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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
ダンジョンと人魔竜 ~渡る世間は強者ばかり~
31/96

雷雲山の麓で


85日目

リーズエイジ南

雷雲山脈の麓



リーベックから南に進み、森を抜けた先にある山脈の麓だ。

通算五回目の"闘争と契魔の儀式"を行うために出てきたのだが、自分のレベルも上がってきたので、一段階危険度の高い場所へ来ていた。

相変わらず俺とルティナはソリフィスに乗ってきたので、道中は襲われることもなく、最速で着くことが出来た。

今いる場所は草原地帯のようになっいるが、周りには森が拡がっていいるので、人里離れた場所、という感覚が強くある。

山脈の上まで行くとレベル7とか8とかの魔物が平気で出てくるらしいので、しばらくは麓で頑張ってみよう。


麓まで来たとはいえ、出てくる魔物にそこまでの違いは無い。

と、聞いていたのだが、出てきたのはいきなり大所帯だった。

クイーンアントに率いられたイートアントの群れだ。

基本的に穴を掘って巣を作り、そこから出てこないクイーンアントが普通に出てくるのだから、すごい儀式である。


200を超えるイートアントの群れは、地上を進む津波の様だ。

そんな黒い波の中心に、芋虫のように太った、体長4メートルはありそうなクイーンアントがいる。

俺は思わず苦笑いを浮かべつつも、右手に熱を、左手に風を起こす。

両の手を合わせて突きだし、合成させた魔法を放つ。


「ブレイズサイクロン!」


本来の三倍近い魔力を込めて放った魔法は、オレンジ色の炎の渦となって這い進む蟻たちを飲み込んでいく。

大きな音と共に放出する炎の渦が収まった時、そこには焦げて動けなくなった蟻の死体が散乱していた。


それを見て、外の離れた場所で眺めていたソリフィスが隣にいるルティナと話す。


「消費も効果も上級魔法並みだったな」

「まあただの上級魔法では、200を超えるイートアントをまとめて、とはいかないでしょうね」


魔法使いとしてそれなりの能力を持つようになったシラキにとって、低レベルの魔物が群れた程度ではこんな物である。

その後も刀と魔法を使い、散発的にやってくるゴブリンたちやマッシュ、バウムなどを倒していると、遂に強敵が現れる。

シラキが一段落と言った様子で岩の一つに腰を下ろしていると、空から電撃が飛んできたのだ。


「うおっ!?」


飛来する電撃を視認し、すぐさま飛び退く。

雷属性の中級魔法、"サンダーボルト"だ。

幸いサンダーボルトは光速並みの速度と言うことは無く、距離があれば目で見て避けることは十分可能だ。

それでもかなり速いが。


俺が飛び退くと同時、先ほどまで座っていた1メートル程の岩が縦に割れる。

元々それほど硬い岩ではなかったようだが、座りやすかった平らな岩は今や二つに分かれてしまっていた。

そんな岩を見て、放たれたサンダーボルトの威力に感心しつつも魔法が飛んできた方向を見る。

飛んできていたのは、サンダーバードだ。

体は人よりも大きく、電気を身に纏った黄色い鳥。

空中を高速で飛び回り、電撃で攻撃するレベル6の強敵だ。

自らのダンジョンの外である以上、レベル的には同等の相手。

雷雲山脈はサンダーバードが住んでいる以上、麓であっても出会うかもしれないとは思っていたが。

実際に対峙してみるとなかなかに緊張するものである。


地上にいる俺が高度20メートル程を飛ぶサンダーバードを見上げていると、相手が先に動き出す。

高らかな咆哮と共に、二発目のサンダーボルトが撃ち放たれる。

先ほどよりも近い位置から放たれた高速の魔法を、全力の横飛びで避ける。

真上ではないが、敵の位置はこちらより上である。

いくらまっすぐに飛ぶサンダーボルトと言えど、今まであまり経験したことのない位置からの攻撃だ。

なかなか攻撃の軌道を読むことが出来ず、結果的に最小限の移動で避ける、と言う行為が封じられてしまったのだ。

十メートル弱は離れた場所に着弾したサンダーボルトを横目に、事前に決めてあった方法を思い出す。

それは、食事中に出た話題だった。







第五階層

ダイニングルーム


最近は食事をするときは、四人でテーブルを囲んでいる。

俺、ルティナ、フェデラ、リースだ。

リースは見た目こそ人間だが、正体はれっきとした魔物。

元々は魔力だけでも生きられるし、リースも魔物の木になる実さえ食べていれば十分に生活出来る生物だ。

とはいえ、人の食事が食べれないわけでもないし、無駄なわけでもない。

仲の良い美人三人に囲まれて食事とは幸せな話である。

フェデラも体に多少は肉が付き、今までの不健康そうな雰囲気が減ってきている。

体内の黒結晶が前より減ったからか、精神的な物であるか、あるいはルティナの食事が良いからかは不明だが。


「サンダーバードの対処法、ですか?」

「ああ、冒険者的にはどうなんだ?」


そんな食卓で、いつもの世間話に興じる。

今の話題は、サンダーバードの対処法の話だ。


「出会わない様にするのが基本であり全てです……Aランクはともかく」


フェデラがどうしようもない、といった様子で言う。

サンダーバードはレベル6の魔物だが、その厄介さは他の同レベル魔物とは頭一つ抜けている。

能力にするとこんな感じだ。



サンダーバード

魔物レベル6

総合B攻撃B 防御D 魔力量C+ 魔法攻撃B 魔法防御C+ すばやさB+ スタミナC



これだけ見れば紙装甲で速度攻撃特化の魔物だが、その本領は鬼のような回避性能にある。

そもそも空を飛んでいて攻撃の当たりにくいサンダーバードは、その上直進以外の移動をする。

つまり、真横に飛んだり、後方に下がったりするのだ。

移動能力を見れば分かるが、はっきり言ってこいつは鳥では無い、別の何かだ。

こんな奴を相手にまともに攻撃を当てるのは至難。

単純に攻撃を当てられないから勝てないのだ。


「一応魔力やスタミナが切れるまで待てば巣に戻る、らしいです。なのでパーティ内で盾役を変えつつ、持久戦でしょうか」


フェデラがサンダーバードに襲われていた時を思い出す。

あの時はフェデラとリゼリオの二人しかいなかった。


「一人で倒さなきゃ行けない場合は?」

「ひたすら耐えます。……相手が退いてくれるまで」


ひでー。

いやまあ、単独で格上相手とかその時点でもうアレだが。


「魔力を温存しないなら、シラキさんなら涯煉を二、三発撃てば倒せますよ」


と思っていたら、ルティナがしれっと言った。


「雷耐性は?」

「もちろんサンダーバードは雷属性中級魔法くらいならほとんど意味無いですけど、上級応用ともなればそれなりに通りますよ」

「マジか……でもサンダーバード一体に俺の総魔力量の半分近く使うのね」

「それはまあ同等レベルの相手ですし。それよりむしろ、撃つ前によーっく狙わないと、すぐに範囲を出ちゃう方が問題ですね」


涯煉は撃ったとき敵が射線に入ってさえいればほぼ間違いなく当たる。

ならば撃たれる前に射線から出ちゃえば良いんですね、分かります。


「一発目はともかく、二発目からは相手も止まってくれないんじゃ?」


俺が聞くと、もぐもぐしているルティナに代わり、リースが答えた。


「大丈夫ですよ~。サンダーバードはスタミナが少ないですから」

「ああ、動き続けられないのね」


すごく納得した。

あれ、でもそれって結局ある程度は持久戦になるってことじゃ?


「んん、相手の動きを妨害するように魔法を撃てば、止められますよ」


食べていたものを飲み込んだルティナが言う。


「それってかなり高レベルの技じゃないんですかねぇ」

「えっと、私出来ると思いますけど」


リースの驚くべき発言。


「それに、フェデラちゃんも出来るんじゃ?」

「マジで!?」

「いえ、私だと地力の差が大きいから止めるところまで行けませんでした」


それって地力が上がれば出来るってことじゃないんですかね。

実戦経験の差が如実に出ている気がする。


「やっぱり俺ってステだけの雑魚なんやなって」

「シラキ様もやれば出来ますよ!」


俺の自嘲を何故かフェデラが遮る。


「そうですよ、毎日ルティナ様と戦っているシラキ君がサンダーバード程度、止められないはずないです」

「そう、か?そう言われてみれば……いや、でも…」


確かにルティナと比べれば、サンダーバードも大したことない。

いや、でもいくらルティナと戦ってるからってそういう熟練度の関わる部分じゃどうしてもキツいでしょ。

いくらルティナと毎日戦ってるからって。


「何か失礼なことを考えていませんか」

「いえ」


崇め奉ってるだけです。








「涯煉!!」


青白い一条の光が、黄色の鳥を飲み込む。

サンダーバードは高い悲鳴を上げるが、ほとんど硬直することなく動き出した。

やはり雷属性特有の麻痺効果はほとんど期待できないらしい。


サンダーバードが複数の電気の球を放ってくる。

サンダーボルトが当たらないから手数で勝負と言うことだろう。

無造作にばらまかれた数十の弾の内、最初の数発を回避する。

その後はどうせ当たる軌道の弾は少ないだろうと見越して、魔法の盾を張る。

上級応用魔法を放ったばかりだが、実際に当たるのが数発だけなら大して魔力の込めていない魔法の盾でも防ぎきれる。

一発一発の威力は、初級魔法程度の威力しか無いのだから。


そうやって攻撃を受けきった俺を見て、何故か苛立ちや怒りの類いでは無さそうな鳴き声を上げる。

次の攻撃もさっきと同じだ。

次々と撃ち込まれる電撃の弾を、俺は全力ダッシュして回避する。

やはり、行動直後でもなければ、全力で走ればあの乱射も避けられる。

そして攻撃中だからか、サンダーバードの移動が直線的になっている。

しばらく続いた乱射が終わった瞬間を狙い、俺はサンダーバードの進行方向に向かってウインドカッターを放つ。

複数の風の刃に遮られ、急減速するサンダーバード。


「止まった! 涯煉!!」


減速した隙を突き、二本目の稲妻を放つ。

音速を超えて走る魔法は、狙い違わずサンダーバードを飲み込んだ。

二度目ともなると相当堪えたらしく、黄色い羽毛に、血と焦げで赤黒い染みが付いている。

これで二発目!と俺が思っていると、サンダーバードが高らかな鳴き声と共に、俺の真上に移動する。

何をするつもりだと思っていると、サンダーバードは自身を中心に、白い電撃の球を纏いだす。

防御か、と一瞬思い、すぐに違うと理解する。


放たれる雷と、地面を砕く轟音が続く。

数十本の稲妻の柱が、サンダーバードの体を覆った球から降り注いでいるのだ。


「すげぇっ!」


俺は素早く周りを見渡し、柱の状況を確認する。

それぞれの柱は地面を焼き、えぐりながら移動している。

一本一本は直径一メートルくらいだが、飲まれたら非常にまずい。

俺はすぐさま回避行動に移った。

このような大がかりな、上級か上級応用魔法にも匹敵するような電撃を、そう長く続けられるとは思えない。

心中する気かとも思うが、そういえばこの儀式は招かれた側は死なないんだった。

予想外に速く動く稲妻の柱を避け続け、十数秒と言った所だろうか。


稲妻の柱が縮み、続いていた轟音が止んだ。

見上げれば、上から力尽きたサンダーバードが落ちてくる。

俺は何も考えずに水魔法を使い、落ちてきたサンダーバードを受け止める。

最も苦手であり初級しか使えないと言っても、魔力を無駄遣いすれば規模を大きくすることは出来る。

無理矢理出した数メートルの水の柱に入り、地面に付いた辺りで体が消えていく。


そうして儀式と、レベル6同士の戦いは幕を閉じた。








85日目終了


第五次儀式終了


・眷属になった魔物

    lv1 イートアント216

    lv2 マッシュ11

    lv2 ゴブリン19

    lv3 ホブゴブリン1

    lv3 ゴブリンシャーマン1

    lv3 バウム5

    lv5 クイーンアント1

    lv6 サンダーバード1



シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)

総合B攻撃C 防御C 魔力量B+ 魔法攻撃B 魔法防御B すばやさB- スタミナB- スキルB-

(攻撃C- → C 防御C- → C 魔法防御B- → B スタミナC+ → B-)



スキル

   ユニークスキル「結晶支配」

     シラキ本人が結晶と認識している物を創造・変形・支配する能力。

     その支配力は神が世界に対して行うソレに似ている。


   ユニークスキル「共鳴」



保有マナ

20,004  (+556/日)


ダンジョンの全魔物

ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)

迷宮植物:

    ヒカリゴケ5300、ヒカリダケ660、魔草530、幻樹5000、魔物の木1、願望桜4

グループ:

    レフィル、ウルフソーサラー12、グレーウルフ18、ハウンドウルフ30

    命尾、フォックスシャーマン12、ハウンドフォックス10

    リース、見習い魔術師15

    グリフォン4、グリフォン3

    ゴブリンヒーロー1、ホブゴブリン6、ゴブリンシャーマン17、ゴブリン75

    クイーンアント1、イートアント216

    ドリアード5

    バウム35

    クイーンビー1、ニードルビー94

    クイーンビー1、ニードルビー60

    クイーンビー1、ニードルビー20

    マッシュ361

    リザードマン9

    コボルト32

    食人蔦3

    食人花12

    インプ6

単体・その他(能力順);

    サンダーバード1

    コボルトヒーロー1

    グリズリー3


人:

    ルテイエンクゥルヌ

    フェデラフロウ=ブロシア=フォルクロア



一階層

洞窟 「ビーの巣」

迷路 「ビーの巣」


二階層

幻樹の森 「ビーの巣」


三階層

更地


四階層

更地


五階層

中枢部  「コア」

個室  「シラキの部屋」「ルティナの部屋」「リースの部屋」「フェデラの部屋」

ダイニングキッチン

大浴場

保存庫

畑  「ドリアード本体」*5


シラキ君も大分強くなってます(当社比)。

そして終末始まるまでが長すぎる。しかしまだある程度先なんですよ…。

次回はダンジョンの運営というコンセプトに真っ向から反抗して自分から攻めに行きます。でもシラキ君は指揮、軍同士の戦い、魔物と少し話したりとこの小説のコンセプトは詰まってると思う。……あれ、ダンジョン…。

次回!「大樹のダンジョンコアアタック」

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