにBランクで参加したら場違いのような気もしたが、ルティナとシャンタルの付き添いだとでも思うことにした。









第二階層

崖の上



いつもの場所で、いつものメンバーが集まっている。

今日のイベントは、サンダーバードVSハースティ。

幻樹の森上空でのドックファイト、というか空戦だ。

種族的にも戦闘スタイル的にも同格だが、補正込みのハースティと互角にやり合う辺り、あのサンダーバードも並じゃない。

絡み合うように交差しながら、止まることなく撃ち合う二人の戦いは、非常に見応えがある。

飛び交う雷撃と剣が交差し、撃ち落とし合い、ばらまいたビー玉の様に拡がっていく。


サンダーバードが複数の雷撃の球と共に、サンダーボルトを放つ。

ハースティが加速してサンダーボルトを回避し、数本の剣を放つ。

放たれた剣は触れた雷撃の球を爆発させつつ、サンダーバードへ。

サンダーバードは剣と剣の間を縫うように飛び、球を撃ちつつもそれとは別の種類の球を二つ、横に放つ。

どうやらそれはオプションのようで、まっすぐに飛びつつもたまに雷撃を放っている。

ハースティは横から飛んでくる雷撃を、サンダーバードに接近することで回避。

ハースティが浮かべている剣で近接戦を挑むと、ギリギリの距離をサンダーバードはロールして回避。

流れるように旋回からの捻り込みを行いつつ、自分が先ほど放ったオプションへ直進。

オプションに突っ込んだかと思うと、そのオプションが裁きの鉄槌と見紛うような巨大な球にふくれあがる。

突っ込む格好になったハースティは巨大な電撃の球の表面すれすれをかすめながらも、球に向かって剣を放つ。

球を貫通してきた剣をサンダーバードは急降下して回避し、また撃ち合いに。


「すごいねー」


リースが感心した様な声を出す。

その声で、見入っていた俺も我に返った。


「すごいな」


俺も同調して言葉を返す。

誰かと誰かが模擬戦して、それを他のみんなが観戦する、というのが日常茶飯事になっていた。

ふと横を見てみれば、ソリフィスとディレットがそわそわとしている。

この中であの空戦に参加できるのはこの二人だし、おそらく血が騒ぐのだろう。

ソリフィスなら、多分崖や地上の森を活用して戦うと思う。

あの二人はどちらも空が主戦場だし、全くの空戦だと分が悪いが、地上戦ならソリフィスに分がある。

ディレットの場合は実力差がありすぎるが、空戦縛りで三対一ならそこそこ良い勝負できそうな気がする。

まあ、それもディレットが手加減するという条件付きだが。


その後も二人の勝負は続いた。

威力と接近戦で利があるハースティと、手数と攻撃の多彩さで戦うサンダーバード。

互角の勝負をする二人だが、スタミナの多くない二人が全力で戦っていたため、勝負自体は短い時間で終わった。

森の中に隠してあったオプションからの雷撃がハースティにヒットしたのだ。

今回はサンダーバードに軍配が上がったが、戦えば毎回勝者が変わるというような感じだ。

なかなかに迫力があった。


そして良い機会なのでサンダーバードに名前を付けることにした。

今まで主力に近い立ち位置だったのに、名前がなかったのだ。

「ウィルバー」や「クドリャフカ」も考えたが、結局「ライカ」と名付けることにした。

深い理由があったわけではない。

俺にネーミングセンスを期待されても困る。


ちなみにライカだが、念話がかなり聞きやすくなったのだが、レフィルのようにしゃべりだすと言うことはなかった。

しゃべらないのになれていたため、むしろ好都合だったが。







第四階層

雲中庭園


同日、第二回戦。

リース対フェデラ。

能力差がありすぎると思うだろ?

実際はそうでもない。

目の前では、いつだかの対フェデラの時のような、一進一退の戦いが繰り広げられていた。

俺の時と違うのは、一対一であることと、完全な魔法の撃ち合いになっているところか。


フェデラと出会ってから数ヶ月、フェデラ自身の状況もずいぶん変わった。

修行は続けているし、黒結晶の除去もそれなりに進んでいる。

のどの奥と食道にある黒結晶はすでに除去済み。

現在は足の黒結晶を除去中で、それもすでに半分以上が完了している。

方法としては注射器の針のような水晶を刺し、そこを通すことによって黒結晶の魔力を抜いていた。

絶対に痛いし、俺だったらやりたくないが、フェデラは弱音も吐かずに受け入れている。

傷自体は終わった後に回復魔法で治せるから良いが、それも足という命に直結するような器官ではないからだ。

リスクを考えれば現状心臓に刺せる様な代物ではないし、子宮に関しても不安だ。

痛みを感じないほどの極薄の針を使えれば良いのだが、それを作る技術も、そこを通して魔力を抜く技術も足りない。

子宮に関しては最悪性器を通すとして、心臓に関しては別のアプローチの仕方を考えるべきかもしれない。


で、フェデラが修行を続け、また黒結晶の除去も進んだ結果。

フェデラのランクが上がった。

具体的に能力を見てみよう。



フェデラフロウ=ブロシア=フォルクロア

魔物レベル4

総合C攻撃E 防御E 魔力量B 魔法攻撃C+ 魔法防御C+ すばやさE スタミナD スキルB-



これが



魔物レベル6

総合B-攻撃D 防御D 魔力量B 魔法攻撃B- 魔法防御B- すばやさC- スタミナC スキルB-



こうなった。

みれば分かるように、現在の主力メンバーの能力にかなり迫った。

内訳としては、修行と黒結晶の除去が六対四と言ったところか。

ちなみに修行についてなのだが、俺やフェデラが短期間の修行で強くなっているのには理由がある。


一つ目は、ダンジョンという環境。

魔力が充満し、他とは隔絶され、下手をしたら独自のルールが適用されているような空間。

この空間では、そこにいるだけで外よりも大きな刺激を受けている。

普通ダンジョンの中でのんきに生活など不可能だが、ダンジョンマスターである俺は例外だ。

言葉通り、一日中ダンジョン内部で暮らしている俺やフェデラ。

他人より成長が早いのは当然である。


二つ目は、女神ルテイエンクゥルヌの加護。

ついつい忘れがちだが、我らがルティナ様は女神様である。

そしてこの世界の神々は信仰などによって、それぞれ様々な加護を与えてくれる。

ルテイエンクゥルヌがもたらす加護は複数あるが、その中に"成長"という加護がある。

名前の通り、成長を助ける加護だ。

現状ルテイエンクゥルヌの加護をガッチガチに、本格的に受けている俺や、俺ほどでなくとも大きな影響を受けているフェデラ。

他人より成長が早いのは当然である。


三つ目は、これはフェデラには関係無いのだが、ミテュルシオンさんの加護だ。

詳しいことは分からないし、ルティナも聞いていない様なのだが、何かしらの加護はかかっている。

それに別の世界の存在を、法則の違うと思われる世界に送ったのだ。

それによって起こる、あらゆる不都合をミテュルシオンさんは解決している。

その際色々手を加えたらしく。

…うん。

複雑な気分だけど、それも関係はしていると思う。


一応俺達は恐怖だとか黒結晶だとかによって自身の戦闘力を落としている。

それがギプスみたいな感じで成長を促進していると言うことはあるだろう。

そう言った細々とした理由もあるが、大きいのはさっき言った三つ、フェデラの場合は二つだろう。

まあそう言ったわけで、フェデラも人より速く成長しているのである。


実際に、リースとフェデラの戦いは良い勝負だ。

今回リースは小手先の技を多用し、戦法を試すような戦いをしている。

リースは戦闘になると氷蓮華を使っている印象ばかりあるが、一対一の戦いではそんなことはない。

先ほどから水と氷を操り、オールレンジ攻撃を仕掛けている。

縦横無尽に動き回る鞭のような水の打撃と、その水の中で生成されるつららの射撃。

頭上から滝のように水を落としたり、地面から巨大な氷を生やして突き刺したり。

四方八方から、常に攻撃が襲いかかっている。


一方のフェデラは、攻撃力の低い攻撃は全て烈風陣で砕き、砕けない攻撃は回避している。

足の黒結晶が減ってきているため、機動力がまともに使えるレベルまで上がってきているのだ。

今まで戦闘中はほとんど動かず、二重の風魔法や防御ばかりしていたのが嘘の様だ。

弱い攻撃は迎撃、それなりの攻撃は回避。

攻め手を緩めず常に攻撃し続けるリースと比べ、フェデラはずっと防御的に動いている。

良い勝負だ。

またフェデラは攻撃性の風属性上級魔法も使えるようになっており、新たに習得したのは、風属性上級魔法"サイクロンリッパー"だ。

まっすぐに進む竜巻を起こし、中心部を徹底的に切り刻む魔法であり、他の属性の上級魔法に比べて範囲は狭いが、その分威力は上等。

まともに食らえばたまったものではない。

それを警戒しているため、リースが大技を使えないでいるのだ。


二人の戦いはしばらく続いたが、勝敗は地の能力が決することとなった。

と言っても、単純にフェデラの方が先に息切れした、というだけだが。

今の段階でこれなら、体の黒結晶を全て除去したら場合、どれくらい強くなるのか。

この場にいる全員が気にしていることだった。








冥界

眼鉄の塔最上部



椅子に腰掛けている二つの人影。

それはどちらも、世界でも有数の能力をもつ人物であった。


「死神、"染虫せんちゅうの侵略者"について」


透き通るような綺麗な声を出したのは、龍神セレナ。

彼女は今、冥界に足を運んでいた。


「侵略者はわしの管轄じゃない…ことくらいわかっとるか。あやつなら前回同様、どこかのダンジョンにでも行くんじゃないかのう」


相手が龍神であることを気にしているのかしていないのか、"終末の四騎士"の一人である眼鉄は普段と変わらない様子で話す。


「では、聞きますが…侵略者と最後にあったのはいつです?」

「んん……?」


眼鉄は怪訝な顔をして思い出すように視線を落とす。

しかしその顔は時間が経につれて拒絶するような、険しい表情になっていく。


「いや、そうは言っても……まさか……」

「ずいぶん、時間が経っていますか?」


表情の変わらないセレナに対し、眼鉄はためらうように答える。


「最後にあったのは大体一年前、じゃな」


老いることのない彼らからすれば、一年というのはそれほど長い時間ではない。

平時であれば、特定の人物と数年間合わないことなど日常だ。

しかし、終末を前にして、他の四騎士や死神と会う機会はかなり増えている。

眼鉄としては考えにくいことであるが、セレナがそれを聞いてくると言うこと、それ自体が起こりにくいことが起こっているということの示唆であった。


「じゃが、もしダンジョンに行っていたとしても、一年間誰にも見つからずに、など」

「あるではありませんか」


眼鉄は、信じられない、と言ったような顔をする。


「アンダーグラウンド・インターワールド…?だが、あそこはダンジョンでは」

「滅亡の大地」


セレナは事前に用意していたかのように、ある死神の名前を口にする。

慌てていた眼鉄は素早く冷静さを取り戻し、その先の言葉を紡ぐ。


「ダンジョンに現れた侵略者をあやつの能力で…いや、もしやダンジョンそのものを?」

「おそらく後者でしょう。アンダーグラウンド・インターワールドは広大な地下洞窟。地下深くに作れば、誰にも気付かれない」

「狙いは、出現する地上の門を通過しない方法での地上への道の開通」


セレナは頷く。

眼鉄は普段のしかめっ面をさらに暗くした。


「そんなことになったら、"狭間"で龍達と戦うことなく、戦力を地上に送り込めるようになる」

「そう。そもそも"狭間"において、龍達が十全に戦えるからこそ勝ちの目のある地上。この戒めを解かれれば、地上の滅亡は必至」


もし今言ったことが実際に起こった場合。

レベルが10を超えるような魔物が、一日に数十数百と地上にあふれ出すことになる。

そんなことになれば、間違いなく地上は滅び去るだろう。


「じゃが、"ゲートオブアビス"には守護者がいる。侵略者でも一年であのダンジョンの攻略は無理じゃ。そもそも、"ゲートオブアビス"には鍵が必要なはず」

「"ゲートオブアビス"の鍵は、分解されていくつかのダンジョンに保管されています。そして、すでに数年前から死神が複数のダンジョンで目撃されています」


二人は黙り込む。

しかめっ面の眼鉄と、ここに来たときと変わらず、引き締めた表情のままのセレナ。

この沈黙は、しばらく続いた。


「そういえば、メアリーはどうしていますか?」

「ああ、落ち着いておるよ。機嫌が良いとは言えんがな」


そう答えた眼鉄は立ち上がり、塔の縁に立つ。


「ああ、ちょうどほれ、あそこだ」


眼鉄が地を見下ろすと、そこには話題に上がっていた人物が両方そろっていた。

セレナが同じように塔から下を見つめ、幾ばくかの時が経った。


「"滅亡の大地"、"煉獄よりの使者"、"儚き少女が見た夢"…わしらが前回の終末で冥界に来たのだとしたら、奴らは一体いつから死神なんじゃ?」


眼鉄は口を開く。

前回より前に終末が起こったという様な記録は、どこにも残っていない。

眼鉄は思う。

最初の死神は、生まれたときから死神だったのだろうか、と。


「"再誕の大地"…"煉獄への送り人"…"小さき栄光の槍"…」


セレナが小声でつぶやいた声は、誰にも聞こえていなかった。








冥界

眼鉄の塔の近く



黒にも似た紫の大地、その丘の上で腰掛けている黒い鎧の大男がいる。

その男は何が愉快であるのか、顔に笑みを貼り付け、虚空を睨み付けている。


「どうしたの?そんなにうれしそうに」


そんな男に、暗い紫色のドレスを着た、十代前半くらいの背格好をした少女が話しかけた。

真っ黒な鎧を身に纏った大男、死神"滅亡の大地"は、今気付いたとばかりに振り向いて聞く。


「そんな風に見えるか?」

「ええ、珍しすぎて気持ち悪いぐらい」


ドレスを着た少女、死神"狂える様に歌う闇"メアリーは慣れた様子で毒を吐く。

メアリーは、その服と似たような色で長めの髪をまっすぐに降ろし、大きめのリボンを付けている。

身長体重は中学生のそれで、女性らしい起伏の少ない、未発達な体をしている。

整った顔立ちで、ドレスを着こなし、どこか高貴な雰囲気を醸し出している。


「地上の、シラキの様子を見てきたのだがな。実に大きくなっていたよ」


そう言って話す"滅亡の大地"は表情を戻す。

実際の所、終末が起こっていないときの、メアリーの知る"滅亡の大地"は常に無表情だった。


「この前見逃したって言う少年?そんなに変わっていたの?」

「それはもう。やはり人間は良い。努力し、強くなっていく姿は、憧れすら覚えるよ。我々は鍛えるということができないからな」


落ち着いた様子でいう"滅亡の大地"は、心底感心した様に言う。

そんなことを真顔で言われたメアリーは、薄ら笑いを浮かべる。


「よく言う。私を殺したこと、まさか忘れたとはいわないでしょうね」

「忘れるはずがなかろう!お主との戦いは至福であった。だが、かつての私はその場で殺すことこそ最上と思っていたからな。人は成長し、強くなると言うのに、その場で殺してしまっていたかつての自分が恥ずかしい」


大真面目に話す"滅亡の大地"に、メアリーはため息をつく。

その表情は呆れとうんざりが半々と行った様子だ。


「相変わらずの戦闘狂ね。そんなに戦うことが楽しい?」

「もちろんだ。我は死ぬまで戦い、戦って死ぬ。それこそが我が存在意義であり、プライドだ」


"滅亡の大地"は、"プライド"という言葉を強く言った。


「そんな理由のためにちょっかい出して、地上は良い迷惑よ」

「ククク、それはすまないな」

「あんた、悪いなんて思ってないでしょ」

「いやいや、悪いとは思っているよ。ただ戦いのためならそれ以外をいとわないだけだ」


この一言に、"滅亡の大地"という死神の全てが集約されていた。

"滅亡の大地"は悪いことが好きなわけではない。

むしろ一般的に悪とされることはどちらかというと避けるタイプだ。

しかし、戦いのためならそれを為すことを全くいとわないのである。


「自分勝手な奴。地獄に落ちろ」


メアリーは責めるような視線を向ける。

これさえなければ、と今までメアリーは何度も思っていた。


「そう言うな、仕事はしているだろう?"ゲートオブアビス"の様子も見てきたし」


さらっと言った言葉に、気になったことを確認するよりも速く、メアリーはツッコミを入れる。


「どうせかの大魔王と戦いたいとでも思ってたんでしょ」


ゲートオブアビスには、冥界と地上を繋げる門がある。

しかし、その門は常に守護者に守られているのだ。

今となってはその事実を知る者は少ないが、その守護者は、かつては大魔王と呼ばれていた魔族である。


「残念ながら、俺では奴には勝てん。それどころか勝負にすらならないだろう」

「そりゃ、死神一人で倒せるようなら守護者なんて呼ばれてないわよ。現大魔王より強いって言われてるのよ」


言うだけ言って、メアリーはようやく"滅亡の大地"の言葉で気になった部分を聞く。


「それより、ゲートオブアビスに行ったって?まさかあいつ、冥界の門を開けるつもりなの?」


"滅亡の大地"に地上に行くように指示を出したのは、一人の四騎士だ。


「さあな。あいつは眼鉄やグロミアと違って、自分の考えを語らん」

「地上、滅びるわよ?」

「そうだな。だが地上が追い詰められれば、新たな強者が生まれるかもしれん、とは思わんか?」

「…この、狂人め!」


毒を吐いてはいても、ずっと落ち着いてはいたメアリーが、初めて声を荒らげた。

"滅亡の大地"はそれをみて、どうしようもないとでも言うように肩をすくめるのであった。




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