大樹のダンジョンコアアタック
110日目
第四階層
「電哮牢!!!」
放電するような音が、断続的に発っされている。
氷によって地面に縫い付けられた"鎮座する座天使"が、電撃によって形作られた球に取り込まれていた。
数十秒もの間鳴り続けていた音は、何とか脱出しようと暴れる"鎮座する座天使"が崩れ落ちるまで続いた。
「お疲れ様でした」
ルティナが歩いてくる。
遂に誰もリタイアせずに"鎮座する座天使"を撃破することが出来たのだが、疲れで全員ダウンしていた。
「や、やっと勝てた」
ちなみに今回はドリアードが不参加で、代わりにサンダーバードとフォックスシャーマン達が参加していた。
俺、ソリフィス、レフィル、命尾、リース、サンダーバードにフォックスシャーマン12体。
ドリアードが抜けた分、フォックスシャーマンに補助を頼んだ。
何故ドリアードがいないかと言えば、ルティナがそうしろと言ったからだ。
理由は、ダンジョン外で戦うときのための練習。
事実上ドリアードはダンジョン内で不死身だが、ダンジョンの外に出られない。
まあ、そううまい話はないということだな。
知ってはいたのだが、実戦で一緒に戦ってみて、サンダーバードの安定感には驚いた。
"鎮座する座天使"が放つ魔法も攻撃も全く当たらない。
サンダーバードの名前にも負けない動きだった。
まあ終わった今となっては鳥とは思えない格好で、地べたでぐでっとしてるが。
同レベル帯の中でもかなりスタミナが低いことを考えれば、ずいぶん頑張ったと褒めるべきだろう。
ちなみにトドメに使ったのは雷属性上級魔法"電哮牢"。
電撃の球に対象を閉じ込め、電撃を浴びせ続ける魔法だ。
高い耐久力を持つ"鎮座する座天使"を倒しきるために、とにかく総ダメージ量を優先した結果、あえて涯煉よりレベルの低い魔法を使うことになった。
"裁きの鉄槌"は、強力な範囲攻撃だが、単体に使うには効率が悪すぎる。
"涯煉"もやはり強力だが、威力を重視するなら無駄が多い。
その点"電哮牢"は一度発動すれば、魔力を込め続けることでいくらでもダメージを与えることが出来る。
「これで"滅亡の大地"相手でも何とかなるかな」
「相手が一人なら、だね」
リースが苦笑しながら言う。
ちなみに彼女も隣で横になっている。
前回もこんな感じだったな。
まあ、今回はソリフィス以外全員倒れてるせいで死屍累々だが。
「さてさて、これで次の戦いの話に移れますね」
「……えっ?」
ルティナはいつもの笑顔を浮かべている。
……ちょっと怖い。
第五階層
中枢部
コアアタックモード。
それは、ミテュルシオンさんが作った挑戦用のモード。
ダンジョンマスターが挑戦し、クリアしたダンジョンのコアを手に入れることが出来る、と言う物だ。
俺のダンジョン以外の大抵のダンジョンには設定されており、一度でもダンジョンに侵入すれば発動条件を満たす。
俺自身のダンジョンコアから挑むことができ、今現在登録されているのは、南にある"大樹のダンジョン"のみ。
ダンジョン内にいる全員で挑むことが出来るため、総力戦になる。
一度でクリアできなくても帰ることは出来るが、防衛側の戦力は減れば補充される。
倒れた魔物のマナは挑まれた方のコアに溜まるため、クリアできなければ徒労に終わる。
挑むなら一回でクリアしたいところだ。
ダンジョンマスターというもの自体、俺が世界で初めての存在であるため、前情報はほとんど無い。
そもそも挑むの俺が初めてなんじゃないだろうか。
何て日の目を見ない仕様なんだ…。
ただ、ダンジョンコアのコアアタックモード選択画面に多少は説明が出ていた。
大部屋が複数存在し、その数だけ敵の集団が待ち構えているとのこと。
大樹のダンジョンはほぼ一本道のため、先に進みつつ、ひたすら敵を全滅させればいいらしい。
コアアタックモードさえクリアできれば、大量のマナが手に入ると同時に、ダンジョンコアのレベルも上がるとのこと。
コアを回収するとそのダンジョンは消滅するが、マナとしてコアの中に全て収まるらしい。
と言うわけで、これから挑戦しようかという話なのだが。
俺から言うことがあるとすれば、なんでダンジョン運営なのに侵攻してんだよ、というツッコミくらいだろうか。
「前から思っていたんだけどさ、このダンジョン運営なんかおかしくね?」
俺はダンジョンコアに片手を付けながら、横にいるルティナに聞いた。
「ダンジョンに攻めてくるのなんて少数だし、儀式やらで外から魔物連れてくるし、俺自身も戦ってるし」
俺ダンジョン運営って拠点防衛ゲームだと思ってたんだけど。
いや、そりゃ亜人にも魔族にも喧嘩売ってない以上、攻めてくる相手がいないのは仕方ないのかもしれないけどさ。
ぶっちゃけ不特定多数の人間を無差別に殺すという方法自体が、致命的に俺やルティナとミスマッチだ。
「てか人間相手に全力で殴りに行ったらルティナ的にはどうなの?」
あなた人間と神の子でしょ?
「遂に聞かれてしまいましたか。分かりました、お答えします」
ルティナが大仰な言葉遣いで答える。
え、遂にって何?
「私も詳しくは知りませんけど、今回の母の選定基準だと……そもそも人に全力でケンカ売りに行くような人は選ばれません!」
な、なんだってー!
「ちょっと待って、俺最初にミテュルシオンさんに人間殺すことになるぞ的なこと言われたんだけど」
「覚悟の話だと思いますよ?それに一人も殺さずにことを進めるのは現実的ではないですし」
マジかよ。
「これからもダンジョンの外に行く機会は結構あると思います。まあまあ、それも終末がどういう展開を見せるかによって変わりますけどね」
知らなかった。
と言うか疑問には思っていたけれど、単純に今まで聞かなかった。
まあ終末自体、世界中を巻き込んでいる以上、一ダンジョンで全てを終えることなど出来ないのだろう。
「そういう…割とどうなるか分からない話だと」
「ですです」
分かった。
この話はここまでにするとしよう。
問題は、コアアタックモードの話だ。
「とりあえず偵察に行ってみるか」
「戦力はどうします?」
そうだな、何かあったときでもそれなりに戦えるよう出ないといけないよな。
とりあえず主要メンバーはフル投入で、フォックス隊とウルフ隊も全部連れてく。
後はグリフォン達とサンダーバードを…って何か結局主戦力の多くを連れて行くことになりそうだな。
とりあえず主要メンバー全員に概要を伝え、ボス部屋に集まってもらう。
休憩して"鎮座する座天使"戦の消耗も回復しただろうし。
このダンジョンにおいて俺より回復遅い奴なんてフェデラくらいだから。
魔物と人間じゃ基本スペックが違うのに、人間の中ですら貧弱だからな、俺は。
大樹のダンジョン
コアアタックモード・第一階層
瞬間移動によって到着した場所は、だだっ広い広場だった。
広さ的には、俺のダンジョンと比べた感じ、一平方キロメートル以上ありそうだ。
転移してきた場所の地面は石の様な材質で、一段高くなった中心に大きな魔方陣が描かれている。
おそらく、来るのも帰るのもここから、と言うことになるのだろう。
一面に拡がっているのは、枝葉の地面と壁と天井。
広場の所々にお互いに巻き付くようにして立つ太い木の幹が、天井を支える柱であるかの様だ。
あれだけの柱でこの広さの空間を支えられるとは思えないが、ダンジョン自体にはあまり物理法則が関係ないことは分かっている。
なんと言っても我がダンジョンの二~四階層は、あの広さで柱一つ立ってないからな。
で、部屋の反対側には大樹のダンジョンの防衛戦力であろう魔物達が陣形を組んで展開している。
すごい数だ。
見たままを言わせてもらうなら、小学校の全校集会みたいな感じだ。
三つの集団が、相手から見てVの字に展開しており、その上には数百のニードルビーが飛んでいる。
こちらから見て左に展開しているのが、コボルトとコボルトロード。
数は……分からん、こんな同じ高さで離れた場所からあの規模の数が分かるか!
多分だけど百から千ってところだろう、良く分からん。
右に展開しているのがゴブリンとホブゴブリン。
中央がコボルトプリーストとゴブリンシャーマンだ。
数的には中央が一番少ないが、やっぱり百以上はいる。
(誰か敵の種類と数を把握できないか?)
とりあえず主要メンバー+αに念話で相談してみる。
今回来たのはあくまで様子見だ。
数と種類が把握できたのならとっとと帰ってしまうつもりである。
(残念ながら、上からでも数が分からん)
上を飛んでいたソリフィスが言う。
この広場は高さ十メートルくらいはあるが、さすがに上から見下ろせるほどの高さはない、と言うことか。
(命尾は?)
念話というのは本当に便利で、大声を張り上げる必要もなければ指令を伝言ゲームする必要もない。
全員にも話しかけられるし、誰か一人に絞って話しかけることも出来る。
まあ俺は普段から周りにいる全員に聞こえるように念話しているし、今俺の念話を聞いているのは十人程度だ。
(精霊は小さくそして飛びますけど、ニードルビーがいるので難しいです。ただニードルビーの多くをたたき落としてからなら行けます!)
なるほど。
ちなみに生命探知と魔力探知は俺も使えるので分かるが、あの数を数えることは出来ない。
一カ所に固まっているとそれが何人によって出来ているのか分からないし、あの数を把握できるような魔法ではない。
そもそもアレを覆い尽くすほどの広範囲をカバーできる魔法ではない。
出来ないことはないのかもしれないが、多分魔力の消費が酷いことになる。
こちらも転移が終わってから動いていないが、相手もまだ動いていない。
こちらが動くまで待ってくれるのだろうか?
(じゃあ……俺とリースがソリフィスに乗って、三人で上級魔法ぶっぱ。それでニードルビーを落として、数を数えたら即帰還、でどうだ?)
(ではマスター、私の隊は敵から三百メートル程の場所まで近づきます。数分で大体の数は分かるので、そうしたら帰還、で良いですか)
命尾が俺の案を多少具体化する。
(オーケー、みんなは?)
聞けば、帰ってくるのは言葉なき了承の意。
(よし、ソリフィス、リース)
俺がソリフィスの背に乗り、リースを俺の後ろに乗せる。
「正面から行くぞ、魔法は俺が右、リースが左、ソリフィスが真ん中で」
俺が声を掛けると同時、ソリフィスの首の辺りにある長い毛を掴み、内股を締める。
ソリフィスが走り出した。
同時に命尾隊が走り出す。
首都高を余裕で走行できる速さのソリフィスが、走りながらも魔法の準備をしているのが分かる。
ソリフィスに乗っている時は、彼の状態や、何を考えているかが何となく分かるのだ。
後ろに命尾達が、相手まで五百メートル程の地点を越える。
そのとき、ニードルビーと両翼の軍が動き出した。
俺はソリフィスを軍団に対し平行に移動させる。
あの敵の軍勢の中で、一番危ないのは中央の魔法使い達だ。
例えばアレが百人いるとして、全員が一斉に魔法の矢を撃った場合どうなるか。
考えたくないが、全部直撃したらまあ俺は死ぬと思う。
だが五百メートルも離れていれば、撃たれてから到着するまで一秒以上かかる。
一秒あれば魔法の盾を出せるし、ある程度避けることも出来る。
そう思っていたが魔法使い達は攻撃よりも補助を取ったらしく、何らかの補助魔法を味方の歩兵達に掛けている。
こちらの狙いはビーだけなので都合が良い。
命尾達がそれなりの距離にたどり着くのを待って、三人で一気に上級魔法を放つ。
「「裁きの鉄槌!!」」
「氷蓮華!」
巨大な電撃が蜂を焼き、咲き誇る氷がコボルトを巻き込んで凍り漬けにする。
今の攻撃だけでも数百単位でなぎ払っただろう。
(命尾、行けるか?)
(行けます、マスター!!)
両翼のゴブリン達とコボルト達は、こちらの上級魔法にも臆することなく、むしろスピードを上げる。
彼我の距離はもう二百メートルもない。
相手と同じだけのスピードで下がり、フォックス隊の正面に移動する。
するとフォックス達も速くはないが下がり出す。
やはり召喚した精霊を操って偵察している以上、全力で移動は出来ないか。
(レフィル隊、グリフォン隊前へ。フォックス隊の両斜め後ろに付け。サンダーバードは俺の横!)
何かあったときのための準備をする。
その気があったわけではないが、両翼に歩兵、中央に魔術と同じ陣容である。
質と数は正反対と言っても良いが。
ファイヤーウォールで足止めしようかとも考えたが、あの数全てを止めるほどの長さを展開しようと思うとかなりの魔力を消費しそうだ。
それなら上級魔法一発撃った方が、費用対効果が高そうだ。
(ゴブリン側に鉄槌撃つ)
決めたらすぐ行動、まずは全員に通知。
誰かが止めようと思えば止められる程度の間は空けて、再び上級魔法を放つ。
「裁きの鉄槌!」
巨大な電撃の球で迫るゴブリン部隊の前列をなで切りにする。
前が止まれば歩みも遅くなるはずだ。
(マスター、把握しました!)
(良し、撤退するぞ!命尾隊全力後退、俺とグリフォンで殿やる!)
全員で撤退にかかる。
そこからの動きは速かった。
そもそも今回は足の速い魔物しか連れてきていないのだ。
全力で走れば、ゴブリン達やコボルト達が追いつけるはずもない。
問題なくダンジョンまで帰還した俺達は、命尾から話を聞いて戦略を立て始める。
今回は一方的に殴って終わったが、本番ではこうはいかない。
今回の敵が第一陣にすぎない以上、魔力をある程度節約して戦わなければならないからだ。
110日目終了
第六、七次儀式分
眷属になった魔物
・雷雲山脈の麓
レベル1:ハウンドウルフ15体
レベル2:ゴブリン5体、マッシュ16体
レベル3:グリズリー1体、バウム5体
レベル6:オーガ1体、キマイラ2体
・雷雲山脈の中層
レベル5:メガバウム8体、トロル2体
レベル6:オーガ3体、キマイラ3体
レベル7:ヒポグリフ1体
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
20歳 身長170cm 体重62kg
総合B攻撃C 防御C 魔力量B+ 魔法攻撃B+ 魔法防御B すばやさB- スタミナB- スキルB
(魔法攻撃B → B+ スキルB- → B)
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
シラキ本人が結晶と認識している物を創造・変形・支配する能力。
その支配力は神が世界に対して行うソレに似ている。
ユニークスキル「共鳴」
保有マナ
28,479 (+576/日)
ダンジョンの全魔物
ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)
迷宮植物:
ヒカリゴケ5300、ヒカリダケ660、魔草530、幻樹5000、魔物の木1、願望桜4
グループ:
レフィル、ウルフソーサラー12、グレーウルフ18、ハウンドウルフ45
命尾、フォックスシャーマン12、ハウンドフォックス10
リース、見習い魔術師15
ヒポグリフ1、グリフォン4、グリフォン3
ゴブリンヒーロー1、ホブゴブリン6、ゴブリンシャーマン17、ゴブリン80
クイーンアント1、イートアント216
メガバウム8
キマイラ4
オーガ4
ドリアード5
バウム40
クイーンビー1、ニードルビー94
クイーンビー1、ニードルビー60
クイーンビー1、ニードルビー20
マッシュ377
リザードマン9
トロル2
コボルト32
食人蔦3
食人花12
インプ6
単体・その他(能力順);
サンダーバード1
コボルトヒーロー1
グリズリー4
人:
ルテイエンクゥルヌ
フェデラフロウ=ブロシア=フォルクロア
一階層
洞窟 「ビーの巣」
迷宮 「ビーの巣」
二階層
幻樹の森
三階層
更地
四階層
更地
五階層
中枢部 「コア」
個室 「シラキの部屋」「ルティナの部屋」「リースの部屋」「フェデラの部屋」
ダイニングキッチン
大浴場
保存庫
畑 「ドリアード本体」*5
はい、ダンジョン運営のくせに外に攻め込む話でした。
ところで読者の皆様的にはどんな要素を見たいのでしょうか?
戦闘?純粋にダンジョン?キャラとの絡み?
これからも今みたいなノリで進みますが、お気軽に感想を送ってくださいね。
次回、コアアタック2。3まで続きます。終末の開始まではもうしばらくお待ちを。過去最大の危機を書こうと思ってます。うまく書けたら良いなぁ。