桃色の教師・終末講義
シャンタルを救出してから、シラキは依頼の報告をして報酬をもらい、人と話した。
その後帰ってきたら、ルティナから丸一日休憩宣言を出される。
フェデラの部屋を用意したり、ダンジョンや魔物を紹介したりする。
ちなみにフェデラは早々に驚くことを諦めた表情をしていた。
そんなこんなの次の日。
61日目
第五階層
いつも食事をする部屋に、いつものメンツが一同に会する。
ルティナを上座において、俺、ソリフィス、レフィル、リース、フェデラと続く。
ソリフィスとレフィルは椅子には座らず、命尾は俺の膝の上に乗っかっている。
あまりバランスは良くないのだが、命尾が上機嫌なのでどけとは言い辛い。
ちなみに命尾の尻尾は死神と出会って以来一本増えており、今は三本になっている。
命尾以外は外見的には変化していないが、みな少しずつ強くなっているようで何よりだ。
「さて、どういうわけか死神の一体と出会ってしまったので、ここらで全体の説明をしておこうかと思います」
ルティナが全体を見回してから話し出す。
今回は終末に付いての講義をしてもらうことなっていた。
「まずはそうですね。終末について話しますか」
「…実は詳しいことは何も知らないんだよな、俺」
実際、終末について詳しい説明は一度も受けたことがなかった。
もらった一般常識にもほとんど入っていないし、現状何を知っているんだと聞かれても、何も知らないとしか言えない。
「私を含めて神々は終末について詳しいことは話しちゃいけないことになってます。今も話せないことが多いです」
「ちなみに何で?」
「それも秘密…いえ、神々は地上に干渉しすぎてはいけないからです」
ルティナそれ以上は何も言わず、机の上に並べられている人形を手に取る。
それは、ルティナの説明のために、俺が水晶で作った人形だ。
ルティナの小指ぐらいの大きさで、凝った物でも無いため、俺の実力でも簡単に作れた。
「まず、地上と冥界を結ぶ小さな下級の門が各地に出現します」
ルティナは人形の内から、飾り気のない小さな門の人形を手に取り、俺達が囲む机の真ん中に置く。
「この門から下級モンスターが現れ、目に付く者全てを攻撃します。この段階ではまだそれほどではないですけど、町の外が今よりもずっと危険になります」
ルティナが人形の中から、最も小さなスケルトンの人形を三つ、門の前に並べる。
多分、これが下級モンスターのことなのだろう。
「次に、中級の門が各地に出現し、中級モンスターも出てきます」
ルティナは次に、最初に置いた物よりも大きな門を置いた。
「中級モンスターは下級モンスターを集め、町や村などを攻撃します。また死神が各地のダンジョンに出現し、出会った者を殺し始めます」
ルティナがトカゲの人形をいくつか門の先に並べる。
更に黒ローブに巨大な鎌という、一般的なイメージの死神の人形をその後ろに置いた。
「…じゃあなんで死神がもうダンジョンに?」
俺が周囲のみんなが抱いているであろう疑問を投げる。
ルティナの説明だと、死神がダンジョンに出現するまでに、少なくとも小さな門ができてモンスターが溢れているはずだ。
なのにこの前行った大樹のダンジョンには、死神"滅亡の大地"がいた。
「分かりません。私が知っているのはあくまで本来の、と言うか前回の終末の構成なんです」
「今回は違う?」
「おそらく、としか」
ルティナが自信なさげに言う。
しかし、ルティナが知らないような事態が起こっているとは。
そう思っていると、ソリフィスが口を挟んだ。
「気付かない内に、すでに小さな門が開いていた、と言うことは?」
「無いはずです。小さな門が開いたら、"神の伝達"があるはず」
"神の伝達"。
なにか重大な出来事が起こると、世界中の全ての生物に届けられる神の声。
俺は聞いたことがないが、必ず起こるなら、確かに小さな門はまだ開いていないことになるのだろう。
(怨念の騎士みたいに、前回の終末から地上に残っていたとか?)
今度はレフィルが聞く。
「邪神が敗退した時点で、上級以上は全て冥界に帰るルールなので。それはないです」
「…ルールなんだ」
「ええ、それは不可侵のルールです」
ルティナが不可侵と言うほどのルールか。
「そもそも、その"滅亡の大地"は本当に死神なんですか?」
リースが聞く。
ああ、言われてみれば確かにそうだ。
「威圧感というか存在感がすごかったけど、確かに死神って言う保証はないか?」
俺が可能性もあるかと思ったが、ルティナが否定した。
「あ、いえ、アレは死神で間違いないです。恐怖をそのまま浴びせるようなあの存在感は、死神や四騎士の特権なので」
ルティナが手元の死神と、ナポレオンよろしく馬に乗った騎士の人形の二つを突っつく。
大体疑問は聞ききったのか、全員が沈黙する。
これはつまり、今回の終末では前回とは違う事態が起こっていると言うことなんだろう。
「そもそも、死神自体も地上に現れたときは神の伝達があるはずなんですけどね」
ルティナが困ったように言う。
「それってつまり、今回の終末においては神の伝達は役に立たない可能性があるってことか?」
「うーん…大丈夫なはずなんですけどねー……死神は一度来たら途中で帰ったりしないし、相手を見逃したりもしないはず」
ルティナの言葉に、言った本人を含めて全員が困惑の表情を浮かべる。
やれやれ、どうした物か。
「まあ、それは置いておいて、終末の説明を続けますか」
話は中級の門が開いた所だったか。
中級のモンスターがわき出すせいで、もう守り薄い村は全て消えるだろう。
場合によっては大きな町なども攻撃され、魔物も数を減らす。
「次は、上級の門ですね。巨大な門から上級モンスターが出てきて、大群で国々に襲いかかります。それに、死神もダンジョンを出て積極的に攻撃してくるようになります」
ルティナは複数のドラゴンの人形を門の前に並べる。
それを見て、ふと疑問に思った。
「下級とか上級とかって、魔物レベルにするとどれくらいなんだ?」
「そうですね。下級が大体レベル1~3。中級が4~6、上級が7~10くらいですね」
ルティナは死神の人形を手の上でもてあそぶ。
「これ、結構良いできですね」
「え?ああ、そうか?」
何か急に褒められた。
凝った物を作ったわけではないが、確かに100%水晶の人形なので、自分でもそれなりに良いものだとは思う。
とはいえ、今はもっと具体的な数値を聞いてみる。
「門の数とか、どれくらいの数モンスターが出てくるとかは?」
「んー、下級門は世界中で、それこそ千以上。中級も百以上出ましたし、上級は十数個くらいでしたね」
机の真ん中に、下級の門がいくつも並べられていく。
ここに並んでいる人形の全てが水晶でできているため、自分で作った物でありながら、なかなか壮観だ。
「下級門は数日に一回百体くらいモンスターを吐き出します。中級も同じく、モンスターは中級が五十、下級が二百くらい出てました」
つまり、下級門はほっとけば一月で千体くらい、それが千個で百万か。
パネェ。
地上がモンスターで埋め尽くされる勢いじゃないか?
それに中級門は一月で中級が五十×百×十で五万、下級は三万か。
近くに二、三個中級門ができただけで小国は滅ぶんじゃないか?
「上級は周に一回、確か上級五、中級五百、下級千くらい沸いてました。そういえば上級門攻略の時は、魔王軍の最前列で単騎駆けしたりしました。懐かしいですねぇ」
ルティナが昔を思い出すように中空を見上げながら話す。
いや、そんなこと言われても反応に困るんだが。
「ん、攻略?」
「あ、はい。門は強固ですが、攻撃し続ければ破壊は可能です。前回の時は上級が出る前に、死にものぐるいで世界中の中級門をつぶして回りました」
なるほど。
つまり、それが攻略法なんだ。
中級が出る前に下級をつぶし、上級が出る前に中級をつぶす。
そうすれば最終的な敵の数を減らすことができる。
と言うか、早い段階でつぶしておかないと多分詰むレベルで高難易度になると思う。
下級の門とかタイムアタックバリの速さでつぶしていく気持ちでいるのが正解なのではないだろうか。
「上級門なんかは周りを冥界が浸食して別世界みたいになりますし、下手したら城や塔が門を中心に生えます。その頂上から四騎士の一人が出てきたときがあったんですけど、あの時は魔王に戦死者が出ましたよ」
どことなく楽しそうに語るルティナ。
そのころには魔物はほとんどが死亡して国も減り、都市も大きな場所以外は残っていなかっただろうに。
「聞いてると全然楽しそうじゃないのに、ルティナは楽しそうだな」
「いえ、終末自体は苦しい物でしたよ。ただ、一緒に戦った人達の記憶は懐かしいものです。まあ、魔族連中は何人も生きてますけど」
なるほど。
お互いに命を預け合うからこそできる絆って奴なのかもしれないな。
そして、お互いに寿命の異なる生き物同士、と。
しばらくの静寂の後、また話を続ける。
「最後に上級門から四騎士が現れ、少し後に最大級の門から邪神が降臨し、攻撃を開始します」
邪神さえ倒せれば地上の勝利だ。
邪神を倒すのが先か、亜人・魔族が全て滅びるのが先かの勝負。
「これが、私の話せる終末の概要です」
何か色々とあっちへ行ったりこっちへ行ったり、話の内容が二転三転した気がするが、終末の話は以上の様だ。
「なるほどね…じゃ、次は死神に付いて聞いて良いか?」
「死神は、四騎士と並ぶ邪神配下の大戦力です。高い戦闘能力を持ち、またそれぞれに特殊な能力を持っています。四騎士もそうですが、その気配は一般人の場合、対峙しただけで気絶します」
一度死神と対峙した身からすれば、その言葉にも納得できる。
俺も冷や汗掻いたり手が震えたりしてたし。
「邪神配下で将と呼べるようなのはそれくらいですね。後は有象無象…ああ、邪竜なんてのもいましたね」
「邪竜?」
「下はレベル5、上はレベル13ぐらいある大量のドラゴン達です。あんまり印象無いんですよねぇ…鱗が紫色のグラデーションしてるくらいかなぁ?」
ふーむ?
それって結構派手じゃないか?
「強い奴も弱い奴も同じ見た目してるの?」
「いえ、単純に大きい方が強いです。下は5メートルくらいから、上は20メートルくらい…まあ、見れば強さが分かります」
ぶっきらぼうに言う。
邪竜に関してはあまり興味がないのかもしれない。
「ま、そんな感じです」
「…結局、"滅亡の大地"のことは良く分からなかったな」
苦笑いを浮かべ、みんなを見回す。
すると、俺の膝の上で小さく丸くなっていた命尾がこちらを見上げて言った。
(五ヶ月後と言っていたので、次会うときは決戦です。それに備えましょう、マスター!)
次はガチバトルするつもりで準備せざるを得ない。
五ヶ月後に決戦、という意識を全員で共有した。
61日目終了
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
20歳 身長170cm 体重62kg
総合B攻撃C- 防御C- 魔力量B+ 魔法攻撃B 魔法防御B- すばやさC+ スタミナC+ スキルB-
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
シラキ本人が結晶と認識している物を創造・変形・支配する能力。
その支配力は神が世界に対して行うソレに似ている。
ユニークスキル「共鳴」
保有マナ
6,882(+540/日)
ダンジョンの全魔物
ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)
迷宮植物:
ヒカリゴケ4800、ヒカリダケ600、魔草480、幻樹5000、魔物の木1、願望桜4
グループ:
レフィル、ウルフソーサラー10、グレーウルフ18、ハウンドウルフ15
命尾、フォックスシャーマン12、ハウンドフォックス10
リース、見習い魔術師15
グリフォン4
ゴブリンヒーロー1、ホブゴブリン4、ゴブリンシャーマン13、ゴブリン49
ドリアード5
バウム20
クイーンビー1、ニードルビー20
マッシュ40
リザードマン4
クイーンビー1、ニードルビー10
単体・その他(能力順);
コボルトヒーロー1
野良・その他:
ゴブリン13、ホブゴブリン1、コボルト5、コボルトロード1、ハウンドウルフ19、インプ5、グリズリー1
一階層
洞窟・迷宮
二階層
幻樹の森
三階層
更地
四階層
更地
五階層
コア、個室4、ダイニングキッチン、大浴場、保存庫
フェデラの実力を確認するため、シラキはフェデラと模擬戦を行う。
ところがルティナを怒らせてしまい、レベル11の魔物との模擬戦を行うことに。
次回、二重風力結界!
なおレベル11相手の模擬戦は次回以降の話になる模様。