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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
ダンジョンと人魔竜 ~渡る世間は強者ばかり~
39/96

真面目に楽しむ者達



シラキ、勝利。

その事実に、ルティナは安堵の息をついた。

対ディレットメタとでも言うべき知識はいくつか話したが、逆に言えばそれ以上の手助けはできなかった。

つまり、シラキ本人とそのダンジョン、眷属達の潜在能力が、エルダードラゴンであるディレットその人に届きうるほどであったのだ。

ルティナとしては、十分すぎるほどの結果であった。


シラキが炎帝鳳凰を切り裂いた時、音を立てて"黄玉の乱れ紅葉"は砕け散った。

最上級魔法の威力に対し、"黄玉の乱れ紅葉"に溜めていた魔力を爆発させたのだ。

ため込んでいた魔力の爆発は炎帝鳳凰を吹き飛ばすが、切れ味を優先して作った"黄玉の乱れ紅葉"もその爆発には耐えられなかった。

それを見たシラキは、ディレットが投げ捨てていた"水宝剣・志石"を念力の様に引き寄せ、それを用いたガチの殴り合いを始めた。

ディレットが魔力をほぼ使い切ったため、それしかできなかったとも言える。

どちらも相当消耗していたが、空の戦いがギリギリのところで勝利し、それがトドメとなった。


空の決着が付いた時点で、ディレットは降参した。

満足して構えを解いたディレットに、シラキが本気ガチで殺す気で斬りかかったという事態も起こったが、その後ルティナに声を掛けられ、正気を取り戻した。

ちなみにそのことに関してシラキは、「こんなにも何かに対して本気になったことなんて、初めてかもしれない」などと言って、喜びを噛みしめていた。

一般人から見たら狂人である。

しかしディレットを含め、その場にいた者は全員何とも思っていなかったのだから、大した問題ではないのであった。

その後なくなったシラキの腕を含め、眷属全員が復活し、シラキは二度驚いていた。


ちなみに全員が復活したのを見た後、シラキはどっと疲れがでてそのまま就寝。

結局次の日になってからディレットを正式に眷属にした。

主要メンバーがそろって、「エルダードラゴンが眷属とかありえん」と信じられないというような顔をしていた。




ディレット戦において、枷を解かれたシラキの力は、消耗したディレットに迫るほどのものであった。

枷から解き放ったのは、ディレットの力だ。

ディレットの種族スキル「一つの勇者の形」は、他者に勇気を与えるスキル。


どれだけ凡才であろうと、積み上げた努力はそこにある。

シラキの場合、その枷によって隠れていただけで、その潜在能力は十分にあるのだ。

あるいはその枷によって、更に潜在能力を成長させていたのかも知れない。

そして、その枷とはシラキの恐怖であり、故にディレットがいればシラキはその能力を十全に生かすことができる。


シラキとは、勇敢な人間であるとルティナは思う。

なぜなら、恐怖におののきながら、なお戦うことのできる人間だからだ。

恐怖を感じない人間を、ルティナは勇敢であるとは思わない。

無謀ともとれる行いを、平気で実行できる人間に、勇気があるとも思っていない。

ルティナにとって勇気とは、恐怖と戦う意志のことなのだ。

だからこそ、シラキは本当に勇敢であるとルティナは思っている。

シラキは、戦いとなれば様々なものを恐れる人間だ。

死ぬこと、痛いこと、傷つくこと、傷つけること、負けること、負けた後に起こること。

そうやって恐怖に自らの能力を縛られながら、それでも戦う。

才能もなければ、使命があるわけでもないのに。

自分が嫌なこと、おそろしいことを実行するというのは、難しことなのだ。

自分にそれができるだけの実力と才能がなければ、なおさら。


そんなシラキに対し、関係者は誰もが、残念とも悪いとも思っていなかった。

特にルティナは、シラキと一緒にいる時間が、今までの人生で一番楽しいものであると感じている。


実はルティナもミテュルシオンも他の神々も、シラキに終末に抗することを強要する気は全くなかった。

亜人と魔族が協力して邪神と戦うために、魔王軍と戦うという条件はある。

だがこれは、不満を抱く一部の魔族を納得させるためのイベントにすぎない。

もし終末で地上の生物が全滅するなら、それはそれでアリだという神もいる。

ルティナとしても楽しむことや幸福が一番で、地上を救うのはできればやる、程度にすぎない。

だからシラキには真面目に終末を抗することよりも、楽しいことを優先させる。

ミテュルシオンや他の主神達も、似たようなものである。


シラキが割とエンジョイ重視なのも、ある意味当然だった。


一方のシラキはと言えば、こちらも正確に神々の意に沿った行動をしていた。

終末には真面目に取り組んでいるが、無茶してまでやることではないと考えている。

似たもの同士、相性が良いのであった。








第二階層

入り口



「すごいわシラキ!」


ディレットは目を輝かせ、俺が今し方作った水晶の剣を眺めている。

興味があるらしく結晶支配の能力を見せたところ、予想以上に喜ばれた。

というか、全体的にディレットが妙に好意的な気がする。


「でも、どうして戦ったとき使わなかったの?」

「ああ、ドレッドノート中だと使うの難しいんだよね。付け焼き刃で両方使うくらいなら一本に絞った方が良いかと」

「なるほどね。確かに、近接戦闘中は別のことするのって難しいわ。シラキみたいに怖がってると特に」


刺さる。

主に俺の豆腐メンタルに。


「アレって近接メインの人ははたしてどうやってるのか…普通に剣で打ち合うだけでいっぱいいっぱいになんだけど」

「そもそも斬り合いながら別なことやる人なんてほとんどいないんじゃないの?」

「そうなの?」


そもそもやらないってことなのかね。


「まあ、腕が四本ある魔物は初めから四本使えるから、そういうことかもしれないわね」

「それって人間は二本しか使えないって意味?」


ディレットは肩をすくめる。


「どのみちシラキは近接適正低いんだし、無理にスキルを使う必要はないと思うわ」

「かねー。まあ今んとこ近接用って感じじゃないしな」


体の一部からトゲを生やして奇襲、とかは練習すればできそうだけど。

あまり威力を乗せられないのが問題かな。

防御力が低い相手なら効果はあるか。


「どんな形でも作れるんでしょ?なら、魔法のアクセサリーにしちゃえばいいんじゃない」

「ああー。確か物に魔法式を埋め込むんだっけ?俺やったことないんだよな」


魔法アイテム作成か…胸が熱くなるな。


「私も詳しくはないけど。多分ルティナや命尾に聞けば分かるんじゃないかしら」


ドラゴンという奴は、人間形態になっても防具など着けない。

武器防具が必要ないくらい強力だからだ。

それにドラゴンが人間形態になるとき、服も一緒に生成するらしい。

先日の戦いでも、斬撃が服によって防がれているのは感じていた。

服がすでに防具の役割を担っており、わざわざ自分で防具を作る機会も無い訳だ。


「じゃ、聞いてみるか」

「お任せ下さい、マスター!」

「わっ!?」


いつの間にか命尾が近くにいた。


「作ったことならあるので、お教えしますね!」


その後教わっている途中でリースやフェデラ、その他主要メンバーが集まっていつもの状況になった。









滅亡の大地の指定した日までまだ時間がある。

俺は各地のダンジョンを巡っていた。

他のダンジョンを見てみると言うのが一つ、コアアタックの登録が一つ、修行が一つ。

それぞれのダンジョンはそれなりに離れているが、俺は今回飛行可能な魔物のみを連れて行くことで対処した。

すなわち俺、ソリフィス、サンダーバード、ハースティ、そしてディレットとルティナだ。

食料的な不安があるので、少数精鋭を目指したのだが、その話をしたらディレットが行きたがった。

ソリフィスにはルティナと相乗りしているためどうしようかと思ったが、そんな心配もなかった。

どうやら彼女は人間形態でも羽を生やして飛べる様で、ドラゴンのすごさを再確認した。


持ち込む食料は最低限で、後は現地調達で何とかする。

このメンバーで魔物の肉を食うことに抵抗のある奴などいるはずもない。

行った先で適当に魔物を襲って肉を喰らう。

どこの蛮族だ、いや狩猟民族かな?


空を飛んで移動しているため、地上を移動するのとは比べものにならない速度で移動でき、いろいろなダンジョンを回れた。

洞窟型、大樹型、城や砦に神殿、空中庭園。

ジャングルや崖など、地上部分がそのままダンジョンになっている場所もあった。

オーソドックスな洞窟型ダンジョンにも、いくつも種類があったものだ。

人工物めいた直線を描く迷宮や、蟻の巣の様な迷宮。

秘境の様な幻想的な洞窟や、天上まで百メートルもありそうな広大な鍾乳洞、バカでかい地底湖。

控えめに言って、すごく楽しかった。

群がる有象無象の魔物どもを蹴散らし、適当にダンジョンを探索して宝箱をあらし、次のダンジョンへ。

ディレットには戦闘には参加しないでもらい、できるだけ自分が戦う様に心がけた。

ディレット戦以降マシになったとは言え、未だに接近戦になるとビクビクして剣が鈍る。

どうにかしたいのだが、これだけ時間が経って克服できていないため、もうこのハンディを背負うのも仕方ないかな、なんて思い始めている。


ダンジョンでは色々とアイテムや装備が手に入り、それなりに強化された。

そこらのRPGと違って装備は沢山装備できるからな。

指輪とかやろうと思えば10個以上付けられる。

とはいえダンジョンの奥まで潜ったわけではないので、出てきた装備もそれなりだ。

Bランクの防具が一つ手に入ったが、それ以外は全てCランク以下。

そうポンポン世界でも有数の武器が出てくる程運命に愛されていない。

いや、異世界に来ている時点でもう十分奇運だが。


一番の成果は、唯一のBランク防具、手袋だ。

黒く薄い指無し手袋で、ぴったりしていて全く邪魔にならない。

魔法的な防御力はないが、物理的には結構優秀。

これなら日常的に付けていても良いかもしれない。

他にはCランクの籠手やマント、Dランクの首飾りやリストバンドを装備。

C、Dランク指輪を複数装備し、ずいぶんファンタジーにふさわしい格好に変わった。

武器類は自作の武器があるから良いかと思っていたが、Cランクの長さ身の丈未満の杖が手に入り、持っておくことに。


「考えてみれば、今まで装備なんて全く考えてなかったな」


と、聞いてみたら。


「とにかく素の能力を育てたかったですしね」


とルティナは言っていた。

俺としても同感で、良い装備も使い手がしょぼかったら持ち腐れだ。

自身の研鑽を考えるなら、自分よりワンランク下の装備を使うくらいでちょうどいいのかもしれない。

そして、ランク的には大したことなくても、いくつも装備を増やしたためそれなりに能力が向上した。

首飾りや指輪など、ファンタジックで不思議な装備をみて、自分で作ってみても良いかもな、と思った。









真っ白な空間に置かれたテーブルと椅子。

そこには二人の神が腰掛けていた。


「あなたが来たと言うことは、"欠片"が集まりそうなのですか?」


一人は背筋をまっすぐ伸ばし、綺麗な姿勢で座っている老婆、ミテュルシオン。


「いやなに。そろそろ集まり始めてもいい頃だと思ってね」


もう一人は、顎に髭を生やし、頭の後ろで侍のように髪を結んだ壮年の男。

ミテュルシオンと同じく主神の一人、ファールデウスである。


「わざわざ別世界の人間まで招いて。イベントを起こすには良い機会だろう?」


ファールデウスはニヤニヤとした笑いを顔に貼り付けて話す。

一方のミテュルシオンは、優しげな笑みを浮かべたままだ。


「シラキさんは"欠片"を持っていませんよ?」

「確かに、"運命の欠片"はそれを持つものに移される。だが、譲渡の方法はそれだけではないだろう」


直角な位置に座った二人は、お互いを見ずに会話を続ける。


「欠片の有無にかかわらず、とどめを刺した者には強制的に継承権が与えられるからね」

「前回の終末で芽吹かなかったあなたの計画。今回で、引き起こすと?」

「いやいや、私がするのはあくまで後押しだけだよ。ただ、私が手を出さなくても結果は出そうだ」


ファールデウスは両手を上げ、やれやれと言ったジェスチャーを取る。

ミテュルシオンは口元に浮かべた笑みを消し、無表情でファールデウスを見た。


「シラキさんには、終末と運命の欠片の二つを同時に解決できるほど才はありません」

「それはこの世界に来る前の青年だろう。神の子三人を含め、七人の欠片持ちに認められた青年には、ちょうど良い試練ではないかね?」

「…それが善良なる凡夫に課す試練ですか」


攻めるようなミテュルシオンの口調に、ファールデウスは邪悪な笑みを浮かべて答える。


「愚かな天才には飽きていた所だ。あの青年はそうやって選んだのだろう、姉上?」


ミテュルシオンは沈黙する。

ファールデウスの言った言葉は、決して間違っているわけではなかった。


「コアをアップデートします」


目を瞑って言うミテュルシオンをみて、ファールデウスは少しの間、声を上げて笑った。


「ところで姉上。いくらシラキが凡愚であるとはいえ、ルテイエンクゥルヌを付きっきりにするとは、少々やり過ぎではないかね?」


ファールデウスはここに来て始めて笑みを引っ込め、値踏みするような視線をミテュルシオンに向ける。

しかしミテュルシオンは目を瞑ったまま答えようとしない。

しばらくそれをみていたファールデウスは肩をすくめ、どこかへと去って行った。


「ルティナを見ていないから、そう思うのですよ」


誰もいなくなった白い空間で、ミテュルシオンはつぶやいた。


しばらくはフラグばらまき回、もとい間話です。

次回「走り始める世界」

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