大樹のダンジョンコアアタック3
大樹のダンジョン
コアアタックモード・第四階層
第四階層はボス部屋だった。
今までより狭い三百平方メートル程の部屋に、柱が数本。
その部屋の中央には柱がなく、ボスと思われる恐竜がこちらを見つめていた。
身長はミノタウロスと同じく五メートル近くあり、頭から尻尾まで八メートルほど。
足よりも胴体の大きな四本足の恐竜だ。
首の辺りから尻尾の先まで、背中から対になるように二本ずつ、長いもので二メートルある鋭いトゲが生えている。
強そう(小並感)。
それにボス部屋なのはいいが、敵はボス以外にもニードルビーが数百と、ノームが百ほどいる。
ノームは土の精霊で、身長三十センチほどの小人だ。
個体差が大きく、一概に何レベルとは言いがたいが、大抵は3~7程らしい。
ただ上まで行くとレベル10超えるらしい、これは大精霊ですわ。
何にせよ土属性魔法を使うため、ボスと戦う時障害になりそうだ。
俺がとるべき選択肢としては、二つ。
一つは、敵のボスをこちらの主力で相手し、ニードルビーとノームの相手をそれ以外で任せると言う方法。
もう一つは、全員で全員の相手。
どうするべきかとみんなに聞いてみるが、結果はどちらでもいいという答え。
結局主力を敵ボスに差し向け、その他で周りを抑えてもらうことにした。
命尾のみ、全体指揮のため戦闘からは外れることになるが。
要するに俺、ソリフィス、レフィル、リース、フェデラ、サンダーバードがボスだ。
バランス的に考えてボス側の戦力を増やしても良いが、修行の意味を考えても、出来ればこのメンバーで行ってみたい。
あちらが早めに終わればそれで済む話でもある。
こちらが分かれると、相手もこちらの意図を読んだかのようにボスと取り巻きが別れる。
何となく楽しくなりながらも、全員の顔を見渡す。
こちらはすでに大分リソースを削られているし、全部使いきる気持ちで行こう。
開戦の狼煙は、俺の魔法弾から。
相手がどう動くか目を見開いて凝視していると、恐竜は大きく口を開けて、叫び声を上げた。
部屋に響き渡る音と共に、衝撃波が波や歪みのように目に見えて押し寄せる。
魔法弾が弾け飛び、俺はソリフィスの首にしがみついて衝撃波を耐える。
今の咆哮がどういう効果を持っているのか分からないが、俺に直接ダメージはない。
衝撃波が過ぎ去ると同時に駆けだしたらしいレフィルを横目に見ながら、俺は逆の右側に飛び出す。
こう言っては何だが、最初の内はひたすらガン見である。
相手の体格を見るに、鈍足高耐久であると予想。
ある程度回避を重視し、相手の動きを見る。
どっしりと構えている恐竜の背に生えるトゲが光りだし、取り巻く強大な魔力が動き出す。
土!
そう感じると同時、恐竜の周囲に複数の石が浮き上がる。
ストーンスローとも似ているが、その威容は明らかにより強力な魔法だ。
十数から数十浮かび上がった石の大きさは、三メートル×五十センチほど。
形はまんま円錐形のランスで、あれを矢のように飛ばして攻撃するであろうことが分かる。
さしずめストーンジャベリンと言った所か。
そう思っていると浮き上がっていた岩の槍が一人当たり四、五本の配分で放たれる。
大砲で撃ち出されたかのような加速だ。
俺は全力で回避する。
空を裂きながら真横を通り過ぎていく岩の槍は、間違いなく脅威だ。
ソリフィスの機動力があったから良かったが、俺単体だったら果たして避けられたかどうか。
見ればレフィルとサンダーバードは回避し、リースとフェデラは魔法の盾を二つ重ねて防いでいる。
あの攻撃能力で、好きに攻められたら困る。
俺は雷属性中級魔法"サンダーバレット"を放つ。
これは自分の周囲で生成した雷の弾丸を撃ちまくる魔法だ。
一発一発は威力の低い弾丸だが、これを毎秒約十発のペースで連射する。
しかし、恐竜はこちらを一瞥した程度で避ける気配も無い。
俺は止まることなく空を駆けながら、恐竜の脇腹辺りに弾丸をたたき込み続ける。
そうしつつも、相手を観察することは止めない。
反対側からレフィルが急接近し、恐竜は一回転しながら尻尾でなぎ払いこれを迎撃。
おそろしい攻撃で、当たれば一撃で戦闘不能もあり得る。
入れ替わるようにサンダーバードがサンダーボルトを浴びせるが、恐竜はこれを無視。
低い唸り声と共に前足を宙に上げ、地面に向かって叩きつける。
すると蹴られた場所から光る輪が拡がり、全員を強襲した。
初速が遅く、後は加速度的に速くなるが、ストーンジャベリンと比べれば避けやすい。
空を飛んでいる俺とサンダーバードは言うに及ばず、他も全員がしゃがむなりジャンプするなりでこれを避けている。
攻撃の後は隙があるはず。
俺は炎属性中級応用魔法"バーニングボム"を発動。
今度はちゃんと射撃で使う、と言うか自爆もどきの使い方はもうやらん。
右手の上に直径六十センチほどの火球を生み出し、撃ち放つ。
爆発。
相変わらず避ける気配のない恐竜に直撃した。
バーニングボムは生成も速度も大分遅いが、威力は広域状態の裁きの鉄槌を超える。
俺は打ち続けていたサンダーバレットを停止し、爆心地を見つめる。
恐竜の様子こそ見えないが、当然無事らしく石が宙を浮き出す。
身構えるも、それらが撃たれる前に、氷の軌跡が飛び込んだ。
リースの氷蓮華だ。
咲き誇る氷の結晶に押され、バーニングボムの煙も晴れる。
宙に浮いた石の槍ごと、恐竜が中に閉じ込められていた。
とはいえ、止まっていてくれたのも数秒。
みるみるうちに氷にヒビが入っていき、高らかに叫ぶ咆哮と共に、氷蓮華の氷は砕け散った。
この隙に攻撃しようかとも思ったが、レフィルが恐竜に向かって駆けだしたので観察に徹する。
すれ違いざまに強烈な一撃。
一瞬の出来事だったが、爪自体は恐竜に当たっておらず、斬撃が切り裂いたように見えた。
その直後、フェデラのウインドカッターとサンダーバードのサンダーボルトが来襲。
……こいつ、戦いが始まってから一度も攻撃を回避していないな。
そして例によってあまり効いた様子がない。
だが、ここまで見ていて何となく分かったことがある。
こいつはダメージが無いわけではなく、ダメージをくらっても平気なのだ。
レフィルの攻撃でかなり大きく体が切れていたし、ウインドカッターでも出血はしている。
では何故平気かと言えば、それらの傷がすぐに治ってしまっているからだ。
確証はないが、魔力とスタミナを使って、ダメージの軽減と回復を同時に行っている。
おそらく、魔力とスタミナが切れるまでは常に全快状態で戦うことが出来る。
そういう魔物なんだと思う。
俺は後ろから迫ってきていた光りの輪を回避する。
見ていなかったが、拡がりきってからもう一度縮んだんだろう。
再度放たれたストーンジャベリンを大分紙一重のところで回避し、俺は腰の刀を抜き放つ。
(行く)
念話で眷属達に短くそう伝え、発動するのは"ウエポンズビースト"。
ソリフィスが使っていた、頭に電撃の角を生やすやつだ。
様々な魔物が使うことが出来、その魔物に会った武器を作る、もしくは使う技だ。
そのため形態が多種多様で、レフィルが使う爪も多分これだ。
消費するのも魔力ではなく、スタミナを使っているのだと思われるが、確信はない。
目に見えて、感じることができる魔力と違って、スタミナなんてものはどうなっているのか分からないからだ。
人間が使える技ではないが、ソリフィスに乗っている時は使えると言うことに最近気がついた。
この場合のウエポンズビーストは、言うなれば武装の強化や作成といった効果を発揮する。
トパーズ製の刀を纏うように電撃走り、元となった刀の面影も無い様な刀身を作り出す。
それは幅四十センチ、刃渡り三メートル越えの巨大な雷の大剣だ。
大地を踏みしめ、突撃する。
息を止め、強烈な加速によって押し寄せるGと風圧に耐え、正面の恐竜を見据える。
恐竜が初めてこちらを意識したように思えたが、直後に地面を冷気が走った。
恐竜の両足と尻尾が、地面と共に氷り漬けにされている。
両者の間にあった二十五メートルほどの距離を一瞬で駆け抜け、雷の大剣を突き刺す。
ぶつかった。
ソリフィスの疾駆に押され、風が駆け抜けた。
突きだした剣は恐竜の肉体を貫き、押し出す。
恐竜の足を縛っていた地面の氷は耐えきれず弾け、恐竜を十数メートルも押し飛ばした。
電気でできていた刀身の根元を裂き、俺は止まらないように恐竜から退避する。
突き刺した大剣は恐竜の巨体を貫通こそしていないものの、かなり深い。
それでも俺は、出来るだけこの恐竜の近くにはいたくなかった。
そしてその予想は的中する。
俺が離脱しようとするのと、恐竜がストーンジャベリンを発動させたのが同時だった。
それも、今まで発動させてきたものよりもずっと強力だ。
中空に作られていく石の槍、その数五十以上。
その半分が俺の方を向いている。
背筋に怖気が走り、全力で離れる。
後方ではストーンジャベリンを生成中の恐竜に、フェデラが放ったであろう、風属性中級応用魔法"ウイングボム"が炸裂。
恐竜を中心に半径三メートルほどの球の中で暴風が唸り、生成中のストーンジャベリンの一部を巻き込んで切り刻む。
まるで重圧が押しかかるようなその魔法の上から、裁きの鉄槌が下される。
サンダーバードだ。
二重の攻撃が恐竜を抑えている間に、俺は十分距離をとる。
二つの魔法が直撃しても恐竜は大してひるんでおらず、ストーンジャベリンは放たれる。
放たれる二十本以上のストーンジャベリンに、俺は四重の魔法の盾を発動する。
数本ですら大分ギリギリなのに、二十本とか避けられる気がしない。
俺とソリフィスの全力防御は多少過剰だったが、安全には換えられない。
かなりの速度を持った質量攻撃が横を通り抜けていき、衝突したのは八本ほど。
四つの内二つの盾は無残にも突き破られており、岩の槍がどれほどの攻撃力を持っていたかを物語っている。
ただ抜かれた盾は二つであり、四つ目の盾は必要なかったようだ。
ソリフィスのおかげか、飛んでくる槍が何本当たるかはある程度予想できる。
ならば、防御にどれくらいのリソースを割けば良いかもある程度は分かってくる。
自慢じゃないが、俺は高速で飛来する数十本の物体が、いくつ自分に当たるかなんて大して分からない。
おそらく動体視力と判断力なのだろうが、貧弱一般ピープルの俺がそんな良いものを持っているはずもない。
まあ、だから普段は魔力を強化に回しているわけだが。
今はソリフィスの目で見たものをソリフィスが判断して、その結果を元に俺が魔法を使っている。
キャー、ソリフィスさーん!
体が軽い、ソリフィスに乗っている限り、もう何も怖くない……!
…いや、やっぱ怖いわ。
戦いは長引いた。
決して余裕の状況ではなかったが、お互いがお互いを常に援護出来るように動いていたため、ギリギリだが何とかなっていた。
こう言っては何だが、もしも一対一だった場合、ストーンジャベリン一発で終わってしまう。
五十本の槍の斉射はとてもじゃないが回避できず、一人分の防御魔法など簡単に抜かれる。
こちらの肉体的、魔力的防御力も上回り、一発当たれば弾けるかえぐれるか穴があく。
人数の差、というかチームワークの力だろう。
一人を集中してねらわれたりもしたが、全員で援護に回って何とか凌いだ。
他にも下手な攻撃は咆哮でかき消されたり、拡がる輪が当たり前のように魔法の盾を砕いてきたりした。
とはいえ、もっと驚いたことがあった。
恐竜が茶色い球、エネルギーの塊を口の先に貯めだしたのだ。
明らかなヤバさにレフィルが球を攻撃するも、ウエポンズビーストで作ったであろう爪の、球に触れた部分が消滅。
仕方ないのでフェデラを先頭に、俺、リースと並んだ。
本当は俺が先頭に立とうとしたのだが、防具があるからとフェデラが前に出た。
俺もどうしようかとは思ったが思い切ってフェデラを前に出すことを容認する。
全員で全力魔法の盾。
ソリフィスを入れて四人いるので、先頭の盾が割れたところで最後尾に盾を追加する。
そういう方法で何とか防ぎきった。
ちなみに割られた盾の数は六枚。
超怖いです。
まあそんなこんなでしばらく危ない戦いを続けた後。
(降参する)
という恐竜の念話で戦いが終わった。
お前念話しゃべれたのかよ!
という事態があった。
そして今まで恐竜に集中していて気付いていなかったが、命尾達の方は敵味方全員でこちらの観戦をしていた。
というか戦ってすらいなかった。
(交渉で済ませました!)
元気な声でそういう命尾。
どうもこちらが戦い始めた辺りでノームの代表と話し合いを始めたらしく、こちらが勝ったら投降するという話になったらしい。
しかもこちらが負けた場合のデメリット無し。
まあ多分全力でぶつかればこちらが勝っていただろうからそれほど一方的な取引でもなかったか。
大分頭のネジが吹っ飛んでいるらしいノームの代表と二言三言話し、大樹のダンジョンコアアタックは終了した。
111日目終了
大樹のダンジョン
コアアタックモード完了
戦闘による死亡
・眷属
lv1 ハウンドウルフ12
lv4 リザードマン1
lv3 ホブゴブリン3
lv2 ゴブリン21
lv2 ニードルビー36
lv1 イートアント99
lv2 食人花2
lv1 コボルト18
コアアタックモードクリアによる獲得
マナ 517000
大樹のダンジョン一階層分
新たな眷属:
lv2 ニードルビー100
lv? ノーム100
lv10 大樹のケントロ
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
20歳 身長170cm 体重62kg
総合B+攻撃C 防御C+ 魔力量B+ 魔法攻撃B+ 魔法防御B すばやさB スタミナB- スキルB
(総合B → B+ 防御C → C+ すばやさB- → B)
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
シラキ本人が結晶と認識している物を創造・変形・支配する能力。
その支配力は神が世界に対して行うソレに似ている。
ユニークスキル「共鳴」
シラキ・ソリフィス
魔物レベル9
総合A-攻撃A 防御C+ 魔力量A- 魔法攻撃A- 魔法防御B+ すばやさA- スタミナA- スキルB
ソリフィスに騎乗し、全力戦闘状態のシラキとソリフィス。
ソリフィスの特殊能力により様々な要素を共有しており、一人の生物と言っても良いほどの状態。
保有マナ
546,089 (+654/日)
ダンジョンの全魔物
ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)
迷宮植物:
ヒカリゴケ5300、ヒカリダケ660、魔草530、幻樹5000、魔物の木1、願望桜4
グループ:
大樹のケントロ(lv10)、グノーシャ(lv8)、ノーム99
レフィル(lv6)、アッシュウルフ12(lv5)、シルバーウルフ4(lv5)、グレーウルフ34(lv3)、ハウンドウルフ13(lv1)
命尾(lv6)、フォックスシャーマン(二尾)12(lv5)、ハウンドフォックス(二尾)10(lv4)
リース(lv6)、見習い魔術師15(lv3)
ヒポグリフ1(lv7)、グリフォン4(lv6)、グリフォン3(lv5)
ゴブリンヒーロー1(lv6)、ホブゴブリン3(lv3)、ゴブリンシャーマン17(lv3)、ゴブリン59(lv2)
クイーンアント1(lv5)、イートアント117(lv1)
メガバウム8(lv5)
キマイラ4(lv6)
オーガ4(lv6)
マッシュ377(lv2)
バウム40(lv3)
ドリアード5(lv5)
クイーンビー1(lv5)、ニードルビー78(lv2)
クイーンビー1(lv5)、ニードルビー80(lv2)
クイーンビー1(lv5)、ニードルビー80(lv2)
リザードマン8(lv4)
トロル2(lv5)
コボルト14(lv1)
食人蔦3(lv4)
食人花10(lv2)
インプ6(lv1)
単体・その他(能力順);
サンダーバード1(lv6)
コボルトヒーロー1(lv5)
グリズリー4(lv3)
人:
ルテイエンクゥルヌ
フェデラフロウ=ブロシア=フォルクロア
一階層
洞窟 「ビーの巣」
迷宮 「ビーの巣」
二階層
幻樹の森
三階層
更地
四階層
更地
五階層
中枢部 「コア」
個室 「シラキの部屋」「ルティナの部屋」「リースの部屋」「フェデラの部屋」
ダイニングキッチン
大浴場
保存庫
畑 「ドリアード本体」*5
どうも終末が始まるのは40話か41話くらいになりそうです。
次回、「第二階層、それは集会場であり主戦場」