大樹のダンジョンコアアタック2
111日目
大樹のダンジョン
コアアタックモード・第一階層
大体の敵の数は前回の偵察で分かっている。
前回倒した敵は全て復活している様で相手はやる気満々だ。
左翼に展開しているのはコボルト種、五百。
中央にコボルトとゴブリンの魔術師二百。
右翼にゴブリン種三百五十。
そしてニードルビーが三百。
合計千三百の軍だ。
一方こちらはほとんど全戦力を投入した。
ソリフィスとヒポグリフ、グリフォン。
レフィル率いるウルフ隊、命尾率いるフォックス隊、リース率いる魔術師隊。
ゴブリン隊にサンダーバード、ニードルビーにイートアント。
キマイラ、オーガ、トロル、メガバウム。
食人花、食人蔓、コボルト、コボルトヒーロー、グリズリー、リザードマン、インプ。
ルティナは後ろから黙って観戦、まあ空気のようなものだ。
今回は最初からソリフィスに騎乗し、フェデラはリース隊に突っ込んでいる。
本当は後ろに乗っけても良かったのだが、フェデラが青い顔をしていたので止めた。
まあ普通に考えて、車以上に速い馬になど乗った日には寿命が縮むだろう。
…リースは何故か楽しそうだったが。
戦闘自体は単純だ。
まず前回と同じようにソリフィスに乗って近づき、上級魔法を浴びせる。
裁きの鉄槌は電撃の球を大きくすれば薄く、小さくすれば密になる魔法だ。
今回は薄く大きくすることによって効果範囲を上げ、左端から右端まで投げ切りにした。
そうして追ってきたら逃げる。
ソリフィスに乗っている限り追いつかれることはないし、魔力とスタミナが続く限り引き撃ちが出来る。
多分俺とソリフィスだけでも敵を全滅できるだろうが、今回は魔力を温存するためやらない。
こちらが展開している場所に後退するまでに、二回上級魔法を浴びせた。
計四発の"裁きの鉄槌"で、後ろにいた魔術師組以外の八割以上が吹き飛んだ。
遠距離の攻撃方法を持たない低レベル魔物が多数集まっても、上級以上の魔法でなぎ払われるんやなって。
そう思った。
特にコボルトは薄くなった裁きの鉄槌でも大ダメージを受けるらしく、酷く脆かった。
残った負傷しながらも戦闘可能なゴブリンやコボルト達を、こちらの中レベル近接魔物達(キマイラ、オーガ、トロル、メガバウム)、ゴブリン部隊が蹂躙した。
後方にいた魔術師組も、ゴブリン隊の一部とウルフ隊が突撃を敢行。
飛来する二百本の魔法の矢を物ともせず、そのまま撃滅した。
とはいえ、いくら補助魔法で耐性と速度を上げても、二百からなる魔術師に一斉に魔法を撃たれればタダでは済まない。
囮になるように動いていたゴブリン隊にそれなりの損害が出た。
最終的な死亡はゴブリン9、ホブゴブリン1、ハウンドウルフ3、ニードルビー2。
この9割が魔法使い勢への突撃で出た損害だ。
やはり魔術師系はなかなかの脅威だな。
魔力的には俺とソリフィスが上級魔法を二発ずつ使っただけなので、戦果としては上々か?
何とも言えないが、とにかく被害は少ないので先に進もう。
大樹のダンジョン
コアアタックモード・第二階層
奥にあるバカでかい階段を使って上に上がった。
五十人くらい横に並んで上れそうな階段だ。
これなら逃げるときに引っかかる心配はしなくてもいいかもしれない。
上にたどり着くと相変わらずだだっ広い空間で、別の敵が待ち構えている。
一階とは違い、敵がいるのは部屋の中央だ。
目の前に拡がるのは、すさまじい数のイートアント。
それがひしめき合い、部屋の中央には黒い池でも出来ているのかと思うほどだ。
一階層の敵の数が千強だったのと比べると、イートアントの数が千以上なのは確定だ。
下手すりゃ二千ぐらいいるんじゃないか?
こっちが連れてきたイートアント二百匹が少なく見える。
そしてイートアントの集団の後ろには、グリフォンが十数匹と、フォックスシャーマンが大量。
で、俺達が全員上がってくると、今度の敵はこちらの動きを待つまでもなく進軍を始めた。
あの犬並みに大きい蟻の群れが一斉に迫ってくる様はなかなかの迫力だ。
(げ。命尾、どうしよう)
(マスター、落ち着いて…ますね、さすがです!ウルフは遊撃に回し、魔法系を下げましょう。残りは全て全面に!)
(オッケー、それで!)
俺も確かに興奮しているが、一応それなりに冷静さは維持しているつもりだ。
ウルフを横に駆けさせ、フォックスシャーマンと魔術師勢を後ろに下げる。
残りの全てで真っ正面からぶつかるのだ。
「よし、俺らはさっきと一緒で!」
と声を掛けるまでもなく、ソリフィスはいつでも準備が出来ている。
さすがだ。
というか、一心同体や以心伝心が似合うような一体感がある。
そんなわけで、またも俺達は開戦の槌を振るう。
「「裁きの鉄槌!!」」
例によって薄く大きくした電撃の球が走る。
動きを操作して、並み居るイートアントの中を突き進む。
数が多すぎてどう動かしても敵に当たるという有様だ。
今の一発だけでも一人二、三百は倒したと思うがやっぱりすごい数だ。
彼我の距離は三百メートルほど。
ぶつかるまでにもう一回上級魔法が撃てそうだ。
(シラキ君、私も撃ちます!)
リースの声、と言うか念話が飛んでくる。
(了解!俺も後一回は撃つ)
こちらが返答すると、すぐにリースが魔法を撃つ。
「氷蓮華!」
ペイントツールでスプレーを使うときのように、氷が線を作りながら頭上を超えていく。
炸裂して咲いた氷の結晶に、相当な数のイートアントが飲み込まれた。
(おお、四百ぐらいいったんじゃね!?)
氷蓮華は炸裂した場所を中心に、無数の氷のトゲを周りに伸ばす。
何十メートルもある巨大な雪の結晶だ。
伸びたトゲの一つ一つに多くのイートアントが取り込まれたため、俺の裁きの鉄槌よりも多くの敵を倒したんじゃなかろうか。
(えへへ)
うれしそうなリースの声が聞こえる。
リースに負けないように俺もソリフィスと一緒に裁きの鉄槌を放ち、一回目と同じぐらいの敵を倒す。
イートアントの群れはもう目の前まで迫っている。
後ろからはグリフォン達とフォックスシャーマン達もいるようだ。
(ファイヤーボール来ます!)
命尾が全員に警戒を飛ばす。
その数呼吸後、イートアントの群れの頭を越えて百を超える火球が降り注いだ。
俺は魔力を絞った魔法の矢を使い、いくつかの火球を撃ち落とす。
しっかりと当てれば、魔力をけちった魔法の矢でもファイヤーボールを爆発させることは出来る。
着弾したファイヤーボールは爆発し、一発につき一人か二人が焼かれる。
とはいえいくら低レベルの魔物でも、さすがに初級魔法一発で死ぬほどヤワではない。
最前線同士のぶつかり合いが始まる。
ソリフィスは空に浮かび上がり、双方がぶつかる場所の真上に陣取った。
地上で近接線が始まってからも、双方の魔法が頭上を越えてぶつかり合う。
魔法戦は、質ではこちらの方が若干良いが、相手の数の方に優位がある。
出来れば俺は後ろにいるフォックスシャーマン達を先につぶしてしまいたいが、下手なことをすれば十数のグリフォンに囲まれてしまう。
ではどうするか。
(主、突撃する!)
(良し、こっちも合わせる!)
先に外に出していたウルフ隊と動きを合わせるのだ。
戦場全体を俯瞰できる場所にいた俺は、まっすぐに敵後衛へと突撃する。
敵のフォックスシャーマンの何人かがファイヤーボールを放ってくるが、ソリフィスは悠々と回避。
(我が主、切り込むぞ!)
(おうよ!)
俺は腰に下げていた、トパーズで作った刀を抜く。
ソリフィスの上で、紅葉の様な、燃えさかる炎のようなオレンジ色の刀を振るった。
大樹のダンジョン
コアアタックモード・第三階層
第二階層は突破した。
魔術師の軍というのもなかなか難しい物だ。
軍の中に入られてしまうと、同士討ちがあるため魔法が撃ちにくくなってしまう。
おかげで好き放題暴れることが出来た。
フォックスシャーマンを殲滅した後はウルフ隊と協力してグリフォンを殲滅。
俺が追加で一回上級魔法を使うことになったが、損害は少なかった。
ウルフ隊は個々の能力は弱いが、群れとしてまとまると、別物と言って良いほどの戦闘力になる。
まあ短い間とはいえ、ウルフ隊だけでグリフォン十数匹を釘付けにするとは思っていなかったが。
イートアントに付いては特に言うことは無い。
殲滅して終わった。
大体二千弱ほどの集団だったようだが、まあ何とかなった。
味方の最終的な死亡数は結構な数に上った。
ゴブリン10、ホブゴブリン2、ハウンドウルフ9、ニードルビー26。
リザードマン1、コボルト13、食人花1、イートアント68。
負傷者は俺やリース、ウルフソーサラーが魔法で回復する。
第一階層と合計して、戦力全体の一割ほどは減っただろうか?
さすがにこの規模の階層がまだ何個も続くと言うことは無いと思うのだが。
上級魔法ほどではないが、軽い回復でも魔力は使う。
次の階からはもう少し攻撃を増やすべきかもしれない。
第三階層の敵は、数で攻めるタイプではないらしい。
前面に展開しているのは、グリズリーと食人花が百以上。
そして、キマイラが十数混じっている。
その後ろにはウルフ種が百ほどの群れを作り、またミノタウロスが十匹ほど。
キマイラ。
魔物レベル6。
ライオンの頭と山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持ち、口からは火炎を吐く。
ちなみに翼は持たず、空は飛べない。
単純に体と体重が大きく、パワー的な意味で危ない。
後はまあ口から吐く炎はそこそこの火力で、尻尾の毒蛇に注意、と言ったところか。
儀式で戦ったときの感想を言わせてもらうなら、魔法に弱く近づく前に倒せばモーマンタイ。
ミノタウロス。
魔物レベル6。
身長が四、五メートルある巨人。
二足歩行で牛の顔を持ち、巨大な斧を持つ。
デカい・強い・遅い。
単純攻撃力ではキマイラなんて目じゃないだろう。
あの斧を全力で振るえば岩も砕き、人間なら複数人まとめて体が二つになるだろう。
ここに来て一気に怖い敵が出てきた。
キマイラはまあまだマシとしても、ミノタウロスは怖い。
あの斧攻撃がクリーンヒットしたら、俺はそれだけで死ぬぞ。
多分俺程度の魔力じゃ、全力で防御に回しても余裕で貫通する。
アレには近づかないに限るな。
そんなわけで、魔法を使える奴の総力を結集して魔法攻撃を行った。
俺とソリフィス、リース隊、命尾隊、ウルフソーサラー、サンダーバード。
俺、ソリフィス、リース、サンダーバードと四人も上級魔法を放った上、約40人から為る初級応用魔法である。
割とすごかった。
後ろにいたウルフには裁きの鉄槌をぶつけたところ一発で終わった。
ウルフは攻撃・速度・チームプレイとレベル詐欺しているが、防御はペラッペラだ。
キマイラも一人辺り数発の魔法を受けた上裁きの鉄槌でなで切りにされて可哀想なことになっていたし、その上氷蓮華が炸裂した。
その後は前衛同士がぶつかっている間に、その後ろからのっしのっしと走ってくるミノタウルスに魔法を集中した。
ミノタウロスが大分タフだったので、斧の範囲近くまで近づいて、凝縮魔法の矢で頭を貫いて回った。
中級応用魔法が撃てるレベルの魔力を込め、それを凝縮し、強化した貫通力はおそらくライフル並みだ。
この魔法はカラドボ……いや、魔銀の矢と名付けよう。
魔力を高密度に凝縮したせいか、本来半透明な魔法の矢が銀色に発光しているからだ。
膨らませれば魔法弾、凝縮すれば魔銀の矢、どちらも元は魔法の矢。
魔法界隈で一番の基本であり、最も単純な魔法を使っているにすぎないわけだな。
とはいえ、魔銀の矢は元と比べて威力・速度・貫通力共に比較にならないほど高いが。
ちなみに魔法弾一発で魔法の矢が八発以上撃てるし、魔銀の矢なら魔法の矢が十発以上撃てる。
それでも魔銀の矢の消費自体は上級魔法の三分の一以下だ。
そんなこんなで第三階層は終了。
最終的な死亡数はゴブリン2、ニードルビー8、コボルト5、食人花1、イートアント31。
第二階層と比べて損害自体は少なかったが、危険度では第三階層の方がずっと高かった。
と言うか魔力をそれなりに消費したのでその分だ。
さて、現在の数を確認してみよう。
レフィル、ウルフソーサラー12、グレーウルフ18、ハウンドウルフ33
命尾、フォックスシャーマン12、ハウンドフォックス10
リース、見習い魔術師15
ヒポグリフ1、グリフォン4、グリフォン3
ゴブリンヒーロー1、ホブゴブリン3、ゴブリンシャーマン17、ゴブリン59
イートアント117
メガバウム8
キマイラ4
オーガ4
ドリアード5
トロル2
ニードルビー138
リザードマン8
コボルト14
食人蔦3
食人花10
インプ6
サンダーバード1
コボルトヒーロー1
グリズリー4
こうしてみると分かるが、主力は損害が少ない。
戦力的にはまだまだ大丈夫だ。
俺達は休憩してから次の階へと歩を進めた。
登場人物ステータス
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
魔物レベル6
総合B攻撃C 防御C 魔力量B+ 魔法攻撃B+ 魔法防御B すばやさB- スタミナB- スキルB
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
シラキ本人が結晶と認識している物を創造・変形・支配する能力。
その支配力は神が世界に対して行うソレに似ている。
ユニークスキル「共鳴」
レフィル
魔物レベル6
総合B-攻撃B 防御C+ 魔力量C- 魔法攻撃F 魔法防御C すばやさB+ スタミナB-
動物族・ウルフ
「狼の群れの長」
ウルフ種の群れを指揮しているときのみ発動する。
群れを構成する全個体の状況を把握し、更に自分が得た情報を群れ全体で共有する。
この効果はウルフ種にのみ適応される。
ソリフィス
魔物レベル8
総合A-攻撃A 防御C+ 魔力量B 魔法攻撃B 魔法防御B- すばやさA- スタミナA-
特殊能力
「シラキの騎馬」
シラキ騎乗時のみ発動する。
互いの意志や能力、状態や情報を共有する。
シラキの騎乗による負担を大幅に軽減する。
全力で戦うときは心身の融合率が高くなり、一心同体と言っても過言では無い状態になる。
そのときはもはや人と騎馬ではなく、一人の生物になっている。