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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
続くものと新しい者 ~取り残したものを拾い上げ~
23/96

槍葬の聖女と歩く要塞

シラキのダンジョン南東

大樹のダンジョン中層


シャンタルは走っていた。

地形を形成する枝葉を踏みしめ、視界の端を流れていく緑を気にすることなく。

ダンジョンに出現する魔物をなぎ倒しながら、シャンタルは走っていた。

近づいてくる。

詳しい距離や方向は分からなくても、自らに迫る濃厚な死の気配は敏感に察知していた。

今まで幾度となく自分を救ってきた勘。

その勘が、自らの命がすでに風前の灯火であると嘆いていた。

調子は良い。

ここが紛れもなく死地であると理解してから、体は一気に軽くなっていた。

レベル6の魔物を蹴散らし、レベル7の魔物を軽々と捌く。

急ぐシャンタルは、突如飛び退いた。

その場面を他の人が見ていたら、驚いたことだろう。

疾走する人間が、何も無い場所で突然逆方向に飛び退いたのだから。

しかし、異変はすぐに現れる。

シャンタルが飛び退いた場所、その枝葉で覆われた足下から、真っ黒な泥のような物がわき出したからだ。


「くっ、範囲内に…!」


飛び退いたシャンタルは、その泥の動きを確認することなく方向を変える。

と、そこではたと気付いた。

ダンジョン内から感じる、わずかばかりの神の気配に。

シャンタルはまた、走り出す。

入り口から入ってきたであろう気配の方向へと。









シラキのダンジョン南東

大樹のダンジョン入り口


命尾率いるフォックス隊はダンジョンに到着すると、すぐに調査を始めた。

フォックス達はハウンド、シャーマンを問わず精霊を召喚して周囲の探索をさせる魔法が使える。

また命尾は更に生命探知に魔力探知も使えるため、探索においては非常に優秀。

フォックス隊が到着したときは休憩を挟むつもりだったのだが、ダンジョンに踏み込むなり命尾が探索を先にすると言った。

それなりの距離を移動したはずだが、疲れている様子を見せない。

実際のところどうかはは分からないが、命尾がやる気なのでやってもらうことにした。


空き時間で休憩していると、大して時間もかからない内に命尾が話しかけてくる。


(マスター、入り口から分かる範囲にはいませんでしたので、ダンジョンの中心付近に移動したいのですが)

「ん、分かった。みんな、行けるか?」


俺が立ち上がって声を掛けると、全員用意はできていたらしく、すぐに出発することになった。途中で魔物にも出会うが、魔獣系や動物系はソリフィスを見た途端逃げ出してしまう。

昆虫系は襲ってくるが、数が多いだけでほとんど雑魚だった。

大した消耗もなく下層の中心に到着。

フォックス隊が再び調査を開始するので、俺は突きだした枝の一部に腰掛ける。

自然にできた木の椅子に座っていると気分が良かったが、フォックス達は調査を始めた後、早い段階で反応を示した。


(マスター、見つけました!)

「!無事か?」

(…無事なようです。後方に巨大な魔力があります。それから逃げているようですけど、もう追いつかれます)


状況は思っていたよりも切迫しているらしい。


「よし、行こう。命尾達は戦闘前にできるだけ補助かけてから後ろに下がってくれ」


全員で移動を再開する。今回は駆け足だ。

俺とフェデラはソリフィスに騎乗し、ルティナは走っている。

ルティナはさすがというか、素で馬や狐と同じ速度だ。

と言うかこれ結構まずいんじゃなかろうか。

ルティナがグリフォンに乗らずに走っていると言うことはそれだけ警戒しているということでは?

ここに来るまでに何度も警告されてるし、これは相当な強敵が待ち受けている予感。俺が勝手に不安に駆られていると、命尾がソリフィスの横に付ける。


(マスター、次の次です。部屋に入った瞬間に補助魔法を掛けます)

「了解した、頼む!」


フォックス隊が少し下がって準備を始める。

疾駆しているわけではないが、走りながら術の準備をするとはさすがだ。

俺も改めて気持ちを叱咤する。


広場を抜け、更に先の広場に着く。

すると、目の前に誰かが吹き飛ばされてきた。

ソリフィスがとっさに速度を殺し、急停止する。

俺が降りて確認すると、それは装備を血で染めた金髪の女性だった。


「聖女シャンタルか!?」


駆け寄って見てみるが、まず胸の傷が深い。

肩から脇腹まで切られたらしく、放っておけば死に至る傷だろう。

他にも小さな傷が体中についており、防具もぼろぼろ。

だが、意識はしっかりしているらしい。


「あなたは……」

「リーベックからの依頼であなたを探しに来た」


起きようとするシャンタルの背中を支え、抱き起こす形になった。


「なるほど…確かに私がシャンタルですが…あなたもとんでもない依頼を受けてしまいましたね」


そう言ってシャンタルが顔を上げる。

その先、大きな広場の奥には、真っ黒な騎士が立っている。

体長は3メートル近く、黒い鎧に黒いマント。

しかも周囲には黒い霧のような物が漂っている。

控えめに言っても、一目見て悪役だと分かる様な出で立ちだ。


だが、真に驚くべきはその巨体が放つ魔力の波動だ。

以前戦った怨念の騎士や、ソリフィスを遙かに上回る力。

それは、対峙しただけに死の恐怖で竦んでしまうほどの力だった。

まるで恐怖そのものを魔力に乗せて放っているかのような感覚。

俺が思わず唾を飲み込むと同時、全員に補助魔法が掛けられる。

フォックス達が使えるのは、最小限の力速補助魔法マッスルパワーとラビットフットのみ。

しかし掛ける側の数が多いので、ほとんど一瞬で終わる。

見ればフォックス達は一つ前の部屋へと戻った様だが、命尾は戻ろうとしない。


「奴は死神の一人です。レベルは11以上」


ルティナが言う。

冷や汗をかきながらも、黒い騎士から目を離さない。

自分の手足が震えていることにも気づけない程、黒い騎士には存在感がある。

いるかもしれないとは言われていたが、本当にまずい相手が出てきてしまった。

今のところはじっとこちらを見ているだけだが、逃がしてくれるとも思えない。


「シラキさん」

「ん」


ルティナが傷をのぞき込む

そんなルティナをみて、シャンタルが驚愕した。


「な、あなたは…!?」

「これなら治せますね」


ルティナが手をかざすと、淡い緑色の光が傷口を包む。

数秒後、シャンタルの傷は全てふさがっていた。


「ありがとうございます」


シャンタルが起き上がる。

どうやら傷は全快したらしい。さすがルティナ。

そしてシャンタルが立ち上がったのを見ると、黒い騎士が大きな声を発する。


「我が名は"滅亡の大地"、冥界の死神が一人。ここは退く、5ヶ月後にまた会おう」


黒い騎士、"滅亡の大地"は言うだけ言うと闇に包まれていく。

闇に覆われ、その闇が四散していくと、黒い騎士の巨体は消えてしまっていた。











シラキのダンジョン南東

大樹のダンジョン入り口


無事シャンタルを見つけることができた俺達は、全員で入り口まで戻ってきていた。

シャンタルは単体でダンジョン最奥から降りてきていたらしく、さすがに疲れた様子だった。

俺自身思ったよりも疲れていたらしく、登山の時に疲れた後の下山時の様に、半ば放心気味に歩いていた。

おかげで気にしていなかったが、俺以外の仲間達はみんないつも通りしっかりと警戒していた様だ。

放心したままダンジョン内を歩くとは、いいご身分である。


「何事もなく終わるとは思ってなかった」


ダンジョンの外にでて、安堵のため息を漏らす。


「私も冥界化くらいは覚悟していました」


ルティナが言う。

冥界化ってなんですか。

後で聞こう。


「戦わずに済むならそれが一番です。"冒険者としては"」


フェデラが冒険者的一般論を述べる。

じゃあ俺達的にはどうなんだ。

そう思いつつも、ある程度固まって腰を下ろす。

誰ともなくため息をつく。ルティナ以外、疲れが出ていた。

そうしていると、目の前まで歩いてきたシャンタルが改まって頭を下げた。


「助かりました。皆さんが来てくれなければ、間違いなく死んでいました」


状況としては、依頼でダンジョンに潜っていたとき、アレに襲われて大怪我を負ったらしい。

その時点で一緒にいた騎士は全滅。

ダンジョン最奥まで逃げ、そこでおとなしく回復を図ったそうだ。

数日掛けて傷を治し、今日脱出しようと試みたら、またもアレに襲われた。

で、今に至ると。


「ああ、まあ依頼で来たからな。無事で良かった」


ルティナについては、一瞬でバレた。

聖人というのは天使と同じく、神を見分けることができるのだそうだ。

そのため、すでに歩きながらフェデラにしたのと似たような説明をしていた。


「ありがとうございます。シラキさんはこの後は、どうするのですか?町へは?」

「あー」


依頼があるので、町には行かなければならないが。正直疲れた。

いや、キツい戦闘は一回も無かったけど、代わりに移動と探索となんやかんやで疲労困憊だ。

と言うか"滅亡の大地"と対峙していた少しの間でどっと疲れた。

しかもリーベックまで行こうとすれば、片道でも途中で一夜を明かす。

その上、行った所で報酬をもらう以外は買い物くらいしかやることがない。

贅沢ではあるが、はっきり言ってめんどくさい。

でも行かないわけにはいかないよなぁ。


「ルティナ、俺の代わりに報酬もらってきてくれるってことは」

「え?えーっと……」


いや、何ルティナに押しつけようとしているんだ。

全っ然成長してねぇ。

自分のケツくらい自分で拭け。


「いや、やっぱ行くわ。町行って報酬だけもらってさっさと帰る」


ルティナが何か言う前に自分で結論を出した。

シラキという人間が自分で自分に暴言を吐くのはいつものことだ。


「シャンタル、俺のことは普通の冒険者シラキ、と言うことに」


俺の言葉を聞いたシャンタルはまずルティナを見て、次に俺を見て、そして魔物達を見た。


「もちろんですよ、私も聖女です!あなた達のことは他言しませんし、邪魔をすることなどあり得ません」


シャンタルはずばっと言い切った。

それは良いのだが、シャンタルが聖女であることと、俺達の邪魔をしないことの関連性が読めないんだが。

俺が不思議に思うと、すぐにルティナが念話で話しかけてくる。


(聖女は神に近い位置にいるので、終末についても多少は知っています。……と言うか、私を神と知って邪魔する人間なんてそうそういないですね)

(なるほど)


聖女であるからこそルティナの神性が分かり、それ故こちらの邪魔はしないと。

何にせよ信用できるのは良いことだ。

それ以降は特に何も喋らず休憩し、そろそろ出発しようかということになった。


「我が主、乗るか?」

「いや、歩くからいいや。みんなは先に帰っていてくれ」


魔物達とは別々に帰る。

魔物と一緒にいるところを誰かに見られると面倒だ。

それにここにいる魔物達は全員人より早く移動できる。


「了解した」

(ではマスター、先に帰ります!)


魔物達が森に入っていく。

深い森の中に消えていき、その姿はすぐに見えなくなった。


「帰りますか」


俺達は歩き出した。









55日目終了

シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)

20歳 身長170cm 体重62kg

総合B 攻撃C- 防御C- 魔力量B+ 魔法攻撃B 魔法防御B- すばやさC+ スタミナC+ スキルB-



スキル

 ユニークスキル「結晶支配」

  シラキ本人が結晶と認識している物を創造・変形・支配する能力。

  その支配力は神が世界に対して行うソレに似ている。


 ユニークスキル「共鳴」



ダンジョン


保有マナ

3,642  (+534/日)


ダンジョンの全魔物

ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)

迷宮植物:

 ヒカリゴケ4400、ヒカリダケ550、魔草440、幻樹5000、魔物の木1、願望桜4

グループ:

 レフィル、ウルフソーサラー10、グレーウルフ18、ハウンドウルフ15

 命尾、フォックスシャーマン12、ハウンドフォックス10

 リース、見習い魔術師15

 グリフォン4

 ゴブリンヒーロー1、ホブゴブリン4、ゴブリンシャーマン13、ゴブリン49

 ドリアード5

 バウム20

 クイーンビー1、ニードルビー20

 マッシュ40

 リザードマン4

 クイーンビー1、ニードルビー10

単体・その他(能力順);

 コボルトヒーロー1


野良・その他:

 ゴブリン13、ホブゴブリン1、コボルト5、コボルトロード1、ハウンドウルフ19、インプ5、グリズリー1




一階層

洞窟・迷宮


二階層

幻樹の森


三階層

更地


四階層

更地


五階層

コア、個室2、ダイニングキッチン、大浴場、保存庫


作者的には一週間で一話投稿したいけど、最近は10日に一度みたいな頻度になってます。

ちょっと先の展開を悩み中なので今回、次回予告は無しで。

今のままだと次回は終末の説明会になります。

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