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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
ダンジョンと人魔竜 ~渡る世間は強者ばかり~
30/96

赤飯と亜人族の幹部達

80日目

第四階層


爆音が轟く、いつもの第四階層。

例によって魔物達が観戦している先にいるのは、ルティナとシラキ。

シラキが魔法を使えるようになってからと言うもの、毎日何度も繰り返されている光景である。


「拡散魔法の矢!」


シラキが力強く言うと同時、指先から魔法の矢を放つ。

それも人差し指から放たれた魔法の矢は一本ではなく、十二本に分かれてルティナに襲いかかった。

二人の距離は五十メートルほど。

魔法の矢は一瞬で間合いを詰めるが、ルティナは自分がいた場所から大きく動くことなく全て回避する。

もはやここにいるメンバーには見慣れた光景だが、フェデラが感嘆の声を漏らす。


「何度見てもすごいですね…魔法の矢を避けるなんて」


魔法の矢。

これは魔法の基礎の基礎。

魔法使いなら誰でも覚えているような魔法だ。

だがしかし、魔法の矢というのはその難易度は低いが、魔法としては一つの完成形である。

魔法の矢は必中、回避は不可能。

それがこの世界の常識である。

初速でマッハ一ぐらいあり、微弱ながらホーミングし、その上大して減速もしないのが魔法の矢だ。

重力の影響すら受けているのか分からないこの魔法の矢は、非常に使い勝手の良い射撃武器である。

如何に高い身体能力を持つ魔物達といえど、この威力以外は銃を超えるであろう武器を回避することはかなわない。


「どうして避けられるんでしょう?」

「まあ、神の子だからじゃないか?」


フェデラの疑問に、レフィルがばっさりと答える。

それを言ったらおしまいよ、とその場にシラキがいたなら思っただろう。

しかし、それ以外の明確な理由が思いつかないのも事実であった。


観客達が思い思いに観戦する間も、二人の戦闘は続いている。

シラキが繰り出す、熟練魔術師でも驚くほどの連続魔法攻撃を、ルティナは全て回避している。

ならばとシラキが選んだのは広範囲魔法。

仰角120度はありそうな程広範囲に拡がるブレイズサイクロンを放つが、しかしルティナは魔法が届く前に走って範囲外に出てしまう。

が、ここで少しだけ新展開があった。

ルティナが走っていた先の地面から、電気の茨が突きだしたのだ。

ルティナが急停止すると同時、周囲を同じ様に突き出た茨が取り囲む。

ジジジジジ、と音を放つ茨は、ルティナの頭上で収束し、一瞬で鳥かごの様な形を作った。


「あれは!?」


リースが驚く。

種族としての魔術師であるリースでも知らない魔法だからだ。

そしてこの場にいる誰も知らない魔法でもある。


これは、設置型の魔法、"茨の牢"。

ガリオラーデがシラキに教えていた、まだ開発中の魔法である。

地面から突き出た太い茨が対象を拘束、もしくは攻撃する。

使い道は色々あるが、今回はルティナの足を止めるために使われたのだ。

そして、シラキは間髪を入れずに次の行動に移る。


気合いの言葉と共に、シラキの周りの中空に十数本の水晶の剣が出現する。

シラキが左手を降るのを合図に、浮かんでいた剣が一斉に飛んでいく。

そのまま襲いかかるかに見えた剣達は、しかし茨の牢の内側に入る前にたたき落とされた。


「烈風陣!?」


フェデラが驚きの声を上げる。

烈風陣はフェデラの得意とする魔法でもあるが、先ほどシラキが放った剣達を全てたたき落とせるかと言われると、厳しいと言わざるをえない。

ルティナはフェデラよりも早く、より強力な烈風陣を発動させたのである。


そして観客達が驚いている魔にも、ルティナの周囲の地面が音を立てて盛り上がり、外側にと拡がっていく。

地面から突き出ていた、茨も一緒に。

鳥かごの土台とも言うべき地面が割れて動き、形成されていた牢はあっけなく口を開ける。


「ガリオンが作ったにしては、細部が甘…!?」


ルティナが茨の牢を突破した刹那。

青白い電が駆け巡った。

沈黙。

すでにこの場にいるメンバーには見慣れた光景。

雷属性上級応用魔法"涯煉"である。

駆け抜けた電が過ぎ去った場所に、無傷のままのルティナが立っている。

それを見て、シラキが疑惑の声を上げた。


「今の、当たったのか…?」


だが、当のルティナは、さっきガリオンの魔法に不満を述べていたときとは打って変わり、満面の笑顔を浮かべている。


「確かに当たりましたよ、シラキさん。…今夜はお赤飯ですね」


ルティナが祝辞を述べる。

それを聞いたシラキは破顔し、小さくガッツポーズを取った。


「ぃよっし!!」


今のところ戦績は、シラキの全敗。

シラキの攻撃魔法が当たった総数、一回。

対ルティナ戦における初のクリーンヒットであった。


「ようやくだな、祝福してやろう!」

「ガリオン!?」


聞くはずのない声にギョッとして見てみれば、そこには魔王ガリオンその人がいた。

そして気付いていなかったのは俺だけではなかったらしく、命尾を除く魔物達が即座に臨戦態勢に移行する。


「ああ、遊びに来たぞ」

「…我が主」

「ああ、大丈夫」


シラキが疑問を投げかけるソリフィスに答え、警戒を解除してもらう。

シラキとしては、自分が侵入者に気付けなかったことの方を気にしていた。

このダンジョンは侵入者があれば、即座に気付くことが出来る機能を備えているはずである。


「なんで俺が気付かなかったんだ?」

「それは、俺も神の子…主神ミテュルシオンの子だからな。最初から登録されていたのだろう、魔方陣も使えたぞ」

「う゛ぇ……な、なるほど」


変な声を上げつつも、すぐに納得する。

そもそも、ダンジョンコアとダンジョンのひな形を作成したのがミテュルシオンさんなのである。

であればルティナと同じように、ガリオンやフレイが魔方陣を使える可能性はある。

事前に登録されている人は侵入しても通知されない。

その上戦闘に集中していたのだから、ガリオンの侵入に気づけなかったのも無理のないことだ。


フットワークの軽いガリオンにとっては、割と普通に遊びに来られる場所なのであった。







中央大陸南

とある街道


見通しの良い道の横で、二人の人型が会話している。

一人は白髪の男性で、赤く鋭い目をしている。

ガタイが良く、その服装は厚着で、見渡しの良い周囲に隠れる場所のないこの場所でも、一切気を抜いていない。

もう一人は、ローブを着た長い青髪の美女。

手元で杖をもてあそぶその姿は至極自然体で、まるでその場にあるのが当然の空気のようだ。


「小さな門の出現と同時に、第一次侵攻が始まります。標的となるのは大国全て。準備さえ出来ていれば守れるでしょう」


女性の方が、先生が生徒に教えるように言う。


「問題は北の国です。対象となっている都市の中では最も小さい。誰かしら向かわないと、北の亜人族全体がつぶれかねません」


先ほどから白い髪の男性は黙ったまま、ずっと女性が話し続けている。


「守ることを考えるのなら、クロウズの皆さんは分散した方が良いでしょう。残念ですが…中央以外は安心できない」


クロウズとは、今の時代における最強の冒険者パーティーの名前だ。

その先代の冒険者パーティーのこともあり、世間では敬意を込めて"イノセントクロウズ"の名前で呼ばれる。

数々の伝説的な活躍が世界中に広まっており、誰もが認める亜人族最強のパーティーだ。

そしてこの白髪の男、フェンルもそのパーティーの一員である。


「守るべきは、食料供給源である穀倉地帯。重視すべきは、実力者の生存です。まあ、門の早期破壊は必須ですけれど」


そう言って青い髪の女性は言葉を切った。

フェンルは女性の言葉を反芻するように間を開け、そうして聞いた。


「それで、初期に出現する重要な敵は?」

「"軍艦亀"、"空賊"、死神"狂える様に歌う闇"、死神"侵略者"、死神"滅亡の大地"。この五つです」

「詳細な情報を」


青髪の女性は流れるように説明していき、フェンルは時折質問を交える以外は言葉を挟まない。

そうして一人の人間が、また一つ重要な情報を入手していた。






中央大陸北

大国ナシタ


世界で最も神に近いと言われる国、ナシタ。

神官が多いこの国は、世界でも有数の大国である。

その中でも首都であるナシタは様々なギルドが総本部を構え、大物が集う町としても有名だ。

およそ魔法使いと呼ばれる人間は全て所属しているとされるギルド、"賢者の塔"も、ギルド名と同じ名前を冠した大きな塔が町中に鎮座している。

その中で、世界でも重要とされる者達が、一斉に顔を合わせていた。


「先日、"槍葬の聖女"に続き、"命の聖女"からも報告が入った。すでに終末はすぐ隣まで迫っている」


真っ白な服を着て、厳つい顔をした中年の男性が断定的な口調で言った。

教会のトップ、教皇であるクレディだ。

筋肉質でガタイの良く、その雰囲気からして気力が満ちている。


「それなのですが、"イノセントクロウズ"のリーダー、ノウルスが新しい情報をくれました。終末が始まるのは三ヶ月後~五ヶ月後だそうです」


発言したのは冒険者ギルドの代表であり、非常に若く、ともすれば幼いとも言える少年。

"ナシタの勇者"として広く知られる冒険者、アディンだ。

十歳前後くらいの年をした少年はもこもことした薄い緑色の髪を持ち、この中では最年少だ。

口火を切った二人はこの場においても特に重要な存在であり、出てきた名前も、この大陸で知らない人はいないほどの人物達だ。


「こちらで掴んでいる情報とも一致しますね。やっぱり、終末の開始は百三十日後が一番有力ですか」


そう言った女性は盗賊ギルドの大幹部、星柿裁音ほしがきさいね

"影縫い姫"の異名を持つ、どこか冷たい雰囲気を纏った美人だ。

最年少のアディンに続いて若く、こちらは十代後半と言ったところだろうか。

黒いローブを身に纏い、非常に濃い紫色の髪を同じ紫色の髪留めで結んでいる。

有力な人物が次々と話していく中で、ゆっくりと話す者が続く。


「世界中の、有力な冒険者を呼ぶ準備も進んでいる。二、三ヶ月後には一度集まれるじゃろう」


話した老人は賢者の塔のトップ、大賢者の一人であるグランだ。

話し方はゆっくりではあるが、決してのんびりしているわけではない、力ある言葉をしている。

後ろに控えている者もいるが、この場において主な人物がこの四人である。

この集会が各ギルドのトップ達の集まりであることを考えれば、アディンと裁音は異様とも言って良い若さである。

各ギルドの代表である四人が、十代の若者二人と老人二人であるというのは、実にシュールな様相でもあった。


「二、三ヶ月後ですか……やはり、そう早くは動けませんね」


裁音が心配そうな声を出す。

この場に集まっている者は、全員が終末に対して確かな危機感を持っている。


「残り五ヶ月であることを考えれば、確かに余裕がありませんね」


子どもらしい高い声でアディンが同意する。

しかし、心配が顔に表れている裁音に比べ、他の面々は落ち着いた表情をしている。


「しかし、絶望するほどの状況ではない。セレナ様や冒険者達の動きは、我々の勝利の理由となるだろうからの」


ゆっくりと、断言するような口調で大賢者グランが話す。


「セレナ様が直々に助言しなければならないほど、私たちは追い詰められているとも言えるのでは?」

「神々は我らに不可能な試練は課さぬ。人々がそれぞれ出来ることをこなせば、終末を生き抜くことはできよう」


即座に聞き返した裁音に、今度は教皇であるクレディが答えた。


「それは、そうでしょうけど……この会議も、出るべき人が二人も欠席しているのですよ?」


そう言って、裁音は一つ空いている席に目を向ける。

そこには小規模ながらも実力者が多い組織、"魔女の茶会"の代表が座るはずの席だった。

ちなみにもう一人というのは、裁音よりも年を取った他の幹部のことだ。


裁音の言葉を聞いて、グランが表情を歪める。


「あやつは、昔から会議というものに出たがらないからのう。代理ぐらいはよこして欲しいものじゃが」


グランは終末に対してよりも、来ていない者を気にしている様子だ。

この老人は、自分がやるべきことを率先してこなしているだけに、そうでない人間を嫌う傾向があった。


「…僕たち四人が集まると、いつもこの調子ですね」


アディンが、どこか呆れるように言った。

年齢差や雰囲気のせいで、どこかちぐはぐな会議。

各ギルドのトップ達は、確かな危機感を持ちながらも、普段と変わらない動きを続けるのであった。


やっぱりそれなりに時間かかりましたね。次回は早めに投稿、儀式やります。そしてまともにサンダーバード登場。

次回、「雷雲山の麓で」

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