空の馬ソリフィス
この世界で目覚め、修行を初めて15日。
他に何をするでもなくひたすら修行に打ち込み、空き時間はダンジョンの構想を練るのに使った。
魔法は新しい魔法を教えてもらい、魔力が切れるまで練習を続ける。
魔力が切れたらルティナに魔力を注入してもらう。
…拷問か何かか。
何にせよ俺は普通の人とは比べものにならないくらいの量の魔力を使って修行ができる。
だからといって他人より何倍も速く成長するというわけではないが。
接近戦は、まあ、ひたすらルティナにボコられる時間だ。
いや、優しいよ?
ただ俺の戦闘力が赤ん坊並なせいでツッコミ所しかないだろう。
「でも、シラキさんは動きがまっさらですから、逆に覚えが速いです。癖も少ないですし」
実際の所、ルティナからすればやりやすいものだった。
たとえ痛いことだろうが意味が分からないことだろうが、素直に言うことを聞く。
かといって盲目的に信じて全く疑問を持たないというわけでもない。
才にあふれたとは決して言えないが、実に面倒のない弟子だった。
「そっすねー」
いやぁ、ルティナさんマジパネェっす。
一日何時間ボコられてんだ俺。信じらんねぇ。
お前魔力使い切って気絶して身体動かしすぎて気絶してを何回繰り返してんだよ。
取り繕う余裕がなくて口調も適当になってる。
拷問染みた集中合宿が功を奏したか、教師が良かったか、名字の件のおかげか。
多分全部だろう、自分でも多少は強くなった気がする。
「シラキさんはほんとにまっすぐ素直に伸びますね。1つ魔法を教えるとすぐ2つ3つに増殖する以外は」
「増殖って……別にそんなそんな変なことはしてないでしょ」
この十日で覚えた魔法は九個。
魔法の矢、火・水・氷・風・土・雷の初級魔法。
武器の切れ味を上げる"呪符の刃"。
自分1人くらいなら十分カバーできる盾を出現させる"魔法の盾"。
ルティナは増殖させるなんて言ったが、俺がやっているのは積み木の順番を変えるような行為だ。
つまり既存の魔法の組み替えであり、新しい魔法を一から作ったりはしていない。
だから別にそれほどおかしなことはやってはいないはずだ。
しかしそれとは別に思ったが、魔法方面の方が物理方面より明らかに伸びてる。
性格とか相性があるからそういうこともあるだろう。
なおルティナは物理系だが魔法も相当使える模様。
この小さい体躯で物理系でランクS-ですよ!一体どうなってしまうんだろう。
ただ二人で組むなら魔法系と物理系でバランス的には良いか。
もちろん俺の魔法なんてルティナと比べれば水道水とポロロッカだが。
ちなみに結晶操作だが、剣を作ろうとしたところ鈍器しかできなかった。
精度が低いせいで刃を作るのが難しいし、色もあまり綺麗ではなく、曇っている。
できるだけ硬い物で作りたかったが、コランダムでは刃が作れない。
トパーズでもいまいちうまく作れないし、ダイヤモンドに至っては出すことすらできない。
仕方ないから石英でナイフを作った。
………10日かけて。
「ここまで来れば並のナイフを超える性能でしょうね。綺麗ですし」
との評価を戴いた。10日かけて。
実際の所どうかは知らないが、個人的にはえらく時間がかかった認識だ。
しばらくは研鑽の日々を送ることになるだろう。
「たった15日なんですよねー。シラキさんはランクC-くらいにはなってしまったので、そろそろボスを召喚してみましょうか」
ルティナがいつ通り、花のような笑顔を浮かべる。
「お、いよいよか。てかホントにC-あるの?」
「ありますね。実戦経験というと微妙ですけど、私とそれなりの数対戦してますし、問題ないと思います」
「さいですか」
「ですです。ちなみに、何を召喚するかは決めましたか?」
「ええっと、ヒポグリフを」
俺がボスに選びたいのは、ヒポグリフ。
前半身が鷲、下半身(後半身?)が馬の魔物だ。
魔物レベル7、それに各種追加設定を付けてボスになってもらう。
「すごく乗りたい。すごく乗りたい。すごく乗りたい」
「人がヒポグリフに乗る、か。聞いたことないけど、そういうの、夢っていうのかな」
この世界のヒポグリフはかなり珍しい存在だ。
グリフォンなんかは割といろいろなところに住んでいるようだが、ヒポグリフは高位冒険者でも目にする機会は少ない。
「かもね……できなさそう?」
「何でも試してみるものです。シラキさんならなおさら」
ルティナにどういう風に思われているのだろうか。
まあ、もし常識外れだと考えられていたとしても、別に悪い気はしないが。
二人でダンジョンの中枢へ移動し、俺はコアへ手をかざす。
この15日間でできることは大体把握している。
現在の保有マナは101,987。
ダンジョンにとどまることによって、ルティナは一日辺り100もマナをくれているらしい。
ヒカリゴケやヒカリダケ、魔草も多少はマナを算出しているらしく、1日6だ。
そして俺は一日0だ。いや、一日1以下だ。
そんなもんですよね。
マナについては気にせず、ボス召喚の為に色々と設定を付けていく。
ヒポグリフをボスとして召喚するために必要なマナは26000。
それに雷属性適正や念話などの各種オプションをつけ、最終的に召喚コストは37000。
すごく高い。
すごく高いが、これから彼にはずっと相棒として活躍して欲しいとも思っている。
強ければ強いほどマナの収入も多くなるし、決して大悪手ではない、と思う。
ルティナも特に異存はないようなので、緊張しながらも召喚を開始する。
カーっという高い効果音と共に、ダンジョンコアが光り出す。
振り向けば、地面から光が立ち上り、直径3メートル程の白い繭のようなものが現れる。
光が徐々に弱くなっていくと同時、繭が上から光になって消えていき、中から彼は現れた。
大きめの馬と同じぐらいの体躯。
鷲の部分の毛は黄色っぽく、それ以外は真っ白だ。
鷲の前足は思っていたよりも太く、馬の大きな身体と比べても違和感がない。
翼はたたまれているが、広げれば3、4メートルは余裕でありそうだ。
ヒポグリフはゆっくりと目を見開くと俺を見て、恭しく頭を垂れた。
「お初にお目にかかる、我が主よ。我に与えられし力、あなたに捧げる」
「確かに。俺の名前はシラキ。これからよろしく頼む」
「我が主、シラキ殿。召喚の際、明瞭にあなたの声を聞いた。よければあなたの口から、直接名前を戴きたい」
俺はボスに召喚するのはヒポグリフにしようと考えてから、すぐに名前を決めていた。
昔とあるゲームの中身を改造して追加していた魔物の一体。
ソリフィスという名の雷獣だ。
「ソリフィス。それが君の名だ」
「拝命した。我が名はソリフィス。以後、ダンジョンの指揮者にして、我が主シラキの騎馬となろう」
騎馬だった!?
召喚された魔物は召喚者の心に多大な影響を受ける。
ソリフィスが自らの名前を知っていて生まれてきたのにも驚いたが、名前だけでなくそこまで分かっているとは。
「いいのか?」
「ああ。我にとってあなたを背に乗せることは、すでに当然のことだと感じている」
あ、少し敬語成分が減ったか?良かった。
正直ここまで儀礼的というか、肩肘張った挨拶をした初めてだから、かなり緊張していた。
「それは重畳」
俺が一安心すると、ソリフィスが今度はルティナに頭を下げる。
「女神殿も、これからよろしくお願いする」
「そうですね。ルティナ、と呼んで下さい」
ルティナは今まで黙っていたが、さすがにあいさつされて口を開いた。
そういえば、ルティナは今までに魔物と一緒に行動することなどあったのだろうか。
無かったのなら、さすがに少々居心地が悪いかもしれない。
…と、思ったのだが、ソリフィスを見たルティナの期限がよさげで少し安心した。
とりあえず、あのフサフサしたのに触りたい。
「ソリフィス、触って良いか?」
「もちろんだ」
ソリフィスをなで回した。
毛も羽もフサフサして気持ちが良かった。
そうやってしばらくなで回した後、これからの話に移る。
場所をダイニングルームに写し、テーブルの上に地図を広げてソリフィスも含めた3人で囲む。
「とりあえず、ダンジョンを開放するに当たって、周辺状況を説明しますね」
実際として、俺は結構不安だったのだ。
マナを得る二つの手段のうち片方が侵入者の撃退であるため、いずれダンジョンを開放するのは必須。
とはいえ、あまり刺激して冒険者や騎士団が本腰入れて攻略に乗り出したら、かなりキツい。
この世界、戦えば人間はあまり弱くない。
ランクB冒険者パーティーでも来ようものなら、並の魔物じゃ刃が立たない。
今はまだ階層ごとに道がつながっておらず、階層を移動する方法がないから、下の階にいれば安全ではあるのだが。
そもそも終末自体は地上の全生物の問題だ。
できることなら人間勢力の弱体化は避けるべきなのだ。
とりあえず、周辺状況か。
ここは中央大陸の南部にある大国リーズエイジの端、1人の公爵と2人の伯爵の領土の境目だ。
リーズエイジ王国と言えば、この大陸でも二番目に大きい国だ。
人間の国という基準で見てもかなり大きな国であり、貴族達がそれぞれに領地と町を治めている。
この世界、基本的にどの国も町の外は街道以外魔物の世界だ。
北に行けばエルンガスト公爵領、東に行けばレクスタートル伯爵領、西に行けばフェデスト伯爵領となっている。
南と東は国境であり、その先には山や森、沼地といった魔物の出る危険地帯だが広がっている。
国の南部、つまりこの辺りはまだ魔物も弱いが、東の森は割合魔物も強く、人間は近づこうともしない。
そのため東のレクスタートル伯爵領では、魔物との戦闘は日常茶飯事だとか。
騎士団も強く、ここら一帯では最大の戦力を抱えている。
治める都市も城塞と化しており、リーズエイジ南東の防衛線だ。
ここは国境が近く、その先は人が住まない場所であり、さらに三人の領地からもある程度離れているため、人間はほとんど来ることがない。
ぶっちゃけ、価値もなければ問題もない、特別な者は何もない場所なのだ。
そのせいで逆に盗賊団などの日陰者達の根城になっていたりもするのだが。
秘密を隠すには都合が良い。
そもそも立地的に都合が良い場所にダンジョンを作ったんだろう。
「これなら、もう入り口を開けてしまっても良いかもな」
「そうですね。入ってきた魔物が住み着けば、それだけでもちょっとはマナを得られます」
「盗賊なんかが入って来ても、特に問題ないよな」
「ですね。まあ人間はそうそう来ないとは思いますけど」
ソリフィスがいれば、ダンジョン内の魔物の統制は問題ない。
外から魔物が来れば召喚コストが浮くし、収支も増える。
ダンジョンは魔物にとっては非常に住みやすい環境であるため、何もしなくても魔物は住み着くだろう。
もし盗賊が来たなら戦闘が発生し、その分マナが得られる。
その上盗賊ならいくら倒したところで人間の警戒度は上がりにくいし、そもそも盗賊だ。
倒した後に首を持っていけば賞金ももらえるかもしれない。
いずれ人間を手にかける日は来ると思われる訳だし、殺しても心の痛みにくい相手で経験を積んでおくこともできる。
俺という人間はかなり道徳心が強く、人を傷つけようなどとはまず考えない人間だ。
しかし、地球の日本という国を離れてこの世界に生きる以上、それと無縁でいられると思うほど甘い考えはしていない。
いざというときに、必要なときに成すべきことを成すためにも。
そのときになったらためらわない覚悟をしておく。
「この辺の魔物ってどれくらい強いんだ?」
「大体レベル1~4、強くても5くらいでしょうね」
「ふむ。その程度であれば、ダンジョン内は全て我が統制下におけるであろうな」
「……ほとんど開放1択だな。第1階層がすでに迷宮になっているおかげですぐにでも入り口を出せる」
「そうですね。とりあえず目立たない場所に穴を開けて、入り口にしてみましょうか」
「だな。場合によっては俺が出てって戦ってみるのもいいかもしれない」
「そうですね。どうせ戦うならダンジョン内が良いですし」
そういうわけで、ダンジョン一階、迷宮の端に外との入り口を開けた。
見た目完全にただの洞窟の入り口だが、少し入ると一気にダンジョンらしくなる。
一階の大部分は大小様々な広場と、それを蟻の巣のように結ぶ通路。
上下左右複雑に曲がりくねっているため、非常に道に迷いやすい。
西部のみは子供が白紙に落書きするような、かくかくした迷路で構成されている。
迂闊に進みすぎれば、迷って出られなくなることだろう。
中央にある一際大きい広場をボス部屋と言うことにして、ダンジョンの体裁は整った。
その後ソリフィスは1階層の大広間(ボス部屋)へ行き、俺たちは修行を再開する。
「ソリフィス、彼みたいな魔物は初めて見ました」
「ヒポグリフって珍しいのか?」
「それもあるけれど。彼ほど誠実な魔物は、って意味です」
「誠実?……まあ魔物には会わない言葉か?」
誠実な魔物。
なんだか優しい化け物みたいな響きだな。
「生み出された魔物は、召喚者の精神や願いを受け継ぎます。だから、どこか償還者と似たような性格の魔物が生まれるんです」
「へえ」
「魔族は多くが利己的ですから。生まれてくる魔物も利己的で、狡猾で、隙あらば主人を裏切るような者ばかりです。…まあ人間がそうでないとも言えませんけど」
なるほど、魔物は利己的か。それはそうなんだろう。
そもそも弱肉強食を地で行く魔物が他人の下に付く理由って相手が自分より強いから以外ないそうよな。
そんなんだからあまり安心できないのだろう。
人間は魔族とは別の意味で安心できなさそうだが。
「善人で誠実で裏切らないなんて、本当に心が綺麗な人なんですね。ちょっと驚きです。」
何かすごく褒められてる。いや、褒められてるのかこれ?
というか驚いてたから黙ってたの?
「まあ、何かソリフィスはイメージ固まってたシナ!」
そういうことにしておこう。
もともと俺はそういう性格なのだ、仕方あるまい。
「私はあなたのこと好きですよ」
「……それはどうも」
突然そんなこといわれても恥ずかしくてまともに受け答えできないぞ。
しかし、何か類友の気があるよな、俺たち。
15日目終了
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
総合C-攻撃D 防御E 魔力量C 魔法攻撃C 魔法防御C- すばやさC- スタミナE スキルD
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
ユニークスキル「 」
ダンジョン
保有マナ
64,987
ダンジョンの全魔物
ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)
ヒカリゴケ4000、ヒカリダケ500、魔草400
一階層
洞窟、迷宮
二階層
更地
三階層
更地
四階層
更地
五階層
コア、個室2、ダイニングキッチン、大浴場、保存庫