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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
ダンジョンと人魔竜 ~渡る世間は強者ばかり~
29/96

シラキの部屋にて


シラキのダンジョン第五階層

シラキの部屋



フェデラがダンジョンに住むようになってまだそれほどたっていない日。

黒結晶を除去する準備をしているシラキに対し、フェデラが聞いた。


「シラキ様、私を抱いてくださらないのですか?」


それを聞いたシラキは口を開き何かを言いかけて、その後少し考えてから質問で返した。


「今更だが、フェデラはどうして俺の奴隷になろうと思ったんだ?」


質問を質問で返されても、フェデラは全く気にしない。

どんな扱いであれ、自分が低い存在であると認識しているからだ。


「そうですね……私は、諦めかけていました」


フェデラは、確かに肩の荷が下りていた。

そしてある程度正確に自分の心理を語ることが出来た。


「だから…私が死ぬことは決まっていて、解決策さえ見つけることが出来るかどうか…そう感じていたと思います」


フェデラは黒結晶を除去したならそのまま死ぬつもりであった。

生きるために黒結晶を除去するのではなく、生きる目的自体がそれに変わっている。


「だから…後は、シラキ様に仕えて、そして死ねば…」


黒結晶の除去方法を見つけ、恩人に報いる。

すなわち、方法を見つけるところまでがリゼリオと件の宮廷魔術師への恩返し。

そして、今仕えることが俺への恩返し。


「奴隷として、命まで使いつぶしてしまえばちょうど良い、と?」


シラキの言葉に、フェデラが目を閉じる。

それは、無言の肯定でもあった。


「そうしていただければ、満足です」

「……なら言わせてもらうが、死ぬまでエラく時間がかかる覚悟をしておいた方が良い」


まるで忠告するようにシラキが言い、フェデラは微笑んだ。


「シラキ様の望むようになさって下さい。私は喜んで従います」


そう言うフェデラからは悲壮感や無力感は感じず、それなりに楽しんでいるように感じた。


「まあ、先のことは分からないが」


シラキはこれから起こる終末を想像し、確信を持って長生きさせるとは言い切れなかった。

断言を避け、またあまり積極的なことを言わない辺りに、シラキの性格が如実に表れていた。

そんな風にシラキが真面目に考えていると、フェデラが冗談めかして聞いた。


「それで、結局どうして抱いてくださらないのですか?」

「お前の体が憐憫を覚えるレベルでガリガリだからだよ!!」


その場のノリで、つい真面目に答えてしまっていた。

ある意味シラキの真意を問いただしたフェデラは、本気で納得したように頷いていた。

一方うんざりした顔で、この女楽に死なさんぞ、と少しだけ思ったシラキであった。








簡素なベッドの上で、シラキがフェデラに覆い被さるようにしていた。

日課と言っても良いのか、毎日行っているフェデラの黒結晶の除去である。

フェデラの口をのぞき込む様は、一見して歯医者のそれを連想させる。

実際に行っているのは、命がけの爆発物処理なのだが。


日に一時間ほどの精密作業であるが、シラキの魔力操作の腕は着実に上昇していた。

それもそのはず。

実際に危険を目の当たりにし、理解して作業しているシラキはかなりの集中力を発揮している。

もしもミスしたら最悪死ぬ、それを想像してしまえるシラキにとって、この作業は少なくない負担であった。

シラキの能力と作業の相性を考えれば、そうそう爆発などしないはずである。

これがシラキでなければ気軽に行えることかも知れないが。

それはシラキが持つ臆病さの一つであった。

自分とフェデラ二人の命を失うこと、そしてそれにより周囲に降りかかる問題もシラキは恐れた。

すでに作業の性質は"魔力とスキルの精密作業"から、"恐怖を抑えつつの力の維持"へと変質していた。

シラキはこの行為から、当初の予定以上の経験を得ることができているのだ。

そしてその結果、作業中に別のことを考える余裕が生まれていた。

あるいは、恐怖を忘れるために余裕をつぶしているのかも知れないが。


フェデラがダンジョンに来て一ヶ月ほどたった今、状態はかなり良くなっていた。

出会った頃はガリガリとまでは行かずとも、明らかに不健康でやせすぎていた肉体。

やせているのは変わらないが、前よりもそれなりに肉が付いた。

表情も少し明るくなり、柔らかくなったような気がする。

比較する対象が少ないから気がする止まりではあるけれど。

考えてみれば、三食しっかり(おそらく)バランスのとれた料理をルティナが作ってくれている。

その時点でもう食に関しては、この世界でかなり高い水準にいるのだ。


ちなみに保存庫にある食材は、ルティナが気まぐれに貯めていた物らしいのだが、すさまじい量だ。

ガリオンが永久保存魔法を作ってから結構時間がたっているらしく、その間余った物を貯め続けた様だ。

終末が終わるまで俺らが餓えないくらいの量がある、らしい。

正確な量はルティナも把握していないようで、結構適当だが。

あそこにある肉の大半が魔物の肉だとかそういう事実を気にする人はここにはいない。


フェデラから派生して、もう一つ思ったことがある。

マシにはなっているとはいえ、彼女の体は裸を見ても情欲より憐憫が先に立つような状態だ。

いや、それは俺が裕福な育ちだからでこの世界的では普通なのかも知れないが。

とにかくこの世界で生きていて、自分という人間がちょっと不安になった。

今の生活、娯楽がない。

生活水準の高い充実した幸せな生活を送っているからそれ以上を求めるのもどうかとは思う。

それでも、さすがにちょっと若者として枯れすぎてないかと心配になった。


聞いたところ、この世界の冒険者(に限らないが)の娯楽というと、酒・女の二つであるらしい。

……つまんねー世の中だな!(現代日本育ち青年の感想)

食なんかは比較的メジャーな娯楽だが、前の二つに比べると使う金の量は少ないとか。

フェデラとリゼリオなんかはほぼ娯楽無し、稼いだ金を武具やアイテムに使ったらしいが、そういう人は極端に少数だとのこと。

まあ命がけで依頼をこなしておいて、何の娯楽もない生活とか俺なら嫌になるな。

想像だが冒険者ってのは大手の消費者なんじゃないだろうか、経済的な意味で。

で、俺は酒が苦手で、飲んでも全く娯楽にならない。

食は満たされているので、残りは女な訳だが、ちょっとここで今まで出会った女性を思い返してみよう。


ルティナ。

別に種族とか気にしないし、見た目もいいが、おんぶにだっこで母親かってくらい世話になっている現状、彼女をそういう目で見れない。

命尾。

生物学的な意味で論外。

フェデラ。

まだ憐憫が強いのでちょっと。

リースとドリアード達。

しゃべれる魔物達全員に言えることだが、親族的な感覚で接しているため対象から外れている。

まあミテュルシオン様に精神いじられてると言われても俺は信じるけどね。

シャンタル。

考えてみれば、彼女が一番異性を意識したかも知れない。


いやぁ……ダメみたいですね。

大体ダンジョン住みの俺は娼館とか行けないし、町行ってもルティナと離れないし、そもそもそれだけのために何かする気力も無い。

これはもう男としてダメかも分からんね。

仕方ない、今でも恵まれすぎているほど幸せだから。


などと思っている内に、今日の作業も一段落と言った所まで終わった。


「ん、終わった」

「お疲れ様です、シラキ様。いつもありがとうございます」


フェデラが起き上がって礼を言う。

それを見て、律儀なものだと思う。


「フェデラもお疲れ。顎疲れるでしょ?」

「いいえ。シラキ様の行われている作業は、それとは比べものになりません」


一時間口開けっぱにするのは普通に疲れると思うが。

そう思いながらも俺は立ち上がり、部屋の対角にある棚へと向かう。

そこには卵パックの様な形をしたものがあり、そこにフェデラから抜き出した魔力を貯めた結晶を置いていた。

全て合わせれば、上級魔法が五発は撃てる量だ。

当然爆発すれば部屋の中身は全て消し飛ぶ。

危険物が普通に手の届く場所に置かれていることになるが、この第五階層に入れる者など限られている。

俺はこれらが爆発することは無いと確信していた。


俺の部屋は、黒結晶以外にも宝石で出来た武器で溢れている。

水晶製のハルバード、ルビー製のナイフ、方解石製のスティレット。

他にもダイヤモンド製の針に、トパーズ製の鎖に、琥珀製の矢。

槍や戟、武器以外にも置物などは無数に並べられている。

生成した物を消費していないから当然だが、武器と言う名の装飾品は増える一方だ。

そうして作っていった結果、この部屋はどこの国の宝物庫だという有様になっていた。


「個人で考えるなら、すでに世界でも有数の資産家ですね」


机に無造作に置かれたメノウ製の小太刀をフェデラが手に取り、つぶやく。

その手つきは、本物の宝を扱うように丁寧だ。


「実践で使えないと何の意味も無いけどな」

「これなんかは、少なくとも並のナイフは凌駕しています……抜いても構いませんか?」

「もちろん」


フェデラは俺に許可をとってから、水晶製の鞘から小太刀を抜き放つ。

数日前に作った代物で、鞘は白く曇り、中を透かして見ることはできない。

柄は菱形を歪めたような青い紋が入り、刀の中心は刃紋の様な青い筋が入っているが、外側は透明になっている。

柄がしらから切っ先まで、全て一つのメノウによって作られた小太刀。

切れ味よりも耐久性を重視し、防御に優れた武器だ。


この"結晶支配"の能力は基本的に自分の宝石感がモロに出ており、自分がより貴重だと思っている物ほど難しく、強い物ができる。

水晶は最も簡単に作れる宝石だ。

自分の宝石感と言っても、基本的に元の世界で高額な物ほど作るのが難しく、安価な物ほど簡単になる。

そして、作りやすさと性能が反比例する。

本質としては作れる物に差は無いのだが、人間である以上どうしても偏りが出てしまう。


しばらく触ったり眺めたりしていたフェデラが、ため息を漏らす。


「おそらく、Bランク…性能面だけ見ても、私にはこの刀が非常に良い物であるようにしか見えません」


武器防具のランク。

性能面の評価で、F~Sまである。

Bランクなら金で買える物の中で最高クラス、と言った所か。

AとかSとかはそれこそ国の宝物庫の中とか、どっかの遺跡やダンジョンの中とかだろう。

そう考えるとすごいな。


「そう言うのって分かるの?」

「多少は、ですね。感覚的な評価にすぎませんが…ただ総合的には、間違いなく国の宝物庫に入れられるレベルの武器です」


それは宝石的な意味でと言うことだろう。

メノウに限らず自然の宝石では、実用性を保つことなど物理的に不可能である。

普通のメノウで日本刀並みの切れ味を作ろうと思ったら、落としただけで割れるレベルの脆さになってしまう。

"結晶支配"の能力があるからこそ実現できる代物なのだ。


「これで現時点で最高の品でないことがすごいです」


現時点で最高の品は、毎日訓練でも使用している。

アメジスト製の日本刀だ。


「というか、数日に一本のペースで作っているのでしょうか…」

「性能度外視なら一日に何本も作れるけどね」

「さ、さすがです……とんでもないお方ですね」


フェデラが呆れとも憧れともとれる眼でこちらを見ている。

ぶっちゃけ俺の能力の九割がミテュルシオンさんとルティナのおかげなんだけどね。

自分が正当な努力と対価の上で手に入れた能力ではないので、良い気分とは口が裂けても言えない。


高性能の武器を作るための努力と苦労を棚に上げて、自分を貶めてしまうのがシラキという人間である。


「でも、スキルの使用には、魔力とはまた別の精神力を消耗するはず。シラキ様は大丈夫なのですか?」

「まあ、疲れたら寝るから」


確かに宝石を作っていると疲れる。

なので寝る前とかに作って疲れたら寝るみたいな習慣だ。


「道具というなら、たしかフェデラのローブは魔法の防具じゃ?」


フェデラが戦うときに来ている藍色のローブ。

具体的なことは聞いていないが、それが魔法の品だと言うことは聞いている。


「いえ…あれは、"黒吸いのローブ"は私の物じゃないんです」

「ん、そうなのか?」


フェデラが優しい笑みを浮かべる。


「私の恩人が、呪いが解けるまで、と貸してくれた物なんです」


こちらに来てから表情が柔らかくなったというか、張り詰めた感じがなくなったとは思っているが、こんな表情を見るのは初めてだ。


「恩人か、どんな人なんだ?」

「フォルクロアの宮廷魔術師なんです。私の呪いを見てくれて……私に"氷解の宝珠"を探せと言ってくれたのも彼女です」


女性の宮廷魔術師か。


「世界でも有数なランクA+冒険者で、"大魔導師"の称号を持っている人でもあるんです」


フェデラが少し、誇らしそうに言う。

リゼリオ以外にも、そんな風に言える人がいたんだな。


そう思って、俺はちょっと安心した。


「大魔導師…というと、世界でも最高クラスの魔法使いか」


大魔導師とは、魔術師達の集う組織、"賢者の塔"で与えられる称号の一つである。

魔術師ギルドとも言うべきこの組織は、組織の所属に関係無く称号を与えることがよくある。

賢者の塔に関わりの薄く、なおかつ世界でも最高クラスの実力のある物に与えられるのが、大魔導師という称号だ。

賢者の塔の運営に大きく関わり、なおかつ力のある者は"大賢者"の称号を与えられるが、これは大魔導師とは対を成す称号だ。

どちらにせよ世界最高クラスの魔術師であり、称号を得ているのも十人に満たない人数だ。


「"黒吸いのローブ"は宝具級、Aランク防具…私の実力で手に入れられる様な物ではありません」

「…名前は?」

「あ、言ってませんでした。その人の名前は」

「グウェン=エバンディス。深淵の魔術師ですね」


フェデラが驚いて入り口を見る。

俺は部屋に入った段階で気付いていたが、ルティナが入り口に立っていた。

フェデラが気付かないのも無理はない。

別に自ら隠れているわけでもないのに、ルティナの気配は読めないのだ。

かくいう俺も最近になってようやく、近くまでくればなんとか気づけるようになった。


「ご存じなのですか!?」

「もちろんです。なんてったって、グウェンは私の一番弟子ですから」


ルティナの言葉に、フェデラが目を見開く。

ルティナの一番弟子……と言うことは、マジで有力な人物だ(確信)。

人間、どこに縁があるか分からない物だな。


「ん?じゃあ俺は何番弟子になるんだ?」

「二番弟子です。多少の手ほどきは他にもしたことがありますけど、本格的に教えているのは二人だけですから」


二人だけか。

ところで、ルティナって何歳なんだろう?

数百年前の終末の時点では生きてたから、最低でも数百歳か。


「たしか、グウェン様は数百年前からフォルクロアの宮廷魔術師をしていると……」

「というか、まだやってたんですね。もうかれこれ五百年以上前からフォルクロアで宮廷魔術師をしているのに」

「…そんなに続けられるものなんだ?」


大したものだ。

……というか、人間ってそんなに長く生きられるんだ?


「半分は人間ではなくなっているからこその長寿ですね」


疑問に思ったら、聞く前にルティナが教えてくれる。

と、言うことはよくある。


「やっぱり、私とはスケールが違いすぎます」

「だよなぁ」


色々人間のスケールじゃないよな。


「……シラキさんもですよ?」

「えっ。あの人達と一緒にされても困るんだけど…」

「う゛」


俺とルティナ達じゃ、あらゆる意味で天と地ほども差があるぞ。

そしてルティナがボディーブローでもくらったような声を出す。

フェデラからすれば二人とも自分より上の存在だ。

シラキからすればルティナは雲の上の存在だ。

そしてルティナとしては二人とそれほど違いがあるという意識はないのである。

フェデラの発言に驚いたシラキの発言にルティナがショックを受ける、という連鎖。

珍しく、全員の気持ちがばらばらになった瞬間だった。


長かった、この話えらく難産でした。

自分への戒めのために次は早く…無理かも。

新しいキャラが登場するたびに、そのキャラクターの性格や名前、話し方ですごく悩みます。その関係で次回も難産…。でも今回ほどではないですね。

次回!メガダン30話、「赤飯と亜人族の幹部達」

…作者の中ではこのお話の略称はメガダンで固まってしまった…。

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